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『国富論』再訪(67)
二村 重博 投稿日:2023年07月04日 19:00 No.270
 『国富論』(64)第5編 第2章 第2節 第3項(2010年6月20日)

 第3項―労働の賃金に対する税金 (Article Ⅲ Taxes upon the Wages of Labour)

 スミスの賃金決定の考え方は、「下層労働者の賃金は、第1編第8章で示したように、いつでもかならず二つの要因によって決まる。第一が労働に対する需要であり、第二が食料品の通常で平均的な価格である」(456頁)というものでした。

 *このホームページの、「『国富論』再訪(12)第1編 第8章 労働の賃金」(2020年7月5日)を参照のこと。スミスの考え方を現代的に解釈すれば、次のようになります。
 縦軸に賃金を、横軸に労働量をとり、右下がりの労働に対する需要曲線と右上がりの労働の供給曲線を考えます。賃金にはこれ以下に下がると生活できない最低の生存水準の賃金があります。需要曲線と供給曲線が最低賃金のところで交われば、賃金は生存水準で維持され、その大きさは食料品の価格に左右されることになります。もし人口や所得の増加で需要曲線が右にシフトし、人口増加や技術革新で供給曲線も右にシフトして、その交点が生存水準より上にあれば発展している国であり、その交点が生存水準にとどまれば停滞している国であり、生存水準より下で交われば失業を抱えた衰退している国ということになります。

 スミスは、「労働の需要と食料品の価格が変わらないときに賃金に直接に税をかければ、賃金が税率を少し上回る率で上昇するだけになる」(456頁)と言い、労働の賃金は税率以上の率で上昇しなければならないとして、生存水準の賃金が週に手取りで10シリングのとき、20%の税を賃金にかければ、賃金は12.5シリングに上昇する、つまり25%上昇するという例を挙げています。

 *税引き後の手取り10シリングの賃金は維持されなければならないとして、課税後の賃金に税率tの税金をかければ、課税後の賃金=10+t×課税後の賃金、つまり、課税後の賃金=10/(1-t)となります。したがって賃金の増加率は、
   (課税後の賃金-課税前の賃金)/課税前の賃金
     ={(10/(1-t)-10}/10=t/(1―t)
となります。したがって、t=0.2のとき賃金の増加率は0.25になります。

 それではこの税はだれが負担するかということになります。直接には雇い主が支払いますが、製造業労働者に対する税の場合には、製品価格に上乗せすることになりますので、結局消費者が負担することになります。農業労働者に対する税の場合には、地主に対する地代を減らすしかないので、地主の負担になります。「どの場合にも、労働の賃金に直接に税金をかけた場合、長期的にみて、一部を土地の地代に、一部を消費財に、適切に課税して同じ税収を確保した場合とくらべて、土地の地代の下落幅と製品価格の上昇幅が大きくなるだろう」(457頁)と言っています。
 さらに、労働の賃金に直接税金をかけると、労働に対する需要が減少するので、「課税の結果、産業が衰退し、貧困層の職が減り、その国で土地と労働の年間生産物が減少するのが通常である」(457頁)という面もあります。

 スミスは、「これほど不合理で破壊的な税が、多くの国で使われている」(458頁)として、フランスのタイユのうち農村の職人と日雇い労働者にかけられている税、ボヘミアの手工業者に課せられている税の例を挙げています。

 また、独創的な芸術家や専門職の報酬に課税した場合は、税率より少し高く報酬が上昇するだけですが、公職の報酬 (emoluments of officers) の場合はほとんどの国で適正な水準を上回っている、と言っています。公職の報酬は、民間の職業や専門職の場合と違い、市場の競争で決まらないからです。したがって、税金を十分負担できる報酬を得ており、特に報酬の高い公職に就いている人への税率が高くなれば、国民の間で評判が良くなる、なぜなら、国民のねたみの的になっているからだ、とコメントしています。





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