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投稿者:はっちん
元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html 【抜粋】 [(13) 抗体の役割は?] ● 抗体(IgG):感染すると獲得免疫細胞の一種である B 細胞が、そのウイルスを記憶して抗体が産生されます。抗体には 5 種類あり、感染が起きると、IgM アイソタイプと呼ばれる抗体が最初に作られ、次にIgG アイソタイプと呼ばれる抗体が長期間産生されます。また、唾液や鼻汁中には IgA アイソタイプと呼ばれる抗体が分泌され始めます。IgM 型抗体は IgG 型抗体の産生が始まると減ってきます。すなわち、IgG 型抗体はウイルスが消失しても長期保存されるため新型コロナウイルスの過去の感染歴を調べるのに有効です。実際、感染者数などの最終的確認のための疫学調査には抗体検査が用いられます。最近の米国マウントサイナイ・アイコン医科大学の研究が、新型コロナウイルス特異的 IgG 型抗体が検出可能となる時期を教えてくれています。PCR で新型コロナウイルス感染が診断された患者さんに対して 2 週後に IgG 型抗体検査を行ったところ、511 人が抗体陽性で 42 人は陰性でした。その 1 週間後に再度抗体検査を行ったところ、3 人を除いて全員が陽性となりました。すなわち、個人差はありますが IgG 抗体が陽性になるには感染後 2~3 週間が必要なのかもしれません。 ● 抗体陽性の意義:「抗体が陰性で良かった、感染が無いので仕事に行ける」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、完全な誤解です。感染早期に産生される IgM 型抗体でさえ陽性になるには感染後約 1 週間は必要で、抗体検査が陰性だからといって「今、感染していない」という証明には全くなりません。今、「感染しているか、いないか」を判断するには PCR か抗原検査が適しています。 新型コロナウイルスに対する IgG 型抗体(鍵を狙う IgG)が陽性であれば「他人にうつさない、そして自身も守られている」と考えていいと思います。事実、新型コロナウイルスに感染された患者さんの B 細胞を抽出して 598 種類の抗体を作成したところ、40 種類は新型コロナウイルスを中和、すなわち細胞への侵入を抑える能力がある事が 9 月 18 日に科学的に証明されました(Kreye J, Cell 2020, 9/18)。ウイルスは自らで増える事はできません。我々の細胞に感染し、細胞内の部品を利用することにより初めて増える事ができます。ウイルスが細胞内で増えるところを自然免疫細胞と協力して一網打尽にしてくれるのが IgG 型抗体です。よって、IgG 型抗体を持っていれば、ウイルスは増える事ができず、感染しても症状はほとんど無く、他人にうつす事もまずないという事になります。麻疹、風疹、流行性耳下腺炎などを起こすウイルスに対して IgG 型抗体が陽性であれば「守られている」そして「ヒトにうつさない」と日常診療では判断されていると思います。事実、院内感染防止のため、これらのウイルスに対する抗体検査は、多くの病院で入職者に対して義務付けられていると思います。 一方、「抗体が作られない(免疫記憶が誘導できない)」や「抗体が役に立たない(抗体がすぐ消失する)」などの例外的な感染症も稀にあるため、「抗体は新型コロナウイルスから我々を守れるのか?」というも早期にはありました。しかし、米国ハーバード大学のアカゲザルを使った基礎研究により「IgG 抗体は新型コロナウイルスから守ってくれる」事が証明されています。また、ヒト化マウスを用いた最近の基礎研究では、鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素 2 に新型コロナウイルスが鍵を差し込むのを抗体が妨げ、感染を抑制していることも明らかとなっています(Sun et al.Cell 2020, 6/10)。同様に、ヒトにおいても抗体が新型コロナウイルスのアンギオテンシン変換酵素 2 への結合を阻害することが報告されています(Seydoux E et al.Immunity 2020 6/5)。臨床面においても、新型コロナウイルス再陽性の患者さんの多くは、既に新型コロナウイルスに対する IgG 型の抗体を持っており、無症状か軽症ですむ事が欧米から報告されています。同様に、韓国疾患管理予防センター(KCDC)も、新型コロナウイルス再陽性になった患者さんの 96%に抗体があり、半数以上は無症状で、症状があっても軽症である事を 2020 年 5 月 19 日に報告しています。非常に有意義な情報は、KCDC の再陽性者 285 人の追跡調査です。再陽性者の濃厚接触者に感染者は一人も出ていない事を報告しています。期待を持たしてくれるのが、最近の予備的臨床試験結果の報告です(Duan K et al.PNAS 2020 p490)。新型コロナウイルス感染による重症患者 10 名に、既に回復した患者から採取した IgG 型抗体を含む血清 200 mL を 1 回投与しています。すべての患者さんの症状は 3 日以内に改善し、PCR で全員にウイルスが検出できなくなったと報告しています。すなわち、IgG 型抗体を持っていれば新型コロナウイルスに対して「自身も守られ」そして「他人にうつさない」事を基礎と臨床の両側面から証明しているのかもしれません。 米国エール大学の岩崎明子先生達のグループが非常に興味深い結果を 2021 年 5 月 5 日に報告されました(Lucas C, Nat Med 2021, 5/5)。新型コロナウイルス感染の重症化は「中和抗体の量ではなく」「どれだけ早期に作り出されるか」に左右される可能性が報告されています。つまり、抗体産生を始めるスタートダッシュが重要という事になります。初感染では獲得免疫軍つまり抗体を産生する B 細胞部隊が働き始めるまでに 72 時間以上が必要です。この時差を解消して、敵が侵入して来たら即座に抗体が産生できるようにしてくれるのがワクチンです。新型コロナウイルスに対して多くの会社のワクチンは予想を遥かに超えた効果を示しています。やはり、これ程の効果は「ワクチンによるスタートダッシュの改善」によりもたらされている可能性があるのかもしれません。 国立感染症研究所から興味深い研究結果が 2021 年 7 月 2 日に報告されました(Moriyama S, Immunity 2021, 7/2)。新型コロナウイルス感染により作られ始めた中和抗体量は 2~4か月後から急激に減少するようです。この減少は、軽症者に比べて重症者に強い傾向があるようです。しかし、ご安心ください。中和抗体の量の減少に伴い、一つ一つの抗体が持つ新型コロナウイルスに対する効力は 10 か月かけて増強されて行くことが報告されています。つまり、新型コロナウイルスとの実戦経験をもとに B 細胞軍が成熟し、戦法が「量から質」へと変化し、少数精鋭部隊に最終的には置き換わると考えてよいのかもしれません。また、少数精鋭部隊は非常に頼もしい限りで、質へと変化した抗体は「ブラジル由来変異株(ガンマ株)」や「南アフリカ由来変異株(ベータ株)」に対しても効果が発揮できると報告されています。国立感染症研究所(量より質)および米国エール大学(量より速さ)からの報告は、「抗体の効力は量だけでは判断できない」事を教えてくれています。        
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