スミスは、「下層、つまり中流より下の階層 (the inferior ranks of people, or those below the middling rank) の消費はどの国でも、中流以上の階層の消費より、数量はもちろん、金額でもはるかに多い点に注意すべきだ」(480頁)と言っています。つまり、下層の階層は、生産的労働の賃金があり、利益のうちかなりの部分が家事使用人などの賃金と維持費に分配され、資本の利益の一部も各種小規模な商店主、商人、小売商の利益となり、土地の地代の一部も下層の人々が得ているので、「したがって下層の支出は、個々人でみればごく少ないが、階層全体でみれば、いつでも社会全体の支出のうち圧倒的な部分を占めている」(480頁)ことになります。
したがって、下層の支出に対する税金は税収が多くなることになり、「このため、国内産の醸造酒と蒸留酒とその原料に対する物品税は (the excise upon the materials and manufacture of home-made fermented and spirituous liquors) 、支出に対する各種の税金のうち、もっとも税収が多い」(480頁)と言っています。しかしすでにみたように、税をかけてもよいのは、生活必需品ではなく、贅沢品に対してであると注意しています。
またスミスは、「麦芽 (malt) とビールに対する重い税で現在得られている税収より、麦芽だけに軽い税をかけた場合の税収の方が多くなるのではないかといわれている。麦芽製造所より醸造所の方が税金をごまかす余地が大きいし、自家用の醸造では税金がすべて免除されているが、麦芽はそうなっていないからである」(482頁)として、現行の物品税制度の改正を支持し、これに反対するダベナント博士 (Dr. Davenant) の考え方を批判しています。
フランスでは、国王の収入の大部分は8種類の財源から得られていますが、このうち5種類は徴税請負制がとられていると言っています。イギリスでは800万人以下の人口で毎年1000万ポンドの税収があり特定の階層がとくに抑圧を受けているとは思えないが、フランスの人口はイギリスの3倍と推定されるのに税収は1500万ポンドにも満たなく、フランスの国民はイギリスの国民よりはるかに重い税を課せられていると思われているとして、「フランスの税制はあらゆる点で、イギリスの税制より劣っているようだ」(500頁)と指摘しています。
オランダの人口はイギリスの3分の1を超えないと考えられますが、財政収入は525万ポンド以上と推定されますので、一人当たりではイギリスより重い税金になります。「オランダでは、生活必需品に対する重税のために、主要な製造業が壊滅し、漁業と造船業も徐々に衰退していく可能性が高いといわれている」(501頁)のですが、国の緊急事態やホラント州やゼーラント州のように海に沈まないための負担などの止むおえない面もあるようです。そんな中でスミスは、「オランダが繁栄しているのは主に、共和制 (republican form of government) をとっているためだとみられる」(502頁)と言っています。