投稿画像
投稿者:はっちん
元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html 【抜粋】 ● BCG:「Trained Immunity」と呼ばれる免疫訓練機構により、自然免疫細胞が病原体と的確に戦えるように訓練されている事が近年明らかとなりつつあります(Science 2016 p6284; Cell Host Microbe 2018 p89; J Clin Invest 2019 p3482; Nat Rev Immunol 2020 p1)。ネズミを使った基礎研究では、Trained Immunity は「感染を防止するのでなく、感染による重症化の抑制に貢献している」可能性が報告されています。この自然免疫の訓練を誘導する可能性があるのが BCG です。獲得免疫のようにピンポイント攻撃はできないので予防接種ほどの強力な効果はありませんが、BCG 接種をしない米国やベルギーに比べて、幼少期に行う BCG 接種が本邦やアジア諸国における新型コロナウイルスに対する死亡率低下の一因を担っている可能性もあります。つまり、過去の BCG 接種により「感染することは抑制できませんが、重症化を抑制している」のかもしれません。 BCG は生ワクチンに分類されます。すなわち毒性を弱くした生きたウシ由来の結核菌を接種することになります。また、国々で異なった種類の菌が BCG に使われています。日本株やソ連株と呼ばれる菌が使用される BCG は第一世代と呼ばれ、結核菌数が多く含まれています。また、ブラジルで使用されるモロー株も第一世代ですが結核菌数は少なく設定されています。欧州で広く使用されていたベルギー株は日本株に比べ遺伝的に多くの違いがある事もわかっています。自然免疫の第一人者であられる大阪大学免疫学フロンティアセンターの宮坂昌之教授が日本株とソ連株の効力が強い可能性をお話されています (EMBO Mol Med 2020 e12661)。新型コロナウイルスに対する BCG の重症化抑制効果については未だ賛否両論があるため、BCG 接種国および使用された BCG 株と新型コロナウイルスによる人口 100 万人あたりの 6 月 9 日時点での死亡者数を再度比較してみました。やはり、日本株 BCG を接種している国(赤色)すべてにおいて死亡者数が著名に抑制されています。幼少期に接種され、副作用が強いため瘢痕まで残した日本株 BCG が、新型コロナウイルスによる重症化から我々を今守ってくれているのかもしれません。 現在も BCG 接種を義務化している国では、新型コロナウイルスによる死亡率が低い事が 2020 年 3 月に報告されました(Miller A MedRxiv 2020 3/28)。しかし、多くの因子が新型コロナウイルスの重症化には関与しているため、非常に賛否両論の状態でした。重要な「交絡因子」を考慮した、すなわち、新型コロナウイルスの重症化に影響を与える年齢などの主要因を統計学的に除去した結果が 2020 年 7 月に発表されました(Escobar LE, PNAS 2020, 7/9)。BCG 接種率が 10%増えると、コロナウイルス感染による死亡率が 10.4%減少すると報告されています。 本邦では 1951 年に「結核予防法」が施工され、小学校入学前の乳幼児に対する BCG 接種が義務付けられました。つまり約 75 歳以下の方は BCG の接種歴があり、75 歳以上の方は BCG 接種歴がない事になります。80 歳以上で新型コロナウイルスに対する死亡率が跳ね上がる原因として、加齢にともなう免疫低下と血栓の起りやすさに加えて、BCG 未接種が関与している可能性も否定はできないかもしれません。 2020 年 6 月 9 日に BCG 接種国と新型コロナウイルスの死者数を整理しましたが、再度 2021 年 3 月 3 日時点でまとめてみました。世界のデータを毎日更新されている札幌医科大学フロンティア医学研究所が示されているデータを前回同様に使用させて頂いています。休みなくデータを更新して頂いている札幌医科大学フロンティア医学研究所の先生方に心より感謝申し上げます。新型コロナウイルスも変異を続けるように、BCG に用いられる結核菌も変異します。よって、「BCG」と一言でいっても、用いられる結核菌株は異なっています(Toida I, Kekkaku, 2000, p1; Miyasaka Y, EMBO Mol Med, 2020, e12661)。私は統計学の専門家ではないので結論は出せませんが、日本株 BCG を接種している国(緑で表示)の人口当たりの死者数の低さが目に付いてしまいます。また、人口当たりの感染者数も低い傾向があるのかもしれません。BCG は自然免疫を訓練する事により「重症化を抑制する」と考えられていました。しかし、BCG による「感染予防効果」も最近報告されています(Giamarell-Borboulis EJ, Cell 2020, 8/27)。BCG が感染拡大抑制に寄与している可能性も否定はできないのかもしれません(Kinoshita M, J Infect 2020, p625)。 世界中が新型コロナウイルスに見舞われ 1 年が経ち、BCG に関する疫学的解析結果が再び報告され始めました。現在からさかのぼり 15 年間 BCG 接種を義務付けていた国では、新型コロナウイルスの重症化率が低い可能性が 2021 年 2 月に報告されています(Brooks NA, Sci Rep 2021, p774)。また、重症化率が非常に低い 40 歳以下の方においても、BCG 接種は重症化率をさらに下げている可能性や、BCG が 20~49 歳の方の感染率も下げている可能性が報告されています(Garzon-Chavez D, Vaccines 2021,p91)。日本でも BCG 接種率の低い都道府県では新型コロナウイルスの感染拡大が増強されている可能性が報告されています(Kinoshita M, J Infect 2020, p625)。私も、この木下先生の論文を読ませて頂いて始めて知ったのですが、「ほぼすべての方が乳幼児期に BCG 接種を受けられている」と思っていた日本でさえ、理由はよくわかりませんが「1999 年から 2002 年に BCG 暗黒期」が起こっているようです。例年は、ほぼ全員が乳幼児期にBCG 接種を受けられていますが、1999 年から 2002 年の間は都道府県で非常に差があり、ほぼ 100%が受けられている県もあれば接種率が約 30%の都道府県もあるようです。木下先生の論文をもとに計算してみると、最も接種率が低いのは東京都で 1999 年から 2002 年の間の BCG 接種率は平均で 31.3%、次は神奈川県で 35.6%のようです。その他で接種率が低いのは、北から北海道 55.7%、宮城県 49.3%、愛知県 61.8%、京都府 42.1%、大阪府 55.6%、兵庫県 57.2%、岡山県 45.8%、広島県 36.9%、高知県 51.5%、福岡県 46.5%、大分県 56.3%、熊本県 56.1%の計算になります。BCG 接種率の低い期間があった都道府県では感染者拡大が強い傾向にあるのかもしれません。しかし、例外もあります。沖縄県は 2021 年 3 月 3 日時点の人口当たりの死者数は全国 4 位ですが、1999 年から 2002 年の間の BCG 接種率の低下は認めていません。 2021 年 5 月 19 日時点で緊急事態宣言が発出された都道府県は東京、京都、大阪、兵庫、愛知、福岡、北海道、岡山、広島です。上述したように、1999 年から 2002 年に BCG 接種率の著減があった都道府県(Kinoshita M, J Infect 2020, p625)は、東京都(31.3%)、神奈川県(35.6%)、広島県(36.9%)、京都府(42.1%)、岡山県(45.8%)、福岡県(46.5%)、宮城県(49.3%)、高知県(51.5%)、大阪府(55.6%)、北海道(55.7%)、熊本県(56.1%)、大分県(56.3%)、兵庫県(57.2%)、愛知県(61.8%)のようです。、緊急事態宣言が出された都道府県は、全て BCG 接種の暗黒期があった都道府県です。偶然の可能性は勿論ありますが、BCG が感染拡大抑制に貢献している可能性も否定はできないのかもしれません。一方、BCG に重症化の予防効果は無い可能性が台湾から報告されました(Su W-J, Int J Environ Res Public Health 2021, p4303)。台湾では 1979 年から日本株 BCG が接種されています。新型コロナウイルスに台湾で感染した 25 歳から 33 歳でBCG 接種歴が無い方は 106 人で、中等症まで悪化した方は 14.2%、重症化した方は 0.9%と報告されています。また、同年齢で BCG 接種歴のある方では 78 人が感染され、中等症は 19.2%で重症化はゼロと報告されています。 この様な話をすると、「新型コロナウイルス予防のため BCG を接種しよう」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、非常に危険です。BCG は生ワクチンです。弱ってはいますが生きた細菌を使っています。 よって、免疫が衰えていると、予防どころか、「日和見感染」と呼ばれる感染症を起こしてしまう危険性もあります。また、BCG は自然免疫の訓練に寄与します。よって、成熟しきってしまった成人の免疫に対して訓練ができるかは科学的に大きな疑問です。        
投稿記事
画像を拡大