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お正月SS

1: 名無し:2018/01/01 23:11 No.74
「ったく、なんでアタシが元旦から料理しなきゃなんないのよ」
「ヤエ様だけにやらせるのは悪いッスよ」
鍋をお玉でかき混ぜながら愚痴るキツネを、ヒトツメがなだめた。

一月一日、氏子が年始回りで家を空けるのに乗じ、ヤエが皆を招いた。
キツネとヒトツメは、新年会の準備を手伝うよう指名されたのである。

「粗方の用意はしておいた。あとは雑煮だけじゃ、早うせい」
ヤエが、料理を部屋へ運びつつ急かした。

「自分たちが作ると関西風になるけど、いいんスかね」
「田舎者どもはそんなの気にしないわよ」

そう言い、キツネが塩を一つまみ鍋に入れると、ヒトツメは思わず声を上げる。
「あっ!ちゃんと分量を見ないと」

「こんなもんよ…うん、美味しくなった」
「結果オーライじゃないスか、もう」

他愛ない会話をしながら厨房に並ぶ二人の後ろ姿を、ヤエは目を細めて見ていた。

2: 名無し:2018/01/01 23:14 No.75
二時間ほど経ち、宴も一段落ついた。
ミヨシとヤエは酒をちびちび飲み、少し離れてアオたちがトランプに興じていた。

「よっしゃ、アオがババ引いた」
「ああっ、ばらすなよヒトツメ」
「兄っちゃはすぐ顔に出るからな」

キツネはミヨシの隣にいたが、その視線はずっと定まったままだった。
アオやシロと一緒にいるヒトツメは、本当に楽しそうで、よく笑う。

自分はヒトツメの才能を見込み、ヒトツメも自分に親しんでくれている。
ただそれは、アオたちのような間柄とは違うものだ。

そんなことを考えていると、キツネは胸が締めつけられるように感じた。

「ご馳走様。もう行くわ」
「なんだ、せわしないな」

ミヨシが問うと同時に、アオが口を挟む。
「正月ぐらいのんびりしろよ、キツネ」

3: 名無し:2018/01/01 23:17 No.76
「アタシは忙しいの。役立たずの馬と違ってね」
「なにっ!」
「やめろ、二人とも」

つい出た皮肉に決まりが悪くなり、キツネは素早く立ち去ろうとする。
「…ヤボ用よ。じゃあね」

「あっ、稲荷様!」
すでに駆け出していたキツネは、追う者がいることにも気付かない。

「どうすんべ?」
「ヒトツメに任せておけばええ」

「でもさ…」
アオは、すぐにでも神懸りをする気でいる。

「犬も食わぬ、というやつじゃよ」
そう言うと、ヤエは厨房へ向かった。

ヤエの言葉が飲み込めず、アオとシロは顔を見合わせた。

4: 名無し:2018/01/01 23:20 No.77
自分は何をしたいのか、走りながら考えても、キツネの頭はまとまらない。
速度が落ち、歩くのと変わらない程度になる。
足を止めると、遥か後方から呼びかける声が耳に入ってきた。

「ハァ…ハァ…稲荷様、足速すぎッス」
また走ればヒトツメを振り切ることは容易いが、そう出来ずにいた。

「帰りましょう。みんな待ってるッスよ」
息を整えたヒトツメが、キツネの手を掴む。

キツネは、咄嗟にその手を振りほどいた。
しまったと思う間もなく、勝手に言葉が口を衝いて出る。

「こっち来ないで!」

「アタシといたって、楽しくなんかないでしょう!」

「馬や、毒蛇と遊んでれば、いいじゃない」

「もう、アタシに、構わないで…」

5: 名無し:2018/01/01 23:24 No.78
いつしかキツネは俯き、声も体も微かに震えていた。
ヒトツメはしばらく黙っていたが、やがて穏やかな声で話し出した。

「アオとシロはいいやつだし、ミヨシ様もヤエ様も親切にしてくれます」

「でも、自分は」

「稲荷様がいないと嫌なんス」

震えは治まったが、キツネは全身がやけに熱く感じられた。

「…どの面下げて戻れってのよ」
まだ前を向くことの出来ないキツネは、そう返すのが精一杯だった。

ヒトツメが、そっとキツネの手を取る。
「用は済んだ、って言えばいいんスよ」
キツネの瞳に、ヒトツメの笑顔が映った。

連れ立って歩き出す二人。
再び繋がれた手を、キツネはもう振りほどきはしなかった。

6: 名無し:2018/01/01 23:28 No.79
終わりです。

パイン、稲荷衆などは割愛。
主役六人だけです(一部影薄い)。

着想(血迷った)のきっかけは、一年ほど前、
料理はヤエ>ヒトツメ>キツネという作者様の発言。
その後キツネは実はそれほどでもないと梯子を外されましたがw
ここでは、まあヤエやヒトツメが指示を出してる感じで。

お付き合い下さいました方には、ありがとうございました。
最後に、明けましておめでとうございます。


7: 秋田LV3:2018/01/04 16:11 No.80
ジャーンジャーン!(銅鑼の音

百合じゃないか!!

SSありがとうございます!
台詞が私が書いた!?ってほど言いそうなことばかりでなんだか感無量…!

8: 秋田LV3:2018/01/04 16:14 No.81
今気づきました。
バナーの席順がペアに変わっている!
芸が細かい~~

9: 名無し:2018/01/05 01:13 No.82
台詞は、原典を見返しながら結構こだわったので、
違和感が無いのであればもう何よりでございます。

バナーは以前、仲の良さ準拠みたいにできないかといじったものです。
特にオチもつかなかったので放置してたんですが、
図らずも真ん中がこうなってたので再利用…

10: 秋田LV3:2018/01/05 20:46 No.83
誰が言ったか説明ナシで伝わるのって地味に大事で。
(ここに泉光院が混ざるとミヨシと区別がつきにくかったり)

キツネがピースしてるのは、低容量のgoogleサイトで運営していたときの
名残で、容量がなくなったからもう一個作った的の2番目って意味
なんですが、SSの後だとイメージ変わる~~

11: リラ:2018/01/10 20:31 No.84
素晴らしい。
もちろん本編とは違うけど、本編の延長線上に「ありそう」な空気感。

ヒトツメへの好意がふつふつと湧き上がっていそうなキツネが可愛い。
また、ヒトツメのこのたらし全開なオーラが、んんんんんん!?!

すき。すごく好き。

12: 名無し:2018/01/11 22:00 No.85
はわわ、マイスター様のお言葉、勿体ねえ勿体ねえ。
ありがとうございます。

作者様も記事にして下さりまして、ありがとうございました。

13: 名無し:2019/12/24 00:50 No.256
地下の公式設定が出たので、無理矢理仕上げちゃいますよ。
要はその用途に使えるかどうかだと思うんだ。

SS「庇護」

14: 名無し:2019/12/24 00:51 No.257
厳しい戦いが続き、次々に仲間が傷つく報せが入ると、
ヒトツメは自分も戦場へ向かおうとした。
その肩をキツネが必死に押さえ、激しい口論となる。
「どうして言うことを聞かないの!」
境内に乾いた音が響いた。
思わずヒトツメの頬を叩いてしまい、キツネはハッとなる。
その隙に、ヒトツメは目に涙を溜めたまま駆け出した。
「稲荷様のバカ!」
小さくなりゆくヒトツメの背中を呆然と見ていたキツネは、
やがてうわ言のように呟いた。
「止めなくちゃ…どんな手を使っても…」
キツネの指先に青白い炎が灯った。

****

「ゴメンナサイ イナリサマ」
「ふふっ、チビは良い子ね」
神社の地下工房、薄明かりの中、膝を抱えて座るヒトツメ。
キツネはその髪を背後から弄び、三つ編みを作っていた。
(了)

15: 名無し:2019/12/24 00:56 No.258
「ご想像にお任せましす」便利な言葉だ。
そして困った時の原作ネタ。
久々に軽いネタのつもりで書いたら、意外と反応してもらえて、
最終的になんか小品みたいになっちゃいました。
どうも失礼致しました。

16: LV3◆JYd7t0N4Tk:2020/01/04 11:11 No.276
通知設定が働いていないので設定しなおしていたら続きがあった!

より、問題みが増した内容になっとるやん!!(ありがとうございます


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