近畿植物同好会 掲示板
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淡墨桜
磯野久美子 投稿日:2024年04月10日 18:29 No.1175
4月6日、根尾谷の淡墨桜(岐阜県本巣市)を見て来ました。
満開で、白い清楚な花でした。
看板の説明には「彼岸桜の一種(ウバヒガン)」と書いてありました。
本巣市のサイトによると「ウバヒガン」は牧野富太郎博士の命名によるものだとか。Yリストによると標準和名は「エドヒガン」となっていました。
蕾の時は薄いピンクで、満開になると白色になり、淡墨色を帯びるのは散り際なのだとか。
それにしても1500年という樹齢の巨木はとても風格がありました。
真下からも見上げたかったですが、根を守るために周囲は立入禁止でした。
背後に「淡墨二世」がいました。大正12年に植えられたとのことです。
親の木は立入禁止エリアが広くて、個々の花までははっきり見えませんでしたが、二世の枝で間近に花を見る事ができました。
近くで見ると、なんとなく桜というより梨の花みたいだなあと思いました。花弁の形や花の開き方は違うのですが、白いからでしょうか。
ガクの外側は赤みがかっていますが、内側は緑色のようで、白い花弁に緑色が透けて見えて美しいと思いました。
白っぽい空をバックに白い花を写したので、どの写真もピントがきれいに合っていないのが残念です。

写真1淡墨桜(正面から見た姿。背後の個体は「淡墨二世」)
写真2淡墨桜(二世の所から見た姿)
写真3~4淡墨桜(幹の中心部分。葉が出ている)
写真5淡墨桜(満開の様子)
写真6~8淡墨二世の花


ウバザクラの名称について 藤井俊夫 投稿日:2024年04月11日 12:53 No.1176
ウバザクラは、牧野の命名ではないかもしれない。
牧野の原記載論文です。
Makino,T. 1908.Observations on the Flora of Japan.(Continued from p. 102). Botanical Magazin, Tokyo. 22(258):en113-en120。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/22/258/22_258_113/_pdf/-char/ja
p114-p115.に、エドヒガンの記載文があります。
以下、抜粋。
Nom. Jap. Edo-higan (nov.), Tachi-zakura.
エドヒガン(江戸彼岸)、タチザクラ(立櫻)としています。

また、エドヒガン記載文の文末に東京では「ヒガンザクラ」と呼ばれていると記述しています。

西田尚道(監修).2009.日本の樹木。学習研究社。1980円。に、牧野富太郎が乳母桜と命名したと、Wikipediaに載っている。
これを引用して、本巣市のsiteに、「ウバザクラ」と記載したものと思われます。

では、誰が「ウバザクラ」と命名したのか?
ウバザクラ:花の時期に葉(葉)が無いことを表した名前といわれる。
疑問は深まるばかりです。
ウバザクラは、江戸時代から使われていたらしい。
本草綱目や、草木図説あたりから調べないといけないらしい。


●本巣市のsite
https://www.city.motosu.lg.jp/0000000302.html

所在地:岐阜県本巣市根尾板所字上段995
普通呼称:根尾谷淡墨ザクラO
品種:彼岸桜

和名:
ムレヒガン…三好學博士
ウバヒガン…牧野富太郎博士
エドヒガン…大井次三郎博士

樹齢:1,500余年
樹高:17.3m(2019年1月測定、以下同じ)
幹囲目通り:9.4m
枝張り:東西22.4m 南北24.2m
指定:大正11年10月12日 内務省天然記念物指定(指定の事由)由緒ある桜の代表的巨樹


●兵庫県養父市大屋町樽見にもエドヒガンの大木があります。
養父市のsite
https://www.city.yabu.hyogo.jp/soshiki/kyoikuiinkai/shakaikyoiku/1/4/tarumi/6329.html

資料2 『兵庫県史跡名勝天然記念物調査報告書第4号』昭和2年(1927)3月発行
樽見の大桜(大正15年)
地上1.5メートルの幹回 5.15メートル。樹高 20.0メートル。
2020年時点で樹齢1000年を超えるともいわれる。


Re:ウバヒガン、ウバザクラ 磯野久美子 投稿日:2024年04月11日 21:28 No.1177
藤井俊夫様

日本の桜についての牧野博士の論文をありがとうございました。
確かにこの中にはウバヒガンという名称は出て来ていないですね。
牧野博士ご自身がお付けになった名称なら、きっと誇りを持って記されたのではないかと思うので、藤井さんが仰る通り、牧野博士の命名ではないかもしれないですね。
とりあえず、現地にあった淡墨桜の説明板の写真を載せておきます。(写真1)
それと、現地で配られていた説明書を改めて読み直すと、エドヒガンとしか書いてありませんでした。(写真2、3)

ところで、花の時期に葉(歯)がないからウバザクラという洒落が面白かったので、ちょっとググってみました。
Wikipediaの「サクラ」の「関連語」の所には
「うばざくら(姥桜、乳母桜)は、開花時に葉がないことから歯がないを暗喩した桜の通称。または桜には見頃があることから、年配でありながら艶めかしい女性を指す古語。春の季語。」と書いてありました。
古語とか季語とか書かれているので、ウバザクラという言葉自体は誰が言い始めたか分からない俗称なのかもしれないと思いました。
ウバザクラの彼岸桜だからウバヒガンと牧野博士が即興的に仰られたのかもしれないとも思いました。勝手な推測に過ぎませんが。
デジタル大辞泉の「姥桜」には
1.葉が出るより先に花が開く桜の通称。ヒガンザクラ、ウバヒガンなど。葉がないことを「歯無し」に掛けた語という。
2.女盛りを過ぎても、なお美しさや色気が残っている女性。
と書いてありました。
和文化おもてなし講師の安達和子さんのブログ「マナー研修」には、自虐ネタで「私は姥桜だから」と言うのは謙遜しているつもりで、実は自慢していることになってしまうので気をつけなければならないと書いてありました。
私は「姥桜」と言われて喜ぶ女性がいるとは思っていなかったのですが、本来は誉め言葉なのだと知りました。


Re:ウバヒガン 磯野久美子 投稿日:2024年04月12日 08:26 No.1178
昨夜は勝手な推測で大変失礼しました。
牧野博士の桜の論文は1908年に出ているのでしょうか?
ひょっとしたら、その発表後に命名されたのかもしれないと、今朝目覚めた時にふとそう思いました。
これも勝手な推測ですが。


Re:ウバヒガン 磯野久美子 投稿日:2024年04月12日 08:40 No.1179
牧野博士が昭和18年(1943)に出版された『植物記』の「彼岸ザクラ」の項目の所にウバヒガンについての記述がありました。
https://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/51368_56013.html


ウバザクラの命名者 藤井俊夫 投稿日:2024年04月12日 12:36 No.1180
ウバザクラの命名者

牧野がエドヒガンを新種記載した年は、前の掲示板に示したとおり、1908年です。
牧野の原記載論文です。
Makino,T. 1908.Observations on the Flora of Japan.(Continued from p. 102). Botanical Magazin, Tokyo. 22(258):en113-en120。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/22/258/22_258_113/_pdf/-char/ja
*********************************************************************

牧野は、「植物記」、「続・植物記」を出版しています。
底本の親本:「植物記」桜井書店
   
植物記は1943(昭和18)年8月20日発行です。
青空文庫の最後に底本の詳細が記述されています。
https://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/51368_56013.html
続・植物記の出版は1944年でした。
以下のsite参照。

日本の古本屋
https://www.kosho.or.jp/products/detail.php?product_id=507428189
牧野富太郎。1944. 続・植物記。桜井書店。

以上のことから、1908年には植物学雑誌に発表したエドヒガンの記載文しか見当たりません。

****************●ウバヒガンの初出と思われる図鑑●********************************
牧野富太郎。1940.牧野日本植物図鑑。北隆館。定価1800円。
昭和24年(1949年)発行の第7版がありました。
p436に: 

うばひがん
一名 えどひがん・あづまひがん
Prunus itosakura Sieb. var. ascendens Makino
と、あります。
これが、「うばひがん」を、エドヒガンと同じ(synonym)とした最初だと思います。

****************●以上から、次のように解釈できます●******************************

Makino.1908.では、エドヒガンに対して、イトザクラ、タチザクラとする和名を提唱し。
牧野。1940(牧野日本植物図鑑の初版本)。では、「うばひがん」とし、エドヒガン、アヅマヒガンを同一種(種内変異か?)としたことになります。
牧野.1943.では、エドヒガンを3変種などに細分し、
  それぞれ
 ①ヒガンザクラ(一名コザクラ)、
 ②ウバヒガン(一名ウバザクラ、タチヒガン、アヅマヒガン、エドヒガン)、
 ③シダレザクラ(一名イトザクラ)とした

★「うばひがん」の初出は、上記から1940年と考えます。


****************●以下は参考●*****************************************************
飯沼慾斎(原著)・北村四郎(編注)。1977.草木図説:木部(上)。保育社。8000円
上記書籍には、「シダレザクラ」の記述があります。
巻四 図五十互、博物館増補図八十六

シダレザクラ(飯沼慾斎:1782年ー1865年)
樹ヨク生長シ往々合抱ニ及ひ、幹高ク従ヘ、多くク枝ヲ分チ四方ヘ広ガリ、細條糸ノ如ク長ク垂レテ地ニ延クニ至ル、花蕊形色ハヒガンザクラト同シテ、赤軍差微ナルノミニシテ全ク同族異種ニカカル者ノ如ク、桜中ノ一奇品ト称すべし。
解説は北村四郎で、別名としてイトザクラ。エドヒガンの下垂する品種と記述している。(1977年の記述)

***************●貝原益軒の大和本草(1708-1715)●***********************************

牧野の「植物記」から抜粋

彼岸ザクラの名は早くも貝原益軒の『大和本草』に出で、その巻の十二に次の通り述べてある。
彼岸桜 其花桜花ヨリ小ニシテ桜ニ先立テ早ク開クコト旬余日花開ク時葉未レ生桜ヨリ小樹ナリ花モ小也桜ノ類也

同書、上の文に次で
ウバ桜モ彼岸桜ノ類ナリ彼岸桜ノ次ニ開ク是モ花開ク時葉ナキ故ウバ桜ト名ヅク

★この2種を牧野は「植物記」の中で同種であるとしている。
これから「ウバヒガン」という名称が生まれたのかもしれません。
彼岸桜とウバ桜の合成語?

***************●エドヒガンの地方名●********************************************
八坂書房(編)。2001.日本植物方言集成。八坂書房。16000円。には、
エドヒガン(ヒガンザクラ)の方言として以下のような名前がある。

あずまひがん:和歌山(東牟婁)
いぬざくら:愛媛、大分
こごめざくら:山口(佐波)
ちござくら:鹿児島(出水)
ひがんざくら:高知、大分、熊本、鹿児島
ひめざくら:熊本(球磨)
へこきざくら:愛知(北設楽)
へっぴりざくら:埼玉(秩父)
べんざくら:鹿児島(出水)
もーくさ:徳島(那賀)
ももざくら:神奈川、山梨、徳島
よぐそざくら:静岡(田方)
             
など【関東には、あまり分布しないのか、近畿以西の方言ばかり】
************************************************************************************
エドヒガンは、近畿地方では箕面から川西池田周辺の河川沿いのの斜面崩壊地などにみられる。
石田 弘明・浅見 佳世・黒田 有寿茂・青木 秀昌・服部 保.2009.猪名川上流域における希少樹種エドヒガンの生育立地と個体群構造。保全生態学研究。14 : 143-152。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/14/2/14_KJ00005927682/_pdf/-char/ja


Re:ウバヒガンの初出 磯野久美子 投稿日:2024年04月12日 13:26 No.1181
藤井俊夫様

『植物記』にある「…拙著『日本植物図鑑』には上に述べた両種を極めて明瞭に区別して書いて置いた…」の『日本植物図鑑』が1940年に出た牧野日本植物図鑑の初版本なのですね。
詳しくご説明いただき、ありがとうございました。


Re:ウバヒガン 磯野久美子 投稿日:2024年04月12日 13:57 No.1182
藤井俊夫様

2枚目の写真に上げて下さった図鑑の説明文を拡大して読んでみました。
「和名姥彼岸ハうばひがんざくらノ略ニシテ」という記述もあると分かりました。
ありがとうございました。




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