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・ 馬城山(まきさん)伝乗寺は、かつて広大な大伽藍を誇っていた。 現在は、真木大堂(まき-おおどう)と呼ばれる収蔵庫に九体の仏像を残すのみである。 国宝級の仏像。巨大な仏像。 鏡子さんは大威徳明王像の前に正座した。 じっと凝視したあと、僕にこう言った。 「ご感想は?」 「そうですね。厳かな気持ちになります」 「ふーん。私は、怖い。ただただ怖い」 「怖い?」 「ええ、怖いわよ。こんなのが闇バイトに応募したら、どうなると思う?」 ・・・・・・応募しませんから。 あと、「こんなの」呼ばわりはマズイのでは? ▽ 力が全てだった時代── 弱肉強食とまでは言わないが、 正義とか理不尽とかの概念は薄く、 自分を護るのは自分しかなかった時代── 仏を味方につけられるなら。 仏こそが絶対の正義なら。 「仏ツエー、と言わせたいなら、でかくて怖くないとね」 力は、正邪に関係なく、恐れられるものであろう。 そして、そうか、大きさも重要なんだ。 仏像の標準サイズは「丈六」だという。 1丈6尺──264センチ?。釈迦の身長だという。(信じられん) とにかく、常人とは違うと強調したいなら、異様なサイズの体躯にするのが一番だろう。 9体の仏像に見据えられて、自分の矮小さをあらためて実感せずにはいられなかった。 そして、怖いものを素直に怖いという、鏡子さんがここにいる。 ───── ─────
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