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~ 某所・アムステラ軍前線基地 ~ 「さて。次にお主らとやり合う際には又、一工夫凝らさねばならんな!」 ひとしきり笑った後、暴牙堂は真顔で言った。 「特に『乱牙連剣』には自信が有ったのだがな……よくぞ凌いだものよ!」 「……あぁ!あの頭上からの突き連撃かぁ!ベルダの警告が無きゃ危なかったよ!」 「でもアレ、吠弩羅以外が喰らってたらヤバくね?」 クリスとゲインが口々に感想を述べると、暴牙堂は 「ともあれ、良い戦をさせて貰った!感謝するぞ!」 と返し、横の従者に声を掛ける。 「タカオウ!例のモノを用意せい!」「ハハッ!」 大型キャリーバッグから書籍やタブレットを取り出し、テーブルの上にそれらの資料を広げるタカオウ。 「今回、儂がこちらに寄った本命は敵特機との交戦でな!」 「当然、既に下調べもして居る。ソレは貴族階級絡みの特機紹介資料だ!」 暴牙堂は無造作にマニュアル本を指し示した。 『ブラッククロスマニュアル戦闘基礎知識編・これさえ読めば生還率二倍』(1980円) (※SS作品「南極女子高生-4」より) 「これには何と、挿絵まで付いて居るのだ!」 「この地域でならば多分『蒼鞭』か『金鮫』辺りに遭遇する率が高かろう!」 (※蒼鞭:サンジェルマンのデュランダール) (※金鮫:飛鮫隊・アンドレのゴールデン・グラニ) 「だが、残念ながらこの資料だけでは情報が全く足りぬ!」 「先ず挙げるべきは、ランカスター卿達を苦しめし紅白の新鋭姉妹機!」 (※ベロニカの紅いコッペリオンとリリィの白いコッペリオン) 「有能な指揮機だが、単機だと謎の憎悪を掻き立てるという噂の、ドス黒い変態隠密機!」 (※ゲバールのピグマリオン) 鼻息荒く捲し立てた暴牙堂は、ここで一息付いて 「……と、まぁこの位か?此奴らの何れかに遭えたら良しとしよう!」 「取り敢えず、その辺の郊外にて示威行動でもしようと思って居るが……」 「……影狼の!この行動、近辺での軍事行動への支障はあるまいな?」 問われた影狼隊隊長は軽く笑みを浮かべ 「現在、特に問題は無いですな」と、応えた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ フランス・技術開発教導団所属の旗艦 ~ 有事には移動して現地で対処する事も可能なこの指揮艦には、フランス各地の現況情報も送られて居た。 そして教導団の責任者たるローラン大佐は、たった今届いた緊急情報を前に眉根を寄せた。 「……君。これはサンジェルマン案件なので、箝口令でお願いします」 手近に居たオペレーターにそう声を掛けた後、振り向きざまに背後の女性に向かって語り掛ける。 「そしてベロニカ君。君にも少し出撃を待って貰おう」 「……納得のいく理由を聞かせて頂けますよね」 「勿論さ」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ フランスの僻地 ~ フランスの風光明媚な郊外を、三機の大型操兵が闊歩していた。先頭に雷迅颶参、付き従うは二機の封刃。 しかし別に破壊活動を行うでも無く、むしろ民家や牧場を見かけたら大きく迂回してのそぞろ歩き。 「御前、敵の監視ドローンを確認しました」 「うむ!ならば手頃な戦地に移動しておくか!」 大きく跳躍して広い平地に移動した三機は、その場で腕組み仁王立ちをして待機する。 「タカオウ!例のモノを!」「ハハッ!」 片方の封刃からドローンが飛び出すと、仁王立ちする三機の映像を撮り始めた。 「ザエモン!配信の準備も良いな!」 「無論。『知る者が居てこそ勲(いさおし)』であるが故」 「ま、映像を無差別にバラ撒くのは次善の策よ!」 「さて、あ奴らはどういう手練れを送って来るかな……」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ フランス・技術開発教導団所属の旗艦 ~ 監視ドローンからの映像で、雷迅颶参と封刃の撮影風景も中継されて居た。 それを見たベロニカは『何をやってる?』と言わんばかりの渋面でローランを一瞥する。 「あれは示威行為ですね。己の存在をアピールして我々に特機を派遣させたいのでしょう」 「だからっていきなりデュランダールを送るのは愚の骨頂」 「無論、対処はしますよ。彼らがしびれを切らして映像流出させる前に間に合うと良いのですが……」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ フランスの僻地 ~ 「……ぬぁ〜。昨日ちょっと盛り上がり過ぎて調子悪いなぁ〜」 「大丈夫ですわ。お兄の操縦はいつもそんな感じですから」 (「いや、それは既に普段から駄目って事だろ……言っても聞かんし直らんのだが……」) 三機のグラニMが、巡回飛行中であった。 しかし後方の二機は普通に飛んでるだけなのに、ややフラつき気味。 先導するグラニMのパイロットは貴族階級とのしがらみに思いを馳せ、胃を抑えて傷だらけの顔を顰める。 その気分に追い打ちを掛けるかの様に、前方の地上に見えるは巨大な影! 「……クソッ!一体これは何のフラグだ?」 「こちらフラグマン中尉!広域巡回中に敵大型機を三機発見!」 「こちら技術開発教導団。敵機の推定データを送ります!」 それは現場判断しろという事か?見た目とデータから、幸い敵機には火器が無さそうではあるが……。 「ウヒョウ!飛鮫ライン(越えたら反撃を受ける射程)外からの撃ち放題ボーナスだぁ!やったなレナス!」 「日々、退屈な任務を甘受していた私達へのご褒美ですわね!」 (「……嘘こけ。前線を厭って、いつも自分からこういう任務を選んでるくせに」) フラグマンが指図する前に、喜々として全火力をブッ放すレックス・バガーノ少尉。 射程距離ギリギリからの機銃が、ミサイルが、三機の大型機に降り注ぐ! しかし三機は腕組み仁王立ちの姿勢を崩さない。攻撃は全て、周囲の地面を抉るのみ。 (「……大きな分、硬そうな相手ですわね。飛び道具が無いのは殴り合いが好きな蛮族仕様だからかしら?」) (「まぁ万が一攻撃されても、まずお兄にヘイトが向くから逃げる余裕はあると思いますけど」) 「……って言うかお兄?この距離とは言え全弾外せるのはむしろ才能ですわよ」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ フランス・技術開発教導団所属の旗艦 ~ 「……まさかとは思うが、あれが『対処』とやらか?」 その無様な対応を見ていたベロニカは、冷ややかな声でローランに詰問する。 「はははっ……あそこまで酷い練度なのは予想外でしたがね」 ローランは苦笑しつつ応えた。 「今回の敵機は、既に何度か遭遇情報がありましてね」 「直近の情報では、オブシダンに撃退されたものの、その前に単機でキャノンショルダー9機を一蹴したとか」 「成程。それは梃子摺りそうだな」 雷迅颶参と交戦時の映像データを見てベロニカは頷くが、直ぐに顔を顰めて吐き捨てる様に言った。 「……まさか。又、あの男を情報で釣ったのか?」 「いえいえ。彼にこれ以上、甘い汁を吸わせると付け上がるだけですからね」 「ただ、あの偵察部隊にデータを送って、敵機の火器の少なさを仄めかしただけですよ」 「逆に言うと、それで何とかなる程度の敵ならば、彼にくれてやっても構いますまい?」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ フランス上空 ~ 「……現在、敵に威嚇射撃を敢行しました。特に反応は無し。如何しましょうか、団長!」 フラグマンからの交戦報告を受け、飛鮫騎士団の団長アンドレ・ボンヴジュターヌは思案した。 丁度、軽く交戦した後の帰還中。特に補給も要らず、即座に動ける状態。 敵は最近、イギリス軍に痛打を与えたという新鋭機。しかし少数、しかもデータによれば反撃手段も不足。 あのバガーノ兄妹にすら翻弄される程度の相手なら、さして心配は無いだろう。 「もう少し痛め付けて差し上げなさい。これから直ぐにアンドレも加勢に向かいます」 (「つまり倒したという手柄は寄越せって事ですね、分かりますよ団長」) 保身に長けたアンドレなのだが、今回は楽に手柄を得られる機会に飛び付いてしまったのであった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ フランスの僻地 ~ 「ムッハッハッ!こうも狙いを逸らすとはな!見事な威嚇射撃よ!さぞ名のある射撃手と見た!」 「儂の名は暴牙堂!名乗れ!そこの者共よ!」 グラニMの共通通信回線に中年男の大音声が響き渡る! 「僕はフランス空軍のエース・バガーノ男爵が一子、レックス少尉!」「同じくレナス・バガーノ少尉!」 「高貴なる家柄にして…」「…生まれながらの英雄!」 「「我ら、飛鮫隊の若きエースパイロット!!」」 バガーノ兄妹はこんな事もあろうかと練習していた口上で名乗りを返す。 ……まさか、こんな無駄な練習が実を結ぶとは。 「……自分は、デッド・フラグマン中尉…です」 蚊の鳴くような声で、赤面しつつフラグマンも追従した。 「あ。それとアンドレ様も来られるんだって」 「……ほう?つまり『金鮫』であるな!望む所よ!」 「ならば儂らからも一手仕掛けよう!行けぃザエモン!タカオウ!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ フラグマン視点 ~ 「あ。それとアンドレ様も来られるんだって」 レックスの不用意な一言に、思わず顔を引き攣らせたフラグマン。 「……ほう?つまり『金鮫』であるな!望む所よ!」 そして、相手もアンドレの事を知って居たという事実が判明。 「ならば儂らからも一手仕掛けよう!行けぃザエモン!タカオウ!」 「いかんっ!退避…」(「これもフラグか……」) これらの情報の吟味に意識の一部を取られ、フラグマンの反応は一瞬、遅れた。 だがそういう思考などが元々無かった分、バガーノ兄妹の反応は迅速であった。 封刃が跳躍した瞬間、既に全力離脱を開始していたのだ!結果…… (「足掻く!未だ俺の死亡フラグは始まって居ないぜ!」) 他の目標を失った封刃が、フラグマン機の左右を挟み込む! そしてミサイルや機銃の迎撃を護鬼や厚い装甲で防ぎつつ、手首ノズルから鉄砂塵を噴射! エアインテークや関節部に入り込んだその細粉で機能を狂わされたグラニMは、墜落を開始した。 そして封刃も重力に従い、自然落下を開始して居たのであった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 ~ アンドレ視点 ~ 「……チイィッ!全く役に立ちませんね、あの男は!」 墜落するグラニMを見つつ舌打ちするアンドレ。 「ですがまぁ、所詮は地を這うアンセクトゥ(蛆虫)に天翔ける黄金の鷲を倒せる道理も無し!」 離れた位置を自由落下中の封刃を一瞥し、即座に雷迅颶参の頭上から急降下攻撃! 離れた位置からミサイルを投下すると、結果も見ずに垂直急上昇を始めた。 「ハッ!面の皮が厚いとダメージも感じませんか!」 雷迅颶参も垂直上昇でG(ゴールデン)グラニに追い縋る。 封刃の様に自由落下を始めたら、一方的に攻撃する腹積もりのアンドレだったが……。 「金鮫の!一つ教えて進ぜよう!この雷迅颶参……飛ぶぞ」「……!!」 思惑が外れたアンドレは瞬時、動揺した。しかし直ぐに気を取り直し、嘲りの声を掛ける。 「それがどうしました!石器時代の蛮族は、飛ぶだけでも精一杯なんじゃ有りませんか?ムッシュ〜ッ?」 「……ほっほーぅ?」 次の瞬間、雷迅颶参は両腰から抜き放った二振りの機甲刀を投げ撃つ! だが高性能センサーと反応速度のカスタマイズをされたGグラニは、辛くもその投擲を避ける! 「無駄、無駄、無駄アァ〜ッ!手持ちの武器を投げ捨てただけ〜っ!お・バ・カ・さんっ♪」 続けて、雷迅颶参は背から抜き放った二振りの機甲刀を投げ撃つ! だが高性能センサーと反応速度のカスタマイズをされたGグラニは、辛くもその投擲を再び避ける! 「デュ・ポォォォル(もう牙の無いアムステラの豚)死すべ……し?っ!!」 だが、最初に投げ撃った機甲刀が自由落下していた。 その機甲刀を磁力誘導で手元に引き寄せた雷迅颶参は、三たび投げ撃つ! 高性能センサーと反応速度のカスタマイズをされたGグラニは、体勢を崩しながらもその投擲を避ける。 「ハァーッ…ハァーッ…もう攻撃は……!!」 「やっ!待ってヤメて止めて!!」 ガコンッ! 雷迅颶参の両ブースターが半回転。機体前方に向いた噴射口を、Gグラニの方に向けて構えた。そして…… 「 パ ワ ー ・ レ ー ザ ー !! 」 回避不能な体勢のGグラニを、噴射口から発射された極太レーザーが炙り焼きしたのであった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ えんでぃんぐ ~ 「……フンッ!あの分なら命拾いだけはして居ろう」 煙を吐きつつ墜落するGグラニを見下ろしながら、暴牙堂は言葉を吐き捨てた。 「機能復帰状態は……正常だな。まぁ先日と違って余裕が有ったからな」 暴牙堂は、雷迅颶参が正常な機能を保持しているのを見て満足げに頷いた。 そして、着地点で待機して居た封刃に向かって告げる。 「上首尾で有った!これより帰還する!」 THIS EPISODE END |