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投稿者:はっちん
元記事⇒ 久留米大学医学部免疫学講座 https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/corona.html 集団免疫に関する誤解 集団免疫が獲得できれば「新型コロナウイルスの感染者もいなくなり、死者もなくなる」と思われている方がいらっしゃるかもしれませんが誤解です。集団免疫の代表例は季節性インフルエンザです。ワクチンや実際の感染により季節性インフルエンザに対して集団免疫は獲得されています。しかし、新型コロナウイルス同様に、季節性インフルエンザも変異を続け、さらに時と共にワクチンの効果も減弱します。よって、日本でも毎年1,000万人以上の方が季節性インフルエンザに感染されています。しかし、集団免疫が獲得できているため、殆どの方は感染し38℃以上の高熱が2~3日続いても重症化に至らずに済んでいます。残念ながら免疫力は加齢に伴い低下していきます。よって、季節性インフルエンザ感染が直接原因となり毎年3,000人以上の、基礎疾患を悪化させたり老衰を加速させたりして10,000人以上の免疫力の低下した方の命を毎年奪っています。これが集団免疫である事をご理解頂ければ幸いです。一方、集団免疫が獲得できていない場合の代表例は「スペイン風邪」です。スペイン風邪流行の1年目には、日本で257,363人もの尊い命が奪われています。しかし、感染による集団免疫が獲得される事により、死者数は翌年には127,666人へと、翌々年には3,698人へと減少しています。 【挿入画像⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.fld/image004.png 】 新型コロナウイルスに対する集団免疫の効果は多くの国が既に教えてくれています。代表はイギリスかもしれません。ジョンソン前首相の英断により、イギリスでは2021年7月19日から規制が解除され、サッカー、テニス、F1カーレース等の大規模イベントを世界に先駆けて開催されました(委細は「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(諸刃の剣効果)?」の「各国の将来を見つめたコロナ対応」を参照)。また、2022年2月には感染者数の全数把握も撤廃されています。それにも関わらず、2021年7月以降は、以前に認めたような死者数の大きなピークは認めていません。また、パンデミック初期の2020年初頭から、スエーデンではアンテッシュ・テグネル先生が「ゼロコロナさらにゼロリスクはあり得ない」との科学的判断により、国の将来を考え重症化リスクの高い高齢者保護に注力しながら「ロックダウン」は行わない方針をとられました。そして、世界中から批判を浴びた事は記憶に新しいと思います。結果は、どうでしょうか? 欧州各国の中で、2022年8月31日時点で人口当たりの累積死者数が少ないのはノルウェー、フィンランド、オランダ、スイス、ドイツ、そしてスエーデンの順です。あれだけ批判を浴びながらも、経済を維持し、最終的には欧州で新型コロナウイルスによる犠牲者を少なく抑えた国となっています。「批判を浴びながらも、感情ではなく科学的根拠で判断」されたアンテッシュ・テグネル先生が正しかったことを今教えてくれています。つまり、被害を最小限に抑えるためには「科学が感情に負けてはいけない」という教訓かもしれません。 【挿入画像⇒ https://www.med.kurume-u.ac.jp/med/immun/20220907.fld/image005.png 】 日本も新型コロナウイルスの7回の流行を既に経験しているため、今こそ、集団免疫に関する委細な調査が必要かもしれません。また、これにより、検査であぶりだせなかった「隠れ感染者」が、どの程度潜んでいるのかも把握できると思います。集団免疫を調査するためには、まずは抗体検査です。新型コロナウイルスの「S抗原」に対する抗体と、「N抗原」に対する抗体が同時に判定でき精度が担保された抗体検査キットも多く販売されています。ワクチンにはS抗原のみを用いるため、ワクチン接種者で抗体が維持されていればS抗原に対する抗体のみが検出できます。一方、新型コロナウイルスはS抗原に加えてN抗原と言った様々な蛋白も持っています。よって、実際に新型コロナウイルスに感染するとS抗原に加えてN抗原に対する抗体も陽性となります。つまり、過去に新型コロナウイルスの感染経験が無いと思われている方で、N抗原に対する抗体が検出できれば「隠れ感染者だった」事になります。しかし、抗体検査だけで新型コロナウイルスに対する集団免疫獲得の程度を正確に評価するのは難しいかもしれません。感染予防に貢献する抗体は、比較的早期に低下する欠点があります。一方、重症化予防に貢献するT細胞免疫は、持続力が長いのが特徴です。スエーデンのカロリンスカ研究所からの報告によると、抗体陽性者の約3倍の方にT細胞免疫の獲得が認められたと報告されています(委細は「26、集団免疫は?」を参照)。つまり、抗体が減少して新型コロナウイルスに感染しても、T細胞の免疫により重症化から守られている方が多いことを教えてくれています。T細胞により守られている代表的な感染症は「結核」です。結核に対する免疫を調べるために、抗体検査を受けた方はいらっしゃらないと思います。抗体検査でなく、「ツベルクリン反応」によってT細胞免疫の有無が判定されます。また、「IFN-γ遊離試験」と呼ばれる手法も、結核に対するT細胞免疫の判定に用いられています。「N抗原に対する抗体検査」と「IFN-γ遊離試験」を組み合わせる事により、日本における新型コロナウイルスに対する集団免疫の獲得程度を正確に把握できるのかもしれません。        
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