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五木寛之『こころの相続』
リワキーノ 投稿日:2022年08月07日 10:25 No.45
五木寛之さんの『こころの相続』を読み、感銘を受けています。

この本を書くきっかけとなったのは同氏の語るあるエピソードに注目した経済団体とか、新聞社・雑誌社の経営セミナーとか信託銀行など、普段五木さんと縁の少ない業界からの講演依頼が続出したことからだそうです。

どんなエピソードかというと、五木さんがあるとき編集者たちと食事をしたときに、20代の若い女性が焼き魚を食べたあとの魚の骨がまるで標本のように皿の上に横たわっているのを見て感心し、褒めたことに対してその女性は、「私の家では、母が魚の食べ方にうるさかったものですから。その母も祖母からいつも叱られていたそうです」と答えたそうです。

そのとき五木さんは、親や家から相続するのは、財産ばかりではない、目に見えないたくさんのものを相続するのではないか、と思ったことをどこかで語ったことが先述の業界の人たちの目にとまったようです。

他に強く共感したのが、先の戦争についての記憶が風化していくこと、特に若い人たちが「もう戦争の話など聞き飽きた」と戦争の悲惨さを聞き、知ることを拒絶している現状へのへの危機意識から、戦争の悲惨さを知らない世代の人でも思わず聴き入ってしまうような工夫が必要だと指摘していることです。

その例として漫画が原作の『この世界の片隅に』という映画が大ヒットして戦争を知らない多くの人の心を掴んだことを挙げており、その理由を五木さんは「真実の物語だから見るべきだという、大上段に振りかぶった姿勢が無いからでは」と指摘し、次のように記しています。

「広島や沖縄で語り部を務めている方たちが、大事な仕事をされていることは百も承知しています。しかし同じ話を繰り返すばかりでは、それこそお年寄りの昔話のように『その話は百回聞いたよ』『またその話?』と言われてしまうことがないとも限りません」

毎年8月6日になると特集を組む新聞の原爆投下の報道記事を長い年月精読することのない私は五木さんの言葉に強い共感を覚えます。

満蒙の地に開拓団として住んだ人たちがソ連の侵攻によって略奪、殺害、婦女暴行などの目に遭い、集団自決が多く行われる中、15人の若い独身女性たちがソ連軍に身を任す条件でその黒川開拓団の451人が生きて日本に帰国できた話は初めて知りました。

この本を読むきっかけを作ってくれたk.mitikoさんに感謝します。




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