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~ フランス・アムステラ軍前線基地 ~ 「お主の勇名は聞き及んで居るぞ!カユゥーレ家の!」 「儂の名は暴牙堂!此度はお主らの助っ人として参った!」 スタイリッシュに軍服を着こなした偉丈夫の前に立つ巨漢は、風体に似付かわしい大音声で、畳み掛ける様に言葉を連ねる。 「此度の作戦!お主らの留守を託された以上、敵は寄せ付けん!」 「故に安心して任務に出向くが良い!!」 「……貴公の武勇伝はライゴウ君からも聞いて居る」 「なので我々も安心して戦地に向かえるというものだよ」 暴牙堂の発言が一区切りした所で、偉丈夫が返答した。 彼の名はオーデッド・カユゥーレ。アムステラ貴族である。 「うむ!それはそれとして、出立までしばし時間は有ろう?」 「その間にお主らとも一手交えてみたい!」 「それから才媛の誉れ高きモミジ殿とデサンドール、か」 「彼女らと操兵に関する知見を深めてみたいものよ!」 「あ……あぁ。ならば先ず、我が隊員達を紹介しよう……」 思わず暴牙堂の勢いに呑まれていたオーデッドだが。 気を取り直して隊員達の紹介を始めた……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 技術開発教導団所属の旗艦 ~ 教導団を率いるローラン大佐は、目の前に集った四人の男女を見やった。 「……おいローラン。さっさと本題に入れ」 「それとそこの御仁の紹介もな」 口火を切ったのは、四人の中では一番年嵩な金髪碧眼の男。苛立たしげな顔でローランを睨む。 「アタシは英国陸軍所属のスコット・ランドー。オブシダンの乗り手よ」 「今回は助っ人として参上したわ。宜しくお願いするわね」 と、サンジェルマンの発言を受けて、派手な長髪の若い男が挨拶する。 「今度の作戦は、敵が大攻勢を掛ける計画を逆手に取るものでね」 「その隙に以前奪われた基地を奪還しようってものさ」 ローランがここまで説明をした時点で、一番若い娘が横槍を入れる。 「はいはーい!何で敵さんの計画が分かったんですぅ?」 「それとわざわざスコットさんを呼んだ訳は?」 小首を傾げて尋ねるリリィに、苦笑しながらローランは答える。 「あぁ。あそこは元々我が軍の基地だからね。少し手間だったが、簡単な会話傍受くらいは出来たのさ」 (「いや。機密保持上、そう簡単にやられても困るんだがな……」) 陸軍准将の娘でもあるベロニカ・サンギーヌは、下手すれば軍法会議ものの機密漏洩行為を聞いて、密かに顔を顰める。 しかし有益な情報収集行為ではあるので、黙って話の続きを聞く事にした。 「それとスコット君を呼んだのはね。どうやら彼が撃退した機体が基地防衛をするらしいからね」 「敵の侵攻計画もあるから、この作戦には少数精鋭による強襲で挑む事になる」 「各機体の性能から言って、3方向からの同時強襲が効果的かと……」 「……オイ。腹の中を全て吐いてしまえ」 「奥歯に物が挟まった様なツラで何を悩んでるのだ?」 今度はサンジェルマンが嘴を挟む。ローランは暫し躊躇ったが、諦めた顔になって懸念を漏らす。 「推定敵は大型機3機。手強いでしょうが君等の勝機も十分にある」 「ですが、どうにも嫌な予感を拭い切れないんですよ」 「強敵何するものぞ!そういう懸念は我輩らに任せるが良い!」 「そうじゃなくて!嫌な予感を覚えてる要素を特定出来ないのが嫌なんですよ!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ アムステラ軍前線基地 ~ 密かに基地を包囲する4機の機動マシン。基地周囲は遮蔽物の無い空間であり、接近すればその姿は丸見えである。 (「そこで先ずはアタシが突入して、呼応し……って?何で先走って突入してんのよ!」) 蒼い機体が基地に向かって駆け寄って行く。基地に迎撃設備が有れば既に砲撃を受けている間合い。 しかし、迫り来るサンジェルマンのデュランダールを邪魔するモノは何も無い……いや! 基地から跳躍した大型操兵が放物線を描きながらデュランダールの眼前に着地。腕組み仁王立ちで立ちはだかる! 「そなたがサンジェルマン殿だな!噂には聞いて居る!」 「我が名はタカオウ!この封刃にてお相手致そう!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ オブシダンサイド ~ 「順番は前後したけど、やる事は同じね」 「デュランダールに目が行ってる様だけど、こっちには対応出来るかしら?」 強襲用ロケットブースター『ブロッサムI』を点火したオブシダンが、索敵レンジ外から急速接近! だが、一気に距離を詰めるオブシダンの進路上に、基地から飛び出した封刃が着地する。 おもむろに半身で左腕を掲げ、手の平を向けてオブシダンを押し留めようとでもする構え。 瞬時に激突タイミングを測ったスコットは、オブシダン・クラッシュを繰り出す構えを取った……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ コッペリオンサイド ~ 「リリィ、私達も行くぞ!」 「はぁい、お姉様!」 紅と白のコッペリオンが静かに、だが素早く基地へと接近する。 その眼前に、基地から大跳躍した大型操兵が着地!おもむろに腰から双刀を抜き放つ! 「そなたらの相手はこの儂、暴牙堂よ!」 「我が雷迅颶参の猛威を存分に味わうが良いっ!!」 眼前に現れた強敵に、コッペリオン達は身構えた……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ デュランダールサイド ~ サンジェルマンが口上を終えるのと同時に、封刃は腕組みを解いた。 次の瞬間!封刃の全身から湧いた虫型チャフ・護鬼と両手首のノズルから噴出した鉄砂塵がデュランダールの視界を奪う!! 「 コ シ ャ ク !! 」 サンジェルマンは視界の隅に、すり抜けた封刃の影を捉えて居たが次の瞬間、背後からデュランダールの両脇腹を掴まれていた! 「 イ ヤ ー ッ !! 」 ぶ お ぉ ぉ ぉ っ っ !! その時、既に封刃の必殺投技は仕上げのフェイズに入って居た! 背の二連ブースターによりデュランダール諸共に数十メートル上空に跳躍!身体を伸ばして真下を向き、ブースターを再噴射! 横から見た図を時計の針で例えると、長針が封刃。短針はデュランダールで、1時ピッタリを指して居る。 「 こ れ ぞ 荒 釜 落 と し ! 受 け て み よ ! 」 このままでは、コックピットのある胸部を大地に叩き付けられて死ぬ。だが、猶予時間はコンマ数秒! 「 イ ヤ ー ッ ! 」「 グ ワ ー ッ ! 」 ガ ガ ガ ガ ッ !! デュランダールの上半身と腕は、磁力結合により接続されている。そこで先ずは下半身を分離! そして腕を斜め下に向けると、時計の針は4時ちょうどに。 そのまま磁力の反発力で腕を伸ばし、迫る大地を殴り付けた! この軌道修正により封刃の軌道は垂直から水平と化し、時計の針も地表近くで3時15分を指す! ガ リ ガ リ ガ リ …… ズ ザ ァ ー ッ !! 伸ばした腕を軽く持ち上げた格好で、腹で大地を擦りながら百数十メートルほど滑った後、封刃の動きは止まった。 「……捨て身の覚悟は見事だったが、我輩を倒すには一手、足りなかったな……」 掴みが緩んだ封刃の手を振り解いたデュランダールは、両腕で上半身を支えて立ち上がる。 そして転がっている下半身の方へ、テケテケと歩き出したのであった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ オブシダンサイド ~ 高速移動しながら右腕を引いたオブシダンに護鬼が群がる。相対速度により、大口径銃弾による散弾の如し! だが、オブシダンは怯まない。護鬼はオブシダンの体表で次々と弾けて行く。 次いで、浴びせられた鉄砂塵がオブシダンの体表をヤスリの如く砥く(みがく)が、これも意に介さない。 繰り出されたオブシダン・クラッシュは、それを受け止めるかの如く突き出された封刃の左掌に命中。 オブシダンの右拳は、まるで飴細工に灼けた鉄棒を突き刺すが如く、封刃の左腕にめり込んで行く。 易々と封刃の肘をも砕き散らし、上腕の半ばにまで拳をめり込ませたその時! バ フ ン ッ !! オブシダンの右腕関節部から異音が生じる。思わず引き抜いた右拳も……拉げ(ひしゃげ)ていた! 「……仮初めの強化を喪えば、そうもなろう」 封刃のパイロットが、吟じるが如き呟きを漏らす。 オブシダンが損傷した原因は、電子機器を狂わせる効果を持つ鉄砂塵。 機体を構成する超合金ゼットンは、特殊通電によりダイヤモンドに匹敵する硬度を得られるのだが。 逆に言えば、その特殊通電を阻害されると硬度を喪ってしまう訳である。 「……この機体銘は『封刃』。恐れよ。お主はこの基地の入口にも立てぬ」 ザエモンは隻腕になった封刃で構えを取った……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ コッペリオンサイド ~ 西部劇の決闘めいた緊迫した対峙が続く。 紅のコッペリオンはエネルギーソードとエネルギーシールドを展開。 白のコッペリオンの右前腕が輝き、何時でも溜め撃ちを発射出来る体勢に。 雷迅颶参は二刀を構え……跳んだ!! 鋭い跳躍で、コッペリオンの頭上を飛び越える。そしてコッペリオンの後方に背を向けたまま着地。 予想外の行動に、思わず雷迅颶参の軌道を目で追いながら振り向くコッペリオン達。 だが雷迅颶参が着地した瞬間! 左腕が閃いて、後ろ殴りに機甲刀をノールック投擲! ガ ス ッ ッ !! 意表を衝いた機甲刀は、振り向いた白いコッペリオンの右前腕を貫通し、切先が軽く胸板に刺さる。 雷迅颶参は振り向きざまに、狙い澄ました右機甲刀をリリィ機へ投擲!致命の刃が白いコッペリオンに迫る! ギ イ ィ ン ッ ッ !! 紅いコッペリオンが割り込み、盾で機甲刀を弾き飛ばす……が!雷迅颶参は既に目の前! 掬い上げる様に繰り出された右拳を盾で受け、紅いコッペリオンの体躯が僅かに浮き上がる。 弾かれた機甲刀を磁力で引き寄せて掴んだ雷迅颶参は、軽く浮いたコッペリオンに機甲刀を振り下ろす! 剣で機甲刀を受けると、その衝撃で紅いコッペリオンの足元の大地に亀裂が走る。 右手で背の機甲刀を抜き放ち、二刀で連続斬撃を繰り出す雷迅颶参! だが紅のコッペリオンは一歩も退かず、この連撃に抗する! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ デュランダールサイド ~ ローランはこれらの戦況を見て、撤退の判断を下した。 だが、サンジェルマン相手には「退くべき理由」が必要な事も、長い付き合いで重々承知していた。 「遺憾ながら、今回の強襲は失敗です」 「リリィ君が戦闘不能、ベロニカ君も苦戦してますので支援をお願いします」 生き別れになっていた上下半身をくっつけたデュランダールが身を起こす。 落下ダメージもあるので本調子では無いが、一応の戦闘行動は可能。 うつ伏せた封刃を一瞥すると、立ち上がる余裕は無いものの、にじり寄りながら窮鼠の一撃を狙う構え。 「タカオウと言ったな!敵ながらあっぱれである!」 「この勝負は預けて置こう!だが次も我輩が勝つ!!」 こう言い放ち、デュランダールはコッペリオン達の方へと駆け去って行った……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ オブシダンサイド ~ 「これ以上の戦闘は無駄です。速やかに撤退して下さい」 隻腕同士の殴り合い。互いに決定打に欠ける戦闘であった。 オブシダンの攻勢が緩んだのを見て取り、ザエモンの封刃も拳を引く。 「『朽木で棹さす者は遭難する』か……それも良かろう」 「お主は倒すべき強者ではあるが、今ここで一命を賭して屠る必要までは無い」 軽く飛び下がった封刃は、胸元に隻腕を構えて敬意を表する。 「此度、我は役目を果たした。また何処かで死合う事もあろう」 立ち去るオブシダンを見送りながら、封刃はしばらくその場に立ち尽くして居た……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ コッペリオンサイド ~ 激しい交錯が続く中で突然、雷迅颶参が大きく飛び退いて間合いを開ける。 「ムッハッハッ!あの防御の中で反撃を仕込んでおったな?」 「だが喰らってやる謂れも無し!それに他の連中も退き始めて居る様だからな!」 「最後に餞別の一手をくれてやるとしよう!」 そう言い放つと、二振りの機甲刀を同時投擲! 間髪入れず背から抜いた機甲刀も投擲! 下手に避けるとリリィ機をも巻き込む軌跡。故にその三連撃を悉く叩き落とす! 直後!目の前には両腕を引いた雷迅颶参!刹那の判断で両腕で展開するは二面のエネルギーシールド! ズ ザ ザ ザ ザ ザ ザ ッ ッ !! 雷迅颶参が繰り出したのは、白熱手刀諸手突き! 防御を固めるのが遅れていたら、胴体を貫かれたであろう苛烈な一撃であった。 紅のコッペリオンが防御硬直から復帰するまでの間に、悠々と機甲刀を磁力回収する雷迅颶参。 「……やはり凌ぐか。だが、ここで性急に喰い尽くすのは惜しい!」 「またいずれ、戦場で遭おうぞ!!」 こう言って、機甲刀を鞘に収めた雷迅颶参は、腕組みしてコッペリオン達の撤退を見送ったのであった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ アムステラ軍前線基地 ~ 帰還したオーデッド隊の面々は、大破した2機の封刃から激闘の痕跡を読み取った。 「ムッハッハッ!お陰で良い戦(いくさ)が出来た!」 「又、機会が有れば協力するのも吝か(やぶさか)でないぞ!!」 暴牙堂の大音声を聞きながら、どう反応したものかと密かに悩むオーデッド隊の面々であった……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ 技術開発教導団所属の旗艦 ~ 「まぁこれは仕方の無い結果かな」 「彼等の機体性能を過小評価していた。君達が無事に帰還しただけでも上出来だね!」 何故か満足げに見えるローランが、帰還した四人を労う。 「フンッ!貴様の『嫌な予感』とやらの原因が判明したらそれか」 「奪還失敗は悔しいが、しかし良い戦いではあった」 サンジェルマンは交戦結果を振り返り、こちらもそれなりの満足感を漂わせて居た。 多分、口上を阻止する野暮な妨害が無い戦いが出来たというのが大きいのだろう。 「あんな対処法があったのは厄介よね……」 スコットは溜息交じりの呟きを漏らす。 「ハッハ!直ぐにとは行きませんが、対応してみせますよ!」 「あの手の技はもう何度か喰らいましたからね!」 スコットの呟きに躁状態っぽく反応するローラン。 こちらは技術者としてのプライドと対抗心に火が点いた模様。 「お姉様、ごめんなさいぃ〜」 ベロニカは、消え入りそうな声で謝罪するリリィの肩に軽く手を掛ける。 「いや。奴は相当の手練れだった。それに……リリィ。『次は避けられる』だろう?」 「……はいっ!」 そう。今回の動きがリリィの想定外だっただけで「そういう動作もある」と理解さえしていれば 相手の動きを見て、その流れを読んで避けられるのがリリィの天才たる所以であった。 THIS EPISODE END |