閣下にもふもふする板


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旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:39:28 No.42 【返信】

試作版改め・・・ そのぎ 2016年10月20日(Thu) 22:34

【閉鎖循環系】第三話

奇妙な生活が始まった。
予めロイエンタールは釘を指しておいた。
「一つ目。俺は独身だから一晩かけて遠くの歓楽街で遊ぶ事が多い。たまに夜勤もある。従って夜は一人にする事もある」
「二つ目。俺は面倒が嫌いだ。家賃は徴収が面倒だから無しだ。代わりと言っては何だが掃除洗濯は自分でやってくれ。他人の分までは無理だ」
「三つ目。やっぱり面倒だから食事はいつも外か出来合いだ。それで良ければ食事代は出す」
ヤンは三つとも飲み込み、学校へ出掛けていった。
ロイエンタールも詰所へ行き、いつものようにデスクへ足を投げ出して過ごした。

帰ってくると、ヤンは嬉しそうな顔をしていた。
近くの食料品店のアルバイトが決まったと言う。
そしてテーブルには簡単ながら食事の仕度が。
「こ、これは?」
聞くと小さい時から体の弱い祖母を助ける為、家事をこなしていたと言う。
「余計でしたか?」
「いや違う。嬉しいがびっくりしだ!」
食べながら雑談。ふとヤンがたずねた。
「ロイエンタールさん、どうしていつもサングラスを?」
「うん?ああ……(外すの面倒だからなあ。シャワーと寝る時以外は)視線を読まれないためだ」
「常に警戒ですか?」
「いや本当は……居眠り誤魔化し用」
「プフッ……」
「(真面目に言ったんだが)」
「本当は?」
「本当は、か……」
ロイエンタールは因習深き故郷での扱いを思い返した。
「――小さい時から目が怖いと言われて来たからだ」
「怖い、ですか?」
「ああ。だから見せたくない」
「す、すみません……」
気まずい雰囲気。だがロイエンタールは口元で笑顔を作っていった。
「いや普通は聞かずにいられんだろう。同居人が病気でもないのに一日中自室でも掛けっぱなしなんて気味悪くないか?」
「言われてみれば……でもロイエンタールさんなら普通かも」
ヤンは少しだけ笑みを浮かべた。
「(おいおい、遠回しに変人と言ってないか?)」
だが空気が和んだのと、やっぱり考えるのが面倒だったので食卓に集中した。
ちなみにこの男は掛けたまま朝まで熟睡もしばしばだった。
その為、目を開けても夜明けか夕方と勘違いして二度寝し、後々ヤンを度々慌てさせる事になる。


旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:38:38 No.41 【返信】

試作版SSの一応続き そのぎ 2016年10月06日(Thu) 17:28

【閉鎖循環系】第二話

ヤンとその祖母(と紹介された)は詰所の一室に案内された。
部外者を咎める者も無く名簿記入も無くすんなりと。
「ふーん、つまりお祖母さんを近くのサナトリウムに入れる為に引っ越して来た、と」
「はい。お祖母さんは僕と離れるのをひどく嫌がって、ここの学校に転校する事を条件にやっと決めてくれました。来年の春までの予定ですが」
更に聞くと二人以外身内はいないとの事。
ロイエンタールは門前で欠伸よりはましと二人を学校へ送り手続きをさせ、そのままサナトリウムへ送った。
そして再びヤンを学校の寮へ送ってやると、調度定時だったので堂々とアパートへ帰っていった。

翌日。詰所にて。
ロイエンタールは新聞を広げると長髪が逆立つばかりに驚いた。
「(夜中騒がしいと思ったら……)」
見出しには『学校の寮。深夜に全焼』
「(あいつ生きてるか?)」
問い合わせるにも学校の番号調べが面倒そうだと思った時、ノックの音がした。

ヤンは泣きそうな顔で形ばかりのお茶を啜った。
「すみません図々しく押し掛けて……」
ヤンにしてみれば知古の無い土地で唯一頼れるのはロイエンタールしかいないのだから無理もなかった。
「う~む……状況は理解できるがいい知恵が浮かばんぞ……」
火事のせいで多くの生徒が焼け出され、すぐさま保護者が駆け付け下宿やアパートの確保に回っていたが、お陰でヤンの経済力で手に入る部屋が無いと言う。
「どうしよう……」
すっかりヤンはうなだれていた。
「なあ、故郷に家はあるだろう?お祖母さんに話をしてだな――」
ロイエンタールは絶句した。ヤンが顔面蒼白だったからだ。
「い――やだ」
それ以上何も言えなくなったロイエンタールは、ヤンの保護プランを立てる名目で早退するとアパートへ連れ帰った。
「俺は名案を得る為の瞑想に入る。お前も適当にしていいぞ」
「は、はい!」
緊張してるのか体が固くなったまま。
「あ~……冷蔵庫にミートパイとオレンジジュース、本棚に小説が少々、自由にしてろ」
そう言うとロイエンタールはサングラスも外さずベッドでゴロリ。
目が覚めるときれいに洗った食器が立て掛けてあり、ソファには小説を片手に無心に眠るヤン。
だが不意にヤンの顔が歪んだ。
「やめろ!やめてくれ!来るな!」
飛び起きるヤン。驚き顔のロイエンタール。
「す……すみませんロイエンタールさん……」
「い、いや夕べの火事がトラウマなんだろう?(違う。何がヤンを追い詰めてる?)」
「僕……帰り……ます……」
「どこへ?」
「ふ……ふる……さ……」
ロイエンタールは遮った。
「ここで暮らさないか?部屋が見つかるまでだ。」
もうロイエンタールは考えるのも面倒だったのだ。


旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:37:08 No.40 【返信】

こんばんは。試作版SSです そのぎ 2016年09月27日(Tue) 22:53

(ロン毛のロイ様をちょっとだけ試しに扱ってみました。続きはお告げ次第と言う事でお許しを……)

【閉鎖循環系】


その夫婦は金と地位でくっ付けられた。当然育む愛情など無い。
そんな家に産まれた子供は放ったらかされた。
何をしても両親に認められない子供はいつしか諦め、最低限の努力しかしない様になっていった。

九月。どんよりした空。
閑散とした小さな港町。
昔は貿易港で栄えたが、今では小規模な貨物船と、先年の大戦をきっかけに増えた密輸団の得意先になっていた。
お陰で警察力が不足し、戦争であぶれた食い詰め者からなる憲兵隊が投入されたのだった。
憲兵隊の詰所の門前でサングラスを掛けた憲兵が大欠伸をした。
サングラスの下で涙が光る。そのサングラスよりも黒い伸ばしっぱなしの長い黒髪は少々乱れているが整えればいい線を行くだろう。
スッと通った鼻筋と形の良い口元と来てるから割と美男子寄りの筈だが、折角の神の賜物も怠惰がモットーのこの男は磨こうとしなかった。
「(夕べは遊び過ぎたな。しかし歓楽街までの遠さはどうにかならんものかな?)」
立番当番のオスカー・フォン・ロイエンタールは心中ぼやいた。
少し離れた所にバス停があり、数が少ないながら港を除けば唯一外を繋ぐものだった。
するとロイエンタールの目にバスが停車するのが見えた。
そして十六、七才ぐらいの学生服を着た少年が足を引きずった老婆を支えつつ降りてきた。
「(確か九月は新学期だが、入学式はとっくにすんだはず……?)」
と、そこへ柄の悪い男達が二人に絡んできた。
「(チッ、あいつら面倒起こすなら遠くでやってくれ……)」
柄の悪い割りには少しいい身なりなところを見るとどうやら密輸団らしく、二人をからかったりこずいたりした。
少年は必死に老婆を庇っていたが、不意に地面に叩き付けられた。
男達は挨拶料だの俺達の権利だのとわめいた。
それを見ていたロイエンタールは昔、祭に行った時の事を思い出した。
一人の子供が泣きわめき周囲に当たり散らしながら『もっと遊ぶ!僕の権利!』と生意気な駄々をこねていた事を。
「(あの時、ガキの親がいなければ蹴飛ばしてたところだったな)」
急に怒りを思い出したロイエンタールは久々に全速力で髪を振り乱しつつ走り出した。

「おい!」
突然憲兵が出現した事に男達はたじろいだがすぐにニヤニヤしながら一人が言った。
「坊や、お小遣いあげるからあっちへ……グフッ!」
ロイエンタールの蹴りが腹にめり込み、男は沈んだ。
残りの男達は訳が分からなかったがすぐロイエpンタールに飛びかかった。だが――
「寝不足の俺のそばでわめくな馬鹿共が!」
たちまち男達は地面に転がされた。
「……ったく。おい坊や、立てるか?」
「あ、は、はい!」
この時ロイエンタールはハッキリ少年の顔を見た。
自身のとは別の魅力を持つ黒く艶やかな髪。白い肌に映える黒真珠の瞳。
東洋系独特の美がにじみ出ていた。
「(その手の趣味のの奴なら垂涎ものだな)」
「俺はオスカー・フォン・ロイエンタール。憲兵だ。お前さんは?」
「ぼ、僕は……ヤン、ヤン・ウェンリーです。えっと……ありがとうございます!」
「え、いや……(ムカついただけとは言えんな)当然の事だ。気にするな。それよりお婆さんを助けてやれ」


旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:27:04 No.33 【返信】

ロイが… @早坂 2016年09月10日(Sat) 16:24

お盆三部作への感想も書かないうちに9月が半分近く来てしまう!
今月中にサイト移転しないといけないのに、まだ何も進んでません( ̄▽ ̄)どうしたら!

それより、大変です。
フジリュー漫画版ロイが、シルエットだけ描かれて、どーみてもロン毛後ろ結び…………!(◎_◎;)
シルエット見ると、ベルばらのフェルゼンとか、初期アンドレとか、あの手のリボンなのです(>_<)
マジでロン毛のロイが来たら、どーしたら!

Re: 旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:28:56 No.35
そのぎ 2016年09月13日(Tue) 23:55

こんばんは。早坂様。

ロイのロン毛後ろ結びは昔、道原かつみさんのキャラデザ案にあったらしいとか・・・
その方が描き分けしやすかったかもとかおっしゃっていたような・・・

一種の賭けでしょうか?(-_-;)
Re: 旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:29:38 No.36
りほ 2016年09月16日(Fri) 20:39

私も立ち読みしてきました~( ´ ▽ ` )ノ
↑久しぶりに来たら、そんな要件。

ロイエンタール、細っそ。と思いましたけど、あれはあれでアリですね!毎度、水も滴る色男です!
あとは、ファーレンハイトあたりを期待?いやいや、オべ閣下でしょ!
リボン結びロイは道原さんの画集に出てますよ~
各キャラのお誕生日とかもアレに載ってました。
Re: 旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:31:06 No.37
道原先生の画集……持ってないような(>_<)
Re: 旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:32:17 No.38
どっからどう見ても。 りほ 2016年09月21日(Wed) 18:40

ミッターマイヤーが攻め顏です。
一瞬ビッテンフェルトかと思っちゃった。

それはさておき!
おリボンロイもいいですが、それを解いた所を想像すると、ちょっとドキドキしてしまいますね!
早坂さんにもそのぎさんにも、パラリと髪を解いた壮絶な色気のロイエンタールを期待したいところでありんす!
え?
え?ワタクシですか?そのシチュだと確実にキルロイに走るのでこちらではご期待に添えないのです。
ライロイだったら解くの待つまでもなく歯で…

失礼しました。ちなみに私は壮絶に色っぽくて投げやりなダメ人間ロイエンタールが、同じくダメ人間なヤンさんに癒されるロイヤン大好き人間です。

で、誰が誰の半身だって?ロイエンタール。
漫画でもヒンターフェザーン無いのかな。
Re: 旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:35:32 No.39
半身!!!ロイーっ!みっちゃんの半身はエヴァだ!ホントに突っ込み満載でしたvvv
そしてマジにフェザーンが秘密で謎の組織に………
フジリュー先生!銀英の元タイトルが銀河三国志だって知らないのかな


旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:24:59 No.32 【返信】

20160815お盆最後の日にこんにちは そのぎ 2016年08月15日(Mon) 15:47

〔Yのルーツ3〕

翌朝、二人は朝食の席で今日の計画を練った。
「千八百六十年代の藩士名簿と古地図に『柳』とある家が見つかったんだ。場所も分かるけど……」
「どうした?」
「千八百六十年代の戸籍の名前と一致しないんだ。武士と仮定しての調査だから仕方無いかも」
「じゃあ別人か?」
「そうだね。でも遠縁の親戚の可能性はなきにしもあらずさ」
「今日で全てを決める。駄目でも粘るよりスパッとね。ロイエンタール、明日の飛行機大丈夫かな?」

旅館を出た二人はバスに乗り、古地図の場所に向かった。
「ここかあ……」
そこは大きな工場が建っていて、中に入るのは無理の様だった。
「まあ、百数十年以上は経ってるしね……」
「大丈夫か?」
「うん、こんなもんだろうと予想してたからね」
「これで終わりか?」
「いや、最後にもう一ヶ所だ」

更にバスに揺られ、山奥の寺に着いた。
シャツを濡らしながら山門をくぐると、青空と山の緑の美しいコントラストと蝉達のコーラスに出迎えられて二人は心打たれた。
「いい環境だが、えらく遠いな」
「この辺りでは唯一中国僧が開いた禅寺だよ。禅僧達の船で来たなら関わりが万にひとつ、なんてね」
住職に過去帳を見せて貰った所、何と『柳』の名があった。
だが戸籍の該当者は無し。
しかも戦後に子孫が引っ越した為、墓は無くなってエンブレムも確認出来なかった。
すっかり諦め顔のヤンを気の毒に思った住職は、せめてもの慰みにと寺を案内してくれた。
あらゆる仏像や庭など、和の空気に触れた二人は癒された。
最後の辺りにたくさん並ぶ仏像を見ていたヤンは、ふと小さな仏像が心に引っ掛かった
「ああ、それはですね、『妙見菩薩』と言うんです。道教などの影響もあって、北極星や北斗七星を神格化したものなんです」
その言葉にヤンはハッとした。
「どうしてここに?」
「前の住職から聞いた話では、その前の前の住職の話としてですが、第一次世界大戦の後くらいに本家の供養にと寄進されたとか」
「本家に?つまり分家が?」
「ええ、名前は聞いてませんが。でもその方々は外国へ移住するからとそうされたらしいです」

バスの中でロイエンタールは質問した。
「ヤン、満足したか?」
「満足と言うか、納得したよ。北斗七星のエンブレムはその信仰者が採用したと言われるし、分家なら離れた所で暮らしていてもおかしくなかったんだ。私の中では答えが出たよ」
「じゃあこれで目的達成だな」
そう言うとロイエンタールは降車ボタンを押し、強引にヤンを引きずり降ろした。
「な、何するんだよ!」
辺りは田んぼ。そして少し離れた所には――けばけばしい日本の城。
「な……まさか?」
「昨日の条件を果たして貰うぞ?ブティックホテル調査だ」
ロイエンタールの眼鏡が妖しく輝いた。


「化粧水、クレンジング、乳液、特製ローション、どれを塗って欲しい?」
「ど、どれって!?」

「『ウォータースライダーで全裸滑り』だと?早速試すぞ」
「さ、誘わないでくれっ!」

「ここのシャワールーム、擦りガラスが際どい透け具合だな」
「なっ、人に浴びさせといて……!」

「ふむ、これは何の機具だ?」
「ス、スイッチ入れたまま押し付け……やっ、やめっ……」

――何だかんだでブティックホテルの休憩ハシゴ三昧――


「おい急げ!ヤン!」
「ま、待ってよ!」
ハシゴが過ぎ気付けば次の電車を逃すと飛行機に間に合わないと言う事態に。
タクシーを飛ばして駅に着いたものの、予定の時間は既に十分を過ぎていた。
肩を落とす二人に意外なアナウンスが響いた。
《只今事故の為、電車が十五分ほど遅れております。大変申し訳ございませんが……》
ロイエンタールが駅員に聞くと、山からそんな大きくはないが石が七個線路に落ち、撤去まで少々時間が掛かったとの事。
思わず二人は顔を見合わせた。
やがてやって来た電車に乗り込むと、ヤンはそっと両手を合わせ山に向け、続いて北極星と北斗七星の方角に向けた。
するとロイエンタールもそれに倣った。
電車は何も知らず、二人の男の思い出を乗せて遠ざかって行った。

       おわり


旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:23:59 No.31 【返信】

20160814お盆の朝におはようございます そのぎ 2016年08月14日(Sun) 07:15

〔Yのルーツ2〕

二人が降り立ったのは地方のとある小さな街。
山々と青々とした田んぼがある一方であちこちに住宅が建ち、駅周辺にはビルや飲食店が集まりちょっとした中心街となっていた。
「ロイエンタール、あれを見て」
「うん?……新手のブティックホテル……じゃないな日本の城!?」
明らかに復元だったが、小ぶりの城が細かいところまで作られていた。
二人はまず市役所へ。
しかしやはり合併で現在地を特定するのは無理との事。
そこで今度は図書館の郷土史コーナーへ。
「あの城はちょっとした観光名所なんだ。ご先祖様が昔仕えたかもしれない領主のね」
「ほう?」
「江戸時代に禅僧達を乗せた交易船で来日したらしいけど、それ以外事跡が残って無いんだ」
「帰化して『柳(やなぎ)』と名乗ったみたいだ『楊(ヤン)』は『柳(リュウ)』と同じ意味があるからだろうね」
「何か証拠は無いのか?」
「エンブレムさ」
「えっ?」
「柳家がその頃使っていたエンブレムは北斗七星を模してるんだ。日本ではお墓に刻まれるから墓所が分かれば……」
司書の人はあれこれ調べてくれた。古い資料を教えてくれたりコピーをたくさん取ってくれたりした。
「ヤン……読める……のか?」
「うーん……名前、年号、くらいかな?」
昔の字はくずし字が多い為、現代日本語しか学んでいないヤンには第二の試練だった。
が、そこは図書館である。
くずし字辞典やパソコンのくずし字翻訳アプリの存在を教えて貰った。
「俺は街を散策してくる……」
流石に出番の無いロイエンタールは市役所で貰った観光マップを片手に出ていった。
――三時間後。
戻ってみるとヤンはコピーの束の中で突っ伏していた。
「つ……疲れた……今日はおしまい……」

まだ夕方まで間があったが、ロイエンタールが散策中に予約した旅館へ。
この辺りは温泉があるのでスパやホテルが結構あると言う。
長旅の疲れが大きい二人はすぐ大浴場に向かった
「はあ……いいお湯だなあ……」
「全くだ。生き返るようだ」
平日で早い時間帯のせいか二人しかいなかった。
ヤンは思い切り手足を伸ばした。
白く華奢な体が湯の中で揺らめいた。
ロイエンタールは眼鏡に曇り止めをしていたお陰で見逃さなかった。
「ヤン、お前の……」
「何?」
「足、パンパンだぞ?少しほぐしてやろう」
「うん、頼むよ」
ロイエンタールがマッサージすると、ヤンはすっかりご満悦の表情に。
が、だんだん上の方までほぐしにかかって来たので慌てて上半身を起こした。
「ちょ、ちょっと!そこまでしなくても!」
「遠慮はしなくていいぞ?」
「遠慮じゃ無くて本当に……」
「分かった分かった。次は俺のを頼む。」
不器用な手付きで始めたものの、うまくいかないようだった。
「――ヤン、もう少し上をほぐしてくれ」
「え?上?」
ロイエンタールが指すとヤンは思わず湯をかけた。
「バカッッ!!」
「はは……冗談だ……」

夕食後、ヤンは資料に目を通す……事もなく畳の上に引っくり返っていた。
「行儀悪いぞヤン」
浴衣姿で大の字のヤン。太ももと胸元がはだけていた。
ロイエンタールはヤンが熟睡しているのを確かめると――
「こ、こら!何してる!」
「スマホで盗撮ですが何か?」
「何かじゃない!すぐ消去してくれ!」
「隙だらけのお前が悪いんじゃないか。まあいいだろう。ただ条件がある」
「嫌な予感しかしない……」
果たしてそれは的中したが、疲れているので勘弁してくれと必死に懇願するヤンだった。

つづく


旧ログ掲載 管理@早坂 投稿日: 2018年03月24日 04:23:17 No.30 【返信】

20160813お盆の日にこんばんは。 そのぎ 2016年08月13日(Sat) 00:23

〔Yのルーツ〕

ある夏の日。
ヤンとロイエンタールは国際線の旅客機に乗っていた。
「悪いねロイエンタール、わざわざ付いてきて貰って」
「構わんさ。お前一人じゃ襲われたり色々な意味で危ないし、仕事で日本のガイドブックの内容調査を考えていたからな」
眼鏡をクイ、とあげつつロイエンタールは笑顔で答えた。
今回の旅の目的は『ヤンのご先祖様探し』
幼い頃、祖父母から『昔、ご先祖様の一人は日本に渡って侍になってたんだよ』と聞かされ、いつか調べたいと思っていた。
現在のはもちろん、日本での戸籍を可能なだけ遡ったものを取り寄せた。
「流石はヤンだ。キッチリ資料が翻訳してある」
「予めこちらで出来るだけ準備しないと三日間しか時間が取れなくてね。でも、千八百六十年代までしか遡れなくて」
「しかも身分や経歴までは分からなかったんだ。だから直接日本で調べるしか無いと思ったんだ」
「歴史ファンの血が疼いたか?俺もある意味疼いてくるぞ」
「お前の秘密を覗ける様でな……」

「おい急げ!ヤン!」
「ま、待ってよ!」
日本独特の蒸し暑さによる体力低下と、電車の乗り継ぎに次ぐ乗り継ぎと言う未知の試練にヤンはさらされた。
ロイエンタールの事前チェックと二人分の荷物を軽々と抱える強靭な体力が無ければ発車寸前に乗り込む事など不可能だっただろう。
「ほら見ろヤン、ガイドブックにあったブティックホテルが沿線ぞいに結構あるぞ」
汗の付いた眼鏡を拭きつつロイエンタールが話しかけた。
だがヤンはろくに口も聞けず、空にしたばかりのペットボトルを手にうなだれていた。
ややあって落ち着いたヤンはおもむろに地図を開いた。
「まず行くのはここ。次にここだよ」
「市役所と図書館?」
「一番古い戸籍の住所が今もあるとは限らないんだ。改名や合併があったりするから」
「なるほど……おっと次の乗り継ぎ駅だ」
「ええっ!もう!?」

              つづく


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