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↓ 花嫁  補遺

1: KZ:2022/09/13 20:06 No.92
昭和30年代の初め頃 田舎の結婚式といえば こんな花嫁さんの門出から始まったものでした。お作りが全て終わり、内うちの挨拶が終わると、あとは仲人さんに白塗りの手を引かれ 静々と式場へと歩みを進めることになります(場合によれば門前からハイヤーに乗り込むわけですが)。

思い出すと…当時私は小学校の二年生かそこら。その日は結婚式とか披露宴とか なにやらとてつもなく賑々しい晴れの場があるらしい…もしかして自分もそれに出られるのかもしれない、眩い光の下ですごいお膳の御馳走とかを食べられるのかもしれない。そんな夢と期待に しばらく前から胸が大きく膨らんだことを覚えています。
けれども 結果は… 見事な空振り三振。大人の後を歩いてゾロゾロとついて行った式場の大きな割烹旅館(料亭)に 足を踏み入れることさえできませんでした。見事な見越しの松の被う玄関の脇で お嫁さん一行が入場していくのを眩しく見送って… さあ後は早く家に帰っていつものように宿題を済ませ、お手伝いに来てくれるおばさんと一緒に晩御飯にしなさい、というわけでした。

神主が出張してきて広間で両家の儀式が執り行われ、それが済めば随一の大広間で賑々しい披露宴が開催されたのでしょう。もちろん その模様は我々子どもには教えてもらえなかったので、その翌日から長姉が忽然と食卓から消え、彼女が一人で使っていた二階の八畳間ががらんと広く残り… やがて二番目の姉が階下の雑居部屋から昇格して その日当たりの良い大きな部屋を襲ったというわけでした。(教科書や鞄、身の回りの品々を抱えて 少し頬を赤らめて階段を登っていった姿が目に浮かびます。)
きょうだいのうち 一番重かった蓋が消え 少し家の内の様子が変わった、なんだか空気が軽くなった。家族は変わるし、動くものなんだなと 私が初めて肌で知った出来事でもあったのでした。

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