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投稿者:はっちん
新型コロナのエビデンス 元記事URL⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/ 岡田正彦 新潟大学名誉教授(医学博士)  テレビでは語られない世界の最新情報を独自に分析  正しい情報を偏りなく 今週の新情報 (2023.10.2) Q 後遺症はワクチンを打ってない人に多い? A 2023年9月中旬、厚生労働省は、国内3市町村で行ってきたコロナ後遺症の調査結果を公開したと、各メディアが報じました(文献1,2)。見出しこそ「コロナ後遺症、成人11~23%に」などでしたが、とくに「後遺症があったと答えた人の割合は、ワクチンを接種した人たちのほうで低かった」との発表もなされたことに対し、「本当か?」との声が多く聞かれ、当ホームページあてにもお便りが届きました。 いったい、どんな調査だったのか、背景を探ってみました。 その調査データは、厚生労働省のホームページで公表されています(文献3)。対象となったのは大阪府八尾市、東京都品川区、および札幌市の住民でしたが、多くの人を対象にワクチン接種との関係を調べていたのは、品川区だけであったため、以下、同地区のデータに限定して、考察を行うことにします。 データは、厚生労働省が50億円を投じて開発したシステムHER-SYSからでした。このシステムには、医療機関や保健所が、感染者を認めた場合に入力する建前となっていましたが、にわか作りであったことから、入力が大変で、度重なる改良を経てもなお不評のまま、2023年9月末で運用終了となったものです。入力されているデータが信頼できるものだったのかが、まず気になります。 品川区での調査は、2022年7~8月に行われました。強毒性のデルタ株にかわって、弱毒性のオミクロン株が主流になった時期で、対象は感染した8,099人(20~69歳)の男女です。 対象者には、ネット経由でアンケート調査が行われました。「感染が確認されてから3ヵ月経った時点で、少なくとも2ヵ月以上続いていた症状」を後遺症と定義し、症状の有無が調べられました。この定義は世界保健機関(WHO)に従ったものですが、ほかにも様々な定義があり、結果も異なるものになる可能性があります。 ワクチンの接種記録は、VRSと名づけられたシステムから取得しました。これは、市町村がまず住民の基本情報を登録し、各接種会場で接種券のコードをタブレット入力するという方法で構築されてきたものです。 結果は、「後遺症なしの割合は、ワクチンを3回以上接種したほうの人たちで明らかに小さいというものでした(オッズ比で0.75: 詳細は脚注参照)。 イラスト⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/sinagawa.jpg    さて、この調査結果は正しいでしょうか? まず、比べた2つのグループは「ワクチンを打っていた人たち」と「打っていなかった人たち」です。つまり事前に、背景を揃えてグループ分けしたわけではなく、本人の気持ちや周囲の圧力、接種会場が近かったかなどの違いで、たまたまわかれただけです。したがって、まったく異質のグループですから、そもそも比べることが間違っています。 アンケートに答える際も、「いまの体調は?」と問われれば、誰でも「そういえば・・」と、忘れていた症状まで思い出して答えてしまうのではないでしょうか。とくにワクチンの効果がテレビなどで過剰に宣伝されてきましたから、打っていない人が感染すれば不安にかられ、つい過敏に反応してしまいそうです。 「最近、疲れる」、「体がだるい」、「よく眠れない」、「記憶力が衰えてる」などの字句がならんだアンケートに回答を求められれば、誰でも、たくさん丸印をつけてしまうことでしょう。その昔、新聞にこんな記事が載っていました。小学生に「困っていることは?」というアンケート調査をしたところ、ほとんどの児童が「最近、疲れる」と答えていたそうです。アンケートは、誘導尋問になってしまいがちです。 海外で行われた厳密な比較調査では、感染した人としなかった人で症状の割合に有意差がなかったという結論になっていました(2023年5月8日付の当ホームページで紹介※1)(文献4,5)。つらい症状で悩んでいる人が多いのは確かですが、コロナのせいばかりではない、ということなのです。 (※1:記事⇒ https://rara.jp/royal_chateau_nagaizumi/page4054#4172 ) そもそもコロナの後遺症自体が捉えどころのないものである上に、厚生労働省が発表したデータは、分析法も正しくありません。「後遺症があったと答えた人の割合は、ワクチンを接種した人たちのほうで低かった」との結論は、あきらかな間違いです。正確に言えば、正しさが証明されていないということですが、過去、同じ方法で行われた研究の多くが間違った答えを出し、人々の信頼を裏切ってきたのも事実です。 【参考文献】 1) 新型コロナ19万人余調査、成人1~2割「後遺症」か 厚労省研究班. NHK, Sep 23, 2023. 2)コロナ後遺症 成人11~23%、小児は6%、接種済みだと少ない傾向. 朝日新聞, Sep 19, 2023. 3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状について(現状、研究報告、今後の厚生労働省の対応). 厚生労働省, (掲載日不明). 4) Selvakumar J, et al., Prevalence and characteristics associated with post-COVID-19 conditon among nonhospitatlized adolescents and young adults. JAMA Netw Open, Mar 30, 2023. 5) Matta J, et al., Association of self-reported COVID-19 infection and SARS-CoV-2 serology test results with persistent physical symptoms among French adults during the COVID-19 pandemic. JAMA Intern Med, Jan 1, 2022. 【脚 注】 オッズ比の求め方  公表された品川区のデータは以下のようになっていますが、分析には、いささか複雑な計算がなされていました(文献3)。  ___________________________________________           後遺症あり   後遺症なし 後遺症の割合 接種なしとの比較 補正後の値                                  (オッズ比)  ___________________________________________   接種なし      110人    671人   111/671 = 0.16   1.0    1.00   接種1回       11人     45人    11/ 45 = 0.24   1.5    1.45   接種2回      245人    1567人  245/1567 = 0.16    1.0    0.99   接種3回以上    675人    5556人  675/5556 = 0.12    0.75    0.75  ___________________________________________  まず、それぞれの行に対して、以下の計算を順次、行います。   「後遺症ありの人数」 ÷ 「後遺症なしの人数」 この計算結果が、もし1.0より大きければ、後遺症のあった人が、なかった人より多かったことになります。次に、接種をしなかった人たちと比べるため、2~4行目の値を、それぞれ赤字で示した1行目の値(0.16)で割り算します。この計算でえられる値はオッズ比と呼ばれます。  このような直感的にわかりにくい計算を、なぜわざわざするのかと言えば、背景因子の影響を取り除くための計算法(ロジスティク回帰分析)を利用することができるからです(2023年6月5日付の当ホームページ参照※2)。厚生労働省の報告書には、「性別」と「年齢」の2つの背景因子の影響を取り除く処理を行ったと記述されています。その結果が、上の表の右端に示した値です。単純な割り算でえたオッズ比と微妙に異なっているのは、2つの背景因子の影響が引き算されているためですが、だからと言って、2つのグループの背景因子が揃ったことにはなりません。 (※2:記事⇒ https://rara.jp/royal_chateau_nagaizumi/page4054#4199 )        
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