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国富論』再訪(66)
二村 重博 投稿日:2023年06月27日 18:04 No.262
 『国富論』(63)第5編 第2章 第2節 第2項(2010年6月13日)

 第5編は「主権者または国の収入」を問題とし、第2章では「社会の一般財政収入の源泉」を取り上げ、その中で第2節として「税」を問題にしています。そして、前回は第1項として「地代と家賃に対する税金」を取り上げましたが、今回は第2項として資本からの税金を問題にします。

 第2項―利益、つまり資本から生じる収入に対する税金 (Article Ⅱ Taxes upon profit, or upon the Revenue arising from Stock) 

 資本から生じる収入である利益は次のようになります。
   利益 = 利子 + 余剰部分
 スミスは、「利益のうちこの余剰部分 (surplus part) は明らかに、直接の課税対象にならない。この部分は資本を使うリスクと手間に対する報酬であり、しかもほとんどの場合に、ごく適度な報酬にすぎない」(437頁)とし、利益全体に比例する税金を直接に課せられた場合、(1)利益率を引き上げるか、(2)利子の部分に税金を転嫁して利子支払いを減らすか、であると言っています。
 (1)の場合、資本が農業資本として土地の耕作に使われる場合は、地代を減らすしかなく税金は最終的には地主が負担しますが、資本が商業か製造業の資本として使われる場合は、商品価格を引き上げることになるので、税金は最終的には消費者が負担する、と言っています。
 (2)の場合、資本の利子は、「土地の地代と同様に、資本を使うリスクと手間のすべてに対する報酬を完全に差し引いた後に残る純収入である」(438頁)から、土地の地代と同じように直接の課税対象として適しているように思われますが、土地の地代と比較して課税対象としては適切でない二つの要因があります。
 一つの要因は、土地の場合は各人の所有する土地の面積と価値は秘密にできませんが、資本の場合は秘密にすることができるのと、資本の総額はいつも変動していることです。
 他の要因は、土地は動かすことができませんが、資本は簡単に動かせるという点です。厄介な税金をかけられれば、資本を他国に移すことになるので、その資本で維持された産業は打撃を受けます。「資本の逃避をもたらす税金をかければ、主権者の収入の源泉も社会の収入の源泉もともに枯渇していく要因になる」(439頁)のです。
 したがって、資本からの収入に税金を課そうとしたどの国も、大まかで、恣意的な推定に頼らざるを得ない、とコメントしています。

 イギリスでは、土地、住宅、資本に土地税が課せられていますが、「資本はおそらく、実際の価値のせいぜい50分の1ほどで評価されているにすぎない」(440頁)と言っています。この土地税は資本の総額に比例はしますが、資本の利子に対して課税するものです。
 また、ハンブルクやスイスの各州のように納税を宣誓して納める場合、16世紀末のオランダでスペイン王国の支配から脱した時の一度限りの50分の1税の例を挙げ、その国の事情によっていろいろな形態があることに触れています。

 特定業種の利益に対する税金 (Taxes upon the Profit of particular Employments)

 「いくつかの国では、資本の利益に対する特別の税金として、商業のうち特定業種に使われた資本の利益を、あるいは農業に使われた資本の利益を課税の対象にしている」(443頁)として、いくつかの例を挙げています。

 イギリスでは、商業のうち特定業種として、行商人に対する税、貸し馬車や貸し駕籠に対する税、ビールや蒸留酒の小売り免許に対して居酒屋が支払う税があるとしています。そして、この税は商品価格に上乗せされるので消費者が負担することになると言っています。また、この税が商人の事業規模に比例するものならば問題はないが、事業規模に関係なく一定額を支払うものならば、大商人に有利になり独占を形成する可能性があることを指摘しています。

 フランスの例として、土地保有権の種類に関係なく地主から土地を借りている農民の推定利益を対象とした、動産タイユ (personal taille) を挙げています。農民は耕作に使っている資本を推定され、それによって課税されるので、過大に課税されることを恐れて貧乏を装うようになります。この結果生産量が減少することになりますので、「動産タイユがさまざまな点で農業の障害になり、その結果、どの国でも富の主要な源泉が枯渇する要因になる」(448頁)と批判しています。

 また、北アメリカの南部と西インド諸島での黒人一人当たりに一定額毎年課税される人頭税 (poll-taxes) についても触れ、「奴隷に対する人頭税は、自由人に対する人頭税とはまったく性格が違う。自由人に対する人頭税は本人が支払うが、奴隷に対する人頭税を支払うのは本人ではない」(448頁)とコメントしています。

 オランダの召使にかけられる税は、資本ではなく支出に対する税である、としています。

 第1項と第2項への付録―土地、住宅、資本の価値に対する税 (Appendix to Articles Ⅰand Ⅱ Taxes upon the capital Value of Land, Houses, and Stock)

 資産に対する税金は、資産の価値の一部を納付させるのでなく、資産から生じる収入の一部を納付させようとするものですが、所有者が変わるときに資産価値の一部を納付させる場合もあります。
 遺産の場合や土地・住宅などの不動産の場合は、所有権の移転は秘密にできないので直接に課税できます。しかし、資金の貸借で資本や動産を移転する場合は秘密にできるので直接に課税することは困難です。そのため印紙税 (stump-duties) と登記税 (duties of registration) の二つの方法で間接的に課税されていると言っています。つまり、「第一は、返済義務を規定した債務証書に印紙税を納めた用紙か羊皮紙を使うよう義務づけ、印紙税を納めていない場合には債務証書を無効にする方法である。第二は、公開か非公開の登記を義務づけ、登記に一定の税をかけて、登記していない場合には債務証書を無効にする方法である」(450頁)というものです。

 スミスは、相続税については、古代ローマの事例とそれと同じ種類のオランダの相続税について、また、封建法 (feudal law) の下での相続税と土地譲渡に対する税金、それと関連するスイスのいくつかの州での土地譲渡税について触れています。

 また、印紙税と登記税については、イギリス、オランダ、フランスの場合を述べています。そして、この印紙税と登記税は新しく発明されたものですが、1世紀余りのうちにヨーロッパのどの国でも使われるようになり、「国民から税金を引き出す方法ほど、政府が他国から素早く学ぶものはないようだ」(453頁)と言っています。

 さらに税金の負担に関しては、相続税の場合は譲渡された人が直接負担しますが、土地の売買に対する税は売り手の負担になる、と言っています。土地の所有権をつけない新築住宅の場合は買い手の負担になり、中古住宅の場合は売り手の負担になる、と言っています。さらに、敷地地代を生み出す土地の売買は売り手の負担、債務証書や債務契約に対する印紙税と登録税は借り手の負担、訴訟に対する同様の税金は訴訟当事者の負担になると言っています。

 スミスは、「担保権をはじめ、不動産に対する各種の権利の登記は、貸し手と買い手に大きな保証を与えるので、社会にとってきわめて役立つものである」(455頁)と言っています。
 さらに、トランプやサイコロ、新聞や雑誌の印紙税やビール、ワイン、蒸留酒の小売り免許状にかかる印紙税は最終的には消費者が負担しますが、「これらの税は同じ名前で呼ばれているし、資産の移転にかかる前述の印紙税の場合と同じ役人によって、同じ方法で徴収されているが、性格がまったく違い、支払いの源泉もまったく違っている」(455頁)とコメントしています。





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