重商主義の手段と目的は、輸出を奨励し輸入を抑制することによって貿易収支を有利にして国を豊かにする、ということにあります。このため製造業が発展してくると、自国の製造業を有利にするために、製造業の原料 (the materials of manufacture) や事業用の機器や道具 (the instruments of trade) については輸出を抑制し、製造業の原料の輸入は奨励されましたが、機器や道具の輸入は禁止されてきました。「いくつかの国からの羊毛、すべての国からの綿花、未加工の亜麻、大部分の染料、アイルランドと植民地からの大部分の未加工皮革、イギリス領グリーンランドからの海豹皮革、植民地からの銑鉄と棒鉄など、多数の製造業原料の輸入が通関手続きを適切に行うことを条件に、関税をすべて免除され、奨励されている」(232頁)と言っています。そして、亜麻糸と亜麻布の例を挙げ、亜麻糸に輸入関税を免除し亜麻布に輸出奨励金を支給したことは、貧しい労働者のためではなく金持ちと権力者のためだと批判しています。
また、「製造業の原材料の輸入に奨励金を支給する政策は、主にアメリカ植民地からの輸入だけに対象が限定されている」(233頁)と言って、いくつかの事例を挙げています。
ところが、「重商主義によるさまざまな規制はかならず、もっとも有利で自然な資本配分を多かれ少なかれ混乱させる(derange more or less this natural and most advantageous distribution of stock)。そして、アメリカ貿易とアジア貿易に関する規制はおそらく、他のどの規制よりも大きな混乱をもたらす」(218頁)と言っています。この二つの大陸との貿易には大きな資本が使われることと、独占が重商主義の政策を支える柱になっているからです。
一方、アメリカ貿易の独占は、他国を植民地との直接貿易から排除して自国の植民地の市場を独占しようとすることであり、アジア貿易の独占は、ポルトガルの力が弱くなった後インド洋を航行する独占権を主張できる国がなくなったので、東インド会社 (the East India company) のような独占企業によって行われるようになり、独占の種類が違うことになります。