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馬城山(まきさん)伝乗寺は、かつて広大な大伽藍を誇っていた。
現在は、真木大堂(まき-おおどう)と呼ばれる収蔵庫に九体の仏像を残すのみである。
国宝級の仏像。巨大な仏像。
鏡子さんは大威徳明王像の前に正座した。
じっと凝視したあと、僕にこう言った。
「ご感想は?」
「そうですね。厳かな気持ちになります」
「ふーん。私は、怖い。ただただ怖い」
「怖い?」
「ええ、怖いわよ。こんなのが闇バイトに応募したら、どうなると思う?」
・・・・・・応募しませんから。
あと、「こんなの」呼ばわりはマズイのでは?
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力が全てだった時代──
弱肉強食とまでは言わないが、
正義とか理不尽とかの概念は薄く、
自分を護るのは自分しかなかった時代──
仏を味方につけられるなら。
仏こそが絶対の正義なら。
「仏ツエー、と言わせたいなら、でかくて怖くないとね」
力は、正邪に関係なく、恐れられるものであろう。
そして、そうか、大きさも重要なんだ。
仏像の標準サイズは「丈六」だという。
1丈6尺──264センチ?。釈迦の身長だという。(信じられん)
とにかく、常人とは違うと強調したいなら、異様なサイズの体躯にするのが一番だろう。
9体の仏像に見据えられて、自分の矮小さをあらためて実感せずにはいられなかった。
そして、怖いものを素直に怖いという、鏡子さんがここにいる。
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