ひろば
投稿は会員のみ。画像をクリックすると拡大されます。 投稿者名(青色)をクリックすると,フォームメールを送信できます。
| 新規投稿 | トップに戻る | 検索 | アルバム | 管理用 |

お名前
メール
タイトル
画像添付





編集キー ( 記事を編集・削除する際に使用 )
文字色


角幡雄介
雪谷旅人 投稿日:2023年03月23日 14:18 No.1651
角幡雄介著「空白の五マイル」(集英社,2010年刊)
角幡雄介書「狩りの思考法」(アサヒ・エコ・ブックス,2021年10月刊)

3月11日付の朝日新聞beに角幡雄介の記事が掲載されていた(添付)。2年ほど前に同じ著者の「極夜行」「極夜行前」という本を紹介したことがあるが,今回はこの記事に紹介された2冊の本を読んだ。いずれも期待に背かない素晴らしい読物であった。

「空白の五マイル」はチベット西部にある激流の大河ツアンボー渓谷の探検記だ。これまで多くの探検隊が到達することができなかった空白の5マイルを,単独行でしかも近代的な計測手段を持たずに到達しょうという一見無謀な冒険だ。しかし著者は過去の文献を徹底的に調べ,予備調査を経てそれを達成している。危険な目にあったのは数えきれないがそれを乗り越える勇気と忍耐がある。暗黒の北極をGPSや六分儀さえ持たずに旅した「極夜行」と共通するものがある。

冒険家であることと文筆家であることは必ずしも両立しない。しかし彼の文は非常にこなれていて読みやすい。随所に例えがあり,それがとても分かりやすい。新聞に「哲学者」とあったが,自分に対する客観的な見方が光っており,それが人間一般の生き方を示している。

一方「狩りの思考法」は冒険物語ではなく随筆であり,イヌイットや探検を通じた人生論だ。イヌイットでは文明社会では考えられない思考法がある。狩猟生活では予測できないことが次々と起こる。これこそ生きているというダイナミズムに身を曝すことになる。「ナルホイア」というしばしば使われる言葉がそれを表している。海豹を打ちとめ,すぐさま解体して食する,これがイヌイットや角幡の当たり前の生き方だ。その経験を通じて殺生をしなければ生きていくことのできない人間の現実をあからさまにする。