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『国富論』再訪(52)
二村 重博 投稿日:2023年03月14日 17:05 No.197
 『国富論』(49)第4編 第8章 (2010年2月14日)

 第8章 重商主義の帰結 (Conclusion of the Mercantile System)

 重商主義の手段と目的は、輸出を奨励し輸入を抑制することによって貿易収支を有利にして国を豊かにする、ということにあります。このため製造業が発展してくると、自国の製造業を有利にするために、製造業の原料 (the materials of manufacture) や事業用の機器や道具 (the instruments of trade) については輸出を抑制し、製造業の原料の輸入は奨励されましたが、機器や道具の輸入は禁止されてきました。「いくつかの国からの羊毛、すべての国からの綿花、未加工の亜麻、大部分の染料、アイルランドと植民地からの大部分の未加工皮革、イギリス領グリーンランドからの海豹皮革、植民地からの銑鉄と棒鉄など、多数の製造業原料の輸入が通関手続きを適切に行うことを条件に、関税をすべて免除され、奨励されている」(232頁)と言っています。そして、亜麻糸と亜麻布の例を挙げ、亜麻糸に輸入関税を免除し亜麻布に輸出奨励金を支給したことは、貧しい労働者のためではなく金持ちと権力者のためだと批判しています。
 また、「製造業の原材料の輸入に奨励金を支給する政策は、主にアメリカ植民地からの輸入だけに対象が限定されている」(233頁)と言って、いくつかの事例を挙げています。

 他方、「製造業の原材料の輸出は、ときには全面的に禁止され、ときには高率の輸出関税で抑制されている」(236頁)という状態でした。スミスは毛織物業界 (woolen manufacturers) の例を挙げ、「外国からの毛織物の輸入を完全に禁止する法律によって国内消費者に対する独占を確保しただけではなく、羊と羊毛の輸出禁止によって、牧羊農家と羊毛生産者にとっての市場も独占している」(237頁)と言っています。しかも、これに反したものは重い罰を受け、また輸出を防ぐために国内取引にも多くの制限が科せられていました。イギリスの毛織物業界はこの極端な制限と規制を正当化するために、「イングランド産羊毛は独特のものであり、どの国の羊毛よりも品質が高い。他国産の羊毛では、イングランド産羊毛をある程度加えなければ、まともな毛織物にならない」(240頁)と言っていますが、スミスは、高級織物の生産はスペイン産羊毛でなされており、イングランド産羊毛が高級毛織物の生産に不可欠であるという主張は間違ってる、とコメントしています。
 この独占によって、イングランド産羊毛の価格は自然に任せた場合より価格が低くなっています。これは自然に任せた場合よりも羊毛の生産が少なくなっている可能性がありますが、実際には、牧羊農家は食肉用に羊を販売しようとするので羊毛の年間生産量は減少しない可能性があります。一方、このような状態では品質が低下しているかもしれないという意見もあるかもしれないが、羊毛の品質は、羊の健康、発育ぶり、大きさに左右されるので、食肉用の飼育として注意された羊は品質面でも悪くなっていないと言っています。だからといって、羊毛輸出の完全な禁止が正当化されるわけではなく、国内市場と外国市場の価格差が大きいので密貿易によるかなりの輸出もあるので、財政収入も考えれば輸出禁止より関税をかけた方がよいと提言しています。
 その他、例えば、生革となめし革の輸出禁止の例のように、「完全な製品ではなく半製品の輸出が禁止されるか、関税によって抑制されているのは、皮革製品にかぎったことではない。直接に使用でき消費できる商品に仕上げるために必要な工程が残っているのであれば、それは自分たちの仕事にするべきだと製造業者は考えている」(245頁)ので、毛糸や梳毛糸も輸出が禁止され、白地の毛織物には輸出関税がかけられていました。また、金属の場合、金属を加工した製品は無関税でしたが、多くの金属の未加工品の輸出は禁止されていました。「ジョージ一世治世の1721年の法律で、イギリスのほぼすべての生産物と製品について、それまでの法律で規定されていた輸出関税が原則として撤廃され、無関税で輸出できることになった」(246頁)が、その例外や、七年戦争の後イギリスの領有地になったセネガルのゴムやイギリス領になったビーバーの皮革の例を挙げています。

 一方、「本来の意味で事業に必要な手段である機器や道具の場合には、輸出は通常、高関税で抑制するのではなく、禁止する方法がとられて」(248頁)いました。例として、手袋やストッキングを編むために使われる枠の輸出の禁止、綿織物、亜麻布、毛織物、絹織物の製造に使われる用具の輸出の禁止を挙げています。
 さらに、事業に必要な技術を持つ熟練労働者が外国に行ったり外国で教えたりすることを禁止していました。

 スミスは、「消費こそがすべての生産の唯一の目的であり、生産者の利益は消費者の利益をはかるために必要な範囲内でのみ配慮されるべきである。・・・だが重商主義では、消費者の利益はほぼつねに生産者の利益のために犠牲にされている。そして、消費ではなく生産こそがすべての産業と商業の最終的な目的だと考えているかのようである」(250頁)といって重商主義政策を批判しています。
 さらに、「重商主義の政策全体を誰が考えだしたのかを突き止めるのは、そう難しくない。消費者は、自分たちの利益をまったく無視する政策を考えだすはずがないと確信できる。生産者が、自分たちの利益を注意深く配慮する政策を考えだしたと確信していい。そして生産者のなかでも、商人と製造業者が立案の中心になっている。この章で論じてきた重商主義の法規では、国内製造業の利益がもっとも配慮されている。そして消費者の利益よりもさらに、大製造業以外の生産者の利益が犠牲にされている」(251~252頁)と結んでいます。つまり、重商主義政策と商人や製造業者の利害が一致することから起こる国内や外国貿易における独占の弊害を批判していることになります。




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