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『国富論』再訪(68)
二村 重博 投稿日:2023年07月11日 18:20 No.272
 『国富論』(65)第5編 第2章 第2節 第4項 ①(2010年6月26日)

 第4項―収入の種類と無関係に支払われることを意図した税金 (Article Ⅳ Taxes which, it is intended, should fall indifferently upon every different Species of Revenue
 
 ここでは、収入の種類(土地の地代、資本の利益、労働の賃金)には関係なく課せられる税として、人頭税と消費財に対する税金を取り上げています。

 その1―人頭税 (Capitation Taxes)

 「人頭税は、納税者の資産か収入に比例するようにした場合、まったく恣意的な税になる」(459頁)と言うように、査定が困難なので恣意的で不確実になります。また、階層によって税額を決めれば、資産に違いがあるので不公平になります。スミスは、「人頭税は公平にしようとすればまったく恣意的で不確実になり、恣意的ではない確実なものにしようとするとまったく不公平になる」(460頁)と言っています。

 ウィリアム三世の時代(1689~1702年)の人頭税は資産より階層が重視され、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、郷士、郷紳、貴族の長子、末子などの身分によって税額が決められ、また商店主と商人の資産が300ポンドを超えるものには同じ金額が課税されました。フランスでは18世紀初頭から人頭税が使われ、政府高官、高等裁判所の判事や役人、軍の士官の身分の高い人には階層ごとに課せられ、庶民には資産を推定する方法が取られました。人頭税は、イギリスではそれほど厳格でありませんでしたが、フランスでは厳格に徴収されたと言っています。

 また、人頭税の徴収にかかる費用は少なくて済みましたが、大国では人頭税の税収に占める比率はそんなに多くはなかったとコメントしています。

 その2―消費財に対する税金 (Taxes upon consumable Commodities)

 スミスは、「人頭税では各人の収入にしたがって課税するのが不可能なことから、消費財に対する税が考えだされたとみられる」(462頁)と言っています。つまり、国民の収入に直接課税する方法を編み出せなかったので、収入にほぼ比例するとみなられる支出である消費財に間接的に課税する方法がとられたわけです。

 消費財は、生活必需品 (necessaries) と贅沢品 (luxuries) に分けられますが、スミスによれば、
   生活必需品=生きていくために必要不可欠なもの+その国の慣習によって恥をかかないために必要なもの
という定義になり、生活必需品以外は贅沢品になります。イングランドで恥をかかないために必要なものとして、亜麻布のシャツと皮靴を挙げています。

 すでにみたように、労働の賃金は労働に対する需要と生活必需品の平均価格によって決まりますので、生活必需品に課税すれば、商品価格が上昇し、それに比例して賃金が上昇します。雇い主が製造業の事業者ならばこの税の負担は消費者になり、雇い主が農業経営者ならば税の負担は地主になりました。
 しかし、贅沢品に課税した場合は、課税商品の価格は上がりますが労働の賃金が上昇するとは限らないと言い、タバコ、紅茶と砂糖、チョコレート、ビールの例を挙げて課税と賃金との関係がないとコメントしています。さらに、課税によって贅沢品の価格が上がれば、貧乏人のうち、堅実で勤勉な人にとっては倹約によって子供を育てやすくなることもあるが、自堕落でだらしない人の場合は子供を育てることが困難になるだろうと言っています。
 「贅沢品に対する税金は、課税対象以外の商品では、価格上昇をもたらす要因にならない。生活必需品に対する税金は労働の賃金の上昇をもたらすので、かならずすべての製造業製品の価格上昇をもたらし、したがって、製品の販売と消費の減少をもたらす要因となる」(465頁)ということになります。その結果,中流階級と上流階級の人々は最終的に自分たちが負担することになるので、「自己利益を理解していれば、生活必需品に対する税金のすべてに、そして労働の賃金に直接にかける税金のすべてにつねに反対するはずである」(465頁)と言っています。

 生活必需品に対する主要な税金には、イギリスでは塩、皮、石鹸、蝋燭の4つの商品に対するものがありましたが、一方、オランダやイタリアのいくつかの公国のように、製粉所でひいた小麦粉や、かまで焼いたパンに税金をかけている国も多いとしています。また、食肉に対する税金も広く使われていると言っています。

 消費財に課税する方法としては、
(1)消費者から年間にある金額を徴収する方法
(2)商品が売られる前に商人が保有している段階で課税する方法
の二つがあり、前者としては馬車税 (coach-tax) と金銀食器税 (plate-tax) があり、その他の税の大部分は物品税 (duties of excise) か関税 (duties of customs) であり、課税方法は後者であるとしています。
 馬車や金銀の食器、住宅は長期にわたって使用できるので、購入時に一度に税金を支払うより、毎年ある価値の税金を支払う方が便利であるとしています。
 短期間に消費される消費財でも、(1)の方法で、商人が納税するのでなく消費者が毎年税金を払って商品の消費許可を得るべきあるというサー・マシュー・デッカーの提案にたいしては、いくつかの理由を挙げて批判しています。

 物品税は主に、国内消費用に国内で生産された商品に課せられ、どの商品にどれだけ課税されるかは明確になっています。物品税の大部分は、「ここでいう贅沢品に対するものであり、例外は前述の塩、石鹸、皮、蝋燭の四品目に対する税金と、おそらくは瓶用のガラスに対する物品税だけである」(471頁)と述べています。





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