【連想ゲーム】マジカル3世号!


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運動会といったら・・・
ひろ 投稿日:2021年06月30日 17:49 No.748
 リレー




 運動会の花形種目は、リレーなのだろうなぁ。
 騎馬戦や棒倒しも盛り上がるが。
 借り物競争とか聞いたことはあるが、実際にやっているところを見たことがない。
 一体、どこでやっているのだろうか?


 
 グラウンドに、間の抜けた明るい音楽が鳴り響くなか、女子社員が平板な声で次の競技を案内している。
 今日は会社の運動会だ。

 女子社員のアナウンスが告げる。
「次は、この運動会のメインイベント! 借り物競争です!」
 そう、借り物競争がこの運動会の締め括りだ。
 選ばれる選手は、これから抽選で選ばれる。選手は6名。
 誰もが目を閉じ、手を合わせ、祈っている。自分の名前を呼ばれないことをひたすら祈っている。
 女子社員は冷たい声で一人一人の名前を告げる。
 そのたびに、どこかでうめき声が聞こえ、悲鳴が響き渡る。
 6番目に私の名前が呼ばれた。
 6人の名前が呼ばれると、グラウンドに安堵のため息が塊となって流れた。
 名前を呼ばれた6名が項垂れながら、スタート地点へと歩を進める。
 誰の顔にも覇気はない。

 スタートラインに男女3名ずつの6人が並んだ。
 男性社員は、私と1期下の後輩、2期上の先輩の3名。女性が3名、1期上の先輩、同期の女子社員、そして、新入社員。
 
 1期上の女性の先輩は唇を真一文字にして、じっと前を見つめている。放心状態でただ立っているものは1期下の後輩。新入社員の女性は、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「それでは、これより借り物競争を始めます! 選手のみなさんは位置についてください。今日の最後の競技です! みなさん頑張ってください!」
 女性社員のアナウンスに、他人事のような冷たさとこれから始まる修羅場を待ち望んでいるような悪意が感じられた。

 スタートの合図が鳴った。
 6人が10メートル先にある封筒へ進んで行く。
 足取りはバラバラだった。全速力で走る者もいる。小走りの人もいる。私は少しだけ速足で封筒に向かう。
 一番に封筒を選べたからといって、いいことがあるわけでもない。
 
 一番最初に封筒を掴んだのは同期の女子社員だ。中身のメモを確認する。少しだけ笑顔を作り、メモを持った右手を高々と上げ、叫んだ。
「ヴィトンのお財布を持っている人いませんか!」
 彼女は当たりを引いたようだ。

「ロレックスの腕時計をしている人いませんか!」
 1期下の男性社員が叫んだ。彼も当たりだろう。
 
 私がゆっくりと封筒を手にすると、左横でショートカットの1期上の女性社員がメモを見ながら蒼褪めていた。が、意を決したように応援席をぐるりと見まわして誰かを探している。彼女は目当ての人を見つけたらしく、まっすぐにその人に向かって走りながら、叫んだ。
「常務! お願いです! そのカツラを貸してください!」
 常務の周囲にいた人たちが一斉に常務の頭へ目を向けた。常務は憮然とした表情をしていた。
 
 右を向くと、2期上の先輩社員と目があった。彼は虚ろな目をして唇だけを動かした。彼の唇が「詰んだ」と言った。すると彼は、半狂乱になったように応援席の前を叫びながら走った。
「社長の愛人の方! 出てきてください! 社長の愛人の方! 出てきてください!」

 二人が残った。
 新入社員の女子社員が、メモを不安そうにじっと見つめていた。一度目を閉じ、深呼吸をした。目をあけると、毅然とした表情を見せ、私に向かってメモを見せた。私が彼女に頷くと、彼女も強く頷き返し、しっかりとした足取りで人事部の応援席に向かって行った。
「人事課長! 私と一緒に来てください!」
 彼女のメモには、「セクハラ上司」と書かかれていた。

 私は自分のメモに目を落とした。
 メモに書かれた文字を読んで、大きくため息をついた。
 そして、経理部の応援席にゆっくりと向かった。応援席にいた経理部長の手首を掴むと、強引にゴールまで連れて走った。
 私のメモには「会社の金を横領している人」と書かれていた。

 騒然としているグラウンドを先輩が、まだ「社長の愛人」と連呼しながら走り回っていた。




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