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投稿者:はっちん
元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html 【抜粋】 [(3) 免疫が低下する原因とコロナ感染助長因子は?] ● 加齢:年齢に伴い免疫力は徐々に低下してきます。よって、高齢者は重症化する危険性が高くなります。事実、新型コロナウイルスによる死者は高齢者に集中しており、高齢者保護が最も重要な課題なのかもしれません。2020 年 4 月のデータですので、最終的には数値は大幅に低下すると思われます。 6 月 25 日に、米国疾患管理予防センター(CDC)は年齢の値を「重症化の危険のある人」のリストから除きました。加齢で免疫力は低下しますが、年をとられていても免疫力をしっかりと保たれている方もいらっしゃいます。よって、「何歳だから重症化しやすい」とは、一概には言えないという事です。 世界各国の 2021 年 1 月までに蓄積された結果からも、新型コロナウイルスの重症化は加齢に伴い増加する事は明らかです。日本「COVID-19 対策 ECMOnet」の 2021 年 2 月 7 日の報告によると、これまでに新型コロナウイルス感染により人工呼吸器(ECMO を含む)の装着が必要となった患者さんは20 歳未満で 4 人、20~29 歳で 16 人、30~39 歳で 30 人、40~49 歳で 165 人、50~59 歳で 468 人、60~69 歳で 808 人、70~79 歳で 1,124 人、80 歳以上で 503 人のようです。加齢により生理的予備機能が低下することで、ストレスに対し不健康になりやすくなります。私は専門外ですが、この評価のために「臨床的フレイルスコア」と呼ばれる指標が用いられているようです。臨床的フレイルスコアと新型コロナウイルス感染による入院中の死亡率の解析が 2 月 9 日に報告されました(Sablerolles RSG, Lancet Health Longevity, 2021, 2/9)。8 カ国に及ぶ 2,434 人の調査結果です。臨床的フレイルスコアが「中等度以上」になると、入院中の死亡率が優位に増加するようです。中等度の臨床的フレイルスコアとは「日常生活に補助を必要とする」状態のようです。一方、動作が緩慢となり歩行器や杖が必要となった状態は、「軽度」な臨床的フレイルスコアとなるようで、入院中の死亡率の増加は認めないと報告されています。つまり、高齢で杖をつかれていても、免疫力がしっかりされた方は多くいらっしゃると言う事になります。 ● 基礎疾患:米国疾患管理予防センター(CDC)は、重症化の危険性が最も高い基礎疾患として、II 型糖尿病、心不全、心血管障害、心筋症、慢性腎疾患、鎌状赤血球症をあげています。 ● 過度の肥満と過度なダイエット:免疫力維持には適度な体重が必要です。つまり、太りすぎでも痩せすぎでも免疫力の低下を起こしてしまいます。特に、BMI が 30 を超える肥満の方は「免疫力の低下」に加え、「糖尿病などを合併」する頻度も高く、「血栓症の危険」も増え、お腹の脂肪で横隔膜の動きが抑制されウイルスが肺から吹き出せないため「ウイルスが肺内に溜まる」といった悪循環により、重症化率が非常に高くなります。 ● 免疫を抑制する薬:自己免疫疾患などで使用される多くの薬には免疫抑制作用があります。特に臓器移植後で免疫抑制剤を使用されている患者さんに重症化率は高いようです。 ● 睡眠不足:しっかりした睡眠が免疫力強化につながります。 ● お酒:お酒は免疫力を低下させるので、感染リスクのあった日のお酒は控えた方が得策です。 ● 妊娠:英国ロイヤル・カッレジは、これまで報告された論文をまとめて、妊娠 28 週以降の妊娠後期から新型コロナウイルスに対する重症化の危険性がでてくる可能性を報告しています。一方、スエーデンの公衆衛生研究所は妊娠 36 週以降と示しています。 米国 CDC の報告によると、2020 年 1 月 22 日から 2021 年 5 月 3 日までの米国の新型コロナウイルス感染者の累計は 3,248 万人(32,481,455 人)で死者数は 57 万人(578,520 人)です。死亡率は 1.78% の計算になります。一方、妊婦さんの感染者は 88,880 人で、死者は 99 人です。死亡率は 0.11%と全国民に比較して 10 倍以上低くなります。妊婦さんは新型コロナウイルス感染による重症化リスクは低い可能性もあるのかもしれません。 ● 高血圧:新型コロナウイルス重症者に高血圧の患者さんが多いのですが、高血圧と免疫低下に関する明らかな科学的根拠はありません。コロナウイルスは、血圧のコントロールに関与するアンジオテンシン変換酵素 2 という分子を窓口にして体内に侵入するので、この分子の発現様式が高血圧患者さんにおいて変化している可能性もありますが現在は不明です。 ● 閉塞性肺疾患と喘息:喫煙は閉塞性肺障害を起こします。すなわち吸い込んだ空気が吐出しにくくなります。これによりウイルスが肺内に溜まり感染が悪化してしまいます。喘息でも同様です。また、脂肪が溜まりお腹が出ている人や、ガスでお腹が常に張っている人も横隔膜を圧迫して、ウイルスを効率良く肺から吹き出せない可能性があるので注意が必要です。 ● 男性ホルモン:新型コロナウイルスによる重症化は男性に多いことが世界的に認められており、日本でも同様の傾向があります。この性差は過剰なアンドロゲン(男性ホルモン)産生に起因することが最近報告されました。新型コロナウイルスは、鍵を鍵穴であるアンジオテンシン変換酵素 2 に差し込んで細胞内に入ってきます。しかし、鍵を差し込んでも、扉は開きません。鍵を回さないといけないわけです。この回す役を担うのが、我々の細胞がもつ「TMPRSS2」と呼ばれるセリンプロテアーゼの一種です。TMPRSS2 の発現には、アンドロゲンが寄与する可能性が報告されており、アンドロゲン仮説は科学的裏付けがあるかもしれません。また、アンドロゲン過剰による男性型脱毛症の方に重症化が多いとの報告もあります。前立腺ガンでアンドロゲン除去療法を受けている方の重症化が少ない事も 8 月 25 日に報告されました(Montopoli M, Annals of Oncology 2020, p1040)。 新型コロナウイルスに対する反応が、免疫学的に男性と女性で異なる可能性も 8 月 26 日に報告されました(Takahashi T, Nature 2020, 8/26)。中等症を発症した新型コロナウイルス感染者を調べると、男性では自然免疫軍が主力をなしており、女性では獲得免疫軍、特に刺殺・毒殺を得意とする CD8 陽性 T 細胞が頑張っているようです。T 細胞主体の獲得免疫がうまく働かない事が、男性に重症化が多い一因である可能性を報告されています。よって、獲得免疫力を上げる事ができる予防接種は、女性よりも男性に必要であると締めくくられています。また、新型コロナウイルス感染では、自然免疫に深く関与し、発熱の誘導や炎症の指標である C-反応性蛋白(CRP)産生を誘導する IL-6 と呼ばれるサイトカインを男性の方が多く産生することも 8 月 24 日に報告されました(Del Valle DM, Nat Med 2020, 8/24)。        
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