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ザクロの華 ep1:果実狩り ( No.255 )
日時: 2023年07月31日 22:42
名前: 理咖哩王 [ 返信 ]
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「ぼん、エラくしごかれたもんですな。酷いケガじゃ」
「かわいがりじゃ、かわいがりじゃ、力王の悪い癖じゃて」


 しごき(訓練)を終えたザクロは、果樹の室の医務室で治療を受けていた。
 治療を施すのは双子の老婆、金と銀の柑橘系マスクを被っている。

「力王(脳筋)は容赦がないからのう、小竹さんや」
「血の繋がりは薄くとも同じサンキストなのにのう、小梅さんや」

 金のオーレンジな覆面を付けるはマスク・ド・サンキスト“小梅”。
 銀のオーレンジな覆面を付けるはマスク・ド・サンキスト“小竹”。
 カポエラと日本古武術の|合わせ技《ミックスジュース》な老練のサンキスト一族の姉妹、この果樹の室の重鎮である。


「「キ"ィ"ィ"ィ"ス"キ"ス"キ"ス"サ"ン"キ"ス"ト"」」

 熟れた双(ふた)つの声が不気味に響く。
 口では心配した素振りを見せるも、痛めしごかれたザクロを見て喜んでいるかのようだ。

「さてさて、治療でもするかのう」

 小梅はそう述べると医療室の棚からツボを取り出した。
 中には橙色の軟膏が見える。
 これは、この双子の老婆が考案し作り出した特性軟膏。
 原材料は陳皮、金柑、柚子、すだち、その他薬草や漢方が練り込まれている。
 怪しくも見えるが効果は抜群、あらゆる打撲、傷を治す。

「ほうれ、ぼんや塗りますぞえ」

 小竹は軟膏をヘラにつけ、それをザクロの背中に塗った。

「…………ッ!」

 ザクロの背中に激痛が走った。
 双子の老婆は優しく語りかける。

「ほんにザクロのように弾けた背中に染みますじゃろうな」
「耐えなされ、耐えなされ、鉄は熱いうちに打て。若いうちに鍛えなされ」

 そして、双子の老婆は声を合わせる。

「「ぼん、いつか力王に感謝する時が来るじゃろうて」」
「「その鍛えた貯金が礎となる」」
「「おんしは何れ、大神家の当主となる御方なのじゃから」」

 小梅も小竹もこのザクロという若者に期待していた。
 それはこのザクロが大神家の跡取り候補の一人だからだ。

 ここで大神家を簡単に紹介しよう。
 大神家とは長年日本の裏の歴史を支え続けた闇の一族。
 元々は甲賀忍者だった大神破幻を始祖とし、戦国時代から暗躍。
 要人暗殺など様々な裏の仕事を請け負ってきた。
 このザクロは、その大神家一族の一人。

 父は大神家の当主、大神右兵衛。
 母はサンキスト一族の何某(なにがし)、つまりは不明。
 何故、不明かというとこの大神右兵衛、いや大神家代々の当主は正式な妻を持たない。

 数多の妾を囲み、子を産ませる。
 多くの子の中から大神家当主を決めるのが、長年続いた闇の習わしだからだ。
 ザクロの母も、ザクロを産むとすぐにいなくなった。
 右兵衛より金だけが目的で生んだにしか過ぎないのだ。
 乾いた関係で愛も情もないが、それはザクロだけではない。
 大神家の子達の母は同じようなもの、各々に関係は希薄であった。

「ザクロや、今は辛抱するのじゃ」
「あの力王に師事すれば、おんしは必ずや強くなれる」

 小梅、小竹はこのザクロに期待していた。
 サンキスト一族の血が流れるザクロが大神家の当主になれば、それはサンキスト一族にとっても喜ばしいもの。
 故に大神の血の方が濃いザクロを、この果樹の室へと入らせた。

 しかし、それが気に食わないものもいる。特に力王がそうであった。
 例え重鎮である小梅、小竹の紹介があったとしても、この親の七光り、大神家の血が濃い異物を果樹の室に入れたのが気に入らなかった。
 従って、力王の憂さ晴らしだけでなく、このザクロが気に入らないから厳しく当たる、厳しく指導するのだ。
 それでも、小梅と小竹は力王がザクロを強くすると確信していた。

「「ぼんや、我慢ぞ、辛抱ぞ」」

 双子の老果実はそう述べる。
 ザクロは黙って頷いた。
 それはザクロにとって、この小梅と小竹が母のような存在だったからだ。

〇〇〇

「殺せ!」
「血の雨を降らせろ!」
「悲鳴を聞かせて!」

 場所は変わり、ここは東京六本木の地下に設けられた格闘場(リング)。
 ここでは、深夜の0時から始まる闇の格闘試合『拳魂一滴(けんこんいってき)』が開催されている。
 主催は指定暴力団川口組、それ故にこのイベントは非合法的なものであるとわかる。

 ルールは簡単だ。
 武器以外を用いて、相手の死、もしくは再起不能によって勝敗が決する。
 出場選手にはオッズがあり、それぞれに好きな金額を掛けて試合をさせる。
 所謂、闇の賭博。
 試合を観戦する観客はヤクザや半グレの者達が多いが、中には芸能人やスポーツ選手、政治家の顔があった。
 日本の闇を象徴するような光景がそこにあった。

「それでは今宵の試合を――第1ゲームを始めさせていただきます!」

 試合をするは道化師の格好をした男。
 名前はカフカ、珍妙な名前と服装であるが、この拳魂一滴の司会を務める。

「赤コーナー! 元総合格闘技のライト級! 八木英明!」

 リングの赤コーナーには髪を金髪に染め、背中には龍の刺繍を入れた男がいる。
 八木英明、日本の総合格闘技大会『未来戦士』の元ライト級チャンピオン。
 総合格闘技の本場、アメリカでも活躍した男であるが、度々ジムやプロモーター、女関係でトラブルを起こす問題児。
 ついには暴力事件を起こし、表の格闘技界から追放された曰く付きの男である。

「青コーナー! サンキスト流カポエラ殺法! マスク・ド・サンキスト“力王”!」

 対する青コーナーはマスク・ド・サンキスト“力王”である。
 黒いスパッツとリングシューズを履き、鬱金色をした柑橘系マスクを被る。
 リングを照らす光が、額の『力』に当たり怪しく輝いていた。

「おい、ザクロ」

 ザクロは力王のセコンドとしている。
 小梅、小竹に頼みにより、この試合をセコンドとして観戦することになったのだ。

「俺の〝果実狩り〟を見せるのは特別だからな」

 力王は憎々しくザクロを睨みつけた。
 いかにあの老婆達の頼みといえど、ザクロに自分の試合を見せるのが嫌だった。
 それは力王がスポーツマンではなく、生を賭して戦う格闘者だからだ。
 真の格闘者は自分の技や戦法を知られたくもの、見られるということは技を盗まれ、対抗策を練られるのと同意。
 それは格闘者――力王にとって死と同じだった。

「なるべく手の内は隠して戦うぜ」

 力王がそう述べると。

 カン!

 リングの音が鳴った。


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Re: ザクロの華 ep1:果実狩り ( No.256 )
日時: 2023年07月31日 22:47
名前: 理咖哩王 [ 返信 ]
[ 削除 ]
ハーメルンにて同時連載!
https://syosetu.org/novel/322053/

それから、もしよろしければレンヤさんルルミーの設定を使い回したルドヴェンティブもヨロシクだぜィ!(宣伝)
https://ln-street.com/novels/a3b3e3d5-cea3-4dc2-9860-ddfaed57f1e2


Re: ザクロの華 ep1:果実狩り ( No.257 )
日時: 2023年07月31日 23:19
名前: REO=カジワラ [ 返信 ]
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小梅と小竹!!やはり、作成者が動かすと、
大神との関連で話が広がって、面白さが、
跳ね上がるぜッ!!

力王、想像以上に買われているし、
どんな試合を見せるのか楽しみだなあ~!!


Re: ザクロの華 ep1:果実狩り ( No.258 )
日時: 2023年08月01日 12:32
名前: 春休戦 [ 返信 ]
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小梅&小竹コンビの語り口が良いナァ!
こういう「不気味老婆テイスト」がさらっと出て来るのが凄い。(笑)

そして力王の掘り下げも功を奏してますねぇ〜。
成程、嫌な奴ムーブをする動機もあったか。


Re: ザクロの華 ep1:果実狩り ( No.260 )
日時: 2023年08月02日 07:45
名前: フィール [ 返信 ]
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サンキスト一族の二律背反。
リングで観客の前で戦う、手の内は研究されない様に務める。
両方達成するのは本当大変そう!
力王はこの戦いをどう攻略するのか!?


Re: ザクロの華 ep1:果実狩り ( No.261 )
日時: 2023年08月02日 15:01
名前: 春休戦 [ 返信 ]
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追記失礼。
あぁ。犬神家がモチーフなんだなーと、ついつい読み飛ばしてましたが。

……アレッ?何かデジャブがあるなぁと思い返したら。
『大神右兵衛』て、毘沙門外伝に出てましたやん!(@。@;
(柳生の爺ちゃんと対戦して、死体ミサイルとかを繰り出してた日本陸軍長官@50歳)
(結果、小梅&小竹に助けられて雌伏中だった筈)


Re: ザクロの華 ep1:果実狩り ( No.262 )
日時: 2023年08月02日 20:55
名前: 理咖哩王 [ 返信 ]
[ 削除 ]
> 春休戦 さんへ

ということはザクロの正体は……。(ネタバレ)


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