・元記事|不動産流通推進センター>不動産相談事例:https://www.retpc.jp/archives/21708/ ・参考記事|マンションの「ホタル族」は風前の灯 ベランダ喫煙でトラブル多発、換気扇にも苦情:https://www.j-cast.com/2013/01/09160749.html?p=all ・参考記事|名古屋地裁平成24年12月13日判決,マンションベランダからの受動喫煙被害で喫煙者に賠償を命じる(報道):https://medicallaw.exblog.jp/19810179/ Q1.喫煙により他の住民に健康被害を及ぼした場合、損害賠償責任が生じるか。 Q2.ベランダでの喫煙を禁じる規則が管理規約や細則になければ、不法行為に該当しないのか。 A1.継続的な喫煙が、不法行為による損害賠償責任を生じさせる場合がある。 A2.喫煙を禁じる規則がなかったとしても、喫煙が不法行為となる場合がある。 A1の理由 日本における成人の喫煙率は減少傾向にあるが、約20%(男性32%、女性8%)の喫煙者がいる。タバコは、健康に悪いとはいえ、喫煙者には、ストレスの解消、気持ちを落ち着かせる等の精神的メリットがあるともいわれている。しかしながら、他人のタバコの煙を吸わされる受動喫煙は社会問題となっている。受動喫煙を室内又はこれに準ずる環境において防止するために必要な措置を努力義務として講ずることを謳っている健康増進法改正により受動喫煙防止の強化が図られようとしている。 受動喫煙の制限は、主に公共機関や人の集まる建物内での喫煙を制限するものであり、自宅では自由に喫煙することが可能である。とはいえ、マンション生活では、戸建住宅と異なり、生活音とともに、他の居住者のベランダでの喫煙が迷惑行為となることがある。喫煙頻度が比較的高くなく、近隣の居住者への迷惑程度に収まっているのであれば、マンションは共同住宅であり、生活音も含め、ある程度は受忍しなければならないであろう。しかし、喫煙が他の居住者の健康被害等を生じさせ、その被害を承知しながら喫煙を継続し、被害の防止策を講じない場合には、喫煙が不法行為となり、損害賠償責任が生じる場合がある(民法第709条)。 裁判例でも、「喫煙はベランダという外気に晒される解放空間で行われたもので、住人の喫煙行為(1日数本程度)は他の近隣住人の社会生活上の受忍限度内といえる」として損害賠償請求を否認した(東京地裁平成26年4月22日判決)ものがある一方、「自己の所有建物内であっても、いかなる行為も許されるというものではなく、当該行為が、第三者に著しい不利益を及ぼす場合には、制限が加えられることがあるのはやむを得ない」とし、「マンションの専有部分及びこれに接続する専用使用部分における喫煙であっても、マンションの他の居住者に与える不利益の程度によっては、制限すべき場合があり得るのであって、他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら、喫煙を継続し、何らこれらを防止する措置をとらない場合には、喫煙が不法行為を構成することがあり得る」と損害賠償を認めたものがある(【参照判例】参照)。なお、この裁判では、「マンションに居住しているという特殊性から、近隣のたばこの煙が流入することについて、ある程度は受忍すべき義務があるといえる」とし、損害賠償額は精神的損害を慰藉する金額(5万円)に止めた。 A2の理由 また、マンション管理規約や使用細則等に規定されていなくても、「マンションの使用規則がベランダでの喫煙を禁じていない場合であっても、喫煙が不法行為を構成することがありえることは同様」(【参照判例】参照)としている。規約に規定されているか否かにかかわらず、不法行為となり得ることに留意しなければいけない。 マンションのベランダでの喫煙によるトラブルを防ぐためには、喫煙行為に関する規約・細則等での取決めも必要となろう。必ずしも全面禁止するのでなく、喫煙者にも配慮し、期間や喫煙場所、その他喫煙ルールを取決め、互いの共同生活を保つ工夫も必要となろう。 【参照判例】 名古屋地裁平成24年12月13日判決 ウェストロー・ジャパン(要旨) 「ベランダ喫煙に関する判決」 「自己の所有建物内であっても、いかなる行為も許されるというものではなく、当該行為が、第三者に著しい不利益を及ぼす場合には、制限が加えられることがあるのはやむを得ない。」 「タバコの煙が喫煙者のみならず、その周辺で煙を吸い込む者の健康にも悪影響を及ぼす恐れのあること、一般にタバコの煙を嫌う者が多くいることは、いずれも公知の事実である。」 「マンションの専有部分及びこれに接続する専用使用部分における喫煙であっても、マンションの他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら、喫煙を継続し、何らこれを防止する措置をとらない場合には、喫煙が不法行為を構成することが有り得る。このことは、当該マンションの使用規則がベランダでの喫煙を禁じていない場合であっても同様である。」 「本件マンションの立地は,日常的に窓を閉め切り空調設備を用いることが望まれるような環境ということはできず,原告が季節を問わず窓を開けていたことをもって,原告に落ち度があるということはできない。」 「被告は,本件マンションに居住するようになったのは被告が先であると主張する。しかし,ベランダでの喫煙は,第三者から容易に確認することができないから,原告が自らタバコの煙が上がってくるような場所を選んで居住したものということはできない。また,タバコの煙を嫌う原告が,居住先を選ぶ際に十分な調査を怠ったということもできない。したがって,後から居住したことをもって,原告が被告のベランダでの喫煙によるタバコの煙を受忍すべきということはできない。」 「被告が、原告に対する配慮をすることなく、自室のベランダで喫煙を継続する行為は、原告に対する不法行為になる。」 (中略) 「住人がベランダでの喫煙をやめて、自室内部で喫煙をしていた場合でも、開口部や換気扇等から階上にタバコの煙が上がることを完全に防止することはできず、互いの住居が近接しているマンションに居住しているという特殊性から、そもそも、上階の住人においても、近隣のタバコの煙が流入することについて、ある程度は受忍すべき義務があるといえる。」 ----------------------------------------------------------------------------------- 結論と評価 平成23年5月以降の約4か月半(但し、平日の日中は、午前中のみ)についての慰謝料として、金5万円を認めた。(損害賠償請求金額は150万円) 慰謝料の金額については、今後の裁判の課題であるが、ベランダ喫煙が不法行為になることを初めて認めた判決として、注目すべき判決といえる。 ----------------------------------------------------------------------------------- 民法第709条(不法行為による損害賠償) 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 *********************************************************************************** 受動喫煙被害でお困りの場合は、 医師に「受動喫煙症」の診断書を書いてもらい、喫煙加害者にそのコピーを渡し、タバコの受動喫煙で症状が悪化することを伝えることです。その際、管理会社や警察など第三者の立ち会いで行うほうがよいでしょう。 なお、日本禁煙学会のサイトには、 「受動喫煙症診断基準:http://www.nosmoke55.jp/passive_dx.html」 「受動喫煙症の診断可能な医療機関:http://www.nosmoke55.jp/passive_clinic.html」 の一覧が掲載されていますので参考にしてください。 「受動喫煙の相談に応じる弁護士のHP:http://www015.upp.so-net.ne.jp/k4227419/index.html」も参照してください。 |