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『国富論』再訪(69)
二村 重博 投稿日:2023年07月18日 18:30 No.278
 『国富論』(66)第5編 第2章 第2節 第4項 ②(2010年7月4日)

 前回の後半では、物品税 (duties of excise) についてみましたが、今回は関税 (duties of customs) についてみてみます。

 関税は物品税よりも古くから使われ、商人の利益に対する税金として考えられていました。外国人の商人の利益は自国の商人の利益より悪意をもって見られていましたので、より重い税が課せられていました。この違いがあっても、「昔の関税は必需品にも贅沢品にも、輸出の際にも輸入の際にも、すべての種類の商品に同じ率でかけられていた」(471頁)ようです。
 スミスによれば昔の関税は3部門に分かれ、一つは羊毛と革を対象とし、後に毛織物も対象とした輸出関税、もう一つはワインに対するもので、これはトン当たりでかけられたのでトン税 (tonnage) と呼ばれ、三つ目はその他すべての商品に対するもので評価額1ポンド当たりでかけられたのでポンド税 (poundage) と呼ばれていました。
 そのうち、重商主義の考え方がもてはやされるようになり、「国内産の農産物と製品の輸出に課されていた昔の関税は大部分、軽減されるか撤廃され」(473頁)、一部の商品の輸出に対しては奨励金が、また外国製品の輸入時の関税は再輸出されると戻し税として払い戻されるようになり、輸出を優遇し輸入を抑制する傾向が強まってきました。スミスは、「重商主義が国民全体の収入に、つまり国の土地と労働による年間生産物にあまり良い影響を与えないことは、第4編で論じてきた」(473頁)が、主権者の関税収入に対しても良い影響を与えてはいないと言っています。
 重商主義政策の結果、いくつもの商品の輸入が禁止され、そこから得られた関税収入が失われました。また、各種の外国製品に高率の関税がかけられたので、関税率が高くなければ得られたはずの関税収入が減少しました。スミスは、「税金を多くの場合に財政収入の手段としてではなく、独占の手段として使う方法を重商主義者が教えていなければ、これらの高関税が課されることはなかっただろう」(474頁)と言っています。
 高率の関税と輸入禁止のために輸入商は密貿易 (smuggling) を増やそうとし、国内産の農産物や製品に支給される輸出奨励金と外国商品の再輸出で支払われる戻し税は輸出商のごまかしや詐欺を誘う結果になりました。

 輸入の場合には、原則としてすべての商品に関税がかけられ、それは関税率表で決まりますが、「税制の分かりやすさ、正確さ、明確さで、関税は物品税よりはるかに劣っている」(475頁)とコメントしています。そして、物品税は幅広く使われている少数の商品だけにかけられているので、関税も少数品目だけを対象にすれば、財政収入も減少することはないし、貿易にも利点になると提案しています。
 「外国商品のうち現在、イギリスでとくに一般的に使われ、消費されているのは主に、ワインとブランデー、アメリカ大陸と西インド諸島の生産物のうち砂糖、ラム酒、タバコ、ココア、アジアの生産物のうち紅茶、コーヒー、陶器、各種香辛料、いくつかの種類の織物などである」(476頁)ので、これら品目を除いた商品に対する関税は、財政収入のためというより自国商人の独占のためであると言っています。

 さらに、「関税率を高くすると、一方では消費が減少し、他方では密貿易が増加して、関税率がもっと低かったときより関税収入が減少することが多い」(476頁)と言い、関税収入の減少が、消費減少のためならば関税率を引き下げるしかなく、密貿易のためならば関税率を引き下げて密貿易の誘惑を無くするか、制度を変更して密貿易を困難にするしかないと言っています。制度の変更については、輸入ラム酒の物品税でとられている方法を例にとり、輸入商は商品を自分の倉庫か公設倉庫に収め、関税職員は倉庫の立ち入り検査をするという具体策を提案しています。この場合、すべての商品について関税をかければこの方法は困難なので、「物品税と同様に関税でも、とくに一般的に使われ、消費されている少数の商品に対象を絞り込まなければならない」(477頁)としています。
 スミスは提案のように制度が改正されれば、「財政収入が打撃を受けることはないとみられるが、イギリスの貿易と製造業が大きな利益を得られるのは確かだとみられる」(478頁)と言っています。つまり、大多数の商品に関税がかからないので貿易が自由になります。これらの商品には生活必需品と原材料が入りますので、自由貿易によって国内市場での平均価格が下がります。その分労働の金銭価格が下がるのと原材料の無関税の輸入により国内産の製品価格も下がるので、海外市場でも有利になります。
 イギリスのウォルポール (Sir Robert Walpole) 首相(1721~42在任)は、この制度と類似したワインとタバコを対象とする物品税案を議会に提出しましたが、既得権益を守ろうとする密輸商人と一緒になった議会内の反対派の反対運動を受け撤回しました。その後の首相は反対運動を恐れて再提案しようとしなかった、とスミスは言っています。





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