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『国富論』再訪(74)[最終回]
二村 重博 投稿日:2023年08月29日 16:50 No.312
 『国富論』(70)第5編 第3章 ④ [最終回](2010年10月12日)

 前回は、イギリスの巨額の政府債務に対して、「イギリスの税制を大英帝国の海外領のうち、イギリス系かヨーロッパ系が居住している地域にも適用すれば、財政収入が大幅に増えると予想できる」(533頁)というスミスの提案を見てきました。
 それでは、イギリス以外の他の地域がイギリス政府の債務を負担する理由はどこにあるのでしょうか。スミスは、「アイルランドとアメリカがイギリスの政府債務の返済に協力するのは、正義に反することではない。政府債務は、名誉革命によって確立した政府を支えるために借り入れてきたものである。この政府のために、アイルランドのプロテスタントは自国内での現在の権威を確立できたのであり、さらに、自由と財産と宗教を保証されているのである。この政府のために、アメリカのいくつかの植民地は現在の特許状を認められ、現在の政治体制を確立できたのであり、すべての植民地が自由と安全と財産を保証され、享受してきたのである。イギリスの政府債務は、本国だけでなく、帝国のすべての地域を防衛するために借り入れてきたものだ。七年戦争の戦費を賄うために借り入れた巨額の債務の全額と、その前のオーストリア継承戦争の戦費を賄うために借り入れた債務の大部分は、実際にはアメリカの防衛のためのものである」(544~545頁)と言っています。
 さらに、イギリスと合併した場合、アイルランドでは、貿易の自由を確保するだけでなく、貴族階級の抑圧から完全に解放されるだろうと言っています。
 植民地では、貴族階級による抑圧的な支配はないが、小規模な民主主義国にはつきものの、憎しみと恨みに満ちた党派対立から解放されるだろうと言っています。

 以上の提案でイギリスの財政収入を大幅に増やすことができなければ、財政支出の削減という方法になります。しかし、イギリスは近隣諸国に劣らないほど経費を削減してきているので大幅な削減の余地はないと言っています。
 七年戦争は植民地のために戦われ、9000万ポンド以上の戦費がかかり、1739年に始まったスペインとの戦争、その結果としてのオーストリア継承戦争では4000万ポンドを超える戦費がかかっているが、これも植民地のために戦われたものなので、その大部分は植民地に負担を求めるべきであると言っています。しかしその植民地が、「財政収入でも軍事力でも帝国を支援しないのであれば、植民地を帝国の一部だと考えることはできない」(547頁)としています。その場合は、イギリスの支配者は、「一世紀以上にわたって、大西洋の対岸にある偉大な帝国を所有しているとの夢を国民に与えてきた」(547頁)のですが、「この黄金の夢、自分たちも酔い、国民を酔わせてきた黄金の夢を実現してみせるか、そうでなければ、まずは自分たちが夢から覚め、国民にも覚めるよう促すべきである。計画が達成できないのであれば、あきらめるべきだ。帝国全体を支えるために貢献するのを拒否する植民地があるのであれば、戦争の時期にそれらの植民地を防衛する経費、平和の時期に行政と軍事の組織を一部であれ支える経費を負担するのを止めて、イギリスがおかれている地味な状況に合わせて、将来の展望と計画を調整するようにすべきである (endeavour to accommodate her future views and designs to the real mediocrity of her circumstances) 」(548頁)と結んでいます。

 『国富論』が出版された1776年は、アメリカの独立宣言が発布された年でもありました。

 今回をもって、アダム・スミスの『国富論』の読書会を終わります。

 このアダム・スミス(山岡洋一訳)『国富論』日本経済新聞社には、549~572ページにわたる根岸隆氏(東京大学名誉教授)の解説論文があります。内容は以下のようです。

 解説 『国富論』と現代経済学
 1 アダム・スミスと『国富論』
 2 自然価格の体系
 3 投資の自然な秩序
 4 規模の経済と不均衡分析

 少し時間をおいて、次回からはこの解説論文を紹介しながら、アダム・スミスの『国富論』の読書会をもう一度振り返ってみたいと思っています。




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