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『われわれはみな外国人である』野崎 歓(五柳叢書07/6)
愉しい本棚 投稿日:2020年06月18日 17:40 No.801
  ☆☆☆
 〇著者
学歴

1974年 新潟大学教育学部附属新潟中学校卒業
1977年 新潟県立新潟高等学校卒業 東京大学教養学部文科三類入学
1981年 東京大学文学部仏文学科卒業
1981年 東京大学大学院人文科学研究科仏語仏文学専攻修士課程入学
1985年 東京大学大学院人文科学研究科仏語仏文学専攻博士課程進学
1985年より1989年まで フランス政府給費留学生としてパリ第3大学仏文学科博士課程に留学
1989年3月 東京大学大学院人文科学研究科仏語仏文学専攻博士課程中途退学

職歴 1989年 東京大学文学部助手
1990年 一橋大学法学部法律学科専任講師
1993年 一橋大学法学部法律学科助教授
1997年 一橋大学大学院言語社会研究科助教授
2000年 東京大学大学院総合文化研究科・教養学部助教授
2007年 東京大学大学院人文社会系研究科・文学部准教授
2012年 教授 
2019年 同退任(早期退職)・東大名誉教授・放送大学教授

人物ジャン=フィリップ・トゥーサン『浴室』(1990年)の邦訳が人気を博し、以後、現代フランス文学の翻訳・紹介者として活躍を続けている。エルヴェ・ギベール、ミシェル・ウエルベックといった先端的な作家の翻訳に尽力。2000年にはトゥーサン作品の翻訳により、ベルギー・フランス語共同体翻訳賞を受賞している。また専門であるフランス19世紀文学の研究・翻訳でも活躍し、バルザック『幻滅』(共訳)、ネルヴァル『東方紀行』(共訳)、スタンダール『赤と黒』などを翻訳。

フランス文学だけでなく、日本文学についても『谷崎潤一郎と異国の言語』を著すなど、旺盛に評論活動を展開している。

映画に関してもさまざまな著作があり、とりわけフランス・ヌーヴェルヴァーグの父として知られるジャン・ルノワールについては、その後半生を通して20世紀映画史を綴った評伝『ジャン・ルノワール 越境する映画』を刊行し、2001年サントリー学芸賞を受賞した。[2]ルノワールに関してはほかにも、その知られざる傑作小説『ジョルジュ大尉の手帳』を訳出して映画批評家・山田宏一に絶賛されている(『山田宏一のフランス映画誌』)。同じくルノワールの小説『イギリス人の犯罪』や『ジャン・ルノワール エッセイ集成』も刊行。紀伊國屋書店から出た「ジャン・ルノワールDVD-BOX I~III」には「21世紀のジャン・ルノワール」と題するエッセイを三回連続で寄せている。

また、近年は東アジア映画、とりわけ中国語圏の映画を熱心に論じ、香港映画の大ファンとして知られている。『香港映画の街角』が評判を呼び、香港‐日本交流年となった2005年には香港の映画監督ウォン・ジン(バリー・ウォン)、スター女優セシリア・チャンとシンポジウム[3]を行った。

また大学時代、バンドでドラムを叩いていた野崎は大のロックファンであり、「芸術新潮」2008年1月号でキャロル・キング、「東京人」2008年12月号でザ・フーについて礼讃文をつづっている。2008年、東大文学部現代文芸論の学生誌「本郷通り、」のロック特集では、柴田元幸と対談している。

子育ての苦労と喜びをつづった『赤ちゃん教育』では講談社エッセイ賞を受賞。

2004年から2年間、読売新聞読書委員を務めた。

日本経済新聞の映画評欄「キネマ万華鏡」および月刊誌「すばる」で、随時映画評を執筆。読売新聞読書欄「本のソムリエ」にも随時執筆している。

2008年12月より文芸誌「群像」でネルヴァル論の長期連載を行い、それをまとめた 『異邦の香り―ネルヴァル「東方紀行」論』 で2011年に第62回読売文学賞研究・翻訳賞を受賞。広く評論・執筆活動を展開している。
『赤と黒』翻訳論争

立命館大学文学部教授の下川茂は、野崎の訳したスタンダールの『赤と黒』(光文社文庫、2007年)に対し、誤訳が多すぎるとの批判を行っている。下川は「前代未聞の欠陥翻訳で、日本におけるスタンダール受容史・研究史に載せることも憚られる駄本」[4]としたうえで「仏文学関係の出版物でこれほど誤訳の多い翻訳を見たことがない」[4]と指摘し「まるで誤訳博覧会」[4]と主張している。2008年3月付の第3刷で同書は19ヶ所を訂正したが、下川は「2月末に野崎には誤訳個所のリストの一部が伝わっている。今回の訂正はそこで指摘された箇所だけを訂正したものと思われる」[5]と批判したうえで、誤訳の例を列挙し「誤訳は数百箇所に上る」[5]と指摘している。下川は、いったん絶版として改訳するよう要請する書簡を野崎宛てに送付した[6]。

しかし、光文社文芸編集部の編集長は「読者からの反応はほとんどすべてが好意的ですし、読みやすく瑞々しい新訳でスタンダールの魅力がわかったという喜びの声だけが届いております。当編集部としましては些末な誤訳論争に与する気はまったくありません」[6]と反論している。

この件について作家の戸松淳矩は、光文社側は読者の反応ではなく翻訳の適否について回答すべきと指摘し、瑣末な誤訳と主張するなら反証を示すべきと述べ、野崎の訳文における問題点についての言及がないことに批判している[7]。また内田樹は、誤訳との指摘に対し訳者が応えるように双方向的な公開性の担保が重要だと指摘し、「野崎訳をめぐる問題は『指摘と修正』の円滑なコミュニケーションが成り立たなかったことが原因[8]」と考察している。その一方で、「(指摘と修正の)効率についての配慮[8]」を欠いた、「いきなり大上段から相手の脳天を斬りつける[7]」ような下川の手法にも、戸松・内田とも苦言を呈している。

また藤井一行、中島章利は、自身のホームページにて、同文庫から出されている亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』や、森田成也訳のトロツキー『レーニン』『永続革命論』にも誤訳が多数あることを指摘し、『赤と黒』に限らず誤訳の指摘と改訳の事実を伏せたまま改訳を行っている同文庫の編集姿勢を強く批判している[9]。そのほか北海道大学の佐藤美希は、野崎の単純なミスによる誤訳を認めつつ、論争の背景には「新訳ブーム」における新しい翻訳観と、下川の持つ規範的な翻訳観との根本的な対立があると論じている[10]。
著作
単著

『ジャン・ルノワール越境する映画』青土社 2001
『フランス小説の扉』白水社 2001/白水Uブックス 2010
『谷崎潤一郎と異国の言語』人文書院 2003/中公文庫 2015
『香港映画の街角』青土社 2005
『赤ちゃん教育』青土社 2005/講談社文庫 2008
『五感で味わうフランス文学』白水社 2005
『カミュ『よそもの』きみの友だち』みすず書房〈理想の教室〉 2006
『われわれはみな外国人である-翻訳文学という日本文学』五柳書院 2007
『こどもたちは知っている-永遠の少年少女のための文学案内』春秋社 2009
『異邦の香り―ネルヴァル『東方紀行』論』講談社 2010/講談社文芸文庫 2019
『フランス文学と愛』講談社現代新書 2013 
『翻訳教育』河出書房新社 2014
『映画、希望のイマージュ 香港とフランスの挑戦』弦書房 2014。ブックレット
『アンドレ・バザン 映画を信じた男』春風社 2015
『夢の共有 文学と翻訳と映画のはざまで』岩波書店 2016
『水の匂いがするようだ 井伏鱒二のほうへ』集英社 2018