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投稿者:はっちん
新型コロナのエビデンス 元記事URL⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/ 岡田正彦 新潟大学名誉教授(医学博士)  テレビでは語られない世界の最新情報を独自に分析  正しい情報を偏りなく 今週の新情報 (2023.12.4) Q 『ワクチンで死者が9割減っていた』との報道は本当か? A 「もし全員がワクチンを受けていたら」、あるいは「もし接種が2週間早く始まっていたら」と仮定すると、新型コロナの感染者や死者が格段に減っていたはず、と結論する論文が発表され、多くの新聞が表題に記したような記事を掲載しました。 同じテーマを扱った論文は他にも複数あり、どれもコンピュータ・シミュレーションによるものでした(文献1~5)。「死者が大幅に減っていたはず」との主張が正しいのか、検証してみました。 まずコンピュータ・シミュレーションがどのようなものか、復習です。 次の図(GIF動画⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/newinfectionsimulation.gif )は、私が作った数式をコンピュータにインプットし、計算結果をグラフにしたものです(以前の当ホームページでも紹介)。目的は、もし海外からの感染者が増えると仮定すると、国内で爆発的な流行が起こることを示すためでした。海外からの感染者が1日1人のとき、実測値(棒グラフ)と計算で求めた値(点線)がうまく一致しています。以下、順に5人、10人、・・・と仮定した場合の結果です。このような実験が「コンピュータ・シミュレーション」と呼ばれるものです。    さて、全国紙にも取り上げられた最新の研究論文の結論は、以下のようなものでした(文献5)。  ・もしワクチンがなかったと仮定すると、死者は364,000人になっていた。   これは、ワクチンのお陰で死者数が97パーセント減少したことを意味する  (NHKのホームページによれば、当時の死者数は18,354人) シミュレーションは、2021年2月17日~同年11月30日の感染とワクチン接種状況に関するデータに基づいて行われたものでした。前者はHER-SYS(ハーシス)、また後者はVRSという厚生労働省の登録システムから取得したものです。HER-SYSから得られる感染情報は「誰が」、「いつ」、「どんな症状」だったかなどです。VRSには年齢、性別、ワクチンの接種日と回数などが登録されています。加えて、人々の行動を示すGPSデータも組み込まれました。 シミュレーションには多くの仮定が設定されましたが、とくに重要なのはワクチンの有効率です。有効率は「ワクチンを接種していた人」と「接種していなかった人」における死亡率の違いから求めていて、(年齢により異なり)38.0~88.6%だったとしています(文献5,6)。 この数値が正しいのかどうか検算する必要がありますが、厚生労働省のデータが非公開のため叶いません(文献7)。幸い、1編の委員会報告書からその一端を垣間見ることができるため、以下(※1)に一部を書き出してみました(文献8より一部改変)。 (※1)HER-SYSデータの集計結果(2021年6月中の国内報告総数)表画像⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/effectiveness.jpg    この時期はワクチン接種が始まったばかりで「2回接種」の人数が極端に少ないため、「ワクチン未接種」と「1回接種」の人数だけを比べてみます。有効率は、一般的に   (1-(接種者のオッズ/未接種者のオッズ))×100 と計算されます(文献9)。ところがこのデータでは、「未接種」よりも「1回接種」のオッズのほうが大きくなっています。つまり、このワクチンは有効どころか、むしろ死亡リスクを高めてしまうというデータになっているのです。 対象期間が、論文のそれと少し異なるため(論文では9ヵ月半、上表は同じ期間の1ヵ月分)、直接的な比較はできません。しかし、同じ日本国民でありながら対象となった人たちが異なるだけで、有効率はまったく別ものになってしまうことがわかります。 コンピュータ・シミュレーションには、本質的に2つの限界があります。ひとつは、実際に観測されたデータ(感染者数の実測値など)を模擬するだけの数式は、いくらでも作れるため、それが真実を表わしているかどうかの保証がないことです。 もうひとつの限界は、「仮定」をいろいろ設定しなければならず、それ次第で結果が大きく変わってしまうことです。 たとえば「有効率」は、「ワクチン接種をたまたま受けた人たち」と「受けなかった人たち」の死亡率から仮定したものでした。その元データは「後ろ向き調査」で得られたものであり、真実を表わしていないことは当ホームページ(2023.9.4付 ※2)でも繰り返し述べたとおりです。 (※2:記事⇒https://rara.jp/royal_chateau_nagaizumi/page4208#4244 ) コンピュータ・シミュレーションで得られた結論は、正しいことの証明も、また間違っていることの証明もできません。新聞に掲載された記事は、重大な誤解を招いたのではないでしょうか。 【参考文献】 1) Sacco C, et al., Estimating averted COVID-19 cases, hospitalizations, intensive care unit admissions and deaths by COVID-19 vaccination, Italy, January-September 2021. Euro Surveill, Nov 25, 2021. 2) Mesle MM, et al., Estimating number of deaths directly averted in people 60 years and older as a result of COVID-19 vaccination in the WHO European Region, Dencember 2020 to Novemnber 2021. Euro Surveill, Nov 25, 2021. 3) Gavish N, et al., Population-level implications of the Israeli booster campaign to curtail COVID-19 resurgence. Sci Transl Med, Apr 12, 2022. 4) Kayano T, et al., Number of averted COVID-19 cases and deaths attributable to reduced risk in vaccinated individuals in Japan. Lancet Reg Health West Pac, Aug 11, 2022. 5) Kayano T, et al., Evaluating the COVID-19 vaccination program in Japan, 2021 using the counterfactorial reproduction number. Sci Rep, Oct 18, 2023. 6) Ko YK, et al., Age-dependent effects of COVID-19 vaccine and healcare burden on COVID-19 deaths, Tokyo, Japan. Emerg Infect Dis, Jul 12, 2022. 7) 林正洋, COVID-19 HER-SYSデータ利活用推進手法の提案及びダミーデータLOD. Linked Open DataチャレンジJapan 2022受賞作品, Nov 28, 2022. 8) 厚生労働省, 資料2-5 HER-SYSデータに基づく報告. 第47回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年8月11日開催). 9) Jackson M, et al., The test-negative design for estimating influenza vaccine effectiveness. Vaccine, Apr 19, 2013.        
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