×
投稿に動画を挿入する場合、URLを入力してください
■ 対応形式
http://www.youtube.com/watch?v=●●●●
http://youtu.be/●●●●
http://www.youtube.com/shorts/●●●●
http://www.nicovideo.jp/watch/●●●●
投稿内容を送信しています。
画面を閉じずにそのまま、お待ちください...
%
お正月SS2「神隠し異聞」
1: 名無し
2020/01/03 13:59 No.260
謹賀新年。ということでまたお借りします。
前回は、原作っぽい雰囲気も出せれば、ということを目指しましたが、
今回は割とアレンジ、というかパラレルワールドになってます。
心の広い方は、お付き合い下さいましたらと思います。
では、
「神隠し異聞」
2: 1/10
子供が一人、神隠しにあったらしい。
小さな村の中で、噂はたちまち大きく広まった。
きっかけは、帰りが遅い我が子の心配をする母親だった。
うちの子がまだ帰らないが、知らないか、と隣家に相談したのである。
そこから騒動が始まり、村人たちが役場で会合を開くまでになった。
解散後、おかっぱ頭の少女が、一人で集団から離れた。
少女はまっすぐ神社へと向かい、本殿に入って行く。
中では、上半身裸の屈強な男と、巫女の姿をした金髪の女が座っていた。
「どうなった?」
男が尋ねると、少女は疲れた様子で答えた。
「もう日が暮れたゆえ、本格的な捜索は明日にするよう説得した」
男は、主神である三吉霊神のミヨシ、少女は、思兼神のヤエだった。
「何か事故が起きたのなら、それは運命。オレたちの出る幕じゃねえ」
「じゃが、本当に神が隠したとなれば、話は別」
ヤエの口ぶりから、内心の悩ましさが窺われた。
3: 2/10
「話もなにも、明白じゃないの」
巫女装束の女が口を挟んだ。稲荷神のキツネである。
「例の子は、馬と遊びに行ったんでしょう?そしてアイツはここにいない」
馬とは、まだ村に来て日が浅い、蒼前様のアオのことだった。
「あいつは、そんなことをする型の神じゃねえ。オレはアオを信じる」
「村の連中も、そう思うかしら?」
断言するミヨシに、キツネが冷めた口調で反駁した。
「確かに、ワシらを疑う者もいた。このままでは収まりがつかなくなろう」
村人たちと争うことなど、ヤエは考えたくもなかった。
それは、主神たるミヨシにとっても同様である。
「今夜中に見つければ、うまく収めてくれるわけだな。行くぞ、キツネ」
「…仕方ないわね。眷属の狐たちにも探らせるわ」
ミヨシに促され、キツネは大儀そうに立ち上がった。
「ワシは村の者を抑えておく。頼んだぞ、二人とも」
ヤエは、出発するミヨシとキツネを見送った。
4: 3/10
暗闇の中、女が童の手を引きながら走っていた。
女は着物姿で、頭に簪を挿しているが、その右足は馬の脚という異形。
アオであった。
アオは村に来て以来、家畜の守護を主に司り、村人とも打ち解けた。
特に子供たちに懐かれ、しばしば遊び相手になってやった。
この日も山で遊んだ帰り、寄り道したいという一人の童に付き添った。
しかし、それが間違いだった。
脇道をやや進んだところ、何かの気配を感じ、振り返ると狼がつけていた。
アオは急いで村へ戻ろうとしたが、その度に別の狼が現れて阻まれた。
狼は群れの力を使い、二人が徐々に道を外れるように誘導した。
夜更けになるまで、一体どれほどの時間と距離を走り続けただろうか。
童がつまずいて転んだ。後ろから狼の群れが迫る。
「しっかり!」
アオは童を背負い、また駆け出したが、今にも体力が尽きそうだった。
5: 4/10
月が雲間から顔を出すと、前方に一本の巨木が見えた。
アオはとっさに、あの上に隠れようと思った。
そして、木の根元に着くと、童を背負ったままよじ登った。
幹と枝にかなりの太さがあるおかげで、樹上にいても比較的安定している。
アオは童を背から下ろしたが、童は疲労と恐怖で意識を失っていた。
二人の匂いをつけた狼たちが、続々と木の周りに集まって来た。
しかし、木に爪を立てるのがやっとで、登ることができない。
ここで耐えていれば狼も諦めるだろう、とアオは考えていた。
すると、狼の群れが妙な動きを見せ始めた。
狼の上に狼が乗り、その上にまた別の狼が乗る。
それを何匹も繰り返しながら、どんどん高さを増していく。
「狼梯子…!」
高所に逃げた獲物をしとめる、狼の秘術である。
常陸の狼が編み出し、子孫が各地へ散らばることで伝授されてきた。
アオも話には聞いていたが、見るのは初めてだった。
6: 5/10
梯子は十分な高さに達し、頂上では、狼が飛び移らんと身を屈めていた。
童を幹にもたれさせると、アオは頭から簪を抜き、身構えた。
「く、来るなら来い!」
頂上の狼が、アオに向かって飛びかかった。
アオは狼の背に簪を突き立てようとしたが、強靭な毛皮はそれを通さない。
簪は真っ二つに折れ、馬具を模した飾りがはじけ飛んだ。
アオと狼は、樹上で揉み合いとなった。
童をかばい、バランスを保とうとするアオに、狼が襲いかかる。
袖を腕に巻いて防いだが、牙と爪によって容易く引き裂かれた。
どうにかアオは、狼に右足の蹴りを叩き込み、突き落とすことができた。
しかしその時には、また一匹の狼が宙を舞い、眼前に迫っていた。
「もうだめ…」
せめて童だけでも守ろうと思い、アオは上から覆いかぶさる。
その瞬間、空中にあった狼の全身が、炎に包まれた。
7: 6/10
勢いを失い墜落した狼に代わり、何者かがふわりとアオの前に立った。
長く艶やかな金髪が、火の光に照り映えている。
「稲荷…様…」
「後はアタシに任せなさい」
キツネが手を振るう度に、狼をめがけて無数の火の玉が飛んだ。
梯子が見る間に崩れ落ちていく。
地に叩きつけられ、火に囲まれ、狼たちは大混乱となった。
キツネは、地上に降りても追撃の手を緩めない。
「去れ、狼ども!」
狼の群れはすっかり逃げてしまい、辺りは静寂に包まれた。
童を背負ったアオが、木から下りて来た。
「その子は気を失ってるだけのようね」
「はい。でも…」
「どうかした?」
「あの狼たち、大丈夫でしょうか」
8: 7/10
アオの言葉を聞いて、キツネは力が抜けそうになった。
「なに、アンタ。アイツらの心配してるっていうの?」
「だ、だって…あんなに焼かれて、さすがに…」
あきれた、というキツネの顔を見ても、アオには気がかりだったのだ。
キツネは、はあっと大きく溜息をついた。
そして、手の平に小さな火の玉を作ると、アオに向けて放り投げた。
アオは驚いて身構えたが、それはアオの胸元をすり抜け、消えた。
「熱くない…?」
「それは光球よ」
まだ事情が飲み込めないアオのために、キツネは話を続ける。
「光球に炎を混ぜるケチな手よ。アイツらはまんまと騙されて、
尻尾巻いて逃げたってわけ。火が付いたらすぐに消してやったわ」
キツネは横目でアオを見て、にやりと笑った。
「ま、ちょっと毛皮を焦がした奴はいるかもね」
9: 8/10
「そう…ですか…」
アオは、そのまま地面にへたり込んだ。
「ちょっと、帰るんだから、しゃんとしなさいよ」
アオはキツネの言葉に応えず、意識が無いようだった。
乱れた髪、破れた着物、土にまみれた足。
全てが今日一日のアオの奮闘を物語っていた。
「ったく、役に立たない馬だこと…」
キツネは、アオの額に軽く手を触れた。
やがて、ミヨシが息を弾ませながらやって来た。
「さっき狼の群れとすれ違ったが、間に合ったか?」
当初、ミヨシとキツネで組になって捜索を行っていたものの、
眷属から報告を受け、キツネが一足先に向かったのだった。
「遅いわよ。まあちょうど良いわ」
キツネは、アオと童の方を指さした。
「二人を運んでちょうだい」
10: 9/10
翌日、午後になってアオが目を覚ますと、村はもう平穏を取り戻していた。
アオは、腕や足に包帯を巻かれていたが、深刻な負傷ではなかった。
件の童は、大事をとって療養しているが、全く命に別状は無いらしい。
ミヨシは村人とともに力作業をし、キツネは村の見回りをしている。
寝床にいるアオのために茶を入れながら、ヤエはそう話してやった。
「よう迷子を見つけたのう、アオ」
「違うんです!あの時は…」
アオは慌てて身を起こし、否定しようとした。
湯飲みをアオに手渡し、ヤエが言う。
「アオ、神隠しがあればワシらのせい、見つかればワシらのおかげよ。
じゃが、どうせなら、人々にとって良き神でありたいとは思わぬか?」
黙ってうなずくアオを見て、ヤエは微笑んだ。
「ならば精進せい。やるときゃやるのが神、とミヨシもよう言うておる」
11: 10/10
手に余る事態が起きた時、アオはただ逃げ隠れするしかなかった。
そんな自分が悔しかったし、そんな自分を変えたかった。
そして今、アオの中で明確な目標が出来上がっていた。
「ヤエ様…」
「なんじゃ」
「私、稲荷様みたいになる!」
「はあっ?」
村で一番高い家の屋根に、キツネが立っていた。
そこから、ヤエとアオがいる神社、村人に交じり作業するミヨシ、
そして、母親と並んで軒先に座っている童の姿が望み見える。
キツネは、眷属たちに、普段より上等な油揚げでも買ってやろうと思った。
12: 名無し
というわけで、この世界のアオはキツネに感化されちゃいました。
キツネはどんな反応するでしょう。
「勝手にすれば」という感じでしょうか。
ヤエとミヨシの気苦労は増えそう。キツネが二人分…
それでは失礼致しました。
14: 名無し
ひゃああ、お手ずからのイラスト、ありがとうございます!
ミヨシは犠牲になったのだ…荷物運びに。
そうなんですよね。原作の役目をキツネ(とヤエ)に移したせいで、
ミヨシの影が薄くなってしまったのが心残りです。
ようやくジェラったり病んだりしないキツネが書けたのは良かったんですが。
また機会があるなら、うまくミヨシ上げもしたいですねえ。
15: 玲子
なんで野犬でなく狼?と思ったら、狼はしご!日本むかし話!
そしてピンチに現れるキツネ様、かっこよすぎ。
この世界だと、この後キツネ様とアオ様によってミヨシ神社が燃やされて稲荷神社になるのでは…(汗)。
ミヨシ上げ作品の機会が来ることを楽しみにしてますー。
16: LV3◆JYd7t0N4Tk
>ひゃああ、お手ずからのイラスト、ありがとうございます!
StrawMan Template唯一の弱点がコミュニティ促進機能ー
こういうイラスト返信や写真返信があった方が楽しいのでコメント欄を改造したいんですけど中々~
17: 名無し
>玲子様
ご感想ありがとうございます。
そしてミヨシ推しによるプレッシャーw
本当に、ミヨシはキャラ的にかなり好きなので、おいしい役をあげられたらと思います。
18: リラ
アオとキツネの新解釈いい……。
キツネは自分に懐いた存在にはなんだかんだで甘いタイプだから、この解釈は百合的にほんと美味しい。
文明開化の波が来て蒼前様が信仰を失いだした時、キツネがまたぞろ何かやらかしそうな期待感を持てるのもいい。
なんだかんだで目をかけてる妹分のためにひっどい屁理屈をこねまくって多方面で暴れるキツネが見たすぎる……。
キツネ推しの身としては、SSの内容としても込められた解釈としても、もう大変に美味しゅうございました。
ありがたやありがたや。
20: 名無し
>リラ様
ありがたがられるなんて恐れ多い…ありがとうございます。
オチ以降の展開はノープランだったのですが、言われてみると、
幾つかある不可避イベントをこの設定でどう凌ぐか考えるのも一興かも。