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ザクロの華 ep3:肥料 ( No.269 )
日時: 2023年08月08日 07:00
名前: 理咖哩王 [ 返信 ]
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 仄暗いの部屋があった。
 暗い、暗い空間――空気は冷たく、ひんやりとする。
 それはまるで野菜室のように……。

 野菜室は壁も廊下も石で出来ており、凸凹と凹凸が続いている。
 それはまるで規格外の果物(フルーツ)。
 壁には所々、橙色の照明が僅かに灯されているのみ。
 明らかに、どこかの洞窟を繰り抜いて作られた秘密のアジト。
 ここはサンキスト一族が活動する地下アジト。
 地上時間は午後の3時であるが、このアジト全体はまるで夜のようだった。
 このアジトを拠点にサンキスト一族は闇の仕事を請け負い、各個人、組織へと命令を送る。

「力王で大丈夫なのですか?」
「キィス……あいつは気まぐれな果実(オーレンジ)だからのう」

 そんな地下アジトの一室で、西瓜な果実(オーレンジ)と銅色の果実(オーレンジ)が何やら話し合っていた。
 二つの果実は木製の安椅子に座り、テーブルで酒を酌み交わしている。
 酒は日本酒、二人の前にはおちょこが一つづつ置かれていた。

「あの粗暴な果実(オーレンジ)に、青い果実(オーレンジ)を育てられるとは思えません」

 スイカ頭の覆面男の名は、マスク・ド・サンキスト“WM(ウォーターメロン)”。
 この果樹の室で育成教官を務める。
 その覆面のデザインは異質、ハロウィンのジャックオランタンをスイカで作ったような形をしていた。

「ウォーターメロン、あのザクロという異物(オーレンジ)が気になるのか?」

 そして、熟達な銅色の覆面を被るは、マスク・ド・サンキスト“ブロンズ”。
 サンキスト一族の重鎮で小梅、小竹の双子と唯一対等に肩を並べる存在である。

「彼はサンキスト一族の血が薄く、体格もジュニア級しかありませんが、素質があります」
「素質?」
「体力、瞬発力、耐久力――全てがこれまでの果実(オーレンジ)と違い格がある」

 ブロンズはどんよりと銅の覆面を輝かせる。

「うむ……実はわしもそう思っておる。野球で例えるとドラフト1位の素材じゃよ、ザクロは」
「しかし……出自が出自故に育成で取るしかなかった。それにトンデモ教官がついてしまった。あの男では有望な果実(オーレンジ)を腐らす!」
「小梅様、小竹様のコネで入荷された異物(オーレンジ)じゃからな……色々と気に入らんのじゃろう」
「ブロンズ様もそう思うのであれば!」

 ブロンズはテーブルに置かれるおちょこに手の伸ばし、酒を一口する。

「小梅様、小竹様はそうは思っておらんようじゃぞ」
「え?」
「あの婆様二人は、力王だけがザクロの華を開花させると思っておる」
「そ、そうとは思えませんが……」

 WMの訝しげな表情を見るブロンズ。
 ニンマリとしながら言った。

「ウォーターメロン君。君は一本足打法のフラミンゴを知っているかのう?」
「え、ええ?」
「昭和の時代に活躍したあの選手じゃよ」
「ああ……遥か昔にいた伝説のホームラン王ですか」
「そうじゃ」

 ブロンズは暫し間を置いてから、WMにこう尋ねた。

「然らば訊こう。フラミンゴを育てたコーチは名コーチであるかな?」

 WMは即答する。

「結果を見るとそうなりますね」

 ブロンズは笑い始めた。

「キィスキスキスキス!」
「ブ、ブロンズ様?」
「彼によって潰された選手も、ごまんもおることを考慮に入れんとのう」
「ど、どういうことでしょうか」
「ある名球会入りした選手は、そのコーチの指導を受け調子を崩しスランプに陥った。その指導を聞き流し、己の流儀を貫かねば潰されるところじゃった。これを果たして名コーチといえるかのう?」
「い、いえ……」
「そういうことじゃよ、ウォーターメロン君」

 ブロンズは再びおちょこに手を伸ばし、酒を飲む。

「一つでも高級な果実(オーレンジ)を生み出せば、それはもう名コーチなんじゃよ」

〇〇〇

 ザクロはゆるりと動いた。
 首元はジンジンと衝撃が残るが起き上がれた。
 力王の技はどうやら斃す技ではないのはわかった。

「なるほど……」

 一人呟くザクロ、すると控室より笑い声が聞こえる。

「「キ"ィ"ィ"ィ"ス"キ"ス"キ"ス"サ"ン"キ"ス"ト"」」

 振り返ると小梅、小竹の姿があった。

「……ッ!」
「ぼんや不思議そうな顔をしておるのう」
「帰ったかと思ったかえ?」

 小梅、小竹は二人の老婆であるが、まるで一つの果実のように語りかける。

「「ぼんや、ワシらはお主を見守る母なる大地。良き大地がなければ、良き果実(オーレンジ)は育たぬ」」

 小梅は言った。

「キィスキスキス! 自分で良き大地は自画自賛し過ぎかのう、小竹さんや」

 小竹は言った。

「キィスキスキス! そうでもないじゃろ、ワシらは良き大地、良き母親代わりぞ」

 小梅と小竹は再び熟れた笑いを浮かべる。

「「キ"ィ"ィ"ィ"ス"キ"ス"キ"ス"サ"ン"キ"ス"ト"」」

 笑い声が妖しく響き渡ると、

「「キ"ィ"ス"……」」

 ぴたりとやめ、矢継ぎ早に語りかけた。

「力王は良き栽培者。理不尽な果実(オーレンジ)じゃが……」
「闘いの厳しさ、無慈悲さ、残虐さを教えたようじゃ」
「技も体験させることで教えたようじゃのう。それに小遣いまで渡すとは、案外優しいのかもな」
「小梅さんや、気まぐれじゃ、気まぐれじゃ。気まぐれ果実(オーレンジ)じゃ」
「そうじゃな、そうじゃな。教えたのは古すぎるほど古いプロレス技じゃ」
「サンキスト一族はカポエイリスタ。理不尽の中から育まれたカポエラ技を知らねば意味はない」

 ザクロが小さく述べる。

「婆様……何故……」

 二人は力王から金を受け取り、果樹の室へと戻ったはずと思ったからだ。
 すると小梅が言った。

「力王が夜の街へとお楽しみに行った」

 続いて小竹が言った。

「これは不平等じゃ、ぼんも夜の世界を知るべきじゃ」

 小梅、小竹が同時に言った。

「「ザクロは赤い色を知り、甘く育つことで良き果実へと実る。高級な肥しを与えねばな」」

 ザクロはこの双子の言葉が理解することが出来なかった。

「どういう……」

 ぼそりと疑問の言葉を投げかけようとすると、

「……失礼」

 女が入ってきた。
 するりといつの間にか入ってきた。

「…………」

 無言の女人は蜃気楼。
 いるか、おらぬかわからない幻――。
 まずは服装、灰褐色のブラウスに黒いスカートだけの簡素なものである。
 そして、髪は亜麻色で微かな波がかかっている。
 右目はやや隠れていた。
 それが、幽鬼のように不気味であるが幻想的。
 また左目から覗かせる黒い瞳は、幻獣のように鋭いも艶やかさがあった。
 顔立ちから服装、雰囲気が和と洋が入り混じる魅力があった。

「まほろ、彼女はまほろ」
「お主のお楽しみの相手じゃ」

 双子の熟れた果実はそう言った。
 この女の名はまほろと。


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Re: ザクロの華 ep3:肥料 ( No.270 )
日時: 2023年08月08日 07:08
名前: 理咖哩王 [ 返信 ]
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小説投稿サイト・ハーメルンでも同時掲載だよ!
よかったら評価してねッ! キィスキスキスキス!


Re: ザクロの華 ep3:肥料 ( No.271 )
日時: 2023年08月08日 08:42
名前: REO=カジワラ [ 返信 ]
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ブロンズ&WM!サンキスト一族がガンガン出てくるな…ッ!!
ブロンスの力王名コーチ説は如何に!?

そして、まほろさん!Hなシーンが始まるのだろうか?
ザクロはヤるのか?ザクロ棒の荒ぶりを期待だぜ!!


Re: ザクロの華 ep3:肥料 ( No.272 )
日時: 2023年08月08日 10:31
名前: 春休戦 [ 返信 ]
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場面設定が良いなぁ!
このThe密談!て雰囲気が実に良い!

しかしまー、つくづく便利(不便?)ねサンキスト語。
どんだけの単語ルビを「オーレンジ」で済ませるんや。(www

そして「力王」の扱いも成程。
「指導者」っつーよりも「理不尽な障害」て立ち位置かな?(笑)
ザクロ本人にその気が有れば、学ぶ要素も大きいのは確かだし。


Re: ザクロの華 ep3:肥料 ( No.273 )
日時: 2023年08月10日 20:46
名前: フィール [ 返信 ]
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「裏社会」の「レスラー」の話だと再認識!期待されている若者でも潰れたらそれまで!力王とザクロどちらかが潰れる未来しか見えないぜ!

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