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犬橇事始
雪谷旅人
投稿日:2024年02月14日 19:48
No.2128
角幡雄介著「裸の大地 第二部 犬橇事始」
(集英社,2023年7月刊)
グリーンランドを何度も徒歩で冒険した角幡は,海豹(アザラシ)などを狩猟しながらさらに遠出するには犬橇しかないと心に決めて挑戦する。
犬橇を立てるには当然犬と橇が必要だ。現地イヌイット知人に依頼して10頭の犬を寄せ集める。それからの訓練が大変。寄せ集めなので,犬もまとまらず,喧嘩ばかりする。ボスの地位争いや序列争いが熾烈で,派閥まである。一番こわいのは下り斜面で暴走することだ。しかし1年も訓練を重ねれば,次第にグループとしてのまとまりができ,それぞれの個性が分かってくる。
物語のほとんどは犬に関するもので,ここの犬は飼い犬のようにかわいいというものではなく道具なので躾は壮烈を極める。まさに犬との真剣な戦いだ。
さて,海豹狩りは角幡が「イヌイット」になるには必須だ。何度も失敗を重ね,ようやくコツをつかんだとき,彼は自然との調和を感じる。自分の計画に従うのではなく,自然のままに生きることを学ぶ。このあたりはさすがに「狩りする哲学者」(朝日新聞)である。
2020年にはカナダ国境を越えてエルズミア島へ行く計画を立て,出発するが....。期待通りの圧巻の読物だった。