ひろば
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デス・ゾーン
雪谷旅人 投稿日:2023年07月30日 21:33 No.1783
河野啓著「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」(集英社,2020年11月刊)

栗城史多という一人の登山家,いや「登山屋」の生涯を描いたドキュメンタリー。なぜ登山屋なのか。彼は特段体力も登山知識もないのに「世界七大陸最高峰単独無酸素登頂」を果たそうとしていた。確かにエベレスト以外は登頂を果たしたが,最後のエベレストで7回も挑戦し,最後には失敗すべく失敗して亡くなった。

ただ彼には商才があった。大会社のスポンサーや放送局,クラウドファンディングで数千万円を集めた。その原動力はインターネットによる「登山生中継」という派手な呼び込みだ。そのため多くの機材とスタッフを用意し,「劇場」PRに余念がない。彼は登山家以上にビジネスマンであった。

しかし何度も登頂に失敗を重ねるごとに,ネットでは批判や中傷が多くなった。それを意識してか見栄えのする,難度の高いルートに挑むようになった。凍傷で指を9本も失いながら,最後には最も難しい「南西壁」に挑戦。そこで帰らぬ人となった。

「夢の共有」という理想を掲げながら,次第にマスコミやSNSに追い詰められるようになり,最後は動きが取れなくなる。結局,彼を追い詰めたのはSNSではないか。

著者の河野氏はテレビディレクターとして彼に密着しながらも,冷酷な目で追う。多くの人にインタビューしながら栗城という男の実像に迫ろうとしている。