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〜衛星軌道上・アムステラ軍宇宙基地 補給物資倉庫 ~ この日、オーデッド隊への補給物資受け取りに出向いて居たのは、ライゴウであった。 彼は臨時の隊員ではあるが、新拠点の足場固めや新しい荒光の習熟訓練などで滞在期間が延びており、 目下、こういう隊の雑事にも関与して居たのであった。 物資受け取りの為に『コモド店長』の巨体を探していたライゴウは、その脇に顔馴染みの巨漢も見付けた。 「……おぉっ?これはお館様!久しぶりで御座いますな!」 「ムッハッハッ!久しいのぉライゴウ!」 「……んっ、知り合いかね?」 巨躯の蜥蜴男はライゴウを見下ろし、次いで顔を上げてその巨漢に尋ねた。 「此奴とは同郷でな。儂からも用件があったから、ここで会えたのは丁度良かったわい!」 「……用件ですと?」 「左様。暫く前に、お主が助っ人で出向いた部隊の話などを色々と聞きたいのだ!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 某所・アムステラ軍前線基地 ~ 格納庫には先程到着したばかりの大型操兵が3機、並んで居た。 パイロットが降りて来るのを待ちつつ、その機体を観察していた女性は眉根を寄せる。 「……新型機。雷殻をベースにした……確か雷迅と、後ろの2機が封刃かしら?」 「でも、先頭の雷迅は更に改造されてるみたいね……」 特徴的な拳と、両腰と背の二連ブースターに装備された、計四振りの機甲刀を見ながら、その女性は呟く。 彼女の名はレイナ・ハーディアス。カスム隊所属の有能なメカニック、かつ、優秀なパイロットでもある。 「……御前。彼女ですな」「左様か」 封刃から降りて来たパイロットの一人が、雷迅から降りた身長2mを有に越す巨漢に囁き、巨漢も短く返す。 「お主がレイナ女史だな。儂は暴牙堂(ぼうがどう)という只の隠居よ!」 「この度、儂の雷迅颶参(らいじんぐさん)の実戦テスト前に、お主らカスム隊の面々と会いたかったのだ!」 「まずはカスム隊長に挨拶をしたい故、案内を頼む!」 大音声で滔々と口上を述べる巨漢に戸惑いながら、レイナは彼らを案内した……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 「……遠路遥々、お疲れ様です」 カスムは3人の来客を労いつつ、客人らを観察した。 年の頃は皆、三十路後半〜四十路前後か? そして彼らの特徴的な戦装束は、アムステラの属星である「センゴク星」の意匠であろう。 来訪の意図を問うと、試作機の実戦テストや第三者からの感想聴聞、及び対戦相手の情報収集との事。 後は試作機に関する特許(パテント)申請の通達もある、と……? 「特許……ですか?」 と、腑に落ちぬ顔でカスムは尋ねた。 「左様。先日、お主は影狼隊のに頼まれて機体整備データを渡したであろう?」 「その中にあった改造データの一部が、この雷迅や封刃に反映されて居るのよ。事後承諾だがな!」 「ただ、その特許による補助金申請等に関しては、当事者が行わねばならんのでな。書式を持参した次第だ!」 暴牙堂はそう説明した後、そわそわとして椅子から腰を浮かす。 「そして、お主らの事も事前に調べた結果、是非に顔合わせ、手合わせをしたいと思って居ったのだ!」 「それとスティングとレイナか。彼らと雷迅颶参の機構面に関する知見を取り交わすのも楽しみにして居る!」 「ささっ!『タイム・イズ・マネー』と言うであろう?早速、手配を頼む!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 「……これは面白いな。プログラムに手を入れれば、左右を気にせず腕パーツを共用出来る訳ですね」 カスム隊の敏腕メカニックであるスティングは、雷迅颶参の拳を見て感嘆の声を上げた。 それはミトン(指無し手袋)や篭手を嵌めた手の形状だが、異様なのは「左右に」親指がある点。 そしてその手の外周に沿って溝が刻まれている。 「この溝は……白熱手刀『パワー断』の発生装置か」 「左様。これで突きや逆薙ぎにも対応しておる!」 「拳の突起列は『雷迅ナックル』の雷撃発生機構、掌に動力供給機構、手首には……ビームと磁気?」 「左様、左様!それらは機甲刀を扱う際に必要なのでな!」 スティングは渡された機甲刀の設計図を広げ、レイナも横からそれを覗き込む。 雷迅颶参は身長が羅甲の約1.5倍はある30m級の大型操兵だが、胴体・四肢の形状比率は人体に近い。 そして装備した四振りの機甲刀は全てが同一構造の量産規格品。反りの無い直刀である。 その刃渡りは身体で測ると足首から膝までの長さ。短刀というには長く、だが打刀というにはやや短い。 「……刀身部は鋸を重ね合わせた様な形状で、交互に振動するこの三枚鋸刃で『挽き斬る』仕様なのね」 「切っ先も振動して、無反動ハンマーの要領で深く尖端を打ち込む工夫がされてあるんだな」 「ムッハッハッ!『打てば響く』とはこの事よ!説明する手間が要らぬわ!」 一通り機体を見せた後、上機嫌となった暴牙堂は彼らを伴ってシミュレーター室へと向かった。 そこで待って居たのはクリス、ゲイン、ティナ、ベルダの4名。 「お主らの業前はライゴウからも聞いて居る!故にこの手合わせも愉しみにして居った!遠慮なく参れ!」 「……いや、ちょっと待ってくれよオッサ…」 (「…っと、失礼。何てお呼びすれば良いんで?」「暴牙堂で良いぞ!」) 「……エート。暴牙堂、さん?「参れ」は良いんだけど、まずは誰とから対戦します?」 嬉々として対戦を呼び掛ける暴牙堂に、戸惑いながらゲインが尋ねると、意外だと言わんばかりの返答が。 「何を異な事を!お主ら5名のチームと対戦するに決まって居ろうが!」 「……大丈夫なのか?」「スゲー自信だなぁ?」「まさか、私達を舐めてる?」「はわぁ〜っ。凄いですねぇ」 「ムッハッハッ!儂の雷迅颶参は決戦兵器よ!一部隊をも相手取れずして何とする!」 「……油断は禁物よ。さっき機体を見せて貰ったけど、かなりの脅威になるわね」 「但し、今回の模擬戦ではオープン通話で頼むぞ!」 「儂の雷迅颶参と対峙して、どう感じたのかという生の所感を知りたいのでな!」 こうして、カスム隊vs雷迅颶参の模擬戦闘は始まった……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ イギリス軍基地・訓練室 ~ 一方その頃。イギリス軍の所謂スーパーロボットの乗り手達3人は、訓練に勤しんでいた。 特に、今も反復訓練を行っている派手な長髪の女せ…いや、男性からは鬼気迫る雰囲気をも感じる。 「皆さん、そろそろお茶の時間ですよ」 しかしそれも日常なのか。この中では一番若い、未だ少年と言っても良い若者が声を掛けた。 「……おっ、もうそんな時間か」「あら、そう?」 残る一人の逞しい若者は、その声で訓練を小休止。 だが長髪の若者は生返事を返すだけで、今までも何百、何千回と繰り返して来た訓練を更に続ける。 取り付く島もない反応だが、これも日常茶飯事。 「……遅れると紅茶が渋くなるんですよ、スコットさん」 その声に秘められた静かな怒気を受け、渋々と小休止に入るスコットであった……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ イギリス軍基地・休憩室 ~ 一息ついて寛いだ所で、おもむろに逞しい若者〜ムッター〜が話題を投げ掛けた。 「なぁ、奴らの動きだが。最近、新型機との交戦情報が増えてるってのは知ってるよな?」 「えぇ。機動性の高い、重装甲の大型陸戦機だと聞いています」 「外見は以前、大規模奇襲の際に私が交戦した砲戦機と似てるそうね」 2人の返答に頷き、ムッターは話を続ける。 「で、マーリンの予測だと、こっちにも来やがる可能性が高いらしい。Hey,マーリン!」「Yes,ムッター」 ムッターの呼び掛けに、英国軍戦術情報支援コンピュータ『マーリン』の音声応答装置が反応した。 「今話していたアンノウンに関して、分かっている情報をくれ」 「Sir.先程ノゴ指摘通リ、以前目撃・撃退サレタ砲戦機ヲべーすトシタ改造機ダト推測サレマス」 「二脚デ、砲門周リヲぶーすたート換装シタ、機動力重視ノ仕様デスネ」 「ソノ出現ぱたーんカラ推測スルト、近日中ニハおぶしだんヲ標的ニ選ブ確率ガ高イデス」 それを聞いたスコットは顔を引き締めるが、ムッターはヘンリーに声を掛ける。 「残念ながら、今度の奴は戦闘スタイル的にウインドスラッシャーやアースクラッシャー向きの相手じゃない」 「だが、ヘンリー。お前さんならスコットに何か良い助言が出来るんじゃないか?」 ヘンリーは『超音速の貴公子』の異名をも持つ、歳に似合わぬ卓越した操縦技術の持ち主である。 とはいえ、人に助言するのは別問題。この無茶振りに対して暫し沈思黙考の末、ヘンリーは答えた。 「……僕から言えるのは『持ち味を活かせ』位ですかね」 「つまり『パワーと硬さ』を活用すれば、オブシダンが負ける要素は少ない筈です」 「実際、先日の特機襲来を凌げたのはオブシダンあっての事ですからね」 オブシダンの特長の一つは、全身の素材に用いられている『超合金ゼットン』の存在にある。 特殊通電による分子結合強化で、靭性を保ったままダイヤモンドにも匹敵する硬度を一時的に得られるのだ。 それで拳を超硬化して繰り出す加速拳「オブシダン・クラッシュ」の威力は苛烈の一言に尽きる。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 数日後・イギリス軍基地 ~ 「……予測済みだとはいえ、本当に来なくても良いんだがな……」 ムッターはそうぼやきつつ、手早く戦化粧を自分の顔に施して行く。 「確認されてる敵は一機。現地近くに配備されていたキャノンショルダー隊が迎撃に向かってるそうだ」 「俺は空から行くが、ヘンリーは不在だし、今回の要はお前さんになるだろう」 ムッターの出撃準備が整うのと同時に、スコットも準備完了。ヘルメットを被って格納庫へと向かう。 「じゃあ、頼むぜ」「えぇ。任せて頂戴!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 郊外の戦地 ~ 『敵機襲来』の報に、出撃したキャノンショルダーは9機。 程無くして、地を駆けて来る大型機を発見。3機横並びで3列の方形陣を取った。 前列の3機は膝立ちの体勢で右肩に装備した砲を構え、中列3機はその背後で立ったまま砲を構える。 計6門の砲が敵大型機に狙いを定めたが、その対象〜雷迅颶参〜のコックピットで暴牙堂は不敵に嗤う。 「……笑止!」ブ フ ォ ワ ア ァ ッ !! 次の瞬間。背のブースターを吹かせた巨体が、軽々と宙を舞った! 前列の砲撃は、その突然の機動で的を外したが、少しタイミングをずらして居た中列は未だ砲撃していない。 即座に仰角を付けて再度の照準合わせ。射角を得た後列共々、再び計6門の砲撃が雷迅颶参を狙う! ブ フ ア ァ ッ !! しかし再ブースト。機体重量を感じさせぬ機敏な動きで宙を馳せ、追撃の砲弾をも回避した! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 模擬戦回想 ~ 「……みんな、気を付けて!あの機動は『ブースター単体では有り得ない』わ!」 雷迅颶参のブースター跳躍を見た瞬間、レイナは警告を発した。 メカニックとしても有能な彼女だからこそ、雷迅のブースター跳躍機動の軌跡をも予測する事が出来たのだ! 「ムッハッハッ!一目で見破りおったか!左様。この機体のベースは『雷殻では無い』のでな!」 暴牙堂の台詞を受け、瞬時考え込んだレイナ。 しかし即座にその解答を導き出した! 「そうか、雲殻ね!」「左様!」 そう。雷迅颶参の元となる機体は、その名に反し、浮遊砲撃機『雲殻』なのであった。 とはいえ雲殻も元は陸戦機の雷殻をベースにしており、その意味での大元は一緒とも言える。 ただ、反重力浮遊性能を持たせる為だけに雷殻よりも高価な雲殻を使うのは、本来ならば費用面等で厳しい。 しかし権力と財力には不自由しない暴牙堂なので、その辺は問題にすらならなかったのである。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 郊外の戦地 ~ 連続大跳躍により、キャノンショルダー隊の背後に降り立った雷迅颶参。振り向いて腰の二刀を抜き放つ。 後列のCS(キャノンショルダー)は近接戦と見て取り、パワーマトック(戦闘兼用鶴嘴)を構える。 中列は大盾を構えて支援砲撃の構えを取り、膝立ち姿勢から立ち上がる最中の前列をカバーする体勢に。 「 ム ゥ ン ッ !! 蛮 ・ タ ッ ク ル !! 」 次の瞬間。雷迅颶参は両刀を左右に投げ撃ち、間髪入れず正面のCSに突進攻撃を叩き込む!! 左右のCSの喉元に深々と機甲刀が突き刺さり、その勢いで仰向けに倒れ込む。 正面CSもタックルの直撃を受け、背後と前列3機を巻き込み転倒。中列左右CSは辛うじて飛び退いた。 しかし既に雷迅颶参も飛び退き、両腕を頭上に掲げていた。 その掌にブースター脇の鞘から飛び出した機甲刀が収まり、掴むと同時に又もや投げ撃つ!! 機甲刀は右CSの喉元に突き刺さったが、左CSは何とか大盾で食い止めた! だが次の瞬間。雷迅颶参が目の前に。刺さったままの機甲刀を右手で掴み、盾の守りをこじ空ける。 その守りの隙間に左手の白熱手刀『パワー・断』をねじ込んで、横薙ぎにCSの首を刎ねる! そして、そのまま右手の機甲刀を稼動。大盾を挽き斬りながら盾から刀身を引き剥がした。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 模擬戦回想 ~ 「…ンだとおぉ〜っ!!」ズバババババッ!! 雷迅颶参がベルダの羅甲目掛けて投げ撃った機甲刀に向けて、マシンピストルを乱射するゲインの雷獅子。 その甲斐あって機甲刀の狙いは逸れたが、投擲されたもう一振りは、雷獅子の左上腕を貫いていた。 次の瞬間、雷迅颶参はもう雷獅子の目の前。刺さった機甲刀を右手で掴み、抉り斬るかと見た刹那! ギ ィ ィ ィ ン ッ !! クリスの吠弩羅が横合いから繰り出した竜穿を、背から抜き放った左の機甲刀で受け止めて居た! 竜穿を左手一本で凌ぐ雷迅颶参。二本親指の握りで竜穿の圧力に耐え、機甲刀を握る右腕を振りかざし…… 「 フ ァ ン グ リ ッ パ ー ッ !! 行 っ け え ぇ っ !!」 吠弩羅の背後から、ティナのラウズィーガーが放つファングリッパー。弧を描いて雷迅颶参を襲う。 大きく飛び退きざまに両刀を振るい、ファングリッパーを撃ち落とすが、今度はそこに吠弩羅が迫る。 しかし繰り出された竜穿よりも、両刀を捨てて身を沈めた雷迅颶参の繰り出すアッパーカットの方が速い! 「 雷 迅 !ナ ッ ……」ガ ガ ウ ゥ ゥ ン ッ !! 吠弩羅を殴り倒した勢いで垂直に飛び上がった雷迅颶参だが。直後、空中で十字砲火に曝された! それは、機会を窺って居たレイナの劾狼が放った狼天戟と、雷獅子が放った猛御雷。 堪らず墜落した雷迅颶参に、立ち直った吠弩羅が追撃を仕掛ける! ギ ュ イ ィ ィ ー ン ッ !! だが咄嗟に両腕を掲げ、振り下ろされた一対の刃を腕の盾で受けた吠弩羅。 その盾の表面を鋸刃が往復し、歯の浮くような甲高い音を奏でる。 「ほお!黒銅鋼!それは流石に挽き斬れぬわい!」 「……えっ?ちょっ、ちょっと待ってくれよ!その機甲刀、さっき手放してただろ??」 「ムッハッハッ!種も仕掛けも有るのだが……レイナ女史。当然、分かるな?」 「無論よ」 仕掛けは、雷迅颶参の手首から放つ強力な磁力。これで機甲刀を引き寄せる。 同時にガイドビームも発射して、機甲刀の賦活化や誘導を行うのだ。 対の機甲刀と黒銅鋼の盾で鍔迫り合いを行いながら、暴牙堂はクリスに問う。 「そう言えば、お主があのオブシダンという機体と交戦したのであったな!」 「その時、何か気が付いた事はあるか?報告書も読んでは居るが、実際に対戦した者の話も聞いておきたい!」 そう言われて思い返すクリス。 「そう……だなぁ。かなり吠弩羅の攻撃も当ててた筈なのに、確か機体が全く凹んで無かったっけ」 「……ほう?」 「後、この吠弩羅とパワーがほぼ互角だったから、あいつが腕を上げてたら相当苦労すると思うぜ」 「ほう!ほお!ほーっ!それは面白い!実に、面白い!!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 郊外の戦地 ~ 既にスクラップと化した9機のCSの前で、残心を終えた雷迅颶参が、両手に持つ機甲刀を宙に放り投げる。 するとブースター脇の鞘からガイドビームが延び、そのまま二振りの機甲刀が背の鞘に収まる。 次いで、CSに突き刺さったままの機甲刀に手を翳してガイドビームを当てると、鋸刃が高速振動する。 傷口からオイルを吹き出しながら機甲刀が抜け、雷迅颶参の双の手に飛び戻る二振りの刀。 おもむろに両刀を両腰の鞘に収めた所で、彼方の空から飛翔してくる機動マシンが見えた……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜 彼方より飛来した機体はアースクラッシャー。 飛来中に共用通信から連絡を受けたムッターは、敢えて雷迅颶参の眼前で変形して着地する。 雷迅颶参も、その大きな隙を狙わない。ただ腕組みをして待っていた。 「……もう少ししたら本命が来るのは分かっておる!だから乱戦などという面倒は要らぬ!」 「故に、お主はそこの雑兵共の撤退でも手伝って居るが良い!」 「それと儂の配下も来るが、邪魔はせぬ様に申し伝えておく!」 大音声で一方的に捲し立てた暴牙堂の台詞が終わった直後、2機の封刃が雷迅颶参の両脇に立つ。 「聞いての通りだ!此奴らは捨て置けいっ!」 「ははっ!」「承知!」 2機の封刃も、その場で腕組みして仁王立ちになる。 直後、遥か遠方に豆粒程の機影が見えたかと思うと、土煙と共にその姿が大きくなる! 「……来おったな。では、参るぞ!!」 大地を蹴った雷迅颶参は、超低空飛行で『蛮・タックル』を繰り出し、オブシダンへと向かって行った。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜 豆粒程の敵影が見えた所で、強襲用ロケットブースター『ブロッサムI』を点火したオブシダン。 十数秒もすれば接敵……いや!敵も高速接近中だ!既に目の前!!……だが、スコットは冷静だった。 これまで何百、何千回というシミュレーションで身体に叩き込んだタイミングは、無意識にでも繰り出せる。 実機でも何十、何百回と繰り返した所作。脚で急ブレーキを掛けた勢いの全てを、繰り出す拳に篭める。 そしてオブシダンの骨格を巡る特殊通電により、剛体術を成立させる。オブシダン・スマッシュ……。 ガ ギ イ ィ ィ ィ ン ン ッ ッ !!! オブシダン最硬の拳が、雷迅颶参の右肩衝角に叩き込まれた。一瞬の均衡。 一番始めに屈したのは、右肩衝角の回転振動機構。衝撃に耐えられずに火花を散らし、煙を吐いた。 次いで、最も靭性が低かった衝角部分。オブシダンの拳が触れた部分からひび割れ、砕けた。 その時点で雷迅颶参は身を沈め、右肩装甲の大半を拳で抉り砕かれながらも、右肩への致命傷を回避した。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜 衝突の余波を振り払った両機だが、雷迅颶参の立ち直りが一瞬、速かった。 「 ム ウ ゥ ー ン ッ !!」 ギャリィィン!ギャリィィン!ギャリィィン!ギャリィィン! 双刀を抜き放つと、狂った様に上段左右から斜めに斬撃を叩き込み続ける雷迅颶参。 オブシダンは両腕を掲げ、その斬撃を前腕で弾く!弾く!!弾くっ!! CSの大盾を易々と挽き斬った機甲刀だが、オブシダンの前腕には傷一つ付ける事すら出来ない! 「 ム ゥ ン ッ !!」 ガ ッ ギ ィ ィ ィ ン !! 一瞬の軌道変更。雷迅颶参の両刀が同時に、ガラ空きになったオブシダンの両脇腹を襲ったのだ! 甲虫の大顎の如きその一撃。だが、それすらも弾き返された!直後! 身体の前で腕を交差させたオブシダンが、右手で右の機甲刀の刀身、左手で左の機甲刀の刀身を握り締める。 その手の中で鋸刃が振動するが、その音が断末魔じみた響きへと変わる。そして…… 「 イ ィ …… ヤ ア ァ ァ ッ !! 」ビ キ ィ ィ ン ッ !! ……オブシダンは、機甲刀の刀身を握り砕いた!! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜 その瞬間。飛び退いた雷迅颶参は両腕を頭上に掲げ、もう一対の機甲刀を大上段から振り下ろす! だが今度はオブシダンの踏み込みが速い!雷迅颶参の懐に飛び込みつつ、その胸板に硬化頭突きを見舞う! この一撃に大きく胸板を凹ませて、雷迅颶参が蹌踉めく。 そこへ間髪入れず繰り出すは、近距離仕様のオブシダン・クラッシュ! だが決まれば必殺であったろうその一撃も、出際を潰されては無意味。 低い姿勢で下からカチ上げる様に繰り出された拳を、オブシダンはカウンター気味に喰らう。 そして続く雷撃拳の打ち下ろしで、地面にうつ伏せに叩き伏せられた! ギ ュ イ ィ イ ン ッ !! 「……やはりかっ!それは一時的な強化であるな!」 そこに追い討ちを掛ける、暴牙堂の勝ち誇った声。 身を起こしかけたオブシダンの肩口に、全く刃を通さなかったその身体に、機甲刀の刃がめり込んだのだ! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜 「だが……今はここまでだっ!」 そう忌々しげに暴牙堂が台詞を吐き捨てたのと同時に、後方待機していた2機の封刃が急速接近していた。 封刃達は雷迅颶参の両脇に身を寄せて支え、そのままブースタージャンプで退却を始める。 よく見ると、雷迅颶参の右肩は放電して自壊する寸前。胸板の損傷も決して浅くない傷ではあった。 この強敵をここで仕留めねば、禍根を残す……瞬時にそう判断したスコットは、再びブロッサムIに点火! しかし、雷迅颶参には最後の切札が有った。 背のブースターが上部ジョイントを軸にして回転。噴射口が前方に向けられる。 「 …… パ ワ ー レ ー ザ ー ! 」 噴射口から発射された極太レーザーの直撃が、肉薄するオブシダンに浴びせられた。 これには堪らず、オブシダンは防御姿勢でレーザーをやり過ごす。その間に逃走を許してしまった……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜 一方、逃走中の暴牙堂主従。 暴牙堂は憮然とした顔で、雷迅颶参のアラート表示を確認する。 「……駄目だこれは。使用直後の機能復帰がまるで駄目……危険手当を3倍で重点しろ!」 「……3倍で、ございますか?」 「3倍だ。ここで退却して無ければ、今ので儂は死んで居る。巫山戯たモノを寄越すなと開発部にも伝えろ!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜 〜衛星軌道上・アムステラ軍宇宙基地 ~ 「……と、いう訳で。一旦引き揚げて来たのだ!」 「それは又、災難でしたなぁ〜」 「いやいや、面白い奴と殺り合えたからな。そういう意味では足を伸ばした甲斐があったというものよ!」 機体修理と物資補給を兼ねて戻って来た暴牙堂は、コモド店長と雑談に興じて居た。 「別に人の獲物を奪う気までは無いが、まだまだ面白げな奴は居るのだろう?」 「また何か面白い情報があったら、ひと声掛けて貰うと助かる!無論、礼もするぞ!」 「……おぉそうだ!こっちにはヲラッシャイも来て居ったな。あ奴に会う機会が有れば宜しく伝えてくれ」 などとひとしきり捲し立てた後、この暴風の如き男は次の要件へと向かって行ったのだった……。 THIS EPISODE END |
過去感想で、 >>地球側ならオブシダンとの戦闘が面白そうな気がしますねぇ~。 とは書いたモノも、まさか実現するとは…ッ!!と言うか、オブシダン、メッチャ強いッ!! 雷迅颶参と暴牙堂だって、ここまでの流れで、半端じゃなく強力な機体とパイロットだって伝わるのに、 オブシダンの硬度と力強さには賞賛の2文字しかないですね。凄い…ッ!! そして、やはりメインは雷迅颶参の豪快さですねッ!! オブシダンと交戦経験のあるクリス達との絡みも良かったし、パイロットの暴牙堂とのやり取りも良い。 ラストこそ、オブシダンに花を持たせたけど、雷迅颶参の躍動っぷりは印象深いモノがありましたね♪ エピローグで、ヲラッシャイの名前も出て来たのも嬉しかったです。 激熱なエピソード、ありがとうございましたー!! |