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新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3352 )
日時: 2022年07月13日 20:22
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

未来を見据え「免疫を理解し、新型コロナウイルスを正しく恐れるために」
(更新 2022 年 3 月 10 日、第 94 版)

【抜粋】
(重症化リスクとワクチン):ワクチンに限らず、全ての薬に副作用は起こります。また、RNA ワクチンは初めて用いられているため、現在の世界の状況から「重篤な副作用は稀」とは言えても、「100%安全で、将来的にも何も起こらない」とは誰も言えないと思います。しかし、少なくとも 60%以上の国民がワクチン接種を受けなければ、今と同じ状態が繰り返され国家の財政破綻につながる危険も秘めてきます。よって、「接種による利益はリスクを上回る」と言うのが各国のワクチン承認の判断です。新型コロナウイルスで重症化する要因もわかってきているので、これまで報告された重症化要因を次ページにまとめてみました。【左図】
要因が重なれば重なるほど重症化の危険は増してきます。「自分自身の新型コロナウイルスに対する重症化リスク」、「職場や家庭でうつしてしまう可能性のある方の重症化リスク」、「ワクチン接種による自分自身のリスク」を総合的に考えるうえでご参考にして頂ければ幸いです。


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久留米大学Web模擬講義「新型コロナウイルスから免疫を学ぶ」
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Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3353 )
日時: 2022年07月13日 20:38
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
[(1) 免疫の基本概念は?]
● 免疫とは?:免疫の役割は新型コロナウイルス等の病原体から我々の体を守ってくれる仕組みです。しかし、免疫はウイルスが体内に入らないように水際で防ぐ役割は担っていません。侵入してしまったウイルスを体から追い出す役割を担うのが免疫です。よって、免疫力が強いと症状が出ないままウイルスを追い出し、症状が出ても軽症で済みます。一方、免疫力が弱いと重症化や最悪の場合は死にも至ります。

これだけ進歩した現代科学・医療をもってしても、未知の新型コロナウイルスに対して悪戦苦闘が続いている状態です。一方、我々の体の免疫システムは、この未知の侵略者に対しでさえ的確に戦い勝利を収めてくれています。つまり、免疫が適切に働いていれば、新型コロナウイルスは「正しく恐れる」ウイルスなのかもしれません。事実、新型コロナウイルスが爆発的に蔓延したアメリカでさえ、免疫力がしっかりしていれば 98%以上の方は無症状か軽症で済んでいます。また、6 月 21 日の韓国新型感染症中央臨床委員会の発表では、「PCR 陽性で入院した 49 歳以下の基礎疾患が無い患者さん」3,060 人のうち、酸素投与が必要な中等症に陥ったのは 0.1%と非常に少ないようです。同様に、7 月 10 日の米国疾患管理予防センター(CDC)の報告でも、49 歳以下の PCR 陽性者で入院による治療が必要となった方は 0.1%以下のようです。

● 免疫の仕組み:免疫は何種類もの細胞のチームプレイにより病原体を排除します。免疫細胞は自然免疫細胞と獲得免疫細胞に分けられます。病原体が入ってくると自然免疫細胞が数時間以内に攻撃を仕掛けます。自然免疫細胞は非常に血気盛んで、病原体を丸飲みしたり(貪食)、石(サイトカイン)を投げて相手を攻撃します。しかし、自然免疫細胞は「悪そうな相手」全てに対して、むやみやたらに攻撃を仕掛けるため、効率的な攻撃とは言えません。よって、たまに暴走してしまい「サイトカインストーム」と呼ばれる病気を起こしてしまう事もあります。自然免疫細胞が戦っている間、獲得免疫細胞は自然免疫細胞より情報を得て「本当に悪い主犯」を認識して、それを覚えこみます。我々の体の中で脳細胞だけが物を記憶できると思われがちですが、実は T 細胞と B 細胞と呼ばれる獲得免疫細胞も記憶することができます。しかし、獲得免疫細胞が敵を倒すための効率的な戦略をたて、主犯を記憶して戦いに参加できるには 3 日間以上の準備期間が必要です。この間は、自然免疫細胞が一人で戦う事になり、強敵や多勢の場合は苦戦してしまい我々に多くの症状が出てしまいます。
自然免疫細胞が苦戦しながらも 3 日間戦ってくれれば、準備が整った獲得免疫細胞が援軍として助けに来てくれます。獲得免疫細胞の中で「B 細胞」は、弓矢(抗体)を使い、主犯に対し的確にピンポイントで攻撃を仕掛けます。また、刺さった矢が目印となり、自然免疫細胞は、これまでの様にむやみやたらに攻撃をしかけるのでなく、矢の刺さった主犯を的確に攻撃(抗体依存性細胞傷害)できるようになります。また、B 細胞は、ウイルスの増殖を抑える事ができる特殊な矢(中和抗体)も放ち、敵の援軍を阻止します。
同時に、獲得免疫細胞の中の「T 細胞」も参戦してきます。T 細胞は特殊部隊のような戦闘のエキスパートであり、至近距離から拳銃(サイトカイン)を使い的確に敵をしとめると共に、ナイフ(パーフォリン)を使った接近戦にも長けています。また、弓矢を使う B 細胞の援護も担います。このチームプレイにより病原体は撃退され症状が急激に改善します。よって、この時期に入れば、特効薬を飲んだ様な印象を持たれる患者さんもおられるかもしれません。すなわち、免疫力は最強の抗ウイルス薬です。病原体の排除が終わると、免疫を抑制する機能を持つ特殊な獲得免疫細胞が、興奮した免疫細胞達を落ち着かせ健康状態へと戻していきます。この戦いの終息がうまくいかないと興奮した細胞達は暴徒化して、敵に代わり自身の細胞に対しても攻撃を仕掛けてしまい、自己免疫疾患を起こしてしまう事も稀にあります。

● ワンチームとして働く免疫の戦士達は?:免疫細胞には、多くの種類の細胞達がいます。これらの細胞達は各部隊を作り、異なった役割を、異なったタイミングで担います。それぞれ長所短所があるため、欠点を補いあい「One Team」として敵を撃退します。先発隊は「自然免疫」部隊です。敵を丸飲み(貪食)できる、好中球、マクロファージ、樹状細胞と、接近戦で敵に毒を注入(抗体依存細胞傷害)するナチュラルキラー細胞といった強者が揃っています。この中で、好中球は最初に出陣する特攻隊です。
敵を丸飲みしながら、手榴弾(NADPH オキシダーゼ)も使って戦い、3 日以内には死んでしまいます。自然免疫部隊は強者揃いですが、攻撃方法が野蛮で雑なため敵の残党が残るのが欠点です。
自然免疫部隊の樹状細胞は、敵を丸飲みして食べた後に戦地を離れ「獲得免疫」部隊が待機している司令部(リンパ節)に移動します。獲得免疫部隊は、「B 細胞」中隊と「T 細胞」中隊からなります。司令部で敵の情報を T 細胞中隊に伝えると共に、司令官(抗原提示細胞)の役目も担います。すなわち、T 細胞中隊に「戦え(強敵だから援護が必要)(免疫活性)」、または「戦うな(敵は弱いので援護は必要ない)(免疫寛容)」の指示を、暗号(副刺激分子)を用いてだします。「戦え」の指示をだす場合、戦場に派遣する部隊をまず選びます。そして、選んだ部隊の兵隊を増やすため、栄養剤(サイトカイン)を与えます。次に、戦場の位置(臓器)も伝え、その場所に行くための切符(ホーミング受容体)もわたします。この指示がでると、選ばれた T 細胞部隊は、樹状細胞の情報をもとに敵の顔を記憶します。一方、B 細胞中隊は、戦場から流れてくる遺留品(抗原)を川の河口(血液)で独自に調査し、敵の特徴を記憶します。そして、B 細胞部隊と T 細胞部隊は協力して 3 日間かけて戦闘準備を整えた後に、戦場に向け出陣します。戦場では、樹状細胞に代わりマクロファージが指示(抗原提示)を出します。また、樹状細胞やマクロファージが誤った指示を出した場合や、戦死した場合は、B 細胞が司令官の代役を務めます(2 次的抗原提示)。

B 細胞中隊は、弓矢の名手です。「胚中心」と呼ばれる丘の上から矢(抗体)を放ち、正確に敵に命中させます。腕が上がると「形質細胞」に昇格していきます。刺さった矢を目印に、強者揃いの自然免疫部隊が的確に攻撃を仕掛けます(抗体依存性細胞傷害)。また、B 細胞中隊は、敵の援軍を阻止できる特殊な矢(中和抗体)も放ち、戦いを有利に進めます。T 細胞中隊は、さらに「CD4 陽性細胞」小隊と「CD8 陽性細胞」小隊に分かれます。CD8 陽性細胞小隊は、接近戦の名手です。敵と組みあいナイフ(パーフォリン)で刺し、その傷口から毒(グランザイム)を注入して敵を完全に抹殺します。CD4 陽性細胞小隊は、屋内に潜む敵を倒すため、自然免疫細胞たちを指揮して急襲攻撃を担う特殊部隊や、種々の秘薬(異なったサイトカイン)を使い分け、飛び道具が特異な B 細胞中隊の援助にあたる後方支援部隊などに分かれます。

「CD4 陽性細胞」小隊は、さらに幾つかの特殊部隊に分かれます。代表的な特殊部隊は、「Th1 細胞」部隊「Th2 細胞」部隊、「Th17 細胞」部隊、「Treg 細胞」部隊です。Th1 細胞部隊は、自然免疫部隊の指揮をとりながら敵の潜んだ危険な屋内(細胞質内感染)にも果敢に急襲攻撃を行い「細胞性免液」と呼ばれる役割を担います。Th17 細胞部隊は、援軍を呼ぶプロフェッショナルです。モールス信号(IL-17)を全身に飛ばすことにより、命知らずの好中球たちを戦場に呼び寄せ戦力アップに努めます。一方、Th2 細胞部隊は B 細胞中隊の後方支援にまわり、B 細胞が使う矢の産生を手助けする「液性免疫」と呼ばれる役割を担います。Th1 細胞部隊と Th2 細胞部隊は、良きライバルとして互いに拮抗しあいます。すなわち、Th1 細胞部隊は Th2 細胞部隊を抑え込み、Th2 細胞部隊は Th1 細胞部隊を抑え込もうとします。良きライバル同士の競争により、免疫のバランスは保たれます。ウイルス感染症では、Th1 細胞に「戦え」の指示が出され、寄生虫感染症では、Th2 細胞に「戦え」の指示が出されます。よって、新型コロナウイルス感染では、Th1 細胞部隊に指示が出されるため、Th1 細胞が優位になります。そして、ウイルスが撃退された後に、Th1 細胞部隊の興奮をおさえるため Th2 細胞部隊が拮抗をはじめ、免疫のバランスが「戦闘モード」から「平時モード」に切り替わります。しかし、この拮抗がうまくいかないと Th1 細胞部隊が暴走を始めて、自身の細胞まで傷つけ「自己免疫疾患」を起こしてしまいます。逆に、Th2 細胞部隊が暴走してしまうと「アレルギー疾患」を起こします。

すなわち、我々の体は、病原体に打ち勝ちながら、自己免疫疾患を予防し、さらにはアレルギー疾患も予防する非常に繊細なバランスを常に保っているわけです。非常に複雑です。そして、この免疫のバランスを保つための職人が「Treg(制御性 T 細胞)」部隊です。Treg 部隊は、ボクシングのセコンドのように、冷たいタオル(IL-10)で興奮した免疫兵を落ち着かせ、勢い余って味方に攻撃を仕掛けないように常に見張ってくれています。Th1 細胞部隊と Th2 細胞部隊の「相互に拮抗した抑制」とは異なり、Treg 部隊は、自然免疫部隊、B 細胞部隊、CD8 陽性細胞小隊、Th1 細胞部隊、Th2 細胞部隊すべての免疫兵の監視を行い憲兵的な役割を担っています。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3354 )
日時: 2022年07月13日 20:42
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
● 細胞性免疫と液性免疫は?:弓矢(抗体)が主に働いている状態が「液性免疫」です。一方、「細胞性免液」と呼ばれる状態では、接近戦の得意な兵隊達(細胞)が主体に働いています。つまり、「液性免疫」作戦では、飛び道具である弓矢(抗体)を用い、「細胞性免疫」作戦では急襲部隊が働きます。通常は、より強力な戦略とるため両方が混在します。「鍵」を持たない病原体は、細胞の中に空き巣に入れません。よって、細胞の外、つまり屋外で常に生活しています。この様な敵に対しては、遠くから放った矢(抗体)でも殺すことができるので、液性免疫が主戦法になります。一方、新型コロナウイルスのように「鍵」を持った病原体は、空き巣に入り室内に潜んでいます。室内にいるため、遠くから放った矢は当たりません。この様な場合は、室内(細胞内)への急襲攻撃が必要となり、接近戦の得意な部隊が導入されます。この急襲部隊が、Th1 細胞が指揮をとる「細胞性免疫」となります。

Th2 細胞部隊は「液性免疫」に関与するため、「Th2 細胞が減れば抗体はできない」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、完全な誤解です。感染症の時の抗体産生は、Th1 細胞が主に援助しています。Th2 細胞が「液性免疫」と呼ばれる所以は、Th2 細胞が特異的に産生するインターロイキン-4(IL-4)と呼ばれるサイトカインにあります。IL-4 の役割は特殊で、感染症で増加する IgG や IgA と呼ばれる抗体とは異なり、IgE と呼ばれる抗体を作りだします。この IgE が花粉症などの I 型アレルギーを直接起こします。よって、「I 型アレルギーの機序では、Th2 細胞が液性免疫の主役」となります。一方、感染症で増加する IgG の産生はより複雑で、多くの種類の細胞が関与します。

● 免疫がウイルスを殺すには?:ウイルスは我々の細胞に空き巣のように侵入して、初めて増える事ができます。よって、空き巣をしている最中、すなわち、まさに増えようとしているところを狙えば、ウイルスを一網打尽にすることができます。この一網打尽に貢献しているのが、IgG 型の弓矢(抗体)です。B 細胞が、空き巣被害にあっている最中の細胞に矢を放ちます。これを目印に、強者揃いの自然免疫細胞と T 細胞達が細胞を取り囲みウイルスを一網打尽にしてくれます。一網打尽の方法は、ウイルスが潜んでいる細胞を丸ごと食べてしまうか(貪食)、細胞の中に接着剤のような毒を流し込んで、細胞ごとウイルスを固めてしまうかです(抗体依存性細胞障害)。また、B 細胞は「中和抗体」と呼ばれる特殊な矢も放ちます。中和抗体は、新型コロナウイルスが細胞に空き巣に入るために必要な鍵(スパイク)に引っ付き、鍵穴に差し込めないようにします。これにより、ウイルスは空き巣に入れなくなり、増える事ができずに死んでしまいます。よって、例外はありますが、ウイルスに特異的な IgG 型の抗体を持つ人はウイルスから守られ、そして他人にうつさない事になります。

命中した矢(IgG)を目印に自然免疫部隊と T 細胞部隊が新型コロナウイルスに総攻撃を加えて一網打尽にしてくれる事が 11 月 3 日に 2 つのグループから報告されました(Zohar T,Cell 2020, 11/3; Chen Y,Cell 2020, 11/3)。新型コロナウイルス感染で亡くなられた方では、IgG(特に IgG1)の量が増えず、IgG によって導かれる自然免疫部隊と T 細胞部隊の攻撃も起こらないようです。一方、亡くなられた方にも、自然免疫部隊と T 細胞部隊の攻撃を誘導できない IgM や IgA の増加は認めているようです。また、「敵の鍵をねらう IgG」の濃度が早く上昇する患者さんほど、新型コロナウイルス感染からの回復も早いようです。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3355 )
日時: 2022年07月13日 20:46
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
[(2) 新型コロナが感染するには?]
● 鍵と鍵穴:免疫は「鍵(リガンド)」と「鍵穴(受容体)」の関係でコントロールされています。鍵が違うと家に入れないのと同じく、ウイルスが持つ鍵(スパイク)に会った鍵穴を見つけないと我々の体には侵入できません。新型コロナウイルスの鍵穴となるのは、血圧の調整に関与しているアンジオテンシン変換酵素 2 と呼ばれる分子です。この分子を足掛かりに新型コロナウイルスは我々の細胞に空き巣のように入って来ます。ウイルスは自分自身では増える事ができません。例えるとすれば、裸(DNA または RNA)の状態です。裸で出歩くと、直ぐに太陽光に焼き殺されてしまいます。細胞内に空き巣に入り、自分に合った洋服や靴を盗み、身支度が整ったら隣の細胞に再び空き巣に入ります。つまり、空き巣をしつづける事により生き延びています。厄介な事に、ウイルスは空き巣の間に自身の複製も多数作ります。これにより、空き巣に遭う被害細胞が増え、同時にウイルスの数もネズミ算式に増えてきます。このネズミ算式に増えたウイルスが咳や大声で吐き出されると、他人に感染させてしまいます。

ウイルス達は、それぞれ異なった「鍵穴」を使います。よって、使われた「鍵穴」に依存して違った合併症が起こってきます。例えば、我々を感染症から守てくれる免疫軍の主力部隊(T 細胞)は、「CD4」と呼ばれる分子を持っています。この CD4 を「鍵穴」として使うのがエイズです。よって、免疫の主力部隊が機能しなくなり、エイズでは免疫の低下が起こってしまいます。新型コロナウイルスは、血圧の調整に関与するアンジオテンシン変換酵素 2 と呼ばれる分子を「鍵穴」として使います。アンジオテンシン変換酵素 2 は、「血を固まりにくくする作用」も持つ事が報告されています(Fraga-Silva RA Mol Med 2010 p210; FangC Blood 2013 p3023)。よって、この抑制機構がおかしくなり、合併症として血栓を起こしているのかもしれません。アンジオテンシン変換酵素 2 は腸管にも多く発現するので、下痢を起こす患者さんもいます。
また、アンジオテンシン変換酵素 2 は、舌や嗅覚神経にも多く発現しています(Xu H,Int J Oral Sci 2020)。これにより、新型コロナウイルスに感染すると、味覚異常や嗅覚異常が起こると思われます。季節性インフルエンザでも、鼻が詰まると嗅覚異常はでますし、高熱が出ると味覚異常も感じます。一方、新型コロナウイルス感染では、他に症状が何もないのに味覚異常や嗅覚異常が起こるのが特徴かもしれません。「鼻は詰まってないのに、臭いがわからない」や「元気いっぱいなのに、味を感じない」などの症状があれば、新型コロナウイルス感染が疑われるのかもしれません。

米国 662 万人、英国 27 万人、イスラエル 10 万人のスマートフォン入力情報をもとにした大規模解析結果が 2021 年 7 月 22 日に報告されました(Sudre GH、Lancet Digital Health 2021, 7/22)。PCR で陽性が確認された方のうち「43%になんらかの嗅覚異常」が認められたようです。想像以上に多い印象です。少しでも臭いの感じ方に違和感があれば、外出を控えられた方が無難です。その他の初期症状は多い順に「発熱」、「息切れ」、「咳」と報告されています。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3356 )
日時: 2022年07月13日 20:50
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
● 新型コロナの感染方法:新型コロナウイルスは、鍵を鍵穴である「アンジオテンシン変換酵素 2」に差し込んで細胞内に入ってきます。しかし、鍵を差し込んでも、扉は開きません。鍵を回さないといけないわけです。この回す役を担うのが、我々の細胞がもつ酵素で、「TMPRSS2」と呼ばれるセリンプロテアーゼや「FURIN」と呼ばれるプロタンパク質転換酵素です。実際には、回すわけでなく、鍵が鍵穴に差し込まれると、差し込まれた鍵を足掛かりに、TMPRSS2 が新型コロナウイルスを細胞に融合させます。すなわち、二人が一人になるという事です。これにより、新型コロナウイルスが細胞内に入り込んできます。侵入したウイルスは、細胞の部品を奪いネズミ算式に増え始めます。また、新型コロナウイルスは、細胞の持つ酵素を利用しなくても自ら鍵を回せる可能性も 7 月 21 日に報告されています(Cai Y,Science 2020 7/21)。
10 月 20 日に 2 つのグループにより同時に発表された報告によると、新型コロナウイルスが「FURIN」を利用して鍵を回すときには、血管内皮細胞に多く発現する「ニューロピリン 1」呼ばれる分子による橋渡しが必要なようです(Daly JL,Science 2020, 10/20; Cantuti-Castelvetri L,Science, 2020, 10/20)。

ノーベル賞を今年受賞されたゲノム編集技術 CRISP を用いて、細胞に数千種類の遺伝子を各々欠失させ新型コロナウイルスが持つ鍵(スパイク)を発現させた水疱性口内炎ウイルスを感染させた生体外の実験結果が 10 月 15 日に報告されました(Wei J,Cell 2020, 10/15)。これまで報告されたように、アンジオテンシン変換酵素 2 を無くすと、ウイルスは感染できないようです。一方、これまでの報告とは異なり、鍵を回す役目を担うと考えられていた、「TMPRESS2」や「FURIN」と呼ばれる酵素を無くしても、ウイルスは感染できるようです。しかし、鍵を回せる可能性のあるもう一つの分子である「カテプシン L」を無くすと、ウイルスは感染できなくなると報告されています。

また、我々の身体の中で機能しているのは遺伝子ではなくタンパク質です。複雑なステップにより、遺伝子がタンパク質に変えられて始めて機能します。第 1 ステップでは、「転写因子」と呼ばれる分子が DNA に結合する必要があります。しかし、DNA はヒストンと呼ばれる土台にきつく巻き付いているため、転写因子が引っ付ける空間がありません。よって、きつく巻き付いた DNA を緩めてやる必要があり、「エピジェネティクス」と呼ばれる機序が、この仕事を担います。例えば、糸巻には糸がぎゅうぎゅうに巻き付いているため、巻き付いている糸を針穴に通す事はできません。針穴に通すためには糸巻に巻き付いた糸を緩めて手繰る必要があります。針穴に糸が通せれば、裁縫が始められるように、転写因子が DNA に引っ付くことができれば、その後は RNA、そして蛋白へと順調に変換されていきます。新型コロナウイルスは「HMGB1」と呼ばれる酵素を介して、DNA をほぐしてアンジオテンシン変換酵素 2 の発現に必要な転写因子を DNA に引っ付けている可能性が報告されました(Wei J,Cell 2020, 10/15)。すなわち、新型コロナウイルスは空き巣に入るために必要な鍵穴を我々に作らせる潜在能力を持つのかもしれません。

ウイルスが細胞に空き巣に入り、細胞の部品を盗んで増えた後は、細胞から出て行き次の標的を襲います。
すなわち、ウイルスが感染を拡大させるには細胞から出て行く必要があります。免疫軍はウイルスが潜んでいる細胞を、まずセメントでウイルスごと固めた後に爆破(アポトーシス)します。しかし、セメント漬けを忘れて爆破(壊死)してしまうと、ウイルスは撒き散らかされてしまいます。また、ウイルス自体は細胞の分泌機能を利用して外に出ることもできます。流し台の排水口を利用して外に出ていく状態です。新型コロナウイルスは、他のウイルスとは異なった方法で外に出て行く可能性も報告されました(Ghosh S,Cell, 2020, 10/27)。細胞は、老廃物や病原体を処理できる、掃除機のような機能を持つ「リソソーム」と呼ばれる小器官を持っています。新型コロナウイルスはリソソームを利用して外に出て行けるのかもしれません。例えば、掃除機に入りこみ排気口から外に吹き出されるような状態かもしれません。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3357 )
日時: 2022年07月13日 20:56
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
[(3) 免疫が低下する原因とコロナ感染助長因子は?]
● 加齢:年齢に伴い免疫力は徐々に低下してきます。よって、高齢者は重症化する危険性が高くなります。事実、新型コロナウイルスによる死者は高齢者に集中しており、高齢者保護が最も重要な課題なのかもしれません。2020 年 4 月のデータですので、最終的には数値は大幅に低下すると思われます。
6 月 25 日に、米国疾患管理予防センター(CDC)は年齢の値を「重症化の危険のある人」のリストから除きました。加齢で免疫力は低下しますが、年をとられていても免疫力をしっかりと保たれている方もいらっしゃいます。よって、「何歳だから重症化しやすい」とは、一概には言えないという事です。

世界各国の 2021 年 1 月までに蓄積された結果からも、新型コロナウイルスの重症化は加齢に伴い増加する事は明らかです。日本「COVID-19 対策 ECMOnet」の 2021 年 2 月 7 日の報告によると、これまでに新型コロナウイルス感染により人工呼吸器(ECMO を含む)の装着が必要となった患者さんは20 歳未満で 4 人、20~29 歳で 16 人、30~39 歳で 30 人、40~49 歳で 165 人、50~59 歳で 468 人、60~69 歳で 808 人、70~79 歳で 1,124 人、80 歳以上で 503 人のようです。加齢により生理的予備機能が低下することで、ストレスに対し不健康になりやすくなります。私は専門外ですが、この評価のために「臨床的フレイルスコア」と呼ばれる指標が用いられているようです。臨床的フレイルスコアと新型コロナウイルス感染による入院中の死亡率の解析が 2 月 9 日に報告されました(Sablerolles RSG, Lancet Health Longevity, 2021, 2/9)。8 カ国に及ぶ 2,434 人の調査結果です。臨床的フレイルスコアが「中等度以上」になると、入院中の死亡率が優位に増加するようです。中等度の臨床的フレイルスコアとは「日常生活に補助を必要とする」状態のようです。一方、動作が緩慢となり歩行器や杖が必要となった状態は、「軽度」な臨床的フレイルスコアとなるようで、入院中の死亡率の増加は認めないと報告されています。つまり、高齢で杖をつかれていても、免疫力がしっかりされた方は多くいらっしゃると言う事になります。

● 基礎疾患:米国疾患管理予防センター(CDC)は、重症化の危険性が最も高い基礎疾患として、II 型糖尿病、心不全、心血管障害、心筋症、慢性腎疾患、鎌状赤血球症をあげています。

● 過度の肥満と過度なダイエット:免疫力維持には適度な体重が必要です。つまり、太りすぎでも痩せすぎでも免疫力の低下を起こしてしまいます。特に、BMI が 30 を超える肥満の方は「免疫力の低下」に加え、「糖尿病などを合併」する頻度も高く、「血栓症の危険」も増え、お腹の脂肪で横隔膜の動きが抑制されウイルスが肺から吹き出せないため「ウイルスが肺内に溜まる」といった悪循環により、重症化率が非常に高くなります。

● 免疫を抑制する薬:自己免疫疾患などで使用される多くの薬には免疫抑制作用があります。特に臓器移植後で免疫抑制剤を使用されている患者さんに重症化率は高いようです。

● 睡眠不足:しっかりした睡眠が免疫力強化につながります。

● お酒:お酒は免疫力を低下させるので、感染リスクのあった日のお酒は控えた方が得策です。

● 妊娠:英国ロイヤル・カッレジは、これまで報告された論文をまとめて、妊娠 28 週以降の妊娠後期から新型コロナウイルスに対する重症化の危険性がでてくる可能性を報告しています。一方、スエーデンの公衆衛生研究所は妊娠 36 週以降と示しています。

米国 CDC の報告によると、2020 年 1 月 22 日から 2021 年 5 月 3 日までの米国の新型コロナウイルス感染者の累計は 3,248 万人(32,481,455 人)で死者数は 57 万人(578,520 人)です。死亡率は 1.78% の計算になります。一方、妊婦さんの感染者は 88,880 人で、死者は 99 人です。死亡率は 0.11%と全国民に比較して 10 倍以上低くなります。妊婦さんは新型コロナウイルス感染による重症化リスクは低い可能性もあるのかもしれません。

● 高血圧:新型コロナウイルス重症者に高血圧の患者さんが多いのですが、高血圧と免疫低下に関する明らかな科学的根拠はありません。コロナウイルスは、血圧のコントロールに関与するアンジオテンシン変換酵素 2 という分子を窓口にして体内に侵入するので、この分子の発現様式が高血圧患者さんにおいて変化している可能性もありますが現在は不明です。

● 閉塞性肺疾患と喘息:喫煙は閉塞性肺障害を起こします。すなわち吸い込んだ空気が吐出しにくくなります。これによりウイルスが肺内に溜まり感染が悪化してしまいます。喘息でも同様です。また、脂肪が溜まりお腹が出ている人や、ガスでお腹が常に張っている人も横隔膜を圧迫して、ウイルスを効率良く肺から吹き出せない可能性があるので注意が必要です。

● 男性ホルモン:新型コロナウイルスによる重症化は男性に多いことが世界的に認められており、日本でも同様の傾向があります。この性差は過剰なアンドロゲン(男性ホルモン)産生に起因することが最近報告されました。新型コロナウイルスは、鍵を鍵穴であるアンジオテンシン変換酵素 2 に差し込んで細胞内に入ってきます。しかし、鍵を差し込んでも、扉は開きません。鍵を回さないといけないわけです。この回す役を担うのが、我々の細胞がもつ「TMPRSS2」と呼ばれるセリンプロテアーゼの一種です。TMPRSS2 の発現には、アンドロゲンが寄与する可能性が報告されており、アンドロゲン仮説は科学的裏付けがあるかもしれません。また、アンドロゲン過剰による男性型脱毛症の方に重症化が多いとの報告もあります。前立腺ガンでアンドロゲン除去療法を受けている方の重症化が少ない事も 8 月 25 日に報告されました(Montopoli M, Annals of Oncology 2020, p1040)。

新型コロナウイルスに対する反応が、免疫学的に男性と女性で異なる可能性も 8 月 26 日に報告されました(Takahashi T, Nature 2020, 8/26)。中等症を発症した新型コロナウイルス感染者を調べると、男性では自然免疫軍が主力をなしており、女性では獲得免疫軍、特に刺殺・毒殺を得意とする CD8 陽性 T 細胞が頑張っているようです。T 細胞主体の獲得免疫がうまく働かない事が、男性に重症化が多い一因である可能性を報告されています。よって、獲得免疫力を上げる事ができる予防接種は、女性よりも男性に必要であると締めくくられています。また、新型コロナウイルス感染では、自然免疫に深く関与し、発熱の誘導や炎症の指標である C-反応性蛋白(CRP)産生を誘導する IL-6 と呼ばれるサイトカインを男性の方が多く産生することも 8 月 24 日に報告されました(Del Valle DM, Nat Med 2020, 8/24)。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3365 )
日時: 2022年07月16日 11:52
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
[(39) お腹の免疫から考える新型コロナウイルス対策は?]
未知の新型コロナウイルスの全容も見え始めてきました。免疫力が維持できていれば、「正しく恐れる」ウイルスと思います。免疫細胞のエネルギー源は、腸内細菌が糖分や澱粉を分解してできるアデノシン 3 リン酸です。よって、BMI が 25 以下のかたは、いつもは我慢していた食後のデザートを免疫力強化のため今こそ食べて下さい、特に疲れている時や睡眠不足の時にはお勧めです。カレーがお好きな方は、カレーライス(ルーが多め)からライスカレー(ごはんが多め)にするなど少しの工夫で免疫力は維持できます。ただし、肥満は大敵です。食後の 30 分程度の軽い運動は、摂取したエネルギー源を効率良く免疫細胞に取り込ませるのに必要です。肥満の予防も兼ねて「食後」の運動はお忘れなく。ただし、「食前」の運動はお腹がすいてしまい余分なものまで食べてしまううえ、免疫細胞への取り込みも促進しないので逆効果です。

「免疫軍にとって新型コロナウイルスは季節性インフルエンザよりも弱い敵」と個人的には思います。ただし、新型コロナウイルスは密かに「テロ行為(血栓症)」を企てるウイルスですので、血栓症になり易い方は特に注意が必要です。血栓症の予防が新型コロナウイルスに対する重要な対策の一つとなるのかもしれません。基本的な血栓の予防法は、血液が濃いと固まり易くなるため、水分補給をしっかりと行い脱水を避ける。また、血液がうっ滞しても血は固まり易くなるので、うっ滞を避けるために体をこまめに動かす。そして、血液をサラサラにする効果があるエイコサペンクエン酸(青魚やアナゴ)、クエン酸(梅干、御酢、レモン)、アリシン(玉ねぎやニンニク)を多めに摂るのが良いかもしれません。

また、新型コロナウイルス感染では稀に免疫の暴走を認める事もあり、免疫のバランスを保つ事も重要です。このバランスを保つのが酪酸です。酪酸は食物繊維が腸内細菌に代謝されて作られるので、野菜の摂取はお忘れなく。新型コロナウイルスに感染しても無症状・軽症で済むように、食事でバランスを保ちながら免疫力を強化しましょう。

イギリスから 48,400 人の新型コロナウイルス感染者を対象とした非常に興味深い調査結果が 2021 年 4 月 13 日に報告されました(Sallis R, British Journal of Sports Medicine, 2021, 4/13)。高血圧や閉塞性肺障害よりも、「運動不足」が新型コロナウイルス感染の重症化を起こしやすいようです。運動をしている人に比べて、運動をしていない人の入院治療が必要となる重症化は 2.26 倍、死亡率は 2.49 倍も増加するようです。運動の定義は「早歩きなどを一週間に最低 2 時間 30 分以上」と定義されています。「歩く時は早歩き」を心掛けたり、緊急事態宣言下では「自宅でテレビを見る時、立って足踏みをしながら見る」など体を動かすようにお心がけ下さい。

「老化した細胞」が新型コロナウイルス感染による炎症を助長している可能性が 2021 年 6 月 8 日に報告されました(Camell CD, Science 2021, 6/8)。新型コロナウイルスが持つ「spike protein 1」と呼ばれる物質に老化細胞が過剰に反応してしまうようです。これにより、近くにある若い細胞に混乱を招き、ウイルスを攻撃する物質を放出できなくすると共に、ウイルスの侵入を手助けする物質も放出させてしまうようです。老化予防に効果がある可能性がこれまでに報告されている「フィセチン」の経口投与(20mg/体重kg)が、新型コロナウイルスの重症化予防に貢献できる可能性がマウスを用いた実験で示されています。
フィセチンを多く含む食品はイチゴ(16mg/100g)です。この報告が正しければ、イチゴは重症化予防に少しは貢献してくれるかもしれません?
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3366 )
日時: 2022年07月16日 11:58
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
[(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?]
● デザート:全てにおいてバランスは重要です。免疫力はウイルスに打ち勝つために必要ですが、過度にパワーアップしてしまうと自身の細胞にも攻撃を仕掛けてしまいます。バランスを保ちながら免疫力をパワーアップすることが重要で、食物繊維が手助けしてくれます。甘味は免疫強化に必要ですが、食べ過ぎて太りすぎてしまうと免疫力が逆に落ちてしまいます。BMI が 30 を超えると重症化の危険性が増すので注意が必要です。肥満予防、そして甘味から得たエネルギー源を免疫細胞に効率よく取り込ませるため、食後の運動はお忘れなく。

● 運動:適度な運動は免疫力強化につながりますが、過度な運動は免疫力を逆に落としてしまいます。
「適度とはどれぐらい」とご質問をよく受けますが、個人差が非常に強いと思います。例えば、いつもジョギングされている方が 3 キロ走っても朝飯前と感じます。すなわち適度な運動です。一方、普段走った事が無い方が 3 キロ走ると翌日は「足が棒のよう」と感じられると思います。これは疲労を蓄積した過度の運動です。

● 入浴:お風呂は免疫力を強くしてくれます。しかし、熱いお風呂に長くつかり、体が「ゆでダコ」のように赤くなった場合は、血管の拡張により免疫力の低下をまねきます。

● マスク:予防面でも同様です。マスクは感染予防には重要ですが、マスクをして激しい運動をすると熱中症や低酸素血症といった危険な状態を招いてしまいます。特に近年は高温多湿のため、熱中症は昨年だけでも本邦で 1,581 人の命を奪っています。屋外でヒトとの距離がとれるところではマスクを外す習慣が必要かもしれません。また、高齢者の熱中症は屋内での発症も多いため、屋内の熱中症対策も急務かもしれません。総務省消防庁の速報値によると、8 月 3 日から 8 月 9 日の間に熱中症で救急搬送された方は 6,664 人です。一方、同期間に新型コロナウイルス感染が確認された方は約 8,200 人です。新型コロナウイルス対策をとりながら、熱中症も予防しないといけない大変な状況と思います。しかし、多くの皆さんは、各自で対策をとられこの難題を克服されているようで、感銘を受けています。なぜなら、2019 年 8 月 3 日から 8 月 9 日までの熱中症での搬送者は 15,299 人で、今年は昨年よりも劇的に減っています。

● 次亜塩素水:「次亜塩素酸」は新型コロナウイルスを殺すためには有効ですが、誤って使うと肺炎を起こしてしまいます。事実、新型コロナウイルス対策のため、窓を締め切り頻繁に次亜塩素酸で部屋を消毒していた姉妹 2 人が、新型コロナウイルス感染ではなく、次亜塩素酸による肺炎で入院となった症例もあります。また、「次亜塩素水」ですが、空気中の低濃度散布は健康被害を引き起こす可能性があります。次亜塩素水のウイルス除去に対する有効性もアルコール等に比べて低く、使用に関する注意点が 6 月 26 日に経済産業省から通達されました。要点は、「次亜塩素水は紫外線で壊されるため遮光での保存が必要」、「皮脂などの汚れも次亜塩素水を破壊してしまうため、消毒場所の汚れをあらかじめ除去しておく必要がある」、「表面がヒタヒタになるまで次亜塩素水をたらし、しばらくして拭き取る」です。

蓄積された結果からすると、テーブルなどに触れて感染してしまう可能性は、新型コロナウイルスでは季節性インフルエンザやノロウイルスに比べて低いようです(Lewis D, Nature, News Feature 2021, 1/29, p26、Goldman E, Lancet Infectious Dis 2020, p892, Mondelli MU, Lancet Infectious Dis 2020, 9/29)。
ゼロではないので、こまめな手洗いやテーブルなどの定期的な消毒は必要です。しかし、次亜塩素水やオゾンを常時噴霧したり、紫外線の持続照射などの過剰な対策は必要ないのかもしれません。紫外線は遺伝子変異を起こすため、皮膚がんや失明にいたる眼疾患を将来起こす可能性は否定できません。また、高濃度の次亜塩素水やオゾンも重篤な健康被害をもたらしてしまいます。例えば、害虫をしとめるには殺虫剤は非常に有効ですが、部屋を閉め切り噴射し続ける方はいらっしゃらないのかもしれません。つまり、新型コロナウイルスは殺せても、数年後に皮膚がん、失明、重篤な健康被害を起こししまえば、元も子もありません。

● 公共対策:外出規制は感染者数を抑制出来きますが、長引くと財政破綻による自殺や犯罪の増加、そして子供達のはかり知れない精神的影響を起こしてしまいます。欧米では、ロックダウンにより、病院受診者や健康診断が減っています。これにより早期発見が遅れてしまい、5 年後には、乳癌での死者が 7.9~16.6%、大腸癌の死者が 15.3~16.6%、肺癌の死者が 4.8~5.3%、食道癌の死者が 5.8~6%増えると試算されました(Maringe C, Lancet 2020 7/20)。癌による日本の死者は、昨年は 37 万人です。欧米の試算が正しく、そして日本がロックダウンを行っていたとすれば、少なくとも 2 万人以上の救えた命を 5 年後には失っていたのかもしれません。フランスやアメリカからロックダウンに伴い、心筋梗塞の患者さんの入院が減った事が報告されました。フランスの病院では心筋梗塞で入院された患者さんは、ロックダウン前の 686 人から 481 人に減少したようです。多くの患者さんが新型コロナウイルスの感染を恐れて、症状があっても受診を控えられているのかもしれません。結果、早期に受診されないため、病院での心筋梗塞の死亡率がロックダウン前の 3%からロックダウン後には 5%へと増加しています(Mesnier J, Lancet Public health 2020, 9/17)。また、精神疾患では 50%以上、心疾患では 43%、糖尿病では 49%の患者さんの診断の遅れもイギリスから報告されています(Williams R, Lancet Public Health 2020, 9/23)。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3371 )
日時: 2022年07月17日 17:38
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
[(5) 免疫力強化法は?]
● 糖分と適度な運動:免疫力を強くすることは感染症に対して有効ですが、強すぎるとアレルギー自己免疫疾患、成人病の原因ともなります。よって、免疫力は強すぎてもダメ、弱すぎてもダメでバランスを保つ事が重要です。通常、体に良いと言われる食べ物は、このバランスを保つ方に働きアレルギーや成人病発症の予防となります。一方、普段は敬遠されがちな糖分や炭水化物は免疫のエネルギー源となり免疫力の強化につながります。糖に含まれるグルコースは腸内細菌によりアデノシン 3 リン酸に代謝されます。このアデノシン 3 リン酸が免疫活性化のエネルギー源です。実際、生まれつきアデノシン 3 リン酸が利用できないと重症複合型免疫不全症と呼ばれる免疫が働かない病気になります。また、アデノシン 3 リン酸を利用できないようにする薬は免疫を抑制できるので、関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患の治療に現在用いられています。すなわち、糖分は免疫強化のための重要な活力源となります。

【ここでボディーマスインデクス(BMI)を計算してみてください】
BMI の計算法:体重 74 キロで身長 176 cm(1.76 m)の場合は 74 ÷ 1.76 ÷ 1.76 = 23.88 で 23.88 が BMI です。

18.5 以下の方は痩せすぎ、18.5 から 25 は正常範囲、そして 25 以上で肥満の領域に入ってきます。BMI が 25 以下で耐糖能異常が無く、デザートを「太るから」と食べたいのに普段は控えている方は、今こそ本能の赴くままにお召し上がり下さい。ただし、摂取したエネルギー源を効率良く免疫細胞に取り込ませるには食後の軽い運動が必要です。免疫力強化と体重増加予防を兼ねて、食後の散歩(室内での 30 分程度の足踏みでも充分です)はお忘れなく。また、免疫の暴走を抑えるためにバランスを保つ事も重要で、食物繊維の摂取が手助けしてくれます。1918 年に起こったスペイン風邪のパンデミックでは、高齢者ではなく 20 歳から 40 歳までの若者に死亡者が集中する異なった様相を呈しています。サイトカインストーム(下記参照)と当時の栄養状態が働き盛りの若者を死に導いたと考えられています。ウイルスに打ち勝つためには「若くても栄養をしっかりと取らないといけない」と言う教訓かもしれません。

● 塩分、卵・乳製品:塩分は Salt kinase と呼ばれる転写因子を刺激することにより、免疫力強化につながる Th17 細胞を活性化することが報告されています。また、卵や乳製品は、硫酸還元菌(おならが臭くなります)と呼ばれる腸内細菌を増やして、免疫力強化につながる Th1 細胞を増やす事が報告されています。高血圧、腎疾患、脂質代謝異常などがない方は、免疫力強化のため、今は多めにとっても良いかもしれません。

● お風呂:冷えると免疫力は低下します。逆に、微熱のように体温が少し上がった状態が免疫力を強くします。よって、お風呂に入る事は免疫力強化に有効ですが注意が必要です。免疫細胞は病原体と戦う軍隊として非常に合理的に統率されています。しかし、血管が拡張すると免疫の統率機構が障害を受け、ウイルスに対して有効に攻撃を仕掛ける事が出来なくなります。
血管が拡張すると皮膚は赤みを帯びてきますから、皮膚が赤くならない程度にお風呂につかるのが免疫強化には最適かもしれません。湯冷めも禁物です。


[(6) 腸管は?]
新型コロナウイルスが咳などの飛沫やエアロゾルを介して感染することはよく知られていますが、実は腸管にも感染します。コロナウイルスが侵入するためにアンジオテンシン変換酵素 2 を必要とするので、この酵素が発現する場所に感染が起こるわけです。アンジオテンシン変換酵素 2 は腸管にも多く発現するため、腸管に感染して下痢を起こす場合もあります(Wu Y. Lancet Gastroenterol Hepatol 2020, p434)。
厄介な事に、消化器症状が無くてもウイルスが糞便中に排出されていることも報告されています(Diza A,Gastroenterology 2020 5/8)。また、新型コロナウイルスは症状の消失後も糞便から約 1 週間検出できるとの報告もあります。よって、飛沫のみでなくノロウイルスのように排泄物により感染する可能性があるという事で、頻回な手洗いが予防には重要です。また、トイレで水を流す時はウイルスが空気中に飛び散る可能性があります。公衆便所などで水を流すときは便器の蓋をするか、蓋が無ければ空気中への飛散を防ぐため便器に腰かけたまま流すのが良いかもしれません。医療関係者は感染症対策の訓練を受けたプロフェッショナルでありながら、新型コロナウイルス感染では世界的に医療従事者の院内感染が多いような気がしてなりません。あくまでも個人的見解ですが、医療従事者でも気が緩んでしまう職員用トイレでの感染の可能性もゼロではないかもしれません。

最近報告された、人の遺伝子をほぼ網羅するゲノムワイド関連解析(GWAS)によると、CCR9、CXCR6、XCR1 と呼ばれる遺伝子に異常があると、新型コロナウイルスによる重症化が起こり易い可能性が示唆されました(Ellinghaus D, N Engl J Med 2020 6/17)。これらすべては、腸管の免疫に深く関与している分子です(Mora JR. Mucosal Immunol 2008 p96; Olszak T.
Science 2012 p489; Satoh-Takayama N. Immunity 2014 p776; Ohta T. Sci Rep 2016 p23505)。新型コロナウイルスの腸管への感染と重症化に、何らかの因果関係があるのかもしれませんが、今は何もわかっていません。

興味深い結果が 7 月 3 日に報告されています(Ahmad I, Clinical Gastroenterology and Hepatology 2020, 7/3)。グーグルトレンド検索で、「味覚異常」、「食欲不振」、「下痢」がトピックとして上位を占めた 4 週間後に新型コロナウイルス感染者数のピークを迎えているようです。味覚異常に加えて、軽度の消化器症状が新型コロナウイルス感染の前兆なのかもしれません。事実、新型コロナウイルス感染者の 31.9%から 61.3%の方に消化器症状が最初に出現しています(Cholankeril G, Gastroenterology 2020, p775; Redd WD, Gastroenterology 2020, p765)。消化器症状のうち最も多いのが「食欲不振」で、34.8%の感染者に認められています(Redd WD, Gastroenterology 2020, p765)。「食欲不振」は夏バテやストレスなど種々の原因で起こるため我々が頻回に経験している症状です。よって、見逃されがちなのかもしれません。「食欲不振」を感じたら、新型コロナウイルス感染も念頭にいれ、用心に越した事はないのかもしれません。特に、食欲不振により水分まで控えられると、「新型コロナウイルスのテロ行為である血栓症」の危険も増してきます。「食欲不振」を感じたら、水分補給による脱水予防、そして血液を停滞させないための適度の運動に心がけ、血栓症の予防に努められることをお勧めします。

抗体は早期に産生される IgM、その後に産生される IgG、アレルギーで増える IgE、そして粘膜で産生される IgA に分類されます。粘膜と言えば口腔粘膜や腸管粘膜が代表です。よって、IgA は唾液や便中に多く含まれます。新型コロナウイルス感染では、IgG のみでなく IgA も血液中に増える事が報告されています(Varnaite R, J Immunol 2020, 9/2; Moderbacher CR, Cell 2020, 9/16)。また、アイスランドからの報告によると IgG のみで無く、IgA の検出も可能な「pan-Ig」(ロッシェ社)と呼ばれる検査キットを用いる方が抗体の検出率は高いと報告されています(Gudbjartsson DF, New Engl J Med 2020, 9/1)。つまり、新型コロナウイルス感染では、季節性インフルエンザの様に IgG に代表される全身性の免疫ばかりでなく、IgA に代表される腸管の免疫も関与しているのかもしれません。また、新型コロナウイルス感染者の息(呼気)には、腸内細菌叢の乱れを示唆するガスの変化が認められる事も 10 月 24 日に報告されています(Ruszkiewicz DM, EClinical Medicine 2020, 10/24)。

新型コロナウイルスに感染して症状が出てしまう方では「IgA2」と呼ばれる抗体が少ない可能性が 2021 年 4 月 20 日に報告されました(Stephenson E, Nat Med 2021, 4/20)。ヒトの IgA には「IgA1」と「IgA2」の 2 種類があります。IgA1 は唾液や母乳に含まれ乳児を感染症から守ってくれます。IgA2 は腸で作られお腹から我々を感染症から守ってくれています。バランスの取れた食事を摂り腹の免疫(腸管免疫)を健康に保つ事が、新型コロナウイルスから守ってくれるのかもしれません。

新型コロナウイルスの爆発的流行に見舞われた南アメリカから、8 か国 728,282 人の感染者を対象とした調査結果が 10 月 21 日に報告されました(Ashktorab H, Gastroenterology 2020, 10/21)。国により主要症状が異なっているようで、消化器症状を伴う患者さんは 10.5%から 53%と大きな幅があります。下痢を伴う患者さんはアルゼンチンで 3.1%、チリで 10%、ペルーで 13.6%、そしてメキシコが一番多く 22%のようです。また、死亡率も国々で異なり、アルゼンチンは 3.2%で、一番高い国はメキシコで 16.7%です。下痢は脱水を起こしてしまう危険性を伴います。すると、血液中の水分量が減少するため血が濃くなり固り易くなります。新型コロナウイルス感染の症状として下痢が多いメキシコでは、新型コロナウイルスのテロ行為である血栓症が起こり易いため、死亡率が高い可能性も否定はできません。下痢を起こした方は、脱水を予防するためしっかりと水分補給されることをお勧めします。「お好み焼き」は、すぐ固まりますが、水分を多く含んだ「もんじゃ焼き」は固まらないのと一緒です。また、脱水を恐れて「止瀉薬で下痢を止めよう」とは絶対に思わないで下さい。下痢は「物理的障壁」と呼ばれ、我々の身体を守るためウイルスに対する「水際作戦」を担ってくれています。つまり、下痢はウイルスを腸から洗い流してくれています。戦闘において、敵の数が少なければ少ないほど戦いは優位に運べます。よって、下痢を止めると腸にウイルスが留まってしまい、免疫軍も苦戦を強いられる結果へとつながります。下痢になったら、体の反応にまかせて、しっかりとウイルスをトイレで腸から追い出し、脱水予防のため水分補給をしっかりとされることをお勧めします。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3375 )
日時: 2022年07月18日 19:29
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
[(8) サイトカインストームは?]
免疫は敵である病原体と戦う時、ボクシングのセコンド役のような制御性細胞が、興奮した自然免疫細胞達を落ち着かせます。これにより、自然免疫細胞は、むやみやたらにパンチを繰り出すのではなく冷静沈着に敵に攻撃が仕掛けることができるようになります。パンチに相当するのが、「炎症性サイトカイン」と呼ばれる可溶因子で、ウイルスの撃退に働きます。しかし、制御機能が働かないと、自然免疫細胞達が暴走して、炎症性サイトカインを一度に大量に放出します。これにより、ウイルスを撃退するはずの炎症性サイトカインが、逆に自身の臓器まで攻撃してしまうのがサイトカインストームと呼ばれる現象です。

サイトカインストームを起こす根本原因として考えられるのは、「血球貪食症候群」かもしれません。敵に毒を注入して殺すナチュラルキラー細胞は、通常の感染症では増えるのですが、新型コロナウイルス感染では逆に減っていると報告されています(Thevarajan I, Nat Med 2020 3/16)。同じように、毒を注入して敵を殺す CD8 陽性 T 細胞も、新型コロナウイルス感染で減っているようです(Luo MJCI Insight 2020 6/16)。毒を注入して敵を撃退する兵隊がいなくなると、これらの兵隊の分まで頑張ろうと「敵を丸飲みにして撃退する」大食漢のマクロファージが張り切り過ぎてしまいます。結果、味方の細胞まで食べてしまい「血球貪食症候群」と呼ばれる合併症を起こし、サイトカインストーム現象も生じます。サイトカインストームや血球貪食症候群は、新型コロナウイルスに特異的な現象ではなく、EB ウイルス、インフルエンザウイルス、連鎖球菌等の他の感染症をはじめ、生物学的製剤と呼ばれる薬での治療中におこる事があります。イギリスのオックスフォード大学より 6 月 17 日に、ステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンの投与が、酸素供給が必要な重症患者さんの死亡率を低下させる可能性が報告されました。軽症者には効果はありませんでしたが、酸素供給が必要な患者さんの 20-25 人に 1 人、人工呼吸器が必要な患者さんの 8 人に 1 人の命を救っているようです。デキサメタゾンは免疫を抑制する薬の代表ですので、新型コロナウイルス感染により重症化に陥った患者さんの 4-12.5%に、免疫の暴走により生じるサイトカインストームが合併している可能性を示唆しているのかもしれません。7 月 17 日に、デキサメタゾンを投与した 2,104 人と、投与の無い 4,321 人の結果が報告されました(The Recovery Collaboration group, N Engl J Med 2020 7/17)。投与された患者さんの死亡率は 22.9%で、されなかった患者さんは 25.7%のようです。人工呼吸器が装着された重症患者さんに対しては、デキサメタゾン投与は死亡率を 41.4%から 29.3%に改善できたようです。一方、軽症者に対して効果は認められていません。

サイトカインストームを恐れて「免疫力を弱くしろ」と言われる方がいらっしゃいますが、完全な間違いです。免疫力を弱くすることは、新型コロナウイルスと戦う前に「白旗を上げ、重症化を待つ」のと同じです。事実、自己免疫疾患や重症のアレルギー疾患の治療のためにステロイドを止むを得ず使用されておられる患者さんが世界中に多くいらっしゃいます。例えば、炎症性腸疾患ですが、患者さんの安全を守るため「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究・久松斑」では世界の情報を逐一集積され治療にあたる医師達に随時配信されています。6 月 19 日時点の報告では、新型コロナウイルスに感染した炎症性腸疾患患者さんにおいて、ステロイド治療を行われている患者さんは、他の治療に比べて入院率は約 2~3 倍に達し、死亡率も高いようです。同様に、関節リウマチでも、ステロイド治療を受けている患者さんの重症化率が高い事が報告されています(Mehta P, Lancet Rheumatology 2020, 7/31)。148,557 人の閉塞性肺障害(COPD)の患者さんと、818,490 人の喘息患者さんの解析結果が 9 月 24 日に報告されました。吸入ステロイドであっても、高濃度の使用は新型コロナウイルスの重症化を高めるようです(Schultze A, Lancet Respiratory Medicine 2020, 9/24)。また、米国疾患管理予防センター(CDC)も「新型コロナウイルス重症化の危険性を伴う基礎疾患リスト」に「ステロイド等の免疫抑制剤使用中の疾患」を含めています。すなわち、新型コロナウイルス感染時に免疫力が低下していると、悪化の危険性が高いことを教えてくれています。皆さんにできる事は、新型コロナウイルスに感染しないように心がけ、もし感染しても無症状や軽症で済むように免疫力を強化することです。もし不幸にも、免疫が暴走してしまいサイトカインストームや血球貪食症候群が起こってしまったら、織り込み済みの合併症ですので専門の医師にお任せ下さい。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3376 )
日時: 2022年07月18日 19:46
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
[(12) 免疫の撹乱は?]
病原体の中には免疫を撹乱させ、感染からの回復後に自己免疫疾患の発症を誘導するものも多くあります。例えば、マイコプラズマという病原体は、ギランバレー症候群、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性の肺炎などを誘発することがあります。胃に感染するピロリ菌も自己免疫性血小板減少性紫斑病を起こしますし、性病であるクラミジアも反応性関節炎と呼ばれる自己免疫反応を起こすことがあります。夏風邪やヘルパンギーナの原因であるコクサッキーウイルスも心筋炎を起こすことがあります。新型コロナウイルス感染に伴い、稀にですがギランバレー症候群、心筋炎、自己免疫性肝炎、小児に川崎病の合併を引き起こす事も報告されています。よって、新型コロナウイルスも免疫を撹乱する能力を持っていると思われます。
事実、ヒトコロナウイルス(Human corona virus、HcoV-229E, NL63, OC43, HKU1)と呼ばれる弱毒性のコロナウイルスは、新型コロナウイルスが現在のパンデミックを起こす以前に、全世界に既に蔓延しています。事実、インフルエンザ流行期の 10%以下の患者さんがヒトコロナウイルス陽性と各国から報告されています。そして、ヒトコロナウイルスの中の HcoV-229E 型が川崎病の原因である可能性も報告されています(J Med Virol 2014 p2146)。また、後遺症として「脱毛」も最近報告されていますが、円形脱毛症は自己免疫疾患です。

こういう症例が報道されると「免疫力は下げた方が良い」と思う方がいらっしゃいますが、完全な間違いです。まずは、免疫力を高め、新型コロナウイルスを体から追い出す事が先決です。その後におこる合併症は、新型コロナウイルスに特異的でなく他の感染症でも起こりえる折り込み済みの病気ですので、専門の医師にお任せ下さい。

病原体の代表的な撹乱方法は「分子擬態(構造擬態)」と呼ばれるものです。「オレオレ詐欺」のように、他人でありながら息子に成りすましてきます。つまり、味方のように見せかけることにより、免疫細胞の敵味方の区別を見誤らせ、味方(自身の体)に攻撃を仕掛けるように仕組みます。
また、免疫細胞自体の問題により、感染症の後に自己免疫疾患を起こしてしまう場合もあります。T 細胞は、自分自身の細胞(自己)には攻撃を仕掛けず、敵すなわち新型コロナウイルスなどの病原体に対しては攻撃ができるように教育されています。生まれてすぐに胸腺と呼ばれる幼稚園(臓器)で最初に教育を受けます。ここでの教育法は野蛮で残忍です。敵に対して戦えない T 細胞は殺され、戦える T 細胞だけが年長組に進級していきます。進級したら、「自分自身に対して攻撃性を持っているか?」の試験を受けます。ここで自分自身に対しても攻撃性を持っていると判断されれば殺されてしまいます。すなわち、「敵に対しては攻撃ができ、自分自身には攻撃を仕掛けない」優等生だけが卒園していきます。例えば、ディ・ジョージ症候群と呼ばれる生まれつき胸腺が無い病気があります。T 細胞の教育ができないため、急襲攻撃部隊(細胞性免疫)が働かず重篤な感染症を繰り返してしまいます。

次に、T 細胞は「リンパ節」と呼ばれる小学校に進学します。ここで、司令官が出すサイン(副刺激分子)が「戦え」の意味なのか、「戦うな」の意味なのかを勉強します。多くの種類のサインを覚えないといけないので大変です。「戦うな」のサインの代表は、本庄佑先生が発見されノーベル賞を受賞された PD-1 と呼ばれる分子と、James P. Allison 先生が発見された CTLA-4 と呼ばれる分子です。よって、これらの分子を薬で阻害すると「戦うな」から「戦え」の指示に変わり、T 細胞がガン細胞に攻撃を仕掛けられるようになります。現在では、非小細胞性肺癌や悪性黒色腫などの治療に「免疫チェックポイント阻害療法」として用いられています。

T 細胞と B 細胞は同じ獲得免疫細胞部隊に所属しながらも、違う幼稚園で教育をうけます。弓矢の達人である B 細胞が教育を受けるのは、骨髄と呼ばれる幼稚園です。また、卒業しても B 細胞は T 細胞に比べて非常に慎重です。敵に出会って攻撃をするとき、最初に「IgM」と呼ばれる矢を試し射ちをします。IgM は 5 量体として知られ、胴体の部分が 5 本分の矢からなります。太いので敵に当たり憂いのですが、そのぶん矢のスピードが落ちて殺傷能力は高くありません。この試し射ちが終わると、B 細胞は「胚中心」と呼ばれる隠れ家に移動して、胴体の部分が 1 本で殺傷能力に優れた「IgG」へと矢を変更します(クラススイッチ)。
この時、すでに敵と一戦交えた T 細胞から情報を得て(T 細胞依存性抗体産生)、敵に最大限のダメージが与えられるように矢先の形も微調整します(体細胞超突然変異)。この段階に入ると、敵の弱点を知り尽くした T 細胞と B 細胞の最強のタッグチームが組まれ、強敵でも撃退してくれます。

強いのは良いのですが、敵の殺し方が重要になります。ウイルスは我々自身の細胞(家)に空き巣に入り潜んでいます。通常は、B 細胞が放った矢で敵の居場所を教えて、急襲部隊がその家の壁に穴をあけ、セメントの様に全てが固まる毒を注入してウイルスと家を一塊(アポトーシス)にして一網打尽にします。実は、この殺し方が重要です。もし、家を爆破(壊死)してしまうと、家の破片、すなわち自分自身の蛋白が敵であるウイルスの破片と一緒に、あたり一面に飛び散ってしまいます。この飛び散った自身の蛋白を獲得免疫細胞たちが誤って敵と認識してしまい、自分自身の細胞にも攻撃をはじめる可能性も出てきます。

新型コロナウイルスの重症例では、血管、心臓の筋肉、肝臓の細胞が破壊された時に出て来る破片(酵素)の上昇が認められています。これにより、血管炎を主体とする川崎病、心臓の心筋炎、または肝臓の自己免疫性肝炎を稀に起こしてしまう可能性も否定はできません。しかし、あまり恐れられる必要は無いのかもしれません。例えば、爆破により、敵の死骸に加えて家からお金も飛び散ったとします。獲得免疫細胞たちは「胸腺」幼稚園と「リンパ節」小学校でしっかりと教育されているので、100 万円が降ってきても無視すると思います。しかし、もし激しい爆破(重篤な臓器障害)で 1 億円が降ってきたら、出来心で拾ってしまうかもしれません。この様な「出来心」は想定内ですので、防犯のため憲兵である制御性 T 細胞(Treg 細胞)が常に見回ってくれています。つまり、免疫機構は、幼稚園での教育(中枢免疫寛容)、小学校での教育(末梢免疫寛容)、出来心を起こさせない敵の撃退法(アポトーシス)、そして憲兵による巡視(acxtive auppression)の何段階にもおよぶ監視機構で、自己免疫疾患すなわち犯罪が起こらないような体制を整えています。しかし、残念ながら、我々の社会と同様に、それでも犯罪つまり自己免疫疾患はゼロにはなりません。
憲兵役を担う制御性 T 細胞(Treg)部隊などの免疫抑制機能を持つ細胞は、「インターロイキン-10」と呼ばれる可溶性因子を産生して、興奮した免疫細胞を落ち着かせます。このインターロイキン-10 の指示を受け取るために必要なのが、「IL-10R1」と「IL-10R2」と呼ばれる蛋白の組み合わせ(2 量体の受容体)です。
IL-10R2 が血液中に増えていると、新型コロナウイルス感染による重症化が低い可能性が 2 月 25 日に報告されました(Zhaou S, Nat Med, 2021 2/25)
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3379 )
日時: 2022年07月18日 22:06
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
[(13) 抗体の役割は?]
● 抗体(IgG):感染すると獲得免疫細胞の一種である B 細胞が、そのウイルスを記憶して抗体が産生されます。抗体には 5 種類あり、感染が起きると、IgM アイソタイプと呼ばれる抗体が最初に作られ、次にIgG アイソタイプと呼ばれる抗体が長期間産生されます。また、唾液や鼻汁中には IgA アイソタイプと呼ばれる抗体が分泌され始めます。IgM 型抗体は IgG 型抗体の産生が始まると減ってきます。すなわち、IgG 型抗体はウイルスが消失しても長期保存されるため新型コロナウイルスの過去の感染歴を調べるのに有効です。実際、感染者数などの最終的確認のための疫学調査には抗体検査が用いられます。最近の米国マウントサイナイ・アイコン医科大学の研究が、新型コロナウイルス特異的 IgG 型抗体が検出可能となる時期を教えてくれています。PCR で新型コロナウイルス感染が診断された患者さんに対して 2 週後に IgG 型抗体検査を行ったところ、511 人が抗体陽性で 42 人は陰性でした。その 1 週間後に再度抗体検査を行ったところ、3 人を除いて全員が陽性となりました。すなわち、個人差はありますが IgG 抗体が陽性になるには感染後 2~3 週間が必要なのかもしれません。

● 抗体陽性の意義:「抗体が陰性で良かった、感染が無いので仕事に行ける」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、完全な誤解です。感染早期に産生される IgM 型抗体でさえ陽性になるには感染後約 1 週間は必要で、抗体検査が陰性だからといって「今、感染していない」という証明には全くなりません。今、「感染しているか、いないか」を判断するには PCR か抗原検査が適しています。
新型コロナウイルスに対する IgG 型抗体(鍵を狙う IgG)が陽性であれば「他人にうつさない、そして自身も守られている」と考えていいと思います。事実、新型コロナウイルスに感染された患者さんの B 細胞を抽出して 598 種類の抗体を作成したところ、40 種類は新型コロナウイルスを中和、すなわち細胞への侵入を抑える能力がある事が 9 月 18 日に科学的に証明されました(Kreye J, Cell 2020, 9/18)。ウイルスは自らで増える事はできません。我々の細胞に感染し、細胞内の部品を利用することにより初めて増える事ができます。ウイルスが細胞内で増えるところを自然免疫細胞と協力して一網打尽にしてくれるのが IgG 型抗体です。よって、IgG 型抗体を持っていれば、ウイルスは増える事ができず、感染しても症状はほとんど無く、他人にうつす事もまずないという事になります。麻疹、風疹、流行性耳下腺炎などを起こすウイルスに対して IgG 型抗体が陽性であれば「守られている」そして「ヒトにうつさない」と日常診療では判断されていると思います。事実、院内感染防止のため、これらのウイルスに対する抗体検査は、多くの病院で入職者に対して義務付けられていると思います。

一方、「抗体が作られない(免疫記憶が誘導できない)」や「抗体が役に立たない(抗体がすぐ消失する)」などの例外的な感染症も稀にあるため、「抗体は新型コロナウイルスから我々を守れるのか?」というも早期にはありました。しかし、米国ハーバード大学のアカゲザルを使った基礎研究により「IgG 抗体は新型コロナウイルスから守ってくれる」事が証明されています。また、ヒト化マウスを用いた最近の基礎研究では、鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素 2 に新型コロナウイルスが鍵を差し込むのを抗体が妨げ、感染を抑制していることも明らかとなっています(Sun et al.Cell 2020, 6/10)。同様に、ヒトにおいても抗体が新型コロナウイルスのアンギオテンシン変換酵素 2 への結合を阻害することが報告されています(Seydoux E et al.Immunity 2020 6/5)。臨床面においても、新型コロナウイルス再陽性の患者さんの多くは、既に新型コロナウイルスに対する IgG 型の抗体を持っており、無症状か軽症ですむ事が欧米から報告されています。同様に、韓国疾患管理予防センター(KCDC)も、新型コロナウイルス再陽性になった患者さんの 96%に抗体があり、半数以上は無症状で、症状があっても軽症である事を 2020 年 5 月 19 日に報告しています。非常に有意義な情報は、KCDC の再陽性者 285 人の追跡調査です。再陽性者の濃厚接触者に感染者は一人も出ていない事を報告しています。期待を持たしてくれるのが、最近の予備的臨床試験結果の報告です(Duan K et al.PNAS 2020 p490)。新型コロナウイルス感染による重症患者 10 名に、既に回復した患者から採取した IgG 型抗体を含む血清 200 mL を 1 回投与しています。すべての患者さんの症状は 3 日以内に改善し、PCR で全員にウイルスが検出できなくなったと報告しています。すなわち、IgG 型抗体を持っていれば新型コロナウイルスに対して「自身も守られ」そして「他人にうつさない」事を基礎と臨床の両側面から証明しているのかもしれません。

米国エール大学の岩崎明子先生達のグループが非常に興味深い結果を 2021 年 5 月 5 日に報告されました(Lucas C, Nat Med 2021, 5/5)。新型コロナウイルス感染の重症化は「中和抗体の量ではなく」「どれだけ早期に作り出されるか」に左右される可能性が報告されています。つまり、抗体産生を始めるスタートダッシュが重要という事になります。初感染では獲得免疫軍つまり抗体を産生する B 細胞部隊が働き始めるまでに 72 時間以上が必要です。この時差を解消して、敵が侵入して来たら即座に抗体が産生できるようにしてくれるのがワクチンです。新型コロナウイルスに対して多くの会社のワクチンは予想を遥かに超えた効果を示しています。やはり、これ程の効果は「ワクチンによるスタートダッシュの改善」によりもたらされている可能性があるのかもしれません。

国立感染症研究所から興味深い研究結果が 2021 年 7 月 2 日に報告されました(Moriyama S, Immunity 2021, 7/2)。新型コロナウイルス感染により作られ始めた中和抗体量は 2~4か月後から急激に減少するようです。この減少は、軽症者に比べて重症者に強い傾向があるようです。しかし、ご安心ください。中和抗体の量の減少に伴い、一つ一つの抗体が持つ新型コロナウイルスに対する効力は 10 か月かけて増強されて行くことが報告されています。つまり、新型コロナウイルスとの実戦経験をもとに B 細胞軍が成熟し、戦法が「量から質」へと変化し、少数精鋭部隊に最終的には置き換わると考えてよいのかもしれません。また、少数精鋭部隊は非常に頼もしい限りで、質へと変化した抗体は「ブラジル由来変異株(ガンマ株)」や「南アフリカ由来変異株(ベータ株)」に対しても効果が発揮できると報告されています。国立感染症研究所(量より質)および米国エール大学(量より速さ)からの報告は、「抗体の効力は量だけでは判断できない」事を教えてくれています。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3380 )
日時: 2022年07月18日 22:21
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【抜粋】
● 抗体の寿命:新型コロナウイルス感染によりできた抗体は「どれぐらいの期間維持できるか?」については明らかではありません。新型コロナウイルスと同系に属すウイルスの中で、ヒトコロナウイルスに対する IgG 型抗体は、1 年間は維持され、SARS を起こした病原性の高いコロナウイルスに対する IgG 型抗体は 2 年以上維持されるとの報告があります(Wu L.
Emerg Infect Dis 2007 p1562)。また、麻疹(はしか)のように、「終世免疫」と呼ばれ抗体が一生涯維持される感染症もあります。

2020 年 6 月の中国武漢市の調査では、新型コロナウイルスに感染しても無症状であった患者さんは、症状が出た患者さんに比べて IgG 型抗体の血中濃度が低く、そのうえ、退院後約 8 週で 40%の患者さんの抗体が陰性になったと報告しています(Lung QX.Nat Med 2020 6/18)。IgG 型抗体の半減期は長くても 23 日です。すなわち、一度血液中に放出されると 23 日で量が半分になるという事です。退院後約 8 週で抗体が陰性になったという事は、一度は抗体が作られているので、戦闘のエキスパートである獲得免疫細胞が援護に来たと思います。しかし、敵が弱いため抗体を短時間しか使わず、血液中に残っていた僅かな抗体が 8 週間で消えたのかもしれません。重要なポイントは、抗体に比べて、抗体を作りだす B 細胞の寿命は半年から 1 年と長くなります。すなわち、「料理はあっという間に無くなりますが、その作り方を覚えた料理人はいつでも同じ料理が作れる」という事です。そして、B 細胞は、記憶した敵に再び出会うと増え始め、増えた細胞は、その時点から寿命が始まります。すなわち、感染して 1 年以内に同じ敵に出会えば、敵の顔を覚えた子孫を残し続け、自然免疫細胞が苦戦している時には、親に代わり子孫たちが抗体を放ち援護してくれることになります。

免疫といえば「B 細胞が作りだす抗体」だけと思われがちですが、誤解です。自然免疫軍のみが働く場合もあります。代表例は、自己炎症性疾患です。自己免疫疾患と異なり獲得免疫軍が出陣してこないため、抗体(自己抗体)は作られません。また、自然免疫軍と T 細胞軍だけが働く代表疾患は、「IV 型アレルギー」に分類される病気で、接触性皮膚炎などがあります。やはり B 細胞軍が出陣しないため抗体は作られません。
よって免疫記憶が有るかを調べるためには、抗体検査でなく、接触性皮膚炎を起こしていると疑われる物質を塗り、皮膚が赤くなるかどうかを見る「パッチテスト」が用いられます。ツベルクリン反応も IV 型アレルギーです。結核の感染では、抗体ができないため、皮膚に死んだ結核菌を接種して皮膚が赤くなるかどうか、即ち「T 細胞が免疫を持っているか」を見ます。このように、B 細胞軍が出陣してこない場合も多くあります。また、弱い敵のため、B 細胞軍が出陣してきても短期間しか抗体を作らない場合もあります。
このような場合は、再攻撃に備えて敵の顔を覚えた B 細胞軍は生き残りますが、抗体はすぐになくなってしまいます。つまり、「抗体の有無」では、「免疫が有るのか、無いのか」は分かりません。

IgM、IgG、IgA の少なくとも 3 種類が新型コロナウイルス感染では産生され、敵に対する殺傷力も異なります。また、IgG とひとまとめに呼ばれがちですが、標的となる場所が異なり「ウイルスのどこに当たるか」で殺傷力も異なってきます。新型コロナウイルスが我々の細胞に空き巣に入るための鍵(RBD, receptor binding domain)を標的とした抗体は、殺傷能力が最も強い事が多くの研究により報告されています(Kreye 79 J, Cell 2020, 9/23)。また、鍵を持つための腕(スパイク)を標的としても殺傷効果は得られるようです。
一方、新型コロナウイルスばかりでなく季節性コロナウイルスにも存在するツノ(ヌクレオペプシド)を標的とした場合には、やはり急所を外れるため効果的な殺傷効果は得られないようです。殺傷力の高い「鍵に対する抗体」は、B 細胞と T 細胞が協力して初めて作り出されます。よって、免疫軍が総動員で戦った場合、すなわち中等症以上に陥った患者さんに認められはじめます(Kreye J, Cell 2020, 9/23; Meckiff BJ, Cell 2020 10/5)。また、「鍵に対する抗体」は感染後 226 日までは消失しないとも報告されています。
一方、免疫軍が総戦力で戦う必要がなかった無症状や軽症の患者さんでは、「ツノに対する抗体」が認められ、感染後早期に消失してしまうと報告されています。すなわち、「ツノに対する IgG」ではなく「鍵に対する IgG」が陽性であれば、新型コロナウイルスからすでに守られていると考えて良いと思います。最初に減少するのは「ツノに対する IgG」である事が 2020 年 11 月 3 日にも報告されています(Chen Y, Cell 2020, 11/3)。「鍵に対する IgG」が高ければ新型コロナウイルス感染からの回復が早いようです。一方、「ツノに対する IgG」が増えても症状に変化は無いと報告されています。

時間が経つにつれて、「鍵に対する IgG」が減ってしまい低濃度になったとしても新型コロナウイルスに対する予防には充分である事が、アカゲザルを用いた基礎研究により 12 月 4 日に報告されました(McMahan K,Nature 2020, 12/4)。

英国インペリアル大学より、「REACT study」と呼ばれる 36 万人にもおよぶ大規模な IgG 抗体の調査結果が報告されました。「IgG 抗体陽性者が 3 か月で 6%から 4.4%へ減少した」と報告されたため、「免疫はできない」と心配される方がいらっしゃるかもしれませんが、ご安心下さい。投稿前の論文がインペリアル大学のホームページで閲覧できたので読んでみました(https://www.imperial.ac.uk/media/imperial-college/institute-of-global-health-innovation/MEDRXIV-2020-219725v1-Elliott.pdf)。
6 月から 9 月までの間に、新型コロナウイルスに対する IgG 抗体を Fortress Diagnostic 社の簡易キットを用いて 3 回測定されています。論文および Fortress Diagnostic 社のホームページには、「新型コロナウイルスのどの部位を認識する IgG を検出できるか」については記載がないようなので、早期に消失する傾向のある「ツノに対する IgG」なのか、長期間保持される「鍵に対する抗体」なのかは不明です。一回目での陽性者は 6 %でしたが、2 回目では 4.8 %へ、3 回目では 4.4 %へと陽性者が減少しています。すなわち、陽性者中の 26.6%([6% - 4.4%] ÷ 6%)の方の IgG は消失したことになります。この減少は年齢層で異なり、18-20 歳では 14.9%、75 歳以上で 39%と報告されています。しかし、この抗体キットの感度は 84.8%と論文中に著者は記載しており、陽性者であっても 15.2%(100%–84.8%)の方は陽性にはならないという事を示しています。18-20 歳の 14.9%という値と非常に近いため、若年者で IgG 抗体を 3 か月以内に消失した方はいなかったと考えるのが科学的には妥当と思います。一方、75 歳以上では 23.8% (39%–15.2%)の方のIgG 抗体が消失した計算になりますが、科学的な判断は非常に難しいようです。何故なら、今回の研究では、抗体検査を全て自分自身で行わなければなりません。抗体キットに付いてくるビデオを見て、自ら指先に専用器具で針をさし、一滴の血液を上手く採取して、キットの指定された穴にうつさなければなりません。慣れれば簡単ですが、慣れないとミスが起こります。当講座でも医学部 2 年生の実習でアレルゲンに対する IgE 抗体を検出する簡易キットを使いますが、操作ミスはやはり起こってしまいます。特に、老眼などがあると、近くが見えづらく操作の誤りも起こり易いかもしれません。事実、今回の検査対象者の中で、キットの操作に慣れている方が多い医療従事者では、抗体が消失した方はおられないようです。

約 13,000 人の医療従事者を対象とした抗体検査結果が 12 月 23 日に報告されました(Lumley SF, New England J Medicine, 2020, 12/23)。11,364 人が抗体陰性で、1,265 人が抗体陽性でした。抗体陰性者のうち、その後の定期的 PCR 検査で新型コロナウイルスの感染が判明した人は 223 名(1.96%)です。また、PCR で感染が判明した 223 名のうち、100 人(44.8%)は無症状のようです。一方、抗体陽性者のうち、その後に PCR で感染が判明した方は 2 名(0.16%)です。やはり、抗体は新型コロナウイルスの再感染から我々を守ってくれているようです。また、「抗体は少なくとも 6 ヶ月以上は保持され我々を守ってくれている」と報告されています。

同様の結果が 2021 年 1 月 6 日にも報告されました(Dan JM Science 2021, 1/6)。ひとたび「鍵に対する矢」が作られると、その量は 103 日目で半分にはなりますが、6~8 ヶ月後でも新型コロナウイルスを撃退するには十分量の矢が 88%の方には保たれるようです。また、放った矢が消失した後も、B 細胞は最低で半年間は生存できる事からすると、「鍵に対する矢」が作られた人は 1 年以上は守られていると考えるのが妥当と思います。また、新型コロナウイルスといつでも戦える T 細胞軍のうち、CD8 陽性部隊は 125 日から225 日で半分になり、CD4 陽性部隊はは 94 日から 153 日で半分になるようです。また、既存のコロナウィルス感染の報告からすると、T 細胞は半分になった後は非常にゆっくりと減っていく可能性が高く、完全に無くなるまでには 17 年を要する可能性もあるようです(Dan JM Science 2021, 1/6)。

9,702 人を無作為に抽出した中国武漢からの抗体調査結果が 2021 年 3 月 20 日に報告されました(He Z,Lancet 2021, 3/20)。抗体陽性者は 6.92%で、抗体陽性者のうち 82.1%の方は無症状です。すなわち 8 割以上の方が症状がないまま知らず知らずのうちに感染していた事になります。また、4 月の検査で抗体陽性であった方は、12 月の検査でも抗体は陽性と報告されています。つまり、抗体は少なくとも 8 か月は維持されることになります。また、症状が強く出た方の方が、抗体の維持期間は長くなるようです。

抗体を産生する能力を得た B 細胞は形質細胞へと更に成長(分化)していきます。形質細胞には寿命が 1 年以内の短命な「short-lived plasma cells」と、数十年も生き続ける「long-lived plasma cells」に分類されます。感染者の血液の解析により、新型コロナウイルス感染では短命な「short-lived plasma cells」に成長して行くとの考えが主流でした。しかし、新型コロナウイルス感染による軽症者の骨髄を解析すると、長寿の「long-lived plasma cells」が骨髄に潜んでいることが 2021 年 5 月 24 日に報告されました(Turner JS, Nature 2021, 5/24)。新型コロナウイルス感染で産生された抗体(IgG)は感染後 7 か月頃から減りはじめ、約 11 か月で検出可能範囲ギリギリまで減少します。しかし、抗体が無くなっても、新型コロナウイルスが再び感染してくれば、長寿の「long-lived plasma cells」が即座に抗体産生を再開してくれ我々を守ってくれることになります。判断は時期尚早ですが、「新型コロナウイルスに対して終生免疫が獲得できる」可能性や、「新型コロナウイルスが夏風邪程度の風土病になる」可能性も出て来たのかもしれません。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3381 )
日時: 2022年07月18日 22:39
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【抜粋】
[(14) 新たな概念は?]
新型コロナウイルスに関して認められる現象の多くは、医学部の学生の教科書的な基本概念で説明がつけられるのかもしれません。一方、未だ賛否両論である 2 つの免疫分野の謎に、新型コロナウイルスは答えを出してくれる可能性があります。また、「自己免疫反応」による「免疫低下」という新らたな概念が 9 月 24 日に報告されました。

● 免疫訓練:一つ目は、自然免疫が相手に対する戦い方を記憶する「免疫訓練(Trained Immunity)」です。アフリカの子供達の結核を無くすため BCG 接種が 1990 年に開始されましたが、子供達の死亡率が劇的に改善され、結核以外のウイルス性肺炎による死亡も減少している事が報告されました(Kristensen I Br Med J 2000, p1435)。予想外の結果のため、多くの研究が開始され、「BCG が自然免疫細胞に効果的な敵との戦い方を覚えさせている」という「免疫訓練」仮説が 2011 年に提唱されました(Netea MG, Cell Host Microbe 2011, p355)。コンピュータ医学(AI)を駆使して、免疫訓練は「エピジェネティック」と呼ばれる機序を介して自然免疫細胞のフットワークを軽くしている可能性も 2016 年に報告されましたが(Netea MG, Science 2016, p6284)、未だ賛否両論です。過去の BCG 接種(日本株とソ連株)が新型コロナウイルスによる死亡率を下げている事が証明されれば、この論争に終止符を打つのかもしれません。

多くの因子が新型コロナウイルスの重症化に関与しているため、重要な「交絡因子」を考慮した、すなわち、新型コロナウイルスの重症化に影響を与える年齢などの主要因子を統計学的に除去した結果が 7 月に発表されました(Escobar LE, PNAS 2020, 7/9)。BCG 接種率が 10%増えると、コロナウイルス感染による死亡率が 10.4%減少すると報告されています。これは、過去を振り返って検討する「後ろ向き観察研究」になります。一方、「BCG が 65 歳以上の呼吸器感染を予防できるか?」を検討する「前向き臨床研究」、すなわち過去を振り返って検討する研究ではなく、BCG を接種した後にどうなるかを調べる臨床試験が 2017 年 9 月より行われています。その中間結果が 8 月 27 日に報告されました。2017 年からの臨床試験ですから、勿論新型コロナウイルスを対象としたものではありません。試験対象者は 198 名と少ないのですが、BCG は 65 歳以上の方においても安全で、ウイルスによる呼吸器感染症に対する予防効果があるようです(Giamarell-Borboulis EJ, Cell 2020, 8/27)。新型コロナウイルスに対する効果は不明ですが、アフリカで認められた予期せぬ現象を説明するために提唱された「BCG による免疫訓練」仮説を、臨床的根拠が今裏付けているのかもしれません。

しかし、「新型コロナウイルス感染による重症化予防のために BCG を接種しよう」と思うのは現時点では危険です。BCG は毒性を弱くしてはありますが、生きた細菌を接種する「生ワクチン」です。免疫力の低下した方には、予防どころか「日和見感染症」と呼ばれる重篤な感染症を起こしてしまう可能性があり、免疫力が低下した方への接種はできません。事実、上記の臨床試験でも、免疫力の低下した方およびステロイドで治療中の方は参加の対象から除かれています(Giamarell-Borboulis EJ, Cell 2020, 8/27)。また、BCG とひとまとめに呼ばれますが、異なった種類の結核菌株や菌数が各国で用いられ、その効果もまちまちです。すなわち、BCG と呼ばれても同じ物ではないという事です。今回の臨床試験で用いられた結核菌株は「1331 株」と呼ばれるものです。一方、本邦で BCG に用いられる「日本株」では、高齢者への安全性は担保されていません。また、日本小児科学会 予防接種・感染対策委員会は、「BCG ワクチン供給に限りがあります。0 歳時に BCG ワクチンの供給問題が生じないようにご賢察を宜しくお願い致します」と警鐘を鳴らされています。もし、これらの問題が全て克服できれば、木村盛世先生が言われるように、BCG は「日本から発信できる新型コロナウイルスの重症化予防戦略」になるのかもしれません。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3382 )
日時: 2022年07月18日 22:48
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
● BCG:「Trained Immunity」と呼ばれる免疫訓練機構により、自然免疫細胞が病原体と的確に戦えるように訓練されている事が近年明らかとなりつつあります(Science 2016 p6284; Cell Host Microbe 2018 p89; J Clin Invest 2019 p3482; Nat Rev Immunol 2020 p1)。ネズミを使った基礎研究では、Trained Immunity は「感染を防止するのでなく、感染による重症化の抑制に貢献している」可能性が報告されています。この自然免疫の訓練を誘導する可能性があるのが BCG です。獲得免疫のようにピンポイント攻撃はできないので予防接種ほどの強力な効果はありませんが、BCG 接種をしない米国やベルギーに比べて、幼少期に行う BCG 接種が本邦やアジア諸国における新型コロナウイルスに対する死亡率低下の一因を担っている可能性もあります。つまり、過去の BCG 接種により「感染することは抑制できませんが、重症化を抑制している」のかもしれません。

BCG は生ワクチンに分類されます。すなわち毒性を弱くした生きたウシ由来の結核菌を接種することになります。また、国々で異なった種類の菌が BCG に使われています。日本株やソ連株と呼ばれる菌が使用される BCG は第一世代と呼ばれ、結核菌数が多く含まれています。また、ブラジルで使用されるモロー株も第一世代ですが結核菌数は少なく設定されています。欧州で広く使用されていたベルギー株は日本株に比べ遺伝的に多くの違いがある事もわかっています。自然免疫の第一人者であられる大阪大学免疫学フロンティアセンターの宮坂昌之教授が日本株とソ連株の効力が強い可能性をお話されています (EMBO Mol Med 2020 e12661)。新型コロナウイルスに対する BCG の重症化抑制効果については未だ賛否両論があるため、BCG 接種国および使用された BCG 株と新型コロナウイルスによる人口 100 万人あたりの 6 月 9 日時点での死亡者数を再度比較してみました。やはり、日本株 BCG を接種している国(赤色)すべてにおいて死亡者数が著名に抑制されています。幼少期に接種され、副作用が強いため瘢痕まで残した日本株 BCG が、新型コロナウイルスによる重症化から我々を今守ってくれているのかもしれません。

現在も BCG 接種を義務化している国では、新型コロナウイルスによる死亡率が低い事が 2020 年 3 月に報告されました(Miller A MedRxiv 2020 3/28)。しかし、多くの因子が新型コロナウイルスの重症化には関与しているため、非常に賛否両論の状態でした。重要な「交絡因子」を考慮した、すなわち、新型コロナウイルスの重症化に影響を与える年齢などの主要因を統計学的に除去した結果が 2020 年 7 月に発表されました(Escobar LE, PNAS 2020, 7/9)。BCG 接種率が 10%増えると、コロナウイルス感染による死亡率が 10.4%減少すると報告されています。

本邦では 1951 年に「結核予防法」が施工され、小学校入学前の乳幼児に対する BCG 接種が義務付けられました。つまり約 75 歳以下の方は BCG の接種歴があり、75 歳以上の方は BCG 接種歴がない事になります。80 歳以上で新型コロナウイルスに対する死亡率が跳ね上がる原因として、加齢にともなう免疫低下と血栓の起りやすさに加えて、BCG 未接種が関与している可能性も否定はできないかもしれません。

2020 年 6 月 9 日に BCG 接種国と新型コロナウイルスの死者数を整理しましたが、再度 2021 年 3 月 3 日時点でまとめてみました。世界のデータを毎日更新されている札幌医科大学フロンティア医学研究所が示されているデータを前回同様に使用させて頂いています。休みなくデータを更新して頂いている札幌医科大学フロンティア医学研究所の先生方に心より感謝申し上げます。新型コロナウイルスも変異を続けるように、BCG に用いられる結核菌も変異します。よって、「BCG」と一言でいっても、用いられる結核菌株は異なっています(Toida I, Kekkaku, 2000, p1; Miyasaka Y, EMBO Mol Med, 2020, e12661)。私は統計学の専門家ではないので結論は出せませんが、日本株 BCG を接種している国(緑で表示)の人口当たりの死者数の低さが目に付いてしまいます。また、人口当たりの感染者数も低い傾向があるのかもしれません。BCG は自然免疫を訓練する事により「重症化を抑制する」と考えられていました。しかし、BCG による「感染予防効果」も最近報告されています(Giamarell-Borboulis EJ, Cell 2020, 8/27)。BCG が感染拡大抑制に寄与している可能性も否定はできないのかもしれません(Kinoshita M, J Infect 2020, p625)。

世界中が新型コロナウイルスに見舞われ 1 年が経ち、BCG に関する疫学的解析結果が再び報告され始めました。現在からさかのぼり 15 年間 BCG 接種を義務付けていた国では、新型コロナウイルスの重症化率が低い可能性が 2021 年 2 月に報告されています(Brooks NA, Sci Rep 2021, p774)。また、重症化率が非常に低い 40 歳以下の方においても、BCG 接種は重症化率をさらに下げている可能性や、BCG が 20~49 歳の方の感染率も下げている可能性が報告されています(Garzon-Chavez D, Vaccines 2021,p91)。日本でも BCG 接種率の低い都道府県では新型コロナウイルスの感染拡大が増強されている可能性が報告されています(Kinoshita M, J Infect 2020, p625)。私も、この木下先生の論文を読ませて頂いて始めて知ったのですが、「ほぼすべての方が乳幼児期に BCG 接種を受けられている」と思っていた日本でさえ、理由はよくわかりませんが「1999 年から 2002 年に BCG 暗黒期」が起こっているようです。例年は、ほぼ全員が乳幼児期にBCG 接種を受けられていますが、1999 年から 2002 年の間は都道府県で非常に差があり、ほぼ 100%が受けられている県もあれば接種率が約 30%の都道府県もあるようです。木下先生の論文をもとに計算してみると、最も接種率が低いのは東京都で 1999 年から 2002 年の間の BCG 接種率は平均で 31.3%、次は神奈川県で 35.6%のようです。その他で接種率が低いのは、北から北海道 55.7%、宮城県 49.3%、愛知県 61.8%、京都府 42.1%、大阪府 55.6%、兵庫県 57.2%、岡山県 45.8%、広島県 36.9%、高知県 51.5%、福岡県 46.5%、大分県 56.3%、熊本県 56.1%の計算になります。BCG 接種率の低い期間があった都道府県では感染者拡大が強い傾向にあるのかもしれません。しかし、例外もあります。沖縄県は 2021 年 3 月 3 日時点の人口当たりの死者数は全国 4 位ですが、1999 年から 2002 年の間の BCG 接種率の低下は認めていません。

2021 年 5 月 19 日時点で緊急事態宣言が発出された都道府県は東京、京都、大阪、兵庫、愛知、福岡、北海道、岡山、広島です。上述したように、1999 年から 2002 年に BCG 接種率の著減があった都道府県(Kinoshita M, J Infect 2020, p625)は、東京都(31.3%)、神奈川県(35.6%)、広島県(36.9%)、京都府(42.1%)、岡山県(45.8%)、福岡県(46.5%)、宮城県(49.3%)、高知県(51.5%)、大阪府(55.6%)、北海道(55.7%)、熊本県(56.1%)、大分県(56.3%)、兵庫県(57.2%)、愛知県(61.8%)のようです。、緊急事態宣言が出された都道府県は、全て BCG 接種の暗黒期があった都道府県です。偶然の可能性は勿論ありますが、BCG が感染拡大抑制に貢献している可能性も否定はできないのかもしれません。一方、BCG に重症化の予防効果は無い可能性が台湾から報告されました(Su W-J, Int J Environ Res Public Health 2021, p4303)。台湾では 1979 年から日本株 BCG が接種されています。新型コロナウイルスに台湾で感染した 25 歳から 33 歳でBCG 接種歴が無い方は 106 人で、中等症まで悪化した方は 14.2%、重症化した方は 0.9%と報告されています。また、同年齢で BCG 接種歴のある方では 78 人が感染され、中等症は 19.2%で重症化はゼロと報告されています。

この様な話をすると、「新型コロナウイルス予防のため BCG を接種しよう」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、非常に危険です。BCG は生ワクチンです。弱ってはいますが生きた細菌を使っています。
よって、免疫が衰えていると、予防どころか、「日和見感染」と呼ばれる感染症を起こしてしまう危険性もあります。また、BCG は自然免疫の訓練に寄与します。よって、成熟しきってしまった成人の免疫に対して訓練ができるかは科学的に大きな疑問です。
   
   
Re: 新型コロナ「正しく恐れ、うつさない、うつらない」ー 久留米大学医学部免疫学講座より ー ( No.3383 )
日時: 2022年07月18日 22:58
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

【抜粋】
● 形質細胞の寿命の決定: 2 つ目の論点は、形質細胞の寿命です。麻疹(はしか)等のように予防接種を受ければ一生涯抗体が残るものもあれば、インフルエンザの様に半年で抗体が消えてしまうものもあります。抗体の半減期は最も長い IgG1 と呼ばれる抗体でも 23 日と短いので、原因は抗体を作る細胞の寿命にあることは確かです。B 細胞は、胚中心と呼ばれる対策本部で、矢を IgM から殺傷能力の高い IgG と呼ばれる矢に交換するとともに、さらに殺傷能力を上げるために矢先の微調整を行います。その後、「形質細胞」と呼ばれる弓矢の名手、すなわち、研ぎ澄まされた抗体を放つ専門細胞へと成長して行きます。形質細胞には 45 年以上生きる「long-lived plasma cell」と呼ばれる長寿細胞と、3~7 か月しか生きることができない「short-lived plasma cell」と呼ばれる短命細胞があります(Andraud M, Plos Comput Biol 2012, e1002418)。免疫細胞の寿命は、特攻隊として働く好中球は約 3 日で、T 細胞は半年〜1 年です。よって、「なぜ形質細胞は 45 年もの長きにわたり生きる事ができるか?」が謎で、多くの仮説が提唱されています。
一つ目の可能性は「潜伏感染」です。ウイルスの中には、免疫がしっかりしていると、何もせず我々の身体に一生涯潜んでいるものもあります。B 型肝炎や単純ヘルペスが代表例です。また、進行性多巣性白質脳症を稀に起こしてしまう JC ウイルスは、脳の病気でありながら約 80%の方の腎臓に一生涯潜み続けています。
すなわち、「身体の何処かに潜み続けているウイルスが何もできない様に、形質細胞が常に小競り合いを起こしているため長生きしている」と言う仮説です。

二つ目の仮説は、戦闘(感染)が起こると設営される「胚中心」と呼ばれる対策本部です。胚中心には、B 細胞や形質細胞に活力を与える事ができる特殊な樹状細胞(follicular dendritic cells)や濾胞 Th 細胞(Tfh)が存在します。この対策本部があるから、形質細胞は長生きできると言う仮説です。通常、強いウイルス感染では対策本部は設営されるのですが、新型コロナウイルス感染では設営されない、即ち胚中心が作られない事が報告されています(Kaneko N, Cell 2020 8/14 11572)。胚中心ができない事により、形質細胞が短命(3~7 か月)となるのかもしれません。また、季節性インフルエンザのように比較的強い敵の場合は、胚中心が作られ形質細胞の訓練が始まると、過去に似たような敵と戦った経験のある形質細胞達も胚中心に集りだすようです(Turner JS, Nature 2020, 8/31)。これにより、強弱の効いた強力な波状攻撃(多様性を持った攻撃)が仕掛けられるのかもしれません。

もう一つ新たな仮説が 2020 年 10 月 5 日に報告されました(Meckiff BJ, Cell 2020, 10/5)。濾胞 Th 細胞(Tfh)は B 細胞に活力を与える援助細胞ですが、新型コロナウイルス感染では、この「濾胞 Th 細胞」が B 細胞を殺してしまう「細胞傷害性濾胞 Th 細胞」へと豹変する可能性が示されました。この豹変した細胞は、新型コロナウイルス感染で重症化した方のみに認められています。すなわち、細胞傷害性濾胞 Th 細胞が出現しなければ抗体が産生され回復に向かうが、細胞傷害性濾胞 Th 細胞が出現してしまえば抗体産生ができなくなり、より重症化へと進んでいく可能性も否定はできません。

このホームページを閲覧して頂いた方から貴重なご質問を頂いたのでご紹介させて頂きます。新型コロナウイルス感染で胚中心が消失すれば、矢を IgM から IgG へ変えるクラススイッチが起こらないため、IgG ができないのではないかと言うご質問です。私の説明不足で申し訳ありません。もし「クラススイッチは胚中心で起こるか?」と問われれば答えは〇になります。しかし、「クラススイッチは胚中心でしか起こらないか?」と問われれば答えは×になります。B 細胞は非常に複雑で、「クラススイッチがおこることにより胚中心は作られ、胚中心が無くてもクラススイッチは起こる」という結論になるのかもしれません。例えば、マウスでクラススイッチを起こらなくすると胚中心は消失します。事実、ヒトにおいても、クラススイッチに必要な遺伝子が生まれつき欠失すると、高 IgM 血症という病気を起こしてしまい、胚中心も消失してしまいます。つまり、クラススイッチに依存して胚中心ができているのかもしれません。一方、胚中心はリンパ濾胞という組織の中にできます。よって、リンパ濾胞が無くなると胚中心も無くなります。リンフォトキシンと呼ばれるサイトカインが無くなると、リンパ濾胞と共に胚中心も消失しますが、IgG は無くなる事はありません。すなわち、胚中心が無くてもクラススイッチは起こるという事になります。事実、今回の新型コロナウイルス感染においても、胚中心は消失しながらも、コロナ特異的 IgG は作られています(Kaneko N, Cell 2020 8/14 11572)。

また、胚中心では、殺傷力を強くするために矢先の微調整(体細胞高頻度突然変異)が繰り返されます。人類は、新型コロナウイルスに対して「余り微調整をしなくても十分に殺傷力を持つように変えることができる矢(抗体)」を既に持っている可能性が 8 月 20 日に報告されました(Kreer C, Cell 2020, p843)。なぜ、このような矢(抗体)を持っているかについて 2 つの可能性が挙げられています。コロナウイルスのような RNA ウイルスは数億年前から存在しているようで(Shi M, Nature 2018 p197), ウイルスはヒトと共存して生きている事からすると、人類は進化の過程でこの様な矢が既に備わっているのかもしれません。また、4 種類のヒトコロナウイルスは、既に世界中に蔓延しています。これらのウイルスの過去の感染による交叉免疫により、このような矢が備わっている可能性もあります。

抗体を産生する B 細胞の成長は、「出世魚」のように複雑です。未熟な段階から成長して来た B 細胞は、武器である矢をより強力に研ぎ澄ましながら再び成長して「形質芽細胞」へと出世します。この段階での生き残りは厳しく、形質芽細胞は短命です。しかし、達人の領域、すなわち「形質細胞」まで出世できれば長寿となります。この成長のためには情報を収集する対策本部(胚中心)が必要です。よって胚中心が無くなると、長寿の形質細胞が減り、短命の形質芽細胞が増えるのかもしれません。事実、8 月 17 日に新型コロナウイルス感染では、形質芽細胞が増える事が報告されました(Laing AG, Nat Med 2020, 8/17; Mathew D, Science 2020, 9/4)。短命と聞いて「免疫は、やはりできない」と誤解される方がいらっしゃるかもしれませんが、ご安心下さい。短命と言うのは、「麻疹(はしか)のように一生涯維持される終生免疫はできない、つまり季節性インフルエンザの様に毎年予防接種をうける必要がある」と言う事です。

このように、新型コロナウイルスに対して B 細胞の反応が弱いのは間違いないと思います。この解釈として、正反対の可能性が有ります。「新型コロナウイルスは最強の B 細胞軍さえ撃退してしまう怖い敵だ」と「新型コロナウイルスは B 細胞軍が全力で戦う必要がない弱い敵だ」です。個人的には、後者すなわち「新型コロナウイルスは弱い敵」で間違いないと思います。なぜなら、もし B 細胞軍を撃退するほどの強い敵であれば、免疫力のしっかりした方にも重症化がおこります。しかし、49 歳以下で基礎疾患がなく免疫力がしっかりした方の重症化率は、季節性インフルエンザより低いのが現実です。ただ注意点は、新型コロナウイルスは警戒を怠ると「たまにテロを起こす」弱い敵と言うことです。このテロ行為、即ち血栓症が、血栓ができやすい健康状態の方に重症化を招いてしまうので、このような方に対する重点的な対策が必要なのかもしれません。

● 自己免疫反応による免疫低下:免疫細胞はサイトカインと呼ばれる可溶性物質を産生します。多くのサイトカインは、味方の免疫細胞の活力増強を担いますが、I 型インターフェロンに分類されるサイトカインは、直接ウイルスを攻撃する事ができ、爆弾の様な役割を担います。また、フットワークが軽く体中を動きまわっている形質細胞様樹状細胞が I 型インターフェロンを主に作ります。臨床でも I 型インターフェロンは既に活用されています。例えば、I 型インターフェロンに分類されるインターフェロンαは、C 型肝炎ウイルスを殺す事ができるため、C 型肝炎の治療薬として用いられています。また、I 型インターフェロンを生まれつき欠失している方が季節性インフルエンザに感染してしまうと、致死的な肺炎を起こしてしまいます(Zhang Q, Human Genet 2020, p941)。新型コロナウイルスによる重症肺炎で亡くなられた 659 人の内、23 人(3.5%)の方に I 型インターフェロンを産生するために必要な分子(TLR3, IRF7)の遺伝子異常があった事が 9 月 24 日に報告されました(Zhang Q, Science 2020, 9/24)。また、この遺伝子異常に人種差はないようです。

先天性免疫不全症として知られるように、感染制御に必要な遺伝子が生まれつき欠失すると死につながる感染症を起こしてしまう事は既存の概念です。一方、新型コロナウイルスによる重症肺炎で亡くなられた 987 人の解析が新たな概念をもたらすのかもしれません。亡くなられた 987 人中 101 人(10.2%)の患者さんに、I 型インターフェロンに分類されるサイトカインであるインターフェロンαとインターフェロンωに対する自己抗体が検出されたようです(Bastard P, Science 2020, 9/24)。また、この様な自己抗体は無症状や軽症の方には検出されていません。つまり、総攻撃の段階で、新型コロナウイルスを撃退するために投下された爆弾を、敵と内通していた弓矢の名手の B 細胞部隊が反乱を起こし、爆弾が敵陣へ着弾する前に叩き落して敵の手助けをしている状態です。通常、自己免疫反応は、免疫の暴走により自分自身の細胞を攻撃する免疫過剰の状態です。一方、I 型インターフェロンに対する自己抗体は、敵が攻撃をしやすいように内部から手助けをするスパイの様な新たな自己免疫反応に分類されるのかもしれません。「敵のテロ行為による血栓」が起きたり、「味方の暴走による自爆すなわちサイトカインストーム」が起きたり、「敵を手助けするための反乱」がおきたり、体内の免疫反応も我々の社会と同様に非常に複雑という事です。
ただし、これらの合併症は、稀にしか起こらないうえに既に織り込み済みですので、恐れられることなく、この様な合併症が不幸にも起こった場合は医師にお任せください。
   
   
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