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投稿者:はっちん
元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html 【抜粋】 [(12) 免疫の撹乱は?] 病原体の中には免疫を撹乱させ、感染からの回復後に自己免疫疾患の発症を誘導するものも多くあります。例えば、マイコプラズマという病原体は、ギランバレー症候群、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性の肺炎などを誘発することがあります。胃に感染するピロリ菌も自己免疫性血小板減少性紫斑病を起こしますし、性病であるクラミジアも反応性関節炎と呼ばれる自己免疫反応を起こすことがあります。夏風邪やヘルパンギーナの原因であるコクサッキーウイルスも心筋炎を起こすことがあります。新型コロナウイルス感染に伴い、稀にですがギランバレー症候群、心筋炎、自己免疫性肝炎、小児に川崎病の合併を引き起こす事も報告されています。よって、新型コロナウイルスも免疫を撹乱する能力を持っていると思われます。 事実、ヒトコロナウイルス(Human corona virus、HcoV-229E, NL63, OC43, HKU1)と呼ばれる弱毒性のコロナウイルスは、新型コロナウイルスが現在のパンデミックを起こす以前に、全世界に既に蔓延しています。事実、インフルエンザ流行期の 10%以下の患者さんがヒトコロナウイルス陽性と各国から報告されています。そして、ヒトコロナウイルスの中の HcoV-229E 型が川崎病の原因である可能性も報告されています(J Med Virol 2014 p2146)。また、後遺症として「脱毛」も最近報告されていますが、円形脱毛症は自己免疫疾患です。 こういう症例が報道されると「免疫力は下げた方が良い」と思う方がいらっしゃいますが、完全な間違いです。まずは、免疫力を高め、新型コロナウイルスを体から追い出す事が先決です。その後におこる合併症は、新型コロナウイルスに特異的でなく他の感染症でも起こりえる折り込み済みの病気ですので、専門の医師にお任せ下さい。 病原体の代表的な撹乱方法は「分子擬態(構造擬態)」と呼ばれるものです。「オレオレ詐欺」のように、他人でありながら息子に成りすましてきます。つまり、味方のように見せかけることにより、免疫細胞の敵味方の区別を見誤らせ、味方(自身の体)に攻撃を仕掛けるように仕組みます。 また、免疫細胞自体の問題により、感染症の後に自己免疫疾患を起こしてしまう場合もあります。T 細胞は、自分自身の細胞(自己)には攻撃を仕掛けず、敵すなわち新型コロナウイルスなどの病原体に対しては攻撃ができるように教育されています。生まれてすぐに胸腺と呼ばれる幼稚園(臓器)で最初に教育を受けます。ここでの教育法は野蛮で残忍です。敵に対して戦えない T 細胞は殺され、戦える T 細胞だけが年長組に進級していきます。進級したら、「自分自身に対して攻撃性を持っているか?」の試験を受けます。ここで自分自身に対しても攻撃性を持っていると判断されれば殺されてしまいます。すなわち、「敵に対しては攻撃ができ、自分自身には攻撃を仕掛けない」優等生だけが卒園していきます。例えば、ディ・ジョージ症候群と呼ばれる生まれつき胸腺が無い病気があります。T 細胞の教育ができないため、急襲攻撃部隊(細胞性免疫)が働かず重篤な感染症を繰り返してしまいます。 次に、T 細胞は「リンパ節」と呼ばれる小学校に進学します。ここで、司令官が出すサイン(副刺激分子)が「戦え」の意味なのか、「戦うな」の意味なのかを勉強します。多くの種類のサインを覚えないといけないので大変です。「戦うな」のサインの代表は、本庄佑先生が発見されノーベル賞を受賞された PD-1 と呼ばれる分子と、James P. Allison 先生が発見された CTLA-4 と呼ばれる分子です。よって、これらの分子を薬で阻害すると「戦うな」から「戦え」の指示に変わり、T 細胞がガン細胞に攻撃を仕掛けられるようになります。現在では、非小細胞性肺癌や悪性黒色腫などの治療に「免疫チェックポイント阻害療法」として用いられています。 T 細胞と B 細胞は同じ獲得免疫細胞部隊に所属しながらも、違う幼稚園で教育をうけます。弓矢の達人である B 細胞が教育を受けるのは、骨髄と呼ばれる幼稚園です。また、卒業しても B 細胞は T 細胞に比べて非常に慎重です。敵に出会って攻撃をするとき、最初に「IgM」と呼ばれる矢を試し射ちをします。IgM は 5 量体として知られ、胴体の部分が 5 本分の矢からなります。太いので敵に当たり憂いのですが、そのぶん矢のスピードが落ちて殺傷能力は高くありません。この試し射ちが終わると、B 細胞は「胚中心」と呼ばれる隠れ家に移動して、胴体の部分が 1 本で殺傷能力に優れた「IgG」へと矢を変更します(クラススイッチ)。 この時、すでに敵と一戦交えた T 細胞から情報を得て(T 細胞依存性抗体産生)、敵に最大限のダメージが与えられるように矢先の形も微調整します(体細胞超突然変異)。この段階に入ると、敵の弱点を知り尽くした T 細胞と B 細胞の最強のタッグチームが組まれ、強敵でも撃退してくれます。 強いのは良いのですが、敵の殺し方が重要になります。ウイルスは我々自身の細胞(家)に空き巣に入り潜んでいます。通常は、B 細胞が放った矢で敵の居場所を教えて、急襲部隊がその家の壁に穴をあけ、セメントの様に全てが固まる毒を注入してウイルスと家を一塊(アポトーシス)にして一網打尽にします。実は、この殺し方が重要です。もし、家を爆破(壊死)してしまうと、家の破片、すなわち自分自身の蛋白が敵であるウイルスの破片と一緒に、あたり一面に飛び散ってしまいます。この飛び散った自身の蛋白を獲得免疫細胞たちが誤って敵と認識してしまい、自分自身の細胞にも攻撃をはじめる可能性も出てきます。 新型コロナウイルスの重症例では、血管、心臓の筋肉、肝臓の細胞が破壊された時に出て来る破片(酵素)の上昇が認められています。これにより、血管炎を主体とする川崎病、心臓の心筋炎、または肝臓の自己免疫性肝炎を稀に起こしてしまう可能性も否定はできません。しかし、あまり恐れられる必要は無いのかもしれません。例えば、爆破により、敵の死骸に加えて家からお金も飛び散ったとします。獲得免疫細胞たちは「胸腺」幼稚園と「リンパ節」小学校でしっかりと教育されているので、100 万円が降ってきても無視すると思います。しかし、もし激しい爆破(重篤な臓器障害)で 1 億円が降ってきたら、出来心で拾ってしまうかもしれません。この様な「出来心」は想定内ですので、防犯のため憲兵である制御性 T 細胞(Treg 細胞)が常に見回ってくれています。つまり、免疫機構は、幼稚園での教育(中枢免疫寛容)、小学校での教育(末梢免疫寛容)、出来心を起こさせない敵の撃退法(アポトーシス)、そして憲兵による巡視(acxtive auppression)の何段階にもおよぶ監視機構で、自己免疫疾患すなわち犯罪が起こらないような体制を整えています。しかし、残念ながら、我々の社会と同様に、それでも犯罪つまり自己免疫疾患はゼロにはなりません。 憲兵役を担う制御性 T 細胞(Treg)部隊などの免疫抑制機能を持つ細胞は、「インターロイキン-10」と呼ばれる可溶性因子を産生して、興奮した免疫細胞を落ち着かせます。このインターロイキン-10 の指示を受け取るために必要なのが、「IL-10R1」と「IL-10R2」と呼ばれる蛋白の組み合わせ(2 量体の受容体)です。 IL-10R2 が血液中に増えていると、新型コロナウイルス感染による重症化が低い可能性が 2 月 25 日に報告されました(Zhaou S, Nat Med, 2021 2/25)        
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