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投稿者:リンドホルム伯パウル
・+月$日 件の女は実のところ、何の役にも立たない。 調理が出来るわけでもなく 掃除が出来るわけでもなく 使いに出すには土地勘もない 出来ることと言えば、微笑みを絶やさずそこに突っ立っているぐらいなもので…… それと……彼女は英語を話せる。 私も元はアメリカ人であるから、彼女とはもっぱら英語で会話をする。 私が邸宅でくつろぐ傍らで、彼女は何も言わずにただ微笑んでいる。 私は彼女に言った。 「突っ立ってるだけで、退屈しないかね」 彼女は言った。 「退屈よ」 「随分素直に言うんだね」 「だって、退屈なものは退屈だもの。もっとも、私には慣れっこだけど」 「慣れてる……ねぇ。何か趣味とか、楽しみとか、そういうものはないのか?」 彼女は先程と全く変わらない調子でもって、こう言い放つ。 「ないわ。一切」 「……本当に?」 「ええ、本当に」 「じゃあ、何か欲しいものはないのかね。私なら大抵のものは手に入るよ」 すると彼女は、私の方を見て言った。 「あなたの笑顔。一度も見たことがないわ」 そんなことを言い出すので、私は笑った。大きく声を上げて、笑った。 「はっはっはっは!!! 私が笑う? それがそんなに見たいかね!? 全く傑作だ!」 彼女は言った。 「ええ、今初めて、あなたが笑うところを見たわ」 そう言われて私は笑うのをやめた。 「で、良い見世物だったかね?」 「別に。世の中の殆ど全ては退屈なものよ」 「退屈……退屈、ね」 そうした会話の後に、彼女はまた元の状態に戻った。 ただ微笑んで、佇むのみ。 「……おい、お前。名前は何と言う?」 「ナディア。それ以外の面倒な名前は一つもないわ」 「ナディア。椅子を持ってこい」 「あら、どうして?」 「お前が座る用のを持ってこいと言っているんだ。分かったか?」 「はい、仰せのままに……」
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