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投稿者:はっちん
元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html 【抜粋】 [(1) 免疫の基本概念は?] ● 免疫とは?:免疫の役割は新型コロナウイルス等の病原体から我々の体を守ってくれる仕組みです。しかし、免疫はウイルスが体内に入らないように水際で防ぐ役割は担っていません。侵入してしまったウイルスを体から追い出す役割を担うのが免疫です。よって、免疫力が強いと症状が出ないままウイルスを追い出し、症状が出ても軽症で済みます。一方、免疫力が弱いと重症化や最悪の場合は死にも至ります。 これだけ進歩した現代科学・医療をもってしても、未知の新型コロナウイルスに対して悪戦苦闘が続いている状態です。一方、我々の体の免疫システムは、この未知の侵略者に対しでさえ的確に戦い勝利を収めてくれています。つまり、免疫が適切に働いていれば、新型コロナウイルスは「正しく恐れる」ウイルスなのかもしれません。事実、新型コロナウイルスが爆発的に蔓延したアメリカでさえ、免疫力がしっかりしていれば 98%以上の方は無症状か軽症で済んでいます。また、6 月 21 日の韓国新型感染症中央臨床委員会の発表では、「PCR 陽性で入院した 49 歳以下の基礎疾患が無い患者さん」3,060 人のうち、酸素投与が必要な中等症に陥ったのは 0.1%と非常に少ないようです。同様に、7 月 10 日の米国疾患管理予防センター(CDC)の報告でも、49 歳以下の PCR 陽性者で入院による治療が必要となった方は 0.1%以下のようです。 ● 免疫の仕組み:免疫は何種類もの細胞のチームプレイにより病原体を排除します。免疫細胞は自然免疫細胞と獲得免疫細胞に分けられます。病原体が入ってくると自然免疫細胞が数時間以内に攻撃を仕掛けます。自然免疫細胞は非常に血気盛んで、病原体を丸飲みしたり(貪食)、石(サイトカイン)を投げて相手を攻撃します。しかし、自然免疫細胞は「悪そうな相手」全てに対して、むやみやたらに攻撃を仕掛けるため、効率的な攻撃とは言えません。よって、たまに暴走してしまい「サイトカインストーム」と呼ばれる病気を起こしてしまう事もあります。自然免疫細胞が戦っている間、獲得免疫細胞は自然免疫細胞より情報を得て「本当に悪い主犯」を認識して、それを覚えこみます。我々の体の中で脳細胞だけが物を記憶できると思われがちですが、実は T 細胞と B 細胞と呼ばれる獲得免疫細胞も記憶することができます。しかし、獲得免疫細胞が敵を倒すための効率的な戦略をたて、主犯を記憶して戦いに参加できるには 3 日間以上の準備期間が必要です。この間は、自然免疫細胞が一人で戦う事になり、強敵や多勢の場合は苦戦してしまい我々に多くの症状が出てしまいます。 自然免疫細胞が苦戦しながらも 3 日間戦ってくれれば、準備が整った獲得免疫細胞が援軍として助けに来てくれます。獲得免疫細胞の中で「B 細胞」は、弓矢(抗体)を使い、主犯に対し的確にピンポイントで攻撃を仕掛けます。また、刺さった矢が目印となり、自然免疫細胞は、これまでの様にむやみやたらに攻撃をしかけるのでなく、矢の刺さった主犯を的確に攻撃(抗体依存性細胞傷害)できるようになります。また、B 細胞は、ウイルスの増殖を抑える事ができる特殊な矢(中和抗体)も放ち、敵の援軍を阻止します。 同時に、獲得免疫細胞の中の「T 細胞」も参戦してきます。T 細胞は特殊部隊のような戦闘のエキスパートであり、至近距離から拳銃(サイトカイン)を使い的確に敵をしとめると共に、ナイフ(パーフォリン)を使った接近戦にも長けています。また、弓矢を使う B 細胞の援護も担います。このチームプレイにより病原体は撃退され症状が急激に改善します。よって、この時期に入れば、特効薬を飲んだ様な印象を持たれる患者さんもおられるかもしれません。すなわち、免疫力は最強の抗ウイルス薬です。病原体の排除が終わると、免疫を抑制する機能を持つ特殊な獲得免疫細胞が、興奮した免疫細胞達を落ち着かせ健康状態へと戻していきます。この戦いの終息がうまくいかないと興奮した細胞達は暴徒化して、敵に代わり自身の細胞に対しても攻撃を仕掛けてしまい、自己免疫疾患を起こしてしまう事も稀にあります。 ● ワンチームとして働く免疫の戦士達は?:免疫細胞には、多くの種類の細胞達がいます。これらの細胞達は各部隊を作り、異なった役割を、異なったタイミングで担います。それぞれ長所短所があるため、欠点を補いあい「One Team」として敵を撃退します。先発隊は「自然免疫」部隊です。敵を丸飲み(貪食)できる、好中球、マクロファージ、樹状細胞と、接近戦で敵に毒を注入(抗体依存細胞傷害)するナチュラルキラー細胞といった強者が揃っています。この中で、好中球は最初に出陣する特攻隊です。 敵を丸飲みしながら、手榴弾(NADPH オキシダーゼ)も使って戦い、3 日以内には死んでしまいます。自然免疫部隊は強者揃いですが、攻撃方法が野蛮で雑なため敵の残党が残るのが欠点です。 自然免疫部隊の樹状細胞は、敵を丸飲みして食べた後に戦地を離れ「獲得免疫」部隊が待機している司令部(リンパ節)に移動します。獲得免疫部隊は、「B 細胞」中隊と「T 細胞」中隊からなります。司令部で敵の情報を T 細胞中隊に伝えると共に、司令官(抗原提示細胞)の役目も担います。すなわち、T 細胞中隊に「戦え(強敵だから援護が必要)(免疫活性)」、または「戦うな(敵は弱いので援護は必要ない)(免疫寛容)」の指示を、暗号(副刺激分子)を用いてだします。「戦え」の指示をだす場合、戦場に派遣する部隊をまず選びます。そして、選んだ部隊の兵隊を増やすため、栄養剤(サイトカイン)を与えます。次に、戦場の位置(臓器)も伝え、その場所に行くための切符(ホーミング受容体)もわたします。この指示がでると、選ばれた T 細胞部隊は、樹状細胞の情報をもとに敵の顔を記憶します。一方、B 細胞中隊は、戦場から流れてくる遺留品(抗原)を川の河口(血液)で独自に調査し、敵の特徴を記憶します。そして、B 細胞部隊と T 細胞部隊は協力して 3 日間かけて戦闘準備を整えた後に、戦場に向け出陣します。戦場では、樹状細胞に代わりマクロファージが指示(抗原提示)を出します。また、樹状細胞やマクロファージが誤った指示を出した場合や、戦死した場合は、B 細胞が司令官の代役を務めます(2 次的抗原提示)。 B 細胞中隊は、弓矢の名手です。「胚中心」と呼ばれる丘の上から矢(抗体)を放ち、正確に敵に命中させます。腕が上がると「形質細胞」に昇格していきます。刺さった矢を目印に、強者揃いの自然免疫部隊が的確に攻撃を仕掛けます(抗体依存性細胞傷害)。また、B 細胞中隊は、敵の援軍を阻止できる特殊な矢(中和抗体)も放ち、戦いを有利に進めます。T 細胞中隊は、さらに「CD4 陽性細胞」小隊と「CD8 陽性細胞」小隊に分かれます。CD8 陽性細胞小隊は、接近戦の名手です。敵と組みあいナイフ(パーフォリン)で刺し、その傷口から毒(グランザイム)を注入して敵を完全に抹殺します。CD4 陽性細胞小隊は、屋内に潜む敵を倒すため、自然免疫細胞たちを指揮して急襲攻撃を担う特殊部隊や、種々の秘薬(異なったサイトカイン)を使い分け、飛び道具が特異な B 細胞中隊の援助にあたる後方支援部隊などに分かれます。 「CD4 陽性細胞」小隊は、さらに幾つかの特殊部隊に分かれます。代表的な特殊部隊は、「Th1 細胞」部隊「Th2 細胞」部隊、「Th17 細胞」部隊、「Treg 細胞」部隊です。Th1 細胞部隊は、自然免疫部隊の指揮をとりながら敵の潜んだ危険な屋内(細胞質内感染)にも果敢に急襲攻撃を行い「細胞性免液」と呼ばれる役割を担います。Th17 細胞部隊は、援軍を呼ぶプロフェッショナルです。モールス信号(IL-17)を全身に飛ばすことにより、命知らずの好中球たちを戦場に呼び寄せ戦力アップに努めます。一方、Th2 細胞部隊は B 細胞中隊の後方支援にまわり、B 細胞が使う矢の産生を手助けする「液性免疫」と呼ばれる役割を担います。Th1 細胞部隊と Th2 細胞部隊は、良きライバルとして互いに拮抗しあいます。すなわち、Th1 細胞部隊は Th2 細胞部隊を抑え込み、Th2 細胞部隊は Th1 細胞部隊を抑え込もうとします。良きライバル同士の競争により、免疫のバランスは保たれます。ウイルス感染症では、Th1 細胞に「戦え」の指示が出され、寄生虫感染症では、Th2 細胞に「戦え」の指示が出されます。よって、新型コロナウイルス感染では、Th1 細胞部隊に指示が出されるため、Th1 細胞が優位になります。そして、ウイルスが撃退された後に、Th1 細胞部隊の興奮をおさえるため Th2 細胞部隊が拮抗をはじめ、免疫のバランスが「戦闘モード」から「平時モード」に切り替わります。しかし、この拮抗がうまくいかないと Th1 細胞部隊が暴走を始めて、自身の細胞まで傷つけ「自己免疫疾患」を起こしてしまいます。逆に、Th2 細胞部隊が暴走してしまうと「アレルギー疾患」を起こします。 すなわち、我々の体は、病原体に打ち勝ちながら、自己免疫疾患を予防し、さらにはアレルギー疾患も予防する非常に繊細なバランスを常に保っているわけです。非常に複雑です。そして、この免疫のバランスを保つための職人が「Treg(制御性 T 細胞)」部隊です。Treg 部隊は、ボクシングのセコンドのように、冷たいタオル(IL-10)で興奮した免疫兵を落ち着かせ、勢い余って味方に攻撃を仕掛けないように常に見張ってくれています。Th1 細胞部隊と Th2 細胞部隊の「相互に拮抗した抑制」とは異なり、Treg 部隊は、自然免疫部隊、B 細胞部隊、CD8 陽性細胞小隊、Th1 細胞部隊、Th2 細胞部隊すべての免疫兵の監視を行い憲兵的な役割を担っています。        
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