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投稿者:はっちん
元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html 【抜粋】 [(14) 新たな概念は?] 新型コロナウイルスに関して認められる現象の多くは、医学部の学生の教科書的な基本概念で説明がつけられるのかもしれません。一方、未だ賛否両論である 2 つの免疫分野の謎に、新型コロナウイルスは答えを出してくれる可能性があります。また、「自己免疫反応」による「免疫低下」という新らたな概念が 9 月 24 日に報告されました。 ● 免疫訓練:一つ目は、自然免疫が相手に対する戦い方を記憶する「免疫訓練(Trained Immunity)」です。アフリカの子供達の結核を無くすため BCG 接種が 1990 年に開始されましたが、子供達の死亡率が劇的に改善され、結核以外のウイルス性肺炎による死亡も減少している事が報告されました(Kristensen I Br Med J 2000, p1435)。予想外の結果のため、多くの研究が開始され、「BCG が自然免疫細胞に効果的な敵との戦い方を覚えさせている」という「免疫訓練」仮説が 2011 年に提唱されました(Netea MG, Cell Host Microbe 2011, p355)。コンピュータ医学(AI)を駆使して、免疫訓練は「エピジェネティック」と呼ばれる機序を介して自然免疫細胞のフットワークを軽くしている可能性も 2016 年に報告されましたが(Netea MG, Science 2016, p6284)、未だ賛否両論です。過去の BCG 接種(日本株とソ連株)が新型コロナウイルスによる死亡率を下げている事が証明されれば、この論争に終止符を打つのかもしれません。 多くの因子が新型コロナウイルスの重症化に関与しているため、重要な「交絡因子」を考慮した、すなわち、新型コロナウイルスの重症化に影響を与える年齢などの主要因子を統計学的に除去した結果が 7 月に発表されました(Escobar LE, PNAS 2020, 7/9)。BCG 接種率が 10%増えると、コロナウイルス感染による死亡率が 10.4%減少すると報告されています。これは、過去を振り返って検討する「後ろ向き観察研究」になります。一方、「BCG が 65 歳以上の呼吸器感染を予防できるか?」を検討する「前向き臨床研究」、すなわち過去を振り返って検討する研究ではなく、BCG を接種した後にどうなるかを調べる臨床試験が 2017 年 9 月より行われています。その中間結果が 8 月 27 日に報告されました。2017 年からの臨床試験ですから、勿論新型コロナウイルスを対象としたものではありません。試験対象者は 198 名と少ないのですが、BCG は 65 歳以上の方においても安全で、ウイルスによる呼吸器感染症に対する予防効果があるようです(Giamarell-Borboulis EJ, Cell 2020, 8/27)。新型コロナウイルスに対する効果は不明ですが、アフリカで認められた予期せぬ現象を説明するために提唱された「BCG による免疫訓練」仮説を、臨床的根拠が今裏付けているのかもしれません。 しかし、「新型コロナウイルス感染による重症化予防のために BCG を接種しよう」と思うのは現時点では危険です。BCG は毒性を弱くしてはありますが、生きた細菌を接種する「生ワクチン」です。免疫力の低下した方には、予防どころか「日和見感染症」と呼ばれる重篤な感染症を起こしてしまう可能性があり、免疫力が低下した方への接種はできません。事実、上記の臨床試験でも、免疫力の低下した方およびステロイドで治療中の方は参加の対象から除かれています(Giamarell-Borboulis EJ, Cell 2020, 8/27)。また、BCG とひとまとめに呼ばれますが、異なった種類の結核菌株や菌数が各国で用いられ、その効果もまちまちです。すなわち、BCG と呼ばれても同じ物ではないという事です。今回の臨床試験で用いられた結核菌株は「1331 株」と呼ばれるものです。一方、本邦で BCG に用いられる「日本株」では、高齢者への安全性は担保されていません。また、日本小児科学会 予防接種・感染対策委員会は、「BCG ワクチン供給に限りがあります。0 歳時に BCG ワクチンの供給問題が生じないようにご賢察を宜しくお願い致します」と警鐘を鳴らされています。もし、これらの問題が全て克服できれば、木村盛世先生が言われるように、BCG は「日本から発信できる新型コロナウイルスの重症化予防戦略」になるのかもしれません。        
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