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投稿者:はっちん
元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html [98版に追記分] BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #4 (2022年9月6日) 紆余曲折はありましたが、科学的根拠に基づく知事の御英断により宮城県、茨木県、鳥取県、佐賀県では2022年9月2日から新型コロナウイルス感染者の全数把握が見直され、9月4日時点で大阪府、福井県、三重県、長崎県、鹿児島県が見直し申請中で、その他の16県も追随されそうです。いよいよ、新型コロナウイルスも特別扱いされることなく、季節性インフルエンザと同じように扱われ、昔の生活が早期に取り戻せると信じています。 全数把握の理想と現実 イギリスでは新型コロナウイルス感染者の全数把握を2022年2月から撤廃され、アメリカでは症状が有り外来を受診し陽性と診断された方のみを感染者として扱うように全数把握が2022年1月から見直されています。また、その他の国々でも全ての陽性者を洗い出す全数把握は見直されたため、世界240か国の感染状況を報告されていたロイター社の「COVID-19 Global Tracker 」も2022年7月15日をもって更新を終了されています。また、イギリスでは2022年1月の全数把握廃止直後に、死者数の僅かな増加を認めましたが、その後に増加を認めていません(「集団免疫の誤解」に示した図を参照下さい)。つまり、「全数把握を廃止しても、死者数の増加につながらない」事を教えてくれています。 木村もりよ先生が言われているように、「全数把握」という言葉には理想と現実が常に付きまといます。感染者数が正確に把握できれば良いのですが、多くの国々からの報告で既に示されているように、顕著な感染拡大が起こった場合は、検査であぶりだされる感染者数は「氷山の一角」でしかありません。つまり、全数を把握しているつもりでも、予想を遥かに超えた隠れ感染者が見逃されています。例えば、人口当たりのPCR検査数が世界で最多レベルであったアイスランドでも感染者の44%が見逃され、アメリカでは90.8%もの感染者が見逃された可能性が報告されています。(委細は「(17)PCRは?」の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」を参照下さい)。見つけ出すことが困難な無症状の感染者が多ければ多いほど、知らず知らずのうちに他人にうつしていき、爆発的な感染拡大を起こしてしまいます。言い換えれば、BA.5株のように爆発的な感染拡大を認めたウイルスでは、多くの隠れ感染者が存在すると考えるのが妥当で、「全数把握」と言う言葉とは裏腹に把握はできていないと思います。事実、オミクロン株においては、感染者の56%が「無症状で感染に気付いていない」事がアメリカから2022年8月17日に報告されました(Joung SY, JAMA 2022, 8/17)。 【挿入画像⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.fld/image003.png 】 全数把握の最たるデメリットは、国民を不安に陥れる危険性です。全数把握があるがゆえに、感染者数が毎日報道番組に取り上げられ、テレビをつければ感染者数を耳にするといった状況が続いています。幸福を感じている人でも、毎日毎日「不幸よ、不幸よ」と耳元で囁き続けられれば不幸になって行くかもしれません。多くの方は、「ゼロコロナ」も「ゼロリスク」もあり得ないため、新型コロナウイルスを正しく恐れながらの共存の必要性を既に理解されていると思います。しかし、不安に煽られると、理解をしながらも受け入れる事が難しくなり、想像を遥かに超えた健康面さらに財政面での負の遺産を将来に残す危険性が出てきます(委細は「BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #2 (2022年8月8日)」の「癌から学ぶ、避けられない現実の受容」を参照)。また、不安は心の隙を作り出し、様々な問題を生み出します。報道で最近多く取り上げられている霊感商法なども不安に付け込むことにより成り立ちます。また、新型コロナウイルスにおいても、粗悪な検査キットを販売している悪徳業者が摘発されたり、税金により賄われる給付金や補助金の詐欺も摘発されています。この様な事件も、不安による心の隙を狙ったものです。まずは、不安を取り除くことが重要と個人的には強く信じています。事実、飛行機で墜落の危険を伴うようなトラブルが発生した時でさえ、パニックに陥らないようにCAさん達は乗客を安心させることに努められると思います。また、急病により突然路上で倒れた方に出くわした場合、診察器具や治療薬も無く何もできない事は解りながらも「まずは患者さんに寄り添い安心させることが医師の役目」だと私は習ってきました。 全数把握ができないと、救える命が救えなくなる可能性を言われる専門家もいらっしゃいます。しかし、逆も起こりえる事をご理解頂ければ幸いです。全数把握などによる新型コロナウイルス、特にBA.5株の特別扱いは、風評被害が引き起こす危険性を高めます。例えば、お孫さんが帰省され、その後発熱などの症状が出ても、周りの目を気にして受診を控え、結果命を落とされた高齢者も少なからずいらっしゃるはずです。季節性インフルエンザのように新型コロナウイルスを扱っていれば、気軽にかかりつけ医を早期に受診して救えた命かもしれません。 全数把握は理想的ですが現実は異なり、労力や経済的負担をしいるだけで、感染拡大の主因を担う隠れ感染者をあぶりだす事は困難です。事実、全数把握を廃止しても、新型コロナウイルスによる死者数の増加につながらない事を欧米諸国が既に教えてくれています。一方、全数把握は「不安を煽る危険性」、「風評被害を恐れて重症化リスクの高い高齢者の受診控え」など様々なデメリットも伴います。全数把握を早期に見直し、季節性インフルエンザのように定点観察を行うのが妥当と個人的には強く信じています。        
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