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BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #4 (2022.9.6) 久留米大学医学部免疫学講座 主任教授 溝口充志 ( No.3551 )
日時: 2022年09月15日 15:27
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html


 おなかの免疫から考える、新型コロナウイルスに打ち勝つための独り言

                 未来を見据え

   「免疫を理解し、新型コロナウイルスを正しく恐れるために」


 最新版(98版、2022年 9月7日更新)はこちらのPDFをダウンロードしてください。
  ⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.pdf

 免疫の基本についてはこちらの動画をご覧ください。
  ⇒ https://www.youtube.com/watch?v=F5sSkhXwvj4

 医療系の学生さん用の補足資料はこちらのPDFもダウンロード下さい。
  ⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20201228STU.pdf
   
   
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Re: BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #4 (2022.9.6) 久留米大学医学部免疫学講座 主任教授 溝 ( No.3552 )
日時: 2022年09月15日 15:31
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

[98版に追記分]
BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #4
(2022年9月6日)
紆余曲折はありましたが、科学的根拠に基づく知事の御英断により宮城県、茨木県、鳥取県、佐賀県では2022年9月2日から新型コロナウイルス感染者の全数把握が見直され、9月4日時点で大阪府、福井県、三重県、長崎県、鹿児島県が見直し申請中で、その他の16県も追随されそうです。いよいよ、新型コロナウイルスも特別扱いされることなく、季節性インフルエンザと同じように扱われ、昔の生活が早期に取り戻せると信じています。

全数把握の理想と現実
イギリスでは新型コロナウイルス感染者の全数把握を2022年2月から撤廃され、アメリカでは症状が有り外来を受診し陽性と診断された方のみを感染者として扱うように全数把握が2022年1月から見直されています。また、その他の国々でも全ての陽性者を洗い出す全数把握は見直されたため、世界240か国の感染状況を報告されていたロイター社の「COVID-19 Global Tracker 」も2022年7月15日をもって更新を終了されています。また、イギリスでは2022年1月の全数把握廃止直後に、死者数の僅かな増加を認めましたが、その後に増加を認めていません(「集団免疫の誤解」に示した図を参照下さい)。つまり、「全数把握を廃止しても、死者数の増加につながらない」事を教えてくれています。

木村もりよ先生が言われているように、「全数把握」という言葉には理想と現実が常に付きまといます。感染者数が正確に把握できれば良いのですが、多くの国々からの報告で既に示されているように、顕著な感染拡大が起こった場合は、検査であぶりだされる感染者数は「氷山の一角」でしかありません。つまり、全数を把握しているつもりでも、予想を遥かに超えた隠れ感染者が見逃されています。例えば、人口当たりのPCR検査数が世界で最多レベルであったアイスランドでも感染者の44%が見逃され、アメリカでは90.8%もの感染者が見逃された可能性が報告されています。(委細は「(17)PCRは?」の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」を参照下さい)。見つけ出すことが困難な無症状の感染者が多ければ多いほど、知らず知らずのうちに他人にうつしていき、爆発的な感染拡大を起こしてしまいます。言い換えれば、BA.5株のように爆発的な感染拡大を認めたウイルスでは、多くの隠れ感染者が存在すると考えるのが妥当で、「全数把握」と言う言葉とは裏腹に把握はできていないと思います。事実、オミクロン株においては、感染者の56%が「無症状で感染に気付いていない」事がアメリカから2022年8月17日に報告されました(Joung SY, JAMA 2022, 8/17)。
【挿入画像⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.fld/image003.png

全数把握の最たるデメリットは、国民を不安に陥れる危険性です。全数把握があるがゆえに、感染者数が毎日報道番組に取り上げられ、テレビをつければ感染者数を耳にするといった状況が続いています。幸福を感じている人でも、毎日毎日「不幸よ、不幸よ」と耳元で囁き続けられれば不幸になって行くかもしれません。多くの方は、「ゼロコロナ」も「ゼロリスク」もあり得ないため、新型コロナウイルスを正しく恐れながらの共存の必要性を既に理解されていると思います。しかし、不安に煽られると、理解をしながらも受け入れる事が難しくなり、想像を遥かに超えた健康面さらに財政面での負の遺産を将来に残す危険性が出てきます(委細は「BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #2 (2022年8月8日)」の「癌から学ぶ、避けられない現実の受容」を参照)。また、不安は心の隙を作り出し、様々な問題を生み出します。報道で最近多く取り上げられている霊感商法なども不安に付け込むことにより成り立ちます。また、新型コロナウイルスにおいても、粗悪な検査キットを販売している悪徳業者が摘発されたり、税金により賄われる給付金や補助金の詐欺も摘発されています。この様な事件も、不安による心の隙を狙ったものです。まずは、不安を取り除くことが重要と個人的には強く信じています。事実、飛行機で墜落の危険を伴うようなトラブルが発生した時でさえ、パニックに陥らないようにCAさん達は乗客を安心させることに努められると思います。また、急病により突然路上で倒れた方に出くわした場合、診察器具や治療薬も無く何もできない事は解りながらも「まずは患者さんに寄り添い安心させることが医師の役目」だと私は習ってきました。

全数把握ができないと、救える命が救えなくなる可能性を言われる専門家もいらっしゃいます。しかし、逆も起こりえる事をご理解頂ければ幸いです。全数把握などによる新型コロナウイルス、特にBA.5株の特別扱いは、風評被害が引き起こす危険性を高めます。例えば、お孫さんが帰省され、その後発熱などの症状が出ても、周りの目を気にして受診を控え、結果命を落とされた高齢者も少なからずいらっしゃるはずです。季節性インフルエンザのように新型コロナウイルスを扱っていれば、気軽にかかりつけ医を早期に受診して救えた命かもしれません。

全数把握は理想的ですが現実は異なり、労力や経済的負担をしいるだけで、感染拡大の主因を担う隠れ感染者をあぶりだす事は困難です。事実、全数把握を廃止しても、新型コロナウイルスによる死者数の増加につながらない事を欧米諸国が既に教えてくれています。一方、全数把握は「不安を煽る危険性」、「風評被害を恐れて重症化リスクの高い高齢者の受診控え」など様々なデメリットも伴います。全数把握を早期に見直し、季節性インフルエンザのように定点観察を行うのが妥当と個人的には強く信じています。
   
   
Re: BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #4 (2022.9.6) 久留米大学医学部免疫学講座 主任教授 溝 ( No.3553 )
日時: 2022年09月15日 16:33
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

集団免疫に関する誤解
集団免疫が獲得できれば「新型コロナウイルスの感染者もいなくなり、死者もなくなる」と思われている方がいらっしゃるかもしれませんが誤解です。集団免疫の代表例は季節性インフルエンザです。ワクチンや実際の感染により季節性インフルエンザに対して集団免疫は獲得されています。しかし、新型コロナウイルス同様に、季節性インフルエンザも変異を続け、さらに時と共にワクチンの効果も減弱します。よって、日本でも毎年1,000万人以上の方が季節性インフルエンザに感染されています。しかし、集団免疫が獲得できているため、殆どの方は感染し38℃以上の高熱が2~3日続いても重症化に至らずに済んでいます。残念ながら免疫力は加齢に伴い低下していきます。よって、季節性インフルエンザ感染が直接原因となり毎年3,000人以上の、基礎疾患を悪化させたり老衰を加速させたりして10,000人以上の免疫力の低下した方の命を毎年奪っています。これが集団免疫である事をご理解頂ければ幸いです。一方、集団免疫が獲得できていない場合の代表例は「スペイン風邪」です。スペイン風邪流行の1年目には、日本で257,363人もの尊い命が奪われています。しかし、感染による集団免疫が獲得される事により、死者数は翌年には127,666人へと、翌々年には3,698人へと減少しています。
【挿入画像⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.fld/image004.png

新型コロナウイルスに対する集団免疫の効果は多くの国が既に教えてくれています。代表はイギリスかもしれません。ジョンソン前首相の英断により、イギリスでは2021年7月19日から規制が解除され、サッカー、テニス、F1カーレース等の大規模イベントを世界に先駆けて開催されました(委細は「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(諸刃の剣効果)?」の「各国の将来を見つめたコロナ対応」を参照)。また、2022年2月には感染者数の全数把握も撤廃されています。それにも関わらず、2021年7月以降は、以前に認めたような死者数の大きなピークは認めていません。また、パンデミック初期の2020年初頭から、スエーデンではアンテッシュ・テグネル先生が「ゼロコロナさらにゼロリスクはあり得ない」との科学的判断により、国の将来を考え重症化リスクの高い高齢者保護に注力しながら「ロックダウン」は行わない方針をとられました。そして、世界中から批判を浴びた事は記憶に新しいと思います。結果は、どうでしょうか? 欧州各国の中で、2022年8月31日時点で人口当たりの累積死者数が少ないのはノルウェー、フィンランド、オランダ、スイス、ドイツ、そしてスエーデンの順です。あれだけ批判を浴びながらも、経済を維持し、最終的には欧州で新型コロナウイルスによる犠牲者を少なく抑えた国となっています。「批判を浴びながらも、感情ではなく科学的根拠で判断」されたアンテッシュ・テグネル先生が正しかったことを今教えてくれています。つまり、被害を最小限に抑えるためには「科学が感情に負けてはいけない」という教訓かもしれません。
【挿入画像⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.fld/image005.png

日本も新型コロナウイルスの7回の流行を既に経験しているため、今こそ、集団免疫に関する委細な調査が必要かもしれません。また、これにより、検査であぶりだせなかった「隠れ感染者」が、どの程度潜んでいるのかも把握できると思います。集団免疫を調査するためには、まずは抗体検査です。新型コロナウイルスの「S抗原」に対する抗体と、「N抗原」に対する抗体が同時に判定でき精度が担保された抗体検査キットも多く販売されています。ワクチンにはS抗原のみを用いるため、ワクチン接種者で抗体が維持されていればS抗原に対する抗体のみが検出できます。一方、新型コロナウイルスはS抗原に加えてN抗原と言った様々な蛋白も持っています。よって、実際に新型コロナウイルスに感染するとS抗原に加えてN抗原に対する抗体も陽性となります。つまり、過去に新型コロナウイルスの感染経験が無いと思われている方で、N抗原に対する抗体が検出できれば「隠れ感染者だった」事になります。しかし、抗体検査だけで新型コロナウイルスに対する集団免疫獲得の程度を正確に評価するのは難しいかもしれません。感染予防に貢献する抗体は、比較的早期に低下する欠点があります。一方、重症化予防に貢献するT細胞免疫は、持続力が長いのが特徴です。スエーデンのカロリンスカ研究所からの報告によると、抗体陽性者の約3倍の方にT細胞免疫の獲得が認められたと報告されています(委細は「26、集団免疫は?」を参照)。つまり、抗体が減少して新型コロナウイルスに感染しても、T細胞の免疫により重症化から守られている方が多いことを教えてくれています。T細胞により守られている代表的な感染症は「結核」です。結核に対する免疫を調べるために、抗体検査を受けた方はいらっしゃらないと思います。抗体検査でなく、「ツベルクリン反応」によってT細胞免疫の有無が判定されます。また、「IFN-γ遊離試験」と呼ばれる手法も、結核に対するT細胞免疫の判定に用いられています。「N抗原に対する抗体検査」と「IFN-γ遊離試験」を組み合わせる事により、日本における新型コロナウイルスに対する集団免疫の獲得程度を正確に把握できるのかもしれません。
   
   
Re: BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #4 (2022.9.6) 久留米大学医学部免疫学講座 主任教授 溝 ( No.3554 )
日時: 2022年09月15日 16:37
名前: はっちん [ 返信 ]
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

日本人の優越性を信じて
2020年初期には、新型コロナウイルスは未知であったため、多くの国々が行動制限などで感染拡大を抑制することにより時間稼ぎをして、その間にワクチン接種の普及さらには医療体制の整備を行い、季節性インフルエンザのように多くの感染者が出ても重症化が抑制できるように「ロードマップ」が作成されたと思います。そして、このロードマップが正しかった事を世界の多くの国々が今教えてくれています。事実、「アルファ株」の流行時には野戦病院の設立が必要なほど医療逼迫していた欧米諸国では、「デルタ株」からは医療逼迫はなくなり、現在の「オミクロン株」では昔の生活を取り戻されています。日本も同様の方針であったと個人的には信じていますが、「石橋を叩いて渡る」慎重さや、その他の様々な要因で1年以上も世界から遅れをとっているような気がしています。新型コロナウイルスに対して、外国人に比べ日本人は以下に示すような多くの優越性を持っています。感情ではなく既に示された科学的根拠に基づき、できるだけ早く世界に追いつく必要があるのかもしれません。

[思いやりのマスク文化]:感染を完全に予防するためには「不織布マスク」では不十分で「N95」と呼ばれる特殊なマスクが必要となります。また、眼薬をさして苦いと感じる方は多いと思いますが、眼は涙管を介して口腔内につながっています。よって、マスクだけでは「頭かくして尻隠さず」状態で、眼から感染してしまいます。よって、完璧な感染予防のためには「N95マスク」と「ゴーグル」が必要となります。このように、マスクだけでは完全な感染予防にならないため、欧米ではマスク着用の習慣はありません。一方、マスクは飛沫を防ぐために、ヒトにうつす可能性を下げてくれます。日本では、自身を守る感染予防でなく、ヒトにうつさないための「思いやりのマスク文化」が浸透しています。これにより世界に比べて日本は人口当たりの感染者数が著名に抑えられていると個人的には信じています。札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門のホームページによると、2022年8月11日時点の人口100万人あたりの累積感染者数は、アメリカの27.9万人、韓国の34.2万人に対して日本は6.4万人です。また、日本ではBA.5株の爆発的感染拡大を8月に認めていますが、それでも2022年8月31日時点の人口100万人あたりの累積感染者数は14.9万人でアメリカや韓国の半数です。
【挿入画像⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.fld/image006.png

[ファクターX]: 山中伸弥先生が早期より「ファクターX」として提唱されたように、何らかの要因により、新型コロナウイルス感染による死にいたる重症化から日本人が守られていることは蓄積された結果からも明らかです。事実、人口100万人あたりの死者数は2022年8月11日時点でアメリカの3,112人に対して日本は274人です。また、BA.5株の爆発的感染拡大を起こした後の2022年8月31日時点でさえ314人でアメリカの「十分の一」です。

ファクターXについては未だ明らかとなっていませんが、様々な要因が関与していると考えるのが妥当かもしれません。新型コロナウイルス感染による重症化リスクの一つは「肥満」です。肥満者の割合は日本では4.5%に対して、アメリカは31.8%、イギリスは24.9%と大きく異なります。肥満者の少なさが新型コロナウイルス感染による重症者の抑制に貢献しているかもしれません。(委細は「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(諸刃の剣効果)?」の「長期間の行動制限による健康被害」を参照)。また、キス病として知られるエプスタイン・バー(EB)ウイルスに対する交叉免疫が重症化予防に寄与している可能性が報告されています。欧米人に比べて、日本人の殆どの方は乳幼児期にEBウイルスに感染し無症状で済んでいます。よって、可能性としては否定はできない仮説かもしれません(委細は「(19) 再感染は?」の「交叉免疫」参照)。

個人的に興味を持っているのは「免疫訓練」と呼ばれる新たな概念です。アフリカの子供達の結核を予防するためBCG接種が行われ、結核ばかりでなくウイルス性肺炎による死者数も半減したため研究が進みました。結果、「BCGが自然免疫細胞に効果的な敵との戦い方を覚えさせ、これによりウイルス性肺炎の重症化が予防できる」という「免疫訓練」仮説が2011年に提唱されました(Netea MG, Cell Host Microbe 2011, p355)。また、BCGには牛由来の結核菌が用いられますが、新型コロナウイルス同様に結核菌も変異するため、一概にBCGと言っても用いられる結核菌株は各国で異なります。非常に興味深い事に、2021年3月3日時点で、日本株BCGを用いられている国々では人口100万人あたりの死者数が少ない傾向を認めていました(「(14) 新たな免疫学的概念は?」の「BCG」参照)。すでに、新型コロナウイルス流行も世界的に「エンデミック」に入ったため、BCGと死者数の関連性を再度確認してみました。2022年8月11日時点の人口100万人あたりの累積感染者数と累積死者数は「札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門」から引用させて頂いています。やはり、日本をはじめ、「日本株BCG」を用いている国々では新型コロナウイルス感染による死者数が低く抑えられている気がします。ファクターXは未だ明らかとなっていません。しかし、間違いなく言える事は「外国人に比べて、日本人は新型コロナウイルスによる重症化から守られている」という事です。
   
   
 
Re: BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #4 (2022.9.6) 久留米大学医学部免疫学講座 主任教授 溝 ( No.3555 )
日時: 2022年09月15日 16:40
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元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html

夏風邪になってくれることを願って
感染症で犠牲になりやすい免疫弱者は、「免疫が発達していない乳幼児」と「免疫力が低下した高齢者」です。また「肥満者」と「痩せすぎの方(栄養不良)」も重症化の危険性が高くなります。しかし、新型コロナウイルスで重症化を起こし易いのは高齢者と肥満者です。事実、厚生労働省発表の2022年8月24日の結果によると、新型コロナウイルスの致死率(全ての変異株を含む)は80歳以上の3.35%に対して、10歳未満は0.0007%と「5,000倍近い差」があります。また、新型コロナウイルスの重症化リスクに「肥満」は入りますが「痩せ」は入りません。この違いが、新型コロナウイルスの謎を解いてくれると思います。つまり、乳幼児と痩身(痩せすぎ)の方は免疫弱者でありながらも、重症化リスクが低いという事は、免疫学的にみて新型コロナウイルスは弱いウイルスと考えるのが妥当と思います。また、高齢者や肥満者は血栓が起こり易く血管が詰まり易い状態です。新型コロナウイルスは血管内皮細胞に発現するアンギオテンシン変換酵素2に引っ付くため、テロ行為として血栓を起こし、血管を詰まらせる事により死に至る重症化を起こしていると考えるのが科学的に妥当と思います。事実、新型コロナウイルス、特に「アルファ株」では、虚血性疾患の特徴である「突然死」や「急激な悪化」が多く認められています。さらに、重症化リスクが高い疾患は、高血圧などの動脈硬化に関連する疾患や、鎌状赤血球症や自己免疫性血管炎など血栓を合併しやすい疾患です(委細は「(45) 重症化しやすい基礎疾患は?」を参照)。
【挿入画像⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.fld/image007.png

新型コロナウイルスは弱いウイルスでありながら、血栓症という「テロ行為」を得意としていたため「血管が詰まり易い」方に死につながる重症化を起こしたと個人的には強く信じています。しかし、このテロ行為が特異だったのは「アルファ株」で、「デルタ株」さらに「オミクロン株」ではテロ行為はあまり認めなくなっています。つまり、「オミクロン株」は普通の弱いウイルスになったと思います。また、Lavine先生らは数理解析を用い「子供達に重症化を起こし易い変異株が発生しなければ、子供達に自然感染による強固な集団免疫が獲得され、新型コロナウイルスは数年後には夏風邪程度の風土病になる」という可能性を2021年1月に報告されています(Lavine JS, Science 2021, 1/21)。子供達の重症化率は季節性インフルエンザより未だ遥かに低いため、新型コロナウイルスは夏風邪程度に早期になってくれると信じています。また、京都大学の西浦先生が「新型コロナウイルスは、今後季節性インフルエンザに比べて約10倍の感染者を出す」との数理解析の結果を2022年8月23日に報告されました。この結果も、「新型コロナウイルスが今後夏風邪になる」可能性を支持しているのかもしれません。なぜなら、厚生労働省の厚生科学審議会の報告によると、季節性インフルエンザの感染者は毎年991万人から1,451万人です。⇒ https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/flu/levelmap/suikei181207.pdf
つまり、その10倍となれば国民全員が1シーズンで感染する事になり、この様な感染症は夏風邪以外にありません。

2022年9月1日の読売新聞オンラインで、厚生労働省発表の2022年7月6日から8月23日の第7波(BA.5株)での年齢別死者数が発表されました。オミクロン株感染による死者の33.2%は90歳以上、40.5%が80歳代、16.7%が70歳代です。BA.5株による死者の90.4%は後期高齢者に集中しています。
また、厚生労働省の「2022年8月版、新型コロナウイルス感染症の「いま」に関する11の知識」⇒ https://www.mhlw.go.jp/content/000927280.pdf によると、2022年1月5日から4月5日の期間、つまり第6波(BA.2株)で新型コロナウイルス感染により亡くなられた年齢別割合は、90歳以上が30.9%、41.8%が80歳代、19.02%が70歳代です。BA.2株いおいても、死者の91.8%は後期高齢者に集中しています。
よって、オミクロン株はBA.2株とBA.5株のどちらも、健常人では夏風邪程度であるが、免疫力が顕著に低下した後期高齢者に対しては命にかかわる重症化を起こす「日和見感染症」に類似した感染症と考えられます。日和見感染菌の代表は、多くの方、特に子供達の咽頭に常在する「肺炎球菌」です。常在している細菌でありながら、免疫が過度に低下した後期高齢者には致死的な肺炎を起こしてしまいます。このような日和見感染菌による、誤嚥性肺炎で2021年は36,263人、市中肺炎で2019年は95,518人の命が奪われています。1年間で計算すると、新型コロナウイルスの10倍以上の尊い命が新型コロナウイルス以外の日和見感染菌により奪われているのは事実です。よって、65歳以上から肺炎球菌のワクチンが国の一部補助で接種可能で、多くの高齢者の命を救っています。オミクロン株においても、ワクチンが多くの高齢者の命を救っているようです。第6波(BA.2株)で亡くなられた方のワクチン接種率は「2022年8月版、新型コロナウイルス感染症の「いま」に関する11の知識」に示されています。90歳以上では、ワクチン3回接種者に比べて、ワクチン未接種者では10倍近い方が亡くなられています。高齢者の方はワクチン接種で命を守られていますので、4回目接種もよろしくお願いいたします。
【挿入画像⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.fld/image008.png
【挿入画像⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.fld/image009.png

人間は残念ながら不老不死ではなく、加齢と共に免疫細胞も減少し日和見感染菌により命を奪われてしまいます。新型コロナウイルスも、健常人に対しては夏風邪程度ですが、後期高齢者に対しては肺炎球菌のような日和見感染菌として我々と共存していくのかもしれません。また、日和見感染症のような様相を呈している「BA.5株」を2類相当として扱う事に、世界中の多くの科学者や医師達は疑問を抱かれているかもしれません。
   
   
 
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