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狩りと漂泊
雪谷旅人
投稿日:2023年09月13日 09:28
No.1847
角幡唯介著「裸の大地 第一部 狩りと漂泊」
(集英社,2022年3月刊)
角幡氏の本はこれまで多く読んできた。「空白の五マイル」「極夜行」「極夜行前」「狩りの思考法」…。その角幡は冒険家としての人生を振り返り,「目的のない旅」にあこがれる。行きついたのは「狩りで命を繋ぐ放浪旅」だ。ウヤミリックという幼少の時から育てた犬をつれて一人でグリーンランド・シオラパルクから北のシオラパルク浜,さらにフンボルト氷河へと進む。零下30~40℃の厳寒地で,道に迷いながら進む(いつものようにGPSを持たない)。途中,食料が尽きそうになり,空腹で堪らなくなるが,麝香牛(じゃこううし)を仕留めて命を繋ぎ,旅を続ける。そのような経験が幾度となく繰り返される。
旅を続けるうちに,犬一匹だけではカバーできる範囲は限られることを悟った。広範囲の土地を知るには犬橇しかない。人間として始原の喜び,未知の世界を切り開くには犬橇しかない。この旅の結論だ。これから何年もかけて犬橇をやり,フンボルト氷河のさらに北に行きたい。43歳の角幡唯介はあきらめない。旅の欲求は限りない。(第二部に続く)
角幡氏の文章は分かりやすく,とくに比喩がとても面白い。麝香牛を仕留める場面に次のような文がある。「牛たちがまた顔をあげてこちらを注視する。そしたら,歩みを止めてピタリと身体を静止する。不自然にならないよう心がけつつモナリザみたいな微笑をうかべる。すると牛たちは,何だあいつ,誰かと思ったらモナリザか,じゃあ大丈夫だ,みたいな様子でまた視線をはずす。」