濃淡の深淵なるもの


| トップに戻る | 検索 | アルバム | 管理用 | ▼掲示板作るならRara掲示板 |

人情紙風船
邦彦 投稿日:2023年06月17日 06:30 No.326
  下宿の前の広場で、三歳ほどの女の子が一人で角に座り、
    地面に絵を描いていました。彼女の寂しそうな様子に、
    私はなぜか他人事ではなく感じ、遠くの浜辺までおんぶし
    たり肩車したりしながら、彼女を散歩に連れて行きました。

    その女の子は、六畳一間の借家にお母さんと二人で住んで
    いました。今で言うシングルマザーだったのでしょうか。

    ある日、女の子と手を繋いで繁華街に向かっていたら、
    たくさんの人々を見て彼女は泣き出してしまいました。
    思えば私は女の声を一度も、聞いたことがありませんでした。

    浜辺に着くと、私が水面上に石を滑らせるように投げ
    て遊んでいると、彼女はただ黙って小石を私に渡して
    くれました。その行為が、彼女が私に「この石で遊んで」
    と伝えたのかもしれません。

    私が女の子を肩車して歩いていると、同じ高校の別科
    の女生徒たちが勘違いしたのか、私に頭を下げてきました。

    歳月は過ぎ、私は会社の寮に骨を埋めるつもりでいて、
    電話を引いてテレビや冷蔵庫、ステレオを揃え、一生独身
    だと気合を入れていました。

    しかし、思いとは裏腹に結婚ということになり子供が4人に
    増え、時間が経ち退職すると、私たちには孫がいないまま
    でした。でも、気がつけば孫が4人になっていたのです。

    私は愛想もなく、甲斐性もない人間だと思っていたので、
    いずれ妻に三行半、逃げられるだろうと考えていましたが、
    なんと45年以上も一緒にいることになり、
    私は年を取ったおじいさんになっていました。

    これも、他人という温かい人たちのおかげで、長い人生を
    歩んでこられたのだと思います。
    
    感謝の気持ちで手を合わせるしかありません。




お名前
メール
画像添付


削除キー ( 記事を削除する際に使用 )
文字色