ひろば
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そこにある山
雪谷旅人 投稿日:2024年03月05日 16:33 No.2158
角幡雄介著「そこにある山」(中公文庫、2023年12月刊)

「狩りする哲学者」角幡雄介がめずらしく随筆を出版した。これまで読んだ冒険ドキュメンタリーとは異なり,著者の人生観が語られている。と言っても,当然チベットや北極での冒険が下地になっている。

最初の北極探検ではGPSを使うことに違和感があった。そのような道具を使うことにより,大地と自分との間に溝ができ,大地を感じることができないからだ。その後の「極夜行」などの冒険旅行ではGPSも六分儀も持たないで己の観察と記憶のみで何百kmも歩く。当然そこには大きなリスクがあるが,研ぎ澄まされた感覚をもって無事帰還した。その体験から,真の冒険とは何かを語っている。

これで思い出したのは,クリスティーナ・トンプソン著の「海を生きる民」だ。太古の人は何の道具も使わないで,何百km先の島に正確に辿り着くという話だ。道具を持たないことが人間の感覚を鋭くするらしい。

現代人の生活は道具に溢れ,パソコンやスマホがあればすぐに回答が得られるが,そこには答えに辿り着くプロセスが抜けている。AIやGPTになればもっと手軽に答が出るが,ますます人間の思考力や創造力が退化するのではないか。そういうことを考えさせられる一書だ。