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~ アフリカ南部にあるレゼルヴェ国の某所・未開拓地 ~ 未だ、灼熱の太陽が大地を焦がし始めて間もない早朝。 作業用具を装備した十数機の羅甲(正確に言えば、作業仕様の「雑甲」とか「矮甲」と呼ばれるタイプだ)が 広大な大地に散開して整地工事を開始した。 そして、その作業区画の中央に陣取るのは三機の大型操兵。 背に二連ブースターを背負ったそれら大型操兵の一機は、雑甲達に指示を出している模様。 残る二機は微動だにせず、腕組み仁王立ちの姿勢のまま佇んで居る。 その仁王立ちした操兵の片方は、他の二機とはやや異なる外見である。 右肩装甲には衝角を備え、両腰と二連ブースターに計四振りのやや短い機甲刀を収めた鞘を帯びる。 そして指の無いミトン状の拳の両端に、二本の親指を備えた特異な機体であった。 ~~~ 数時間後 ~~~ 整地作業を終えると、飛来した数機の輸送機がその平地に垂直着陸を開始した。 雑甲達は整然と列を成してそれらの輸送機に搭乗。そして搭乗を終えた順に続々と飛び立って行った。 飛び去る輸送機群を見送りつつ、整地された大地に留まるは三機の大型操兵。 揃って腕組み仁王立ちの姿勢で静かに待機を続けるのであった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 午前中。レゼルヴェ国・作戦会議室 ~ 偵察ドローンから中継された、雑甲達の作業光景を観ている数名の男女。 その中の一人、長身の女性が苦々しげな口調で口火を切る。 「……安い(やっすい)挑発よね」 魅惑的な姿態を包帯で包んだ(くるんだ)その女性の名はレディ・ミィラ。 軍事国家レゼルヴェ国の活動を裏で支える立役者である。 「ウヒョッ?この位ならオサが出るまでも無ぇかもな!俺達で片付けて来ましょうかい?」 と、軽薄な口調で問うたのは身長2m程の黒人巨漢。 機動マシン・ダークラビットを駆るエモンド・アマドである。 「あぁ。それなんだけどね。今回は新兵’s(何か良い呼び名は無いかしらね?)に行って貰うつもりよ」 「……ヒョエッ?」「流石にあいつらには荷が重過ぎるんじゃな~い?」 レディの言にエモンドは絶句し、その横に居たエモンドの姉、アンティエ・アマドも異を唱える。 アンティエも又、機動マシン・ブラッドスコーピオンを駆る手練れのパイロット。 エモンド共々、レゼルヴェ国の国防を担う双璧である。 「……いやー、それがさ。今までに収集された他国での戦闘データを見てると、案外何とかなりそうなんだよ」 「そりゃま、あいつらがあのデカブツを撃破するのは無理だろうと俺も思うけどさ」 そこへ黒人の若者が、卓上パソコンのデータをモニターに表示させながらアマド姉弟に解説を加えた。 「誰だ?お前は」「アンタは確か……」 「 君 ら の 弟 ! オ リ ヴ ィ エ ・ ア マ ド だ よ !! 」 ※詳細はSS作品「ギガント破壊指令0話」「ショートストーリー第5話」を参照。 「あー、済まん済まん。どうにもお前、影が薄いからつい忘れちまう」 「それで?撃破は無理なのに何とかなるってのは、一体どういう事なのよ?」 怪訝な顔をして問い返したアンティエに、オリヴィエは苦笑いをしながら答える。 「このデカブツ三機との遭遇情報は既に何例かあってね。基本、この刀を四本持った二本親指の奴が戦ってる」 「そして今までの交戦記録や対話記録から判断すると、要するにあのデカブツ、戦闘力自慢をしたいだけみたいなんだ」 そこでレディがオリヴィエの解説を引き継いだ。 「ま、ギガントでなら勝てるでしょうし、アンタ達でも撃破は可能かもしれないけれどね」 「でも今までに交戦した連中も、撃退した際はそれなりにダメージを貰ってるのよ……特機級ですらね」 「だが!死の危険はあれど、強敵に挑んだ経験を積めるこの機会を逃す手は無いと吾輩は思うのだ!」 そう力説した小太り気味の白人男性は、このレゼルヴェ国の大統領ルイ=ポナパルト=ヌーヴォー1世。 通称ルイヌーヴォー。内戦の絶えない一小国をレゼルヴェ国として独立させた傑物である。 (但しこの建国は彼だけの力では無く、裏には秘密結社QX団の関与もあったのだが、それを加味した上でも傑物ではある) 元来は白人至上主義に凝り固まった狂人だったのだが、耐撃の百文字による一日革命「コマンタレヴ・ラプソディ」で 百文字の度量と己の器を悟って思想転向。今や黒人国家であるレゼルヴェ国の良き指導者と化している。 「大体、あんな僻地を無意味に占領しても軍事的な意味は薄い!」 「今までのデータから鑑みるに、その程度の干渉に一々ギガントという切り札を切る必要は無い!」 「第一、吾輩達の国を護るのに、百文字(オサ)にのみ頼るという心構えじゃいかんだろう?」 「そういう事。流石に新兵’sだけじゃ荷が重いから、他にも手は打って置く予定よ」 「それじゃ今回のミッションはなんて名前にしようかしらね?」 ルイヌーヴォーの言葉を受けたレディの発言を聞き、少し思案するエモンド。 そしておもむろに今回の作戦名を宣言する。 「今回のは『オペレーション・ヒョエッ?』としますぜ!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 昼前。レゼルヴェ国・作戦会議室 ~ エモンドの前に、呼び出しを受けた四人の軍用(改造)修斗乗り達が並び立つ。 不自然な頭髪を撫で付けつつ、謹聴の姿勢を取る男。 異様に尖って伸びた顎をヤスリで擦りながらニヤケ笑いを浮かべる男。 お預けを喰らった犬の様に挙動不審な、青痣だらけの東洋人の男。 押し潰した様な鼻から、気合の入った鼻息を噴き出している黒人男。 「それで、此度の任務はどの様な内容なんです?」 そう問うたのはズラナンデス。 「敵大型特機との交戦だ。指令(オーダー)はただ一つ。生還しろ!」 「……別に、倒しちまっても構わんのでしょう?」 エモンドの返答を受けて、顎を撫でつつニヤリと笑いながら発言するアゴナガーイ。 「その意気だ!だが、事前情報で聞いた感じマジでヤベェ相手らしいからな。無理はすんなよ」 「ウォーン!俺の天狼抜刀牙は日々鍛えられてますぜ!以前の轍は踏まねぇ!」 そうキャンキャン吠えたのは鎌瀬犬一。 「ま、つまり敵さんの挑発に付き合って来い、と」 「おっ?それにあいつらも呼ばれるんだな」 「……あー、そっかぁ。ここにゃ莫大な借金があるもんな、あいつら」 エモンドと新兵’sトリオの対話中、渡された資料に手早く目を通して居たバッドロー。 そこから必要な情報を読み取り、一人頷いたのであった。 「それじゃあ『オペレーション・ヒョエッ?』を始動するぜ!手前ら、準備は良いな!」 「「「「 ウ ヒ ョ ウ ッ !! 」」」」 エモンドの号令を受けた四人は、駆け足でそれぞれの乗機へと向かって行った……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 昼下がり。レゼルヴェ国の某所・未開拓地 ~ 「そろそろ現地が見えて来る頃……あれだっ!」 だだっ広い平地の真ん中に屹立する巨大な三機の操兵が、レゼルヴェ新兵隊の視野に飛び込んで来た。 次の瞬間。そこから大跳躍した一機が彼らの眼前に降り立ち、おもむろに腕を組む。 「よくぞ参った!我が名はタカオウ!まずは貴公らを戦場まで案内しよう!」 一気にそこまで言い放つと、封刃は無造作に背を向けて、他の二機が待つ平地の中心へと歩を進めた。 「……何というか。我々が背後から攻撃する可能性を考えて無いんですかね?この人」 ズラナンデスが呆れと驚きが混じった声音で仲間達に囁く。 「もしかしたら倒せるかもしれんが、その時には残る二機がすっ飛んで来てフルボッコを喰らうぜ?」 アゴナガーイが苦笑しながら囁き返す。 「ワォーン!そんな卑怯な真似をする気なんざ無ぇぜ!」 鎌瀬も密やかな声でその疑問に吠え掛かった。 「まっ、取り敢えずこのわからせオジサン達の対応を見ましょうや」 と、バッドロー。 その発言を聞いた瞬間、ズラとアゴの修斗がズッコケかける。 「いや待ってバッド。その言い方はちょっと誤解を招きますってば」 「その、何だ。『戦闘力誇示』と言いたいのは分からんじゃ無いし、合ってるっちゃ合ってるが、なぁ?」 しかし鎌瀬はそういう方面に疎いのか、単に眼前の敵に集中してるのか。その発言を聞き流した。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ レゼルヴェ新兵隊と大型操兵達が対峙! ~ 「ムッハッハッ!まずはそういう顔ぶれで来たか!良しとしよう!」 「儂の名は暴牙堂!覚えておいて損は無いぞ!」 「で、そなた等は……ズラナンデス、アゴナガーイ、鎌瀬犬一と……済まんな、後ろのお主は分からん」 四本の機甲刀を佩いた大型操兵が、大音声の挨拶を響かせる。 それを受けて、まずは名前を呼ばれなかったバッドローが先輩達を差し置いて口を開く。 「俺は獅子っ鼻のバッドロー!まだ今ン所は知名度低いけどな!……おっと。先輩方どうぞ!」 「これは油断なりませんね。事前調査で我々の事も調べて居るとは」 「なるほど、これは手強そうだ」 「ウワォーンッ!相手にとって不足は無いぜ!」 レゼルヴェ国軍の面々の発言を受け、暴牙堂は哄笑する。 「ムッハッハッ!ムッハッハッ!その程度の面子と機体でこの儂に挑もうとはな!若気の至りも良い所よ!」 「では戦う前に説明して置こう!まず儂らの目的は既に察して居ろうが。新鋭機である雷迅と封刃の示威行為だ!」 「因みに儂の操兵は雷迅颶参!雷迅の上位機種となる決戦兵器よ!」 雷迅颶参は、胸板をバン!と叩いて強さを誇示する。 「なので、相手がお主ら程度ならば儂だけでも事足りる!」 「故にザエモン!タカオウ!下がっておれ!」 「「 ハ ハ ッ ! 」」 二機の封刃は、一礼をして後方へと大跳躍。広大な整地部分の縁に陣取り、腕組み仁王立ちの姿勢で待機する。 「初手は雷迅として相手をしよう。先ずは儂に刀を抜かせてみよ!」 暴牙堂の科白と共に、雷迅颶参は素手で構えを取った。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ レゼルヴェ新兵隊vs雷迅颶参! ~ 「そういう訳なのでな。お主らが纏めて掛かって来ても、儂は一向に構わんぞ!」 と、暴牙堂は挑発を重ねる。 「……むぅっ?どうも遠方から増援が三機、来ている様だな。何ならそ奴らが合流して来るのを待つか?」 「ウォォ~ンッ!舐めるなっ!俺達だけでやってやるぜ!」と鎌瀬。 「……おっと。バッド君は待機してて下さいよ」とズラナンデス。 「オメーにゃかぶりつきの席で記録係をして貰おう。俺達の雄姿を見逃すな?」とアゴナガーイ。 次の瞬間。三機は各々の得意技を同時に繰り出した! 「 絶・天 狼 抜 刀 牙 (ぜつ・てんろうばっとうが) だ あ ぁ ー っ !! 」 犬を模した牙と爪を持つ鎌瀬の修斗が、真っ向から縦回転跳躍攻撃を放つ! 「 ヘ ア ー !! マ イ ズ ラ ッ ガ ー !! 」 外した頭部装甲を投擲刃として、鎌瀬機の右側から弧を描いて放つズラナンデス機。 「 が く え ー ん ! ハ ン サ ム ッ !! 」 雄叫びと共にレイピアの様に伸びたアゴナガーイ機の顎が、鎌瀬機の左側から雷迅颶参の右大腿部を刺しに行く。 「 ム ウ ゥ ゥ ン ッ !! 」 この同時攻撃に対し、雷迅颶参は身を沈めながら大きく右へと一歩踏み出す! 両腕を伸ばして交差させた白熱手刀で顎レイピアを挟み焼き切り、同時にその動きで縦回転攻撃と投擲刃をも避ける! そして踏み出した右足でそのまま地を蹴り、斜め上方へと跳躍。右肩の回転衝角でアゴナガーイ機の顔面を粉砕する! 「 ワ オ ォ ォ ー ン ッ !! 」 「 リ モ コ ン ズ ラ ー ッ !! 」 着地した雷迅颶参の背後に、再び放たれた鎌瀬機の縦回転攻撃と、方向転換したズラナンデス機の投擲刃が迫る! 「 雷! 迅! 」「 ギ ャ イ ン ッ !! 」 着地直後、左足を軸に反時計回りに半回転した雷迅颶参。 思い切り右足を踏み込んで身を沈め、縦回転攻撃の下からカチ上げる様に右拳の雷撃アッパーを繰り出し飛翔する! 「 … ナ ッ コ ー ッ !! 」「 ギ ャ ゴ ー ン ッ !! 」 雷迅颶参は中空で左拳を真下に構えると同時に、背の二連ブースター噴射口を真上に向けてのブースト急降下! 顎を打ち抜かれて中空で仰向けになった鎌瀬機の顔面に、瓦割り雷撃パンチを叩き込んで大地に打ち付ける! 更には着地と同時に無造作な右電撃裏拳で、死角から首筋を強襲する誘導投擲刃を叩き落とした! そうして暴牙堂は、この戦闘の終了を告げる。 「これで、この戦闘の勝敗は付いたとして良かろう?」 「直ぐに次の勝負も控えて居る様だからな。場は綺麗にして置きたい」 「そういう訳だからお主ら、そこに転がってる仲間を担いで引き下がるが良い」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ メタルマーメイドvs雷迅颶参! ~ 今度はザエモンの封刃が跳躍して、増援の機動マシンの方へと案内に向かう。 封刃に導かれて来たのは二機。一機は大型の修斗を改造した格闘戦向けの機体。 もう一機は5型をベースにした実験機『R5』から派生した機体である。 「……ふむ。お主らは初見だな!では改めて名乗って置こう!」 「儂の名は暴牙堂!そしてこの機体が雷迅颶参よ!」 「詳しい内容は、脇に退いたそこの連中に聞くが良い!」 と、雷迅颶参は一方の親指で戦場端へと退避して居るレゼルヴェ国軍の面々を指差した。 その言葉を受け、バッドローが声を掛ける。 「気を付けな、ムチャ…イク。そのオッサンの機体、見た目に似合わず機敏だぜ!」 「白熱手刀と電撃拳、右肩の衝角がメイン武器だ!データでは一応飛び道具もあるらしいが、多用はしてないらしい」 「それから、四振りの刀は鋸刃状の振動剣らしいんだが、俺達じゃ抜かせる事すら出来なかった!」 「ほぉ?お主はムチャイクと…」 「違う!こいつはモザイク(ムチャウ・ザイネン)!乗機はニャミニャミ!」 「俺はスマイル(アーティ・ウーマ)!乗機はオグンだ!」 「それと俺達の名はコードネームだからな!変な覚え方はすんなよ!!」 バッドローの呼び間違いをそのまま問い返した暴牙堂に、即座に訂正を入れるアーティ(スマイル)。 これはバッドローがムチャウ(モザイク)の知己だが、このコードネームに慣れて無いが故に生じた間違いであった。 「……そうか。ま、これ以上駄弁って居ても仕方あるまい。まずは小手調べと行こう!」 暴牙堂がそう言った瞬間。雷迅颶参はニャミニャミの眼前に居た! そしてニャミニャミの頭上に、左手の白熱手刀を無造作に振り下ろす! 「ムッ?……ムオッ!!」 ニャミニャミも無造作に右腕を掲げ、雷迅颶参の白熱手刀を右前腕で一瞬受け止めた。 だが、そのままでは次の瞬間、腕を高熱で断ち切られ、もし熱に耐えても衝撃でへし折られて居た筈。 しかし即座に前腕を垂直にして、手刀の勢いを滑らせ逸らす事で、溶断破砕を回避したのだ! そして、受けたその一瞬で十分であった。 ニャミニャミが右前腕に装備したドレインハンドには、白熱手刀の膨大な熱量が流れ込んでいた。 その大熱量をビームと化して右前腕から発射。逆に雷迅颶参の胸板へと攻撃を叩き込んだのである! 「……やりおるな」 意外の一撃に、雷迅颶参は後退って構えを取り直す。 「良かろう。ならばここからは雷迅颶参としての戦い方も見せるとしよう」 そう言うと、雷迅颶参は腰の両刀を同時に抜き放った。 左半身になって左腕をニャミニャミの方へ向けて伸ばし、真横に機甲刀を構えた受け太刀の体勢。 右側に居るオグンをも視野に収めつつ、右腕の機甲刀を緩やかに頭上へと掲げて行く。 そして右腕の機甲刀の切っ先が真上を指した瞬間! キ ュ ド ッ !! ニャミニャミの左足が大地に縫い付けられた! 左手首のスナップのみで投擲された機甲刀が、ニャミニャミの左足甲を貫いたのだ! 次の瞬間、右の機甲刀をオグンに擲ち(なげうち)つつ、再びニャミニャミの眼前に迫る雷迅颶参! 左の白熱手刀を大上段から振り下ろす! 「無駄だ!」「甘いわっ!」 再びの白熱手刀……と、見せかけて。振り下ろした瞬間には白熱していない唯の手刀になっていた! しかし掲げた右腕で瞬時受け止め、前腕で滑らせて逸らす動作に変わりはない。 ただ、これが『刃』ならば攻撃を逸らして終わりなのだが、これは『手刀』であった。 雷迅颶参の二本の左親指が開き、ニャミニャミの右前腕を掴んで真下へと押し付ける! この動作により、真下へ押し付けられたニャミニャミの右半身の動きが一瞬、封じられた。 崩された体勢のバランスを取るために左腕も空を搔き、動かせるのは左足だけ……なのだが。 こちらも先ほど左足甲を機甲刀に貫かれたので行動不能。 つまり!この瞬間のニャミニャミには、続けて雷迅颶参が繰り出した右雷撃ボディーブローを防ぐ手段は皆無! 左脇腹に雷撃拳の直撃を受け、糸の切れた操り人形の様に倒れ伏すニャミニャミ。 「確かモザイクと言ったな。結構な手練れであった……さて?」 雷迅颶参がオグンの方を見やると、その中間点にはもう一機の機動マシンが割り込んで居た。 クロスガードした腕を機甲刀に貫かれて転倒した、バッドローの軍用修斗である。 先ほどオグンに向けて投擲された機甲刀を、横合いから飛び込んでその身で阻止したのだ! 「俺だって気張ればこれ位は出来る!」 「……ほほぅ。よくぞ防いだものよ。獅子っ鼻のバッドローとか言ったな。お主も覚えておこう」 「だが今は、そこから立ち上がってニャミニャミ共々退いておれ」 「そこのスマイルとかいう女性(にょしょう)とも一戦交えねばならんのでな」 蹌踉めきながら立ち上がるバッドロー機に向かって、雷迅颶参は片手を翳す。 するとバッドロー機に突き刺さって居た機甲刀が刃を振動させながらスッポ抜け、雷迅颶参の手の中へと飛び戻る。 もう片方の手をニャミニャミに向けて翳すと、足甲に刺さって居た機甲刀が抜け、雷迅颶参の手の中へと飛び戻る。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「さて、仕切り直しといこうか」 雷迅颶参は二刀を構え、オグンも右腕に装備した攻防一体のシールドブレードを構える。 互いににじり寄り、相手の初動を見切ろうとする。雷迅颶参は膝を曲げて軽く身を沈め…… 「 乱 牙 連 剣 っ !! 」 瞬時に跳躍した雷迅颶参は、オグンの頭上に滞空して下方へと連続突きを繰り出す! オグンは咄嗟にシールドブレードを頭上に構えると同時に、頭を上向ける……と、頭部が割れて回転刃が迫り出す! そのまま首を振って、チェーンソーめいた長い回転刃を雷迅颶参の手首目掛けて振り抜いた! ズ シ ン ッ !! 攻撃を中断した雷迅颶参がオグンの背後に着地する。 同時に振り向いた二機は、まず相手の状態を確認した。 「そんな隠し武器があったとはな。中々やりおる!」 「……チッ。手首断ち狙いだったんだがな。そこまでは無理だったか」 とは言え、オグンの足元には太い指が転がっていた。雷迅颶参の親指である。 そう。親指が無ければ武器を保持する事は出来ない。武器を握る事は出来ても、衝撃を与えたら外れる。しかし…… 「だが、そりゃ無いだろう……何で片手に親指が2本もあるんだよ!」 「ムッハッハッ!二本親指の実用化に苦労した甲斐があったというものよ!」 そう。失った親指は一本のみ。「もう一本の親指」で、機甲刀を保持していた。 「それはそうと。お主らは3名で来て居ったよな?」 「しらばっくれても無駄だぞ。タカオウ、例のものを!」「ははっ!」 一方の封刃から光が放たれ、空中に立体映像が映し出される。 映し出されたのは数分前のニャミニャミ、オグン、そしてもう一機。頭と両肩、腹部にプロペラを備えた脆弱そうな機体。 プロペラが回転すると共に機体がゆっくりと上昇し……虚空に溶け込む様に消えた! 「これは予め飛ばして居た偵察ドローンからの記録映像だ。で、察するに彼奴は隠密支援機であるな」 「詳細を語れとまでは言わんが、せめてコードネーム位は聞いて置こう!」 「……エッグス(ジュダ・ミョンウェー)の乗るオニャンコポンだ」 「良し分かった!……それで?彼奴は今回の戦闘の頭数には入れるか?それとも外すか?」 「それじゃあ外しておいてくれ」 このアーティ(スマイル)の返答で、ジュダ(エッグス)の撃墜危機は回避された。 もし戦力に勘定されて居たら、封刃が全方位に護鬼を放って位置を無理やり炙り出されて居ただろうから。 (発見効率は悪いが、存在が分かってさえ居れば、そういう手段を取られる可能性も有ったのだ) オニャンコポンへの対応を確認後、再度の仕切り直し。二機はやや広く間合いを取る。 片やシールドブレードと頭部チェーンソー。片や二振りの機甲刀。 いずれもリーチはそう長くは無い。ナイフや短剣よりも長いが、長剣には劣るといった感か。 オグンの内蔵火器では、雷迅颶参の重装甲への効果が薄いと思われる以上、近接武器での対応が中心となる。 だが問題は、武器の長さが同等でも、体格差による腕のリーチは負けているという点である。 (「闇雲に飛び込む訳にはいかんが、先手を取られたらさっきの二の舞だぜ……」) (「だが、下手に間合いを開けると刀をブン投げて来るし、無刀でも厄介だからな、コイツは」) (「ならば、やはり俺から仕掛けるしか無ぇだろ!」) オグンは真っ向から飛び込んだ。 頭部チェーンソーによる刺突を軸に、引いた両腕から続く攻撃を繰り出す構え。 だが、雷迅颶参はチェーンソー刺突に右肩衝角ブースト突進を合わせて来た! 咄嗟に伏せたオグンは、そのままチェーンソーで脛を狙うが、その頭上を超低空跳躍飛行で雷迅颶参は通り過ぎた。 そして互いに着地/立ち上がり、振り向く。 雷迅颶参が繰り出した振り向きざまの横殴り斬撃を、オグンはアームシールドで受ける! オグンが振り下ろした頭部チェーンソーと、雷迅颶参が斬り上げた機甲刀が噛み合い火花を散らす! これで雷迅颶参の両腕が塞がった。だがオグンの左腕は空いた状態。 左拳を固め、この攻防の拮抗を破ろうと…… ガ イ ィ ィ ン ッ !! ド ス ド ス ッ !! ド ス ド ス ッ !! しかし、雷迅颶参が前蹴りを繰り出す方が速かった。 腹を蹴られたオグンが吹き飛び、間合いが開いた瞬間。二本の機甲刀が擲たれてオグンの両肩に突き刺さる! 間髪入れず、背から抜いた機甲刀も擲たれ、飛来した二本の刃がオグンの首を貫く! 雷迅颶参が機甲刀を磁力で引き寄せると、機甲刀の鋸刃が振動しながらオグンの首を挽き切った。 首を失い、動かない両腕を垂らして片膝立ちになったオグンの前で、引き寄せた機甲刀を腰の鞘に納める雷迅颶参。 そして残る二本の機甲刀を引き寄せ投げ上げて背の鞘に納めると共に、戦闘の終了を告げる。 「うむ!なかなか面白かった!逆親指のみでの投擲も試せたしな!」 「此度の戦はこの位で良かろう!戻るぞ。ザエモン!タカオウ!」 「「 ハ ハ ッ !! 」」 戦闘不能になった機動マシン群を後目に、三機の大型操兵は跳躍機動でその場から去ったのであった……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 夕方。レゼルヴェ国・作戦会議室 ~ 「ご苦労だった!君らの戦いで、あの敵機の脅威度をより詳しく測る事が出来た!」 「そしてメタルマーメイドの諸君もご苦労!オシリス社には早速、君達の借金返済分の減額連絡を入れておいたよ」 と、ルイヌーヴォーは戦士達を労った。 「あんなXXX野郎を相手に、おめぇら良く頑張ったな!仕掛けは悪くは無かったぜ!……奴が上手だっただけでな」 「正直、あたしらだってあんな厄介そうなオッサンの相手はしたくないわねー。www」 アマド姉弟も彼らを労う。 「我々の力不足ではありますが……取り敢えず生還出来たってだけでも良しとしますかね」 「奴さんが俺達を侮ってたってのは気に食わないが……それで助かった様なモンだからな」 「クゥーン……」 初代新兵’sも口々に所感を述べる。 「……あー、アゴさんよ。別にあの暴牙堂とかいうオッサンを擁護するつもりじゃ無いんだが」 「奴さんは別に俺達を『侮ってた』訳じゃ無いと思うぜ」 と、アーティ。 「むしろ俺達の実力を見切りやがったんじゃないかな」 「まぁ何にせよ、誰もブブラカに手間掛けさせずに済んで良かったですぜ!」 「……あーっ、そっか!あいつ今、ウォルテガさんトコの冠婚葬祭社で働いてたんだっけな!」 バッドローの科白に反応するムチャウ。 「それはそうと、借金減額だけじゃなくて手間賃みたいのも欲しいみょん」 と、ルイヌーヴォーに報酬上乗せをせびるジュダ。 「……むしろ、この国も関わってる軍事機密を売り捌こうとした件に目を瞑ってるのを感謝して欲しいわね」 「多分、ウチに一番借金を抱えてるのはアンタよ?」 しかしレディ・ミィラはにべも無くその要望を蹴った。 「機体の修理費用をウチが持ってるだけでも感謝しなさいってのよ」 「ぶーぶー。オニャンコポンは無傷だから関係無いみょーん」 直後、ジュダの背後に立ったアーティが、その脳天にエルボースタンプを叩き込んで黙らせる。 「いや。俺達はレゼルヴェ国の対応に感謝している。コイツの戯言は聞き流してくれ」 「あぁ。アタイもいつでも協力させて貰うよ……カツ丼うめぇ!」 ムチャウも注文した丼を手にモグモグと頬張りながらアーティに同調する。 「食ってる場合かーっ!」「食ってる場合だーっ!」 アーティの裏拳ツッコミを、丼を持ったままの肘ガードで阻止するムチャウ。 気付くとわちゃわちゃと騒がしい雰囲気になって来たのを見て取って、オリヴィエはエモンドに問う。 「……なぁ兄貴?一先ずはもう、作戦終了って事で良いんじゃないか?」「それもそーだな」 エモンドは頷き、今回の作戦終了宣言をする。 「それじゃあこれで『オペレーション・ヒョエッ?』はミッション・コンプリートだっ!!」 THIS EPISODE END |
入隊試験組の皆を使ってくださりありがとうございます!! そして、新兵ズの名称何かない?そんな事をアマド姉弟に聞かれた彼らはそれぞれ案を提出した。 『噛みつき隊』『七三ぐらいが丁度いい』『ロング・ロング・アゴー』『獅子粉塵爆発』 当然全部却下。お前ら自己紹介じゃなくて、チームとしての名前ってんだろと説明し再提出させたのがこちらとなる。 その名も…、 レゼルヴェ無量大数軍(仮名) ちなみに、無量大数軍と書いてラージナンバーズと読む。 鎌瀬「決まった訳じゃねえが、取り敢えずこの名前で一回名乗りをやってみようぜ!俺からいくぞ。鎌瀬!」 ズラ「ズラナンデス!」 アゴ「アゴナガーイ!」 獅子「バッドロー!」 エディン「…エディン」 りょー「俺ぁもやらんといけねえの?」 モンコ「モンコゥよおん!皆揃って、南部同盟無量大数軍!」 長身の女をセンターにして、ギニュー特戦隊めいたポーズを決める一同。こうして、南部同盟結成後に参入したパイロット三名の挨拶は新兵ズの協力もあり大成功に終わったのだった。 鎌瀬「なんか乗っ取られた!」 |
入隊試験組の皆が出て来たのは熱いですねー!! 相手が暴牙堂だけに、新兵ズには荷が重い相手だったけど、 それぞれが特性を生かした戦いっぷりを見せ、 なかなか健闘したなと思いました。 メタルマーメイドは相手がカラクリオーチームだった時程、 相手の性能戦法を研究し切れてないのもあったのか、 特性を見せつつも暴牙堂に上手い具合に抑えられた 印象がありますね。流石は暴牙堂と言ったトコロだなと、 感じられました。 私的にはオリヴィエに出番があったのが嬉しかったです♪ あと、フィールさんのネタは切れ味抜群ですねw レゼルヴェ無量大数軍が南部同盟無量大数軍に!ww 確かに新兵ズでは味気なくあるんだよなあ。 何か良い案は無いモノか…? |