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げろり。明治後半から昭和30年代まで 日本各地で使われた下駄スケートのこと。
https://ja.wikipedia.org/wiki/下駄スケート
親たちも周りも みなゲロリーと呼んでいた。由来は何語で どういうスペルなのか 以前から気にかかっていたのだが なにせ半世紀以上前に絶滅した遊具なので 記憶の底にあるだけ あえて調べたことはなかった。
今回初めてwikiで読んで それが長野県下諏訪で発明された日本独特のスケートだということを知った。だからスペルが有るはずもなく 語源はwikiにも書いてないけれど ひらがなでげろりというのが当たっているのかもしれない。
写真のような無骨なスケートを 足袋を履いた両足に真田紐などで括り付ける。ぎゅっと結べば足はしっかり固定されて、滑走するのに 普通の靴スケートと比べても何ら遜色はない。足先が早く冷えて凍えたろうと思うのだが 元気な子どもたちはあまり気にもせず 歓声を上げてたっぷりと氷上の滑走を楽しんだ。本当に 良き時代だった。
かように わが田舎では誰もがそのゲロリーで滑っていたから スケートといえば その下駄だと私も思い込んでいた。気づきが来たのは 小学校の低学年、軽井沢町千ヶ滝にあった 西武が経営していた大きなスケート場に遊びに行った時だった。一周400メートルの公式リンクが複数有り、たびたび世界大会が開かれるほど大きな施設だった。当然オンシーズンには 日本中から大勢の客が滑りに訪れる華やかな場所だった。バスを乗り継いで山道を登っていくと 心がうきうきと弾んだ。
いつものようにゲロリーを手にして 広い屋外リンクの傍に座り 紐できっちりと足に固定する準備をしていた。ふと見上げると 隣で休んでいた都会風の綺麗なお姉さんたちが じっと私の足元を見ている。へえ〜っ これが… 初めてゲロリーを目にしたのだろう、まるで小さな珍獣を見るかのような 驚きと奇異の混じった眼差しだった。都会のお姉さんたちの お世辞にも上手とは言えない走りを目にしていたから、早くスケートを装着して 「模範演技」を見せてあげようと思っていた。体は小さくても 年季が違うもの…。けれどもその前に お姉さんたちの素敵に光るスケート靴と比べたら いかさま珍奇なゲロリーを見つめられてしまったのだった。
スッと滑り出すと 案の定 上手ねえ 器用ねえという讃嘆の声が聞こえてきたけれど なんだかそれ以上に 私は恥ずかしくてならなかった。そうか、下駄スケートは 古くて田舎くさくて もう過去の遺物なのだということを 私は初めて目の当たりにしたのだった。もう ここには来たくない、もし次に来るとしたら きっと黒の革靴のレンタルスケートにしよう 、そう心に誓った気がする。
思春期前葉の 遠い遠い思い出。