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投稿者:はっちん
新型コロナのエビデンス 元記事URL⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/ 岡田正彦 新潟大学名誉教授(医学博士)  テレビでは語られない世界の最新情報を独自に分析し日々更新  正しい情報を偏りなく (2022.9.26) Q 全数把握、定点観測って何? A 「一家で感染したが全員、自宅療養だった。生命保険に入っていたお陰で、自宅療養でも入院給付金がもらえることがわかって、よかった!」という話を、周囲からよく聞くようになりました。 「みなし入院」と呼ばれるこの対応は、国からの要請に各生命保険会社が答えた形で始まったものです。しかし自宅療養者が全国で日に100万人を超えるようになり、保険会社も想定外の危機的状況に陥ってしまったようです。 2022年8月24日、政府は「全数把握を見直す」と、唐突に発表しました。同時に、特別措置法によって危険な感染症に指定されていた新型コロナを、インフルエンザなみの扱いする方向で検討する、というややこしい話でした。 日本政府は、法律上の扱いを変えようとしない、かたくなな態度を取り続けてきました。経団連の一翼を担う業界からの苦情に抗しきれず、しかし表向き、全数把握の問題を持ち出すことで、突然の方針転換の体裁を繕ったのではないか、と勘繰りたくなる話です。ともかく、全数把握とは一体、何なのでしょうか? 全数把握は文字通り、感染した人の数を余すところなく完全に国家が把握する方式です。たとえば過去に流行したウイルス感染症で、もっとも危険なものの一つがエボラ出血熱です。これにヒントを得たダスティン・ホフマン主演の映画「アウトブレイク」では、感染の恐怖がドラマティックに描かれていました。危険な感染症では、たった一人の患者を見逃すだけで、数え切れないほど人の命が奪われることになるため、全員のフォローが絶対条件です。 しかしオミクロン感染症は、状況がまったく違います。全数把握は、労多くして役立つ場面はありません。参考になるのはインフルエンザです。次のグラフ(画像⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/teiten1.jpg )は、過去5年間のインフルエンザ感染者数の推移を示したものです。国立感染症研究所が公表している数字を元に私が作図しました。 データは、全国の約5,500の医療機関(定点)に協力を求め、1週間ごとにインフルエンザ患者の人数を報告してもらっているものです。ここで大切なことは、協力医療機関が完全に無作為に選ばれた、という点です。無作為に選んだサンプルから、全体像を推測するのは統計学の大原則だからです。これが「定点観測」と呼ばれる処理法です。 上記のグラフは全国のデータを集計したものですが、地域ごとに公表している都道府県もあります。私は、いつもインフルエンザシーズンが始まる頃になると、地域のグラフをネットで見ながら、いつ頃から、どれくらいの規模で流行が始まるのかを予測し、ワクチンの発注数量や接種開始の時期を見定めてきました。また刻々と変わる状況を職員に伝え、予防対策の徹底もはかってきました。 このデータがあれば、全国の総感染者数を以下のように求めることができます。   (定点での感染者数÷全定点の外来患者総数)×全国の総患者延べ数 「全国の総患者延べ数」は、2014年9月に行われた全国実態調査で得られたものを用います。 次の図(画像⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/teiten2.jpg )をご覧ください。上の図と同じものですが、赤い折れ線は2019年9月からのデータです。この年の暮、新型コロナウイルスが中国武漢市で最初に確認されました。その頃から、赤い折れ線は、インフルエンザが急増する気配を見せていました。年明け、点線のグラフようになっていくのではないかと、緊張したのを覚えています。しかし結果はご覧のとおり。コロナに対する感染対策の徹底で、インフルエンザが明らかに抑え込まれています。 実は、この図には2020年と2021年のグラフも描かれているのですが、インフルエンザにかかった人がほぼゼロであったため、横軸と重なり合って区別がつきません。 定点観測データはきわめて有用です。しかし国は、高齢者や基礎疾患のある人に限定して今後も全数把握を続ける、と発表しました。この判断は、「無作為でサンプルを集める」という統計学の大原則に反しています。 かつ感染症の流行は、「活動的な若い世代の間でまず広がり、家庭に持ち込まれ、その子供たちの学校で一気に拡大し、やがて高齢者にも伝わっていく」、という形をとるものです。百歩譲って、対象を絞ってでも全数把握を続けたいのであれば、それは高齢者でなく、若い世代のほうでしょう。人類が長年の経験と学術調査を通して学んできた、この感染症の大原則が、すっかり忘れられています。 「全数把握をやめると医療から取り残される人が出てくる」とテレビで述べていた人もいました。しかし現代医療の仕組みは、病める人を差別なく癒すように構築されてきたものであり、それはこれからも変わることがありません。こんな簡単な医療の大原則さえ理解されていないようです。 【参考文献】 1) Reicher TA, et al., The Japanese experience with vaccinating schoolchildren against influenza. N Egl J Med 344, 889-896, 2001.        
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