近畿植物同好会 掲示板
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カンエンガヤツリを採集する
水田光雄 投稿日:2023年12月18日 18:42 No.1044
冬将軍到来、植物観察オフシ-ズンの話題提供です。

 本年(2023)9月30日、兵庫県南東部の武庫川で不明の大型のカヤツリグサ属の一種を採集した。
帰宅後、手持ち資料やHP等で検索して同定した結果カンエンガヤツリと判断した。
本県ではRDB種「要注意種」とされている。

 後日、兵庫県立人と自然の博物館に出向き、当博物館に収蔵されている本県の標本について調べたところ、
今から40年程前の西宮市で採集された標本が収められていが、
今回生育のあった場所は別な場所でした。

 本種は全農教日本帰化植物図鑑第2巻P.371には、在来種として
茨城県取手市の写真が、また帰化種として三重県鈴鹿市の写真が掲載されてる。
分布は、東南アジアから中国、朝鮮半島に広く分布するもので、
和名命名者は、牧野富太郎博士に因るものです。

 我が国での分布は、HPで調べたところ関東~東北地方にかけ確認されているが、
西日本では全く無い。
この片寄った分布の違いをどの様に解釈したら良いのか疑問に思っている。

 本種は水鳥分散と考えられているが、古くには繊維植物として利用されており、
栽培等からの逸出が考えられ、この様な状況下での分布拡大もあると思われる。

 これに関連して、県立人と自然の博物館の藤井俊夫研究員が、
万葉集の忘れ草(ノカンゾウ、ヤブカンゾウ)は、カンエンガヤツリのことである
と言う合理的な説明が公開されている。
以下、HP等参考の事。
 この事から、我が国には万葉の時代から渡来品(意図的、非意図的)があったものと解釈できる。

 会員の方で、関東地方以外、西日本の近畿、中国、四国、九州地方での
採集経験のある方がおられましたら情報提供をお願いします。

https://www.kobe-np.co.jp/news/sanda/202212/0015901639.shtml
https://www.hitohaku.jp/material/dayori20221219.pdf
藤井俊夫(2023) 近畿植物同好会々誌第46号P.41-42、
        万葉集の植物に関する考察2「わすれぐさ」


カンエンガヤツリの標本による日本での分布:年代別 藤井俊夫 投稿日:2023年12月19日 13:34 No.1046
かんぞう「萱草」は、カンエンガヤツリだけを指していないかもしれません。
ヌマガヤツリを含めて、韓国では「萱草」としています。
以下の文献を参照のこと。
森田潔。1964.朝鮮産萱草(ワングル)の特性と作物学的分類に関する研究。育種学雑誌。14(4):218-220.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbbs1951/14/4/14_4_218/_pdf/-char/ja

★茨城県農業試験場で栽培している。
この栽培個体群から逸出したと考えるのが妥当ではないか?

カンエンガヤツリ:Cyperus iwasakii → Cyperus exaltatus
ヌマガヤツリ:Cyperus glomeratus

************************************************************

●カンエンガヤツリの世界の分布(plnats of the world online)
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:77169661-1#distributions
日本でのRDB指定:東北、関東、山口
http://jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=06050306392
短命な多年草。
偶発的に生えることが多く、攪乱後に大群落が出現することもある。
★東北地方の分布は、茨城農業試験場から逸出した(渡り鳥によって散布された)と考えれば説明が着くと思います。
最近になって、関東から東北の各地で採集されている。1960年代以降。

カンエンガヤツリ標本の採集年(サイエンスミュージアムネットより)
https://science-net.kahaku.go.jp/

1893年:台東区、千代田区(高知県立牧野植物園所蔵)★合計2枚
1910年代:台東区★合計1枚
1920年代:和歌山県新宮市(2枚)★合計2枚
1930年代:茨城県、東京都台東区4枚、★合計5枚
1940年代:東京都葛飾区1枚、台東区1枚、★合計2枚
1950年代:青森県(1枚)、山形県(3枚)、埼玉県(1枚)、東京台東区(14枚)、千葉県柏市★合計20枚
1955年。●A. P. G. 15(1): 11 (1955)に、カンエンガヤツリが掲載。ここから日本で一般に認知されたか?
1960年代:東京都(3枚)、千葉県(2枚)、茨城県(2枚)、埼玉県(1枚)、三重県(1枚)、沖縄県(1枚)★合計10枚
*****************************●森田が、茨城県農業試験場で実験を行う●*****************************
1970年代:山形県(5枚)、茨城県(4枚)、群馬県(1枚)、埼玉県(2枚)、千葉県(10枚)、栃木県(3枚)★合計25枚
1980年代:山形県(1枚)、神奈川県(9枚)、千葉県(20枚)、東京都(16枚)、栃木県(5枚)★合計50枚
1990年代:茨城県(9枚)、埼玉県(14枚)、神奈川県(14枚)、千葉県(17枚)、東京都(2枚)、栃木県(1枚)、福井県(1枚)★合計58枚
2000年代:秋田県(1枚)、宮城県(10枚)、山形県(2枚)茨城県(12枚)、埼玉県(4枚)、神奈川県(5枚)、千葉県(2枚)、東京都(2枚)★合計35枚

●東北から和歌山までの各地で採集されています。
最初は牧野富太郎が台東区で採集している。高知県立牧野植物園収蔵
さすが!!
和歌山の標本も高知県立牧野植物園収蔵
おそらく南方熊楠か、その知人を介して牧野に送られたたものと考えられる。

山口県の「レッドデータブックやまぐち2019」に載っていました
https://www.yamaguchi-rdb.com/site/redlist.php?category=Vascular
絶滅危惧Ia類(CR):カンエンガヤツリ

************************************************************
補遺(近似種)
●ヌマガヤツリの世界の分布(plnats of the world online)
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:304626-1
日本でのRDB指定:北陸から中部、近畿
http://jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=06050306396
1年草。


藤井俊夫 投稿日:2023年12月21日 15:04 No.1047
水田様                

カンエンガヤツリについての追加情報です。
北隆館発行の資源植物事典(1989:増補改訂版)に、【ワングル】の記述がありました。
その中に、上野不忍池で牧野富太郎が明治25年に発見、牧野によれば「水鳥が朝鮮からもたらした」という。
昭和の初めごろから北海道、東北、新潟などで栽培が試みられたとありました。
関東から北の分布は、人為的な移入が濃厚です。
添付のPDFを参照のこと。

●カンエンガヤツリの原記載です
Makino,T. 1892. Notes on Japanese Plnatns XV. Bot.Mag.Tokyo. 6(60):45-66.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/6/60/6_60_45/_pdf/-char/ja
47pに、Cyperus iwasakii sp. nov.として、和名:カンエンガヤツリとしている。産地は、武蔵、東京としている。

●小山鐡夫がA. P. G. 15(1): 11 (1955)で、学名の組み換えを行っている。
p11.でCyperus iwasakiiをCyperus exaltatusの変種にしている。
Koyama,T. 1955. Taxonomic Study of Cyperaceae in the eastern asia 3. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica. 15(1):5-12.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunruichiri/16/1/16_KJ00001077710/_pdf/-char/ja
in Makino B.M.T. 6:47

●1961年発行の牧野新日本植物図鑑にカンエンガヤツリの絵が掲載される。


ダウンロードカンエンガヤツリ(資源植物事典) ( .pdf / 246.1KB )


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