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思い出の 岡田裕介〜吉永小百合

1: KZ:2022/11/29 14:13 No.167
かつて お茶の水のS台予備校というのに通ったことがある。大学紛争真っ只中の時期(1968年頃)で 駅から校舎まで歩いて数分の間に 前夜機動隊のばら撒いた催涙弾の残り臭で目が赤くなってしまうようなこともあった。舗道には 学生たちが応戦した瓦礫が散乱していて 足の踏み場もない。
そんな中、こちらも教室をサボって映画ばかり観ていた ろくでもない浪人生の一人だった。

その予備校の同じクラスに岡田剛という男がいた。都立日比谷高出身のとても軽薄そうなやつで 石坂浩二みたいな顔立ちでかなり目立ったけれど あまり話したい感じの男ではなかった。
進学先も違ったので すっかり忘れていたのだが、それから二年くらいして 庄司薫の小説『赤頭巾ちゃん気をつけて』が映画化され その主役に抜擢されたということで 雑誌に大きく写真記事が出ていた。あの岡田が裕介という芸名で詳しく紹介されていて えらくびっくりした。京都出身 実は東映の社長の息子だったということで もう一度驚いた記憶がある。
俳優としては大成しなかったようだが プロデューサーや経営者としては才覚があったようで その後長く東映の社長を続けていた。今から二年ほど前に 大動脈解離をおこし自宅で急逝した。生涯独身で 亡くなった時も孤独死みたいなものだったというニュースが流れた。本当はわからないけれど 顔立ちにどこか薄い影があって、 この報も、私にはなにやら感慨を催すような印象だった。
吉永小百合ととても懇意で 何本か大きな作品をプロデュースし 公私互いに深く頼りにしている間柄だったという。「突然で とても哀しい」という 年上の彼女の真率なコメントを読んだ記憶がある。

吉永小百合さんは ラグビーがとても好きで 国立競技場とかでやる大きな試合にも観戦に来ていて 私も何度か見かけたことがある。宮沢りえだかと一緒に来ていた時に たまたま席が近くで 試合前に報道カメラマンが殺到してしまい大騒ぎになっていた。試合前に気が散って こちらは迷惑だったけれど 女優さんの注目度の凄さにびっくりした。

もう一つ記憶がある。夏の菅平に 主に大学チームのラグビー夏合宿を見に 普段の観戦仲間七、八人で出かけていた時期があった。毎年同じペンションで厄介になり 気のいいご夫婦に会えるのも楽しみの一つだった。仕事の合間には 奥さんも一緒に山に上がり 無粋な我々に可愛い高山植物の名前を教えてくれたりもした。
ある時 夕方に車で早大グランドに回った。あいにく練習はもう終わっていて 三面あるグランドは 薄暮の中でどこも閑散としていた。
帰り際ふっとサイドを見ると 身綺麗な雰囲気の女性が簡単チェアーに座って 一人何か読んでいる。横顔だけでも 吉永小百合さんだと すぐにわかった。
しばらく遠巻きに眺めていたのだが 同行していた若い女性二人が 一緒に写真は無理だろうかと言い出した。たまたまカメラを持っていた明治出身の年長のAさんが それなら頼んでみようかねと気軽に引き受けてくれた。
いいですよと 当の吉永さんは気軽にオーケーしてくれた。当方の女性二人は大喜びで すぐに吉永さんを挟んで立ち 夕暮れのきれいなスリーショットが撮れたのだった。(写真は家のどこかに未だ残っているはずなので 見つけたらまたここにアップします)

宿に帰って風呂に入り 美味しいビールを飲みながらのAさんの感想。
ほんとに気さくな人だったね。恐る恐る行ったんだけど 拍子抜けするくらいあっさり いいですよって… あんな大女優がね。大西鐡之祐さん(元早大・日本代表監督)の追悼番組のナレーターで、その台本を現場で読んでいたんだって。
にっこり笑ってくれて われながら良い写真が撮れたけど、驚いたのはね こうカメラ構えてファインダーを覗くじゃない。その時にさ いきなりピッと顔が変わるんだよ。スッと筋が通る、表情にハリが出る、輪郭が鮮やかになるんだよ。あんなこと 素人じゃあ 絶対ありえない。あんな人いないよ。
やっぱり プロなんだね。カメラの前に立つと 優しい笑顔が三倍くらいに映えるんだね。後光が差すって言うけど ほんとにそうなんだよ、俺は初めてその意味がわかった。

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