近畿植物同好会 掲示板
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ハガクレナガミラン、イリオモテカヤランの原記載など
藤井俊夫 投稿日:2023年09月10日 15:05 No.842
●ハガクレナガミラン
Thrixspermum fantasticum L.O.Williams
原記載:
Bot. Mus. Leafl. Harvard Univ. 6: 82 (1938)
https://www.biodiversitylibrary.org/item/32873#page/101/mode/1up
82pに、ハガクレナガミランの原記載があります。分布はフィリピン。

●Thrixspermum(カヤラン属)
スリランカから東南アジアの島嶼に約100種が分布する。着生植物が多い。
online edit. Flora of China より。
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=132891
日本には、カヤラン、一種のみが知られている。

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●イリオモテカヤラン
原記載は、2016年です。
原記載:
O’Byrne, P. 2016. Thrixspermum in Borneo; 24New and Old Species.Malesian Orchid Journal Vol. 18 : 5–74.
イリオモテカヤランの記載は、p51-p53.
https://www.researchgate.net/figure/Thrixspermum-annamense-A-habit-B-flower-C-inflorescence-with-flower-D-clockwise_fig36_322569136

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葉だけの状態(sterile condition)では、区別不能と思います。
開花個体(fertile condition)の、唇弁が写っていないと、写真で区別できません。

新種記載前の、2016年以前の写真および、図鑑などは、両者を区別していないとみるべきでしょう。
2016年以降でも、イリオモテカヤランが日本に分布しているとの報告がなければ、区別できません。
末次さんの今回の報告で初めて日本に分布したことが明らかになったわけで、これから情報が集まってくると思います。

●ハガクレナガミランが記載されたのは1938年、これからイリオモテカヤランが分離独立したのが、2016年です。
ラン科の分類は、花の立体構造が重要です。押し葉標本では、花の構造が再現できないので、今まで研究が進んでいないものと考えられます。
DNA分析技術の進歩と、1sample当たりの分析費用の低価格化、分析装置の高速化・低価格化によるところが大きいと思います。
新型コロナのPCR検査で低価格化と普及が進んだか?
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●今後の保護上の課題として
両種の生活史特性の違い(送受粉機構、送粉昆虫などの違い)
生育環境に違いがあるのか?(着生なので、着生する基質の違い、着生する高さの違いなど)

 東南アジアの着生植物であるオオタニワタリの仲間には、着生する高さ(樹高)によって種類が違うとの報告があります。
形態的にはほとんど区別できず、同胞種、隠蔽種などと呼ばれています(DNAレベルで、別種とされた)。。

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●蛇足
図鑑の写真には、よく騙されました。

例:平凡社の旧版、日本の野生植物の写真も、間違いが多かった。
ヤナギヌカボの写真はヤナギタデ。
ミズキカシグサは、ヒメミソハギ
ヒメキカシグサも、ヒメミソハギ
ヒュウガミズキの果実の写真は、上下が逆だった。
 版を重ねるごとに修正されています。

保育社の原色図鑑も版を重ねるごとに内容が修正されています。
木本編のノイバラ属だっったかな?
初版本で、検索表の雌蕊の毛の有無で区別するが、最終的な種の部分が入れ替わって(逆になって)いて、検索表と、種の記載が合わないと悩んだことがあります。
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●以下、藤井が図鑑の分布情報を信じたために、同定が遅れた植物(近畿地方初記録の植物)
 分布情報が間違っている、または分布情報がないなどで、同定すべき分類群から除外してしまっていた。
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1989年、滋賀県 サギスゲ (滋賀県初記録);採集時に、判明。(図鑑やRDBの分布記録から)
    ●標本はOSAに収蔵
1989年、京都府 カツラギグミ (京都府初記録);RDB作成時(1-2年後)に判明。
    現地では、すでに見つからず。
    ●標本はOSAに収蔵
1999年、兵庫県 ササバギンラン(兵庫県初記録);RDB作成時(1-2年後)に判明。
    兵庫RDBでは、シカの食害によりExの判定。兵庫県植物研究会会報に報告。
    ●標本はHYOに収蔵
1999年、兵庫県、シデシャジン (兵庫県再発見);採集時に、判明。(図鑑やRDBの分布記録から)
    兵庫の植物に報告。
    ●標本はHYOに収蔵
2015年、兵庫県、タマムラサキ (兵庫県初記録);RDB作成時(2018年)に、判明。
    兵庫の植物に報告。
    ●標本はTNSに収蔵
2018年、兵庫県、ナンゴクヤマラッキョウ(本州初記録);以前の標本(2015年の、タマムラサキ)が気になって、再検討。
    ●標本はTNSに収蔵
    兵庫の植物に報告。
2018年、大阪府、コツブヌマハリイ(近畿初記録);種名が判明するのに、2ケ月かかる。
    近畿植物同好会に報告。
    ●標本はKYO, OSAに収蔵
2020年、兵庫県、上記ナンゴクヤマラッキョウが、新分類群の可能性。
    兵庫の植物に報告。(2015年にタマムラサキとした集団)

2020年、上記ナンゴクヤマラッキョウが気になって、type locarityで、現地調査。
    ナンゴクとは違うことが判明。仮称:ニセナンゴクヤマラッキョウとする。

●他に、兵庫県初記録のコアマモなど、未報告の植物が多数ある。
●蛇足で、ハイノキ、ヒメミコシガヤが大阪府に分布しないことを近植で報告している。
 ラベルの読み間違い
 ハイノキ:泉を大阪府和泉地方と誤認。実際は高知県鳥形山ふもとの泉地方
 ヒメミコシガヤ:摂津有馬を大阪府と読み間違えた。摂津は、有馬など六甲山系を含んでいます→兵庫に訂正
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ここまで来るのに、40年かけて、4万点近くの標本を採集しています。
(1年で、1000点以上)。植物図鑑の代金だけでも50万円は超えていると思う。
(本棚、2個を占拠している:平凡社が高い。旧版、改訂版をそろえるだけで軽く20万円を超える)


辻本 穣 投稿日:2023年09月11日 14:27 No.848
当園はカヤランを栽培ていますが、まだ花をみたことがありません。
(他にボウラン、ニュウメンラン、キバンセッコク)
ハガクレナガミラン、イリオモテカヤランをいつかは現物をみたいものです。

私もやっと植物園を離れて、外に出る機会が増えましたが、お教えてもらえないと解らない植物ばかりです。




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