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投稿者:はっちん
元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html 【抜粋】 [(8) サイトカインストームは?] 免疫は敵である病原体と戦う時、ボクシングのセコンド役のような制御性細胞が、興奮した自然免疫細胞達を落ち着かせます。これにより、自然免疫細胞は、むやみやたらにパンチを繰り出すのではなく冷静沈着に敵に攻撃が仕掛けることができるようになります。パンチに相当するのが、「炎症性サイトカイン」と呼ばれる可溶因子で、ウイルスの撃退に働きます。しかし、制御機能が働かないと、自然免疫細胞達が暴走して、炎症性サイトカインを一度に大量に放出します。これにより、ウイルスを撃退するはずの炎症性サイトカインが、逆に自身の臓器まで攻撃してしまうのがサイトカインストームと呼ばれる現象です。 サイトカインストームを起こす根本原因として考えられるのは、「血球貪食症候群」かもしれません。敵に毒を注入して殺すナチュラルキラー細胞は、通常の感染症では増えるのですが、新型コロナウイルス感染では逆に減っていると報告されています(Thevarajan I, Nat Med 2020 3/16)。同じように、毒を注入して敵を殺す CD8 陽性 T 細胞も、新型コロナウイルス感染で減っているようです(Luo MJCI Insight 2020 6/16)。毒を注入して敵を撃退する兵隊がいなくなると、これらの兵隊の分まで頑張ろうと「敵を丸飲みにして撃退する」大食漢のマクロファージが張り切り過ぎてしまいます。結果、味方の細胞まで食べてしまい「血球貪食症候群」と呼ばれる合併症を起こし、サイトカインストーム現象も生じます。サイトカインストームや血球貪食症候群は、新型コロナウイルスに特異的な現象ではなく、EB ウイルス、インフルエンザウイルス、連鎖球菌等の他の感染症をはじめ、生物学的製剤と呼ばれる薬での治療中におこる事があります。イギリスのオックスフォード大学より 6 月 17 日に、ステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンの投与が、酸素供給が必要な重症患者さんの死亡率を低下させる可能性が報告されました。軽症者には効果はありませんでしたが、酸素供給が必要な患者さんの 20-25 人に 1 人、人工呼吸器が必要な患者さんの 8 人に 1 人の命を救っているようです。デキサメタゾンは免疫を抑制する薬の代表ですので、新型コロナウイルス感染により重症化に陥った患者さんの 4-12.5%に、免疫の暴走により生じるサイトカインストームが合併している可能性を示唆しているのかもしれません。7 月 17 日に、デキサメタゾンを投与した 2,104 人と、投与の無い 4,321 人の結果が報告されました(The Recovery Collaboration group, N Engl J Med 2020 7/17)。投与された患者さんの死亡率は 22.9%で、されなかった患者さんは 25.7%のようです。人工呼吸器が装着された重症患者さんに対しては、デキサメタゾン投与は死亡率を 41.4%から 29.3%に改善できたようです。一方、軽症者に対して効果は認められていません。 サイトカインストームを恐れて「免疫力を弱くしろ」と言われる方がいらっしゃいますが、完全な間違いです。免疫力を弱くすることは、新型コロナウイルスと戦う前に「白旗を上げ、重症化を待つ」のと同じです。事実、自己免疫疾患や重症のアレルギー疾患の治療のためにステロイドを止むを得ず使用されておられる患者さんが世界中に多くいらっしゃいます。例えば、炎症性腸疾患ですが、患者さんの安全を守るため「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究・久松斑」では世界の情報を逐一集積され治療にあたる医師達に随時配信されています。6 月 19 日時点の報告では、新型コロナウイルスに感染した炎症性腸疾患患者さんにおいて、ステロイド治療を行われている患者さんは、他の治療に比べて入院率は約 2~3 倍に達し、死亡率も高いようです。同様に、関節リウマチでも、ステロイド治療を受けている患者さんの重症化率が高い事が報告されています(Mehta P, Lancet Rheumatology 2020, 7/31)。148,557 人の閉塞性肺障害(COPD)の患者さんと、818,490 人の喘息患者さんの解析結果が 9 月 24 日に報告されました。吸入ステロイドであっても、高濃度の使用は新型コロナウイルスの重症化を高めるようです(Schultze A, Lancet Respiratory Medicine 2020, 9/24)。また、米国疾患管理予防センター(CDC)も「新型コロナウイルス重症化の危険性を伴う基礎疾患リスト」に「ステロイド等の免疫抑制剤使用中の疾患」を含めています。すなわち、新型コロナウイルス感染時に免疫力が低下していると、悪化の危険性が高いことを教えてくれています。皆さんにできる事は、新型コロナウイルスに感染しないように心がけ、もし感染しても無症状や軽症で済むように免疫力を強化することです。もし不幸にも、免疫が暴走してしまいサイトカインストームや血球貪食症候群が起こってしまったら、織り込み済みの合併症ですので専門の医師にお任せ下さい。        
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