近畿植物同好会 掲示板
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ヤサカフウロ
相良真佐美 投稿日:2024年05月03日 14:56 No.1215
4月25日に水無瀬渓谷に行った後、島本町尺代にヤサカフウロが咲いているという情報をいただきました。
5月2日に、「尺代の道沿い」という情報だけでしたが、初耳なのでネットで特徴を調べ、ぐるりと回ってみました。
そうすると、道沿いにびっしりヤサカフウロが生えていました。花の色や大きさはピッタリです。葯の色も黄色です。
ヒメフウロは赤い葯で、一部には黄色い葯もあるそうですが、葉の形がヒメフウロと違います。

このヤサカフウロの詳しい情報提供を今日呼び掛けると、「近畿植物同好会会誌第35号、2012」p11-13にあると回答が来ました。
またご親切に、そのコピーも送ってもらいました。豊原稔さんの執筆でした。

 ●会誌第35号(2012年1月) 豊原 稔 「大阪府下に帰化したヤサカフウロGeranium purpureum Viliars」

とあり、詳しく島本町尺代で見つけた経緯が載っていました。地図もあり、5月2日に見てきたこととピッタリ合っていました。
記事では、「10数mの群生」とありますが、最初見つけた株から最後の株まで記録し、帰ってグーグルマップで距離を測りました。
すると群生の範囲は450m(途中生育していない個所もあります)でした。10数年経って大きく広がったことになります。
今、撮影した写真を整理していますが、珍しい変化も分かりました。またまとめて報告します。


ヤサカフウロ-2 相良真佐美 投稿日:2024年05月03日 18:11 No.1216
ヤサカフウロの葯が黄色か調べていると、葯が10個のはずが、5個の物がそこそこ見つかりました。

「改訂新版 日本の野生植物 3 」(平凡社 2016)でフウロソウ科の検索表の雄蕊は、
  ■オランダフウロ属 (Erodium) 雄蕊は内外2輪に並び、外輪の5個には葯がない。
  ■フウロソウ属 (Geranium)  雄蕊は内外2輪に並び、ともに完全で稔性のある葯をつける。
ヤサカフウロは Geranium purpureum Viliars ですからフウロソウ属です。

ところが、フウロソウ属の解説文では「雄蕊は10個、すべて稔性をもつか、ごくまれに5個が仮雄蕊となる」と記述されています。
 
この「ごくまれ」に遭遇したようです。しかしごくまれにしては、10%ぐらい見つかります。
これは、まだ初夏の最初で、特に川上側は生長が遅いです。もう少し経てば「完全で稔性のある葯をつける」かも分かりません。
もう少し時間をかけて観察したいと思います。


本当に「ヤサカフウロ」でしょうか? 藤井俊夫 投稿日:2024年05月06日 18:06 No.1218
本当に「ヤサカフウロ」でしょうか?

Flora of Chinaのヒメフウロのイラストと、Hye-Won KIM et al.(2019)のイラストを比較してください。
掲示板のGeraniumの画像は、葉が4深裂(5裂片に分かれる)しています。
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●ヒメフウロ(Geranium robrtitanum)
Flora of Chinaでは、以下の記述があった。
Stamens 10, in 2 whorls, outer ones opposite to petals, inner ones alternating with petals, all with anthers or very rarely (in G. pusillum) 5 reduced to staminodes.
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=113475
雄蕊は10個、外輪は花弁と向かい合って配列、内輪は交互に配列。非常にまれではあるが、5本に退化し、仮雄蕊になる(G.pusillum)。

●ヤサカフウロ(Geranium purpreum)
以下の論文に詳しいイラストが載っています。
Hye-Won KIM, Eun-Mi SUN, Su-Young JUNG and Dong Chan SO. 2019。
Geranium purpureum Vill: A new casual alien plant in South Korea. Korean Journal of Plant Taxonomy 49(3):209-214。
https://www.researchgate.net/publication/336020314_
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●葉身の分裂様式
Kim(2019)の図2-Fで、(ヤサカフウロ)葉心基部の拡大図があります。これによれば、3裂片に深裂した後、さらに5裂状になっています。
Flora of China(2008)の図(ヒメフウロ)では、掲示板の写真と同じ、分裂様式を示しています。

●葉の裂片先端の形状
ヒメフウロ(G.robrtitanum)の図の、葉の裂片の先端は鋭形です。
ヤサカフウロ(Geranium purpureum)の図の、葉の裂片の先端は鈍形です。

●葉の形質比較
G.robrtitanum(ヒメフウロ):葉は5深裂。裂片の先端は鋭形。
G.purpreum(ヤサカフウロ):葉は3深裂から5裂に移行。裂片の先端は鈍形。

●萼片の毛の状態
ヤサカフウロ:Plant Biodiversity of South-Western Morocco
あらい毛が萼片上に散生。茎上の毛は萼上の毛よりも長い?
https://www.teline.fr/en/photos/geraniaceae/geranium-purpureum
New Zealand
https://www.nzpcn.org.nz/flora/species/geranium-purpureum/

ヒメフウロ:Foto di piante spontanee, erbe selvatiche e arbusti della flora mediterranea.
長毛と短毛が生える。茎上の毛は萼の毛よりも短い?
https://www.piante-spontanee.it/specie/geranium-robertianum
https://www.francini-mycologie.fr/BOTANIQUE/Geranium_robertianum.html
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掲示板の写真:葉は5深裂。裂片の先端は鋭形。萼裂片の毛はヒメフウロに似ている。
ヒメフウロとすれば、雄蕊は5本で、仮雄蕊があります。


以上の形質を見ると、とても当該植物がヤサカフウロとは思えません。
ヒメフウロは、最近各地で園芸からの逸出と思われる個体が報告されています。
名古屋大博物館の西田研究室site
https://www.num.nagoya-u.ac.jp/outline/staff/nishida/laboratory/research/research1_2.html
論文
https://www.num.nagoya-u.ac.jp/outline/staff/nishida/laboratory/research/apg62_23p79-87.pdf

海外から侵入した植物は、日本の種類と同じ種でも、違う形質を示すことがあります。
ヒメフウロについても、葯の色や、葉の裂片、茎上の毛の状態など、海外の文献を参照して、種内変異を抑えるべきだと思います。
海外のヒメフウロには雄蕊が5本から10本と、変化する系統があるかもしれません。
ヒメフウロの葯の色はピンクからオレンジ、黄色と様々な系統があるらしい。葯の色、その他の形質で亜種や変種が記載されています。
Undehisced anthers pink, orange or purple (occasionally dull yellow in late flowers)
RICHARD J. TOFTS。2004.Geranium robertianum L.Journal of Ecology. Volume92:Pages 537-555。
https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.0022-0477.2004.00892.x
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日本のGeranium属

属の解説で、
「雄蕊は5本ずつ、1-3輪」:平凡社(旧版:日本の野生植物)
「雄蕊は逆2重で、10、まれに15本」:保育社
「雄蕊は10個。完全::大井:日本植物誌
「雄蕊は10本で、どれも葯を持つ::神奈川県植物誌1988

在来のGeraniumの雄蕊本数
ヒメフウロ:雄蕊(5)
ゲンノショウコ:雄蕊(10)
ハクサンフウロ:雄蕊(10)
イチゲフウロ:雄蕊(10)
コミツバフウロ:雄蕊(10)
エゾフウロ:雄蕊(10)
イブキフウロ:雄蕊(10)
イヨフウロ:雄蕊(10)
アサマフウロ:雄蕊(10)
タチフウロ:雄蕊(10)
ビッチュウフウロ:雄蕊(10)


植村 修二 投稿日:2024年05月07日 16:34 No.1221
相良真佐美さま、藤井俊夫さまへ。

 相良さんが投稿された植物はヤサカフウロと思います。藤井さんがおっしゃるとおり、島本町のものは葉の切込みが深く、裂片が細く、自宅栽培のヤサカフウロとは違ってますが・・・
 
 フウロソウ属は、茎の上部に着く葉になるほど、種の特徴が分かりにくくなります。
 
 参考までに、自宅栽培のヤサカフウロ、ヒメフウロ(ただし生育不良)の画像、いい出来じゃないですが、先ほど撮影したものを載せます。


ヤサカフウロとヒメフウロの識別点(萼片の毛の状態) 藤井俊夫 投稿日:2024年05月08日 09:44 No.1222
相良さま、植村さま                藤井

葉の形状は種内変異が大きく、Geranium属の同定の決め手にならないことに納得しました。
相良さんの写真で、全景を拡大すると、萼片に細かい毛が生えているので、ヤサカフウロ(Geranium purpureum)になると思います。

以下のsiteに区別点(花の図)が載っています。
Downloading Fig 4 from "Geranium purpureum Vill: A new casual alien plant in South Korea". Korean Journal of Plant Taxonomy 49(3):209-214。
https://www.researchgate.net/figure/Size-of-flowers-and-hairs-on-the-calyx-A-Geranium-purpureum-B-G-robertianum_fig4_336020314
Fig.4. : Aが、ヤサカ; Bが、ヒメ。
以下のsiteも。
https://e-kjpt.org/m/journal/view.php?number=4925


相良真佐美 投稿日:2024年05月08日 14:50 No.1223
昨日(5月7日)、ヤサカフウロの確認のために、島本町尺代の豊原稔さんが同定された会誌第35号の場所に行きました。

そして、生育範囲を調べるために、道沿いに見つけた最初と最後の位置のGPSデータを使ってグーグルマップで測りました。
今回は、5月2日よりも念入りに調べました。また、山側だけでなく川側も調べました。その結果、山側700m、川側580mに広がっていました。

まず花の径ですが、6~10mmでした。ヒメフウロは15mmですから、半分ぐらい小さいです。
花は最初1株につき1つずつ葯の色と、葯の個数を調べて行きました。
途中で、葯が5個の花を見つけ、その株にしぼって徹底的に調べると、その株の残りの花はすべて葯が10個でした。
つまり、株ごとに葯の個数が変わるのではありませんでした。
葯の数が株単位で5個か10個と違うという思い込みが間違いでした。その後はランダムに数えて行きました。

結果は120本(母数を増やせばもっと正確なのですが、撮影は300枚しました)の花を調べ、葯はすべて黄色。
葯が5個のは4本でした。5月2日の5個の葯は10%ほどではなく、母数が120本では3.3%でした。

この花の変異は、雌しべでも見られました。
フウロソウ属は雄性先熟で、普通、雄しべが先に成熟し、枯れた後に雌しべが活動して自家受粉を防いでいます。
しかし、120本の内の数本ほどが、雄しべが枯れていないのに雌しべが熟しているのが、見つかりました。初見です。

■今回分かったこと
 花径は、6~10mmでヒメフウロの半分ぐらい。葯は全て黄色。
 雄しべは全て10本、葯は10個。ただし、葯が5個のものと仮雄蕊が5本のものが、まれに現れる。
 葉の形状は鳥足状で、3〜5裂し、裂片は更に羽状に深裂する。茎の上の方の葉は先端が鋭くなり、茎の下の葉は先端が丸くなる。

へばりついて観察していると、地元の人が「なんも珍しないわ~、これヤサカフウロゆうねん」と言って去っていきました。


ヤサカフウロの受粉 相良真佐美 投稿日:2024年05月10日 10:42 No.1225
5月7日に採集したヤサカフウロの受粉を顕微鏡撮影しました。
10個の葯の撮影を試しましたが、熟している葯は振動で外れやすく撮影できませんでした。また、葯の成熟に差があるようです。
役目が終わった葯は、自分の雌しべの邪魔にならないようにすぐに外れるのかも分かりません。
自家受粉のも見つけました。遺伝的多様性の面では不利ですが、受粉の成功率は格段に高いです。
自家受粉発生率は分かりません。本やネットで答えはすぐでしょうが、足を運んで現物で調べるのが楽しいのです。


自家受粉について 藤井俊夫 投稿日:2024年05月10日 13:32 No.1226
相良様                  藤井

写真からだけでは、自家受粉、他家受粉の区別は不可能なはずです。
自家受粉による結実率は、厳密には、葯の切除実験、人工授粉実験、袋掛け実験などの結実率を測定したうえで算出できるものです。
このような厳密な実験をする労力を考えれば、よほど有用な(農作物、園芸植物など)植物でないと、研究されないのが実情です。
例:アーモンド、ヘーゼルナッツ、サクランボ、オリーブなどの自家不和合性植物などがよく研究されている。

●参考
Lovett Doust and Lovett Doust. 1988. Plant Reproductive Ecology. Oxford Univ. Press.
種生物学会(編)2000.花生態学の最前線。文一総合出版。3000円。

花粉1個で、親子鑑定をする方法があります。
Isagi,Y. 2011. Significance of Single-Pollen Genotypying in Ecological Research.
in Isagi,Y Suyama,Y.(eds) Single-Pollen Genotyping. Ecological Research Monographs. Springer, Tokyo.
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以下のsiteにヤサカとヒメの雑種が報告されています。
(ヨーロッパでも、最近まで2種あることが十分認識されていないようです)
●Manual of the Alien Plants of Belgium
https://alienplantsbelgium.myspecies.info/content/geranium-purpureum
★今後、日本在来のヒメと外来のヒメ(園芸植物からの逸出)、八坂の交雑が心配です。

●ヤサカの分布図
Grobal Biodiversity Information Facilities
https://www.gbif.org/species/2890541
Euro-Med PlantBase
https://europlusmed.org/cdm_dataportal/taxon/d23d8a45-a7f5-4c4d-a83b-a90e8dbb4d48

●ヒメの分布図
Grobal Biodiversity Information Facilities
https://www.gbif.org/species/2890668
Euro-Med PlantBase
https://europlusmed.org/cdm_dataportal/taxon/a295af7a-ece8-4555-b7c1-adc2a8179e14




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